とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八八話、投稿します。
次は一一月一二日金曜日です。


第八八話:〈役割分担〉で必ず救いを

「……これは?」

 

上条は真守、インデックス、土御門と共に低い唸り声を上げる第二三学区のとある滑走路に停められたスペースシャトルを見上げながら、土御門に訊ねた。

 

「『バリスティックスライダー』。学園都市の次期主力宇宙輸送機のコンペで敗れた不遇の新型シャトルシステム。──カミやんにはこれで行ってもらうぜよ!」

 

「え。行くって……どこに?」

 

土御門はそこで空を指さしながら腰に手を当てて叫び声を上げるので、上条は面食らって土御門と共に一緒に空を見上げながら土御門に訊ねた。

 

「宇宙に決まってるぜよ!!」

 

土御門が指さした先は、雲を纏いながら青い天を貫くエンデュミオンのその先、広大な宇宙だった。

 

「じゃあ土御門。上条とインデックスのこと、よろしくな」

 

いきなりスケールがデカくなったと上条が驚く隣で、真守はシャトルを見上げるのをやめて土御門に二人を託した。

 

「おうよっ! そー言えば朝槻は推進力生み出すと余波でシャトルの推進食っちまうから並走はできないんだっけかにゃ?」

 

「うん。だから先に行く」

 

「先に行くって?」

 

上条が真守と土御門の会話の意図がくみ取れず首を傾げている前で、真守は無言で能力を解放した。

 

蒼閃光(そうせんこう)で形作られた三角形が猫耳ヘアの丁度真上に猫耳のように頭に浮き上がり、その三角形に二つずつ小さな正三角形が連なる。

そして真守のセーラー服のスカートのお尻の上からは蒼閃光でできたタスキのような四角形の帯が伸びて、その根元に正三角形が二つ、リボンのように展開された。

 

「帝兵さん、行くぞ。大丈夫か?」

 

『スカートの下に何かきちんと穿いていますか?』

 

真守は右肩にくっついていたカブトムシに声を掛けると、カブトムシはヘーゼルグリーンの瞳をカメラレンズのように縮小させながら真守を見た。

 

「……今日は戦闘がありそうだったからちゃんとスパッツ穿いてきた」

 

『良かったです』

 

真守はカブトムシの安堵に不機嫌な表情をしながら地面をトッと軽く蹴って宙に躍り出る。

 

「というワケで先に行くぞ、上条」

 

「さ、先に行くって生身で!? 生身で行くんですか朝槻さん!!」

 

「当然だ」

 

真守は太陽を背にして上条の方へ体を向けて見下ろして微笑む。

 

「私は超能力者(レベル5)、第一位。流動源力(ギアホイール)。地球が滅んでも死なない能力者だからな。宇宙に行くことなんて息をするように簡単なことだ」

 

真守はニッと笑って告げると、源流エネルギーをロケットブースターのように体から後方に放射して重力を振り払り、歯車が機械的に鳴る音と共に蒼閃光を(ほとばし)らせて天高く昇っていく。

 

「うわーあっという間にまもりが見えなくなったんだよ!」

 

「すげーなあ超能力者(レベル5)って……」

 

「いやいや、アレは朝槻にしかできない芸当ですたい」

 

インデックスと上条が小さくなっていく真守を見上げながら呟くと、土御門は二人にツッコミを入れる。

 

そして三人も真守の後を追うべく行動を開始した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「地下のリニアトンネルや資材搬入道路はどうなってるじゃん?」

 

エンデュミオン周辺には警備員(アンチスキル)の車両が数十台停車しており、近くには仮設テントが組み上げられて、その中に黄泉川愛穂が立って、情報を収集している警備員に状況を報告するように告げる。

 

「すべて侵入されて閉鎖されています」

 

「……ということは……今使えるのこの橋のみ……か」

 

黄泉川は呟くが、エンデュミオンの正面入り口には大型の紺色でところどころに赤いラインが入った多脚兵器が鎮座していた。

 

「突撃準備!」

 

 

「──ああ。お前ら一般人は俺より前に出るんじゃねえ」

 

 

黄泉川が警備員(アンチスキル)にそう指示したと同時に、仮設テントの近くに降り立ってテントの中を覗き込んだ人物がいた。

 

「あ、お前は……!」

 

黄泉川はクラレット色のスーツにシャツのボタンを全て開けてワインレッドのセーターを中に着こんでいる垣根帝督を見つめて目を見開く。

 

「やられるのがオチだろ。ザコは引っ込んでろ」

 

垣根は鼻で嗤ってから仮設テントから離れて多脚兵器が鎮座している橋へと近づく。

 

「いくら能力者って言ったって危ないじゃん!」

 

「──はん。いくら能力者だって、ねえ?」

 

垣根は追ってきて自分を止めようとする黄泉川の制止の声を聞いて小さく乾いた笑いを零しながら面倒そうに首の後ろに手を当てながら未元物質(ダークマター)の三対六枚の純白で淡い光を放つ翼を広げた。

 

その純白の大きな翼に、黄泉川は思わず立ち止まって目を見開く。

 

天より舞い降りて地上に降り立った天使のような少年は多脚兵器を見つめて鼻で嗤う。

 

「そんな常識──俺の未元物質(ダークマター)には通用しねえんだよ!!」

 

垣根が叫んだ瞬間、大きく伸びた翼が多脚兵器に突き刺さり、楽々真っ二つに引き裂いた。

 

空間が軋みを上げて未元物質(ダークマター)によって浸食されていき、風が吹きすさび、絶対に崩れることのないこの世の物理法則が静かに歪み始める。

 

そして、垣根帝督は真守のために黒鴉部隊なんてチンケな輩を(ほふ)るために優雅に戦闘を開始した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

エンデュミオンの特設会場では、アリサが豪奢な衣装に身を包み、踊りながら歌ってライブが開催されていた。

 

そんな中、レディリーは中継地点のステーションで宇宙の暗闇で、淡く光り輝きながら転輪するエンデュミオンの様子を腕輪から空間に金の光で照射した魔法陣を片手に見つめていた。

 

「生と死。有限と無限……。すべてが交差するこの空間では地上(ラビュリントス)とは違う法則が働く。アリュアドネの糸で天に昇りつめた人々の熱狂と血は、神々の宴に捧げる供物。その息吹が──エンデュミオンの永久(とわ)の呪いを打ち破る!!」

 

レディリーは叫びながら目的の魔法陣を起動させる。

 

レディリーはそこで地上に置いてある自動人形と視界をリンクさせるために目を閉じて、地上で警備員(アンチスキル)と、超能力者(レベル5)である垣根帝督に御坂美琴が加勢して黒鴉部隊と戦い始めたのを確認する。

 

「うふふ。……下は大騒ぎみたいね。……でももう間に合わないわ」

 

「それはどうかな?」

 

レディリーが一人呟いた瞬間、学園都市統括理事会の認可を得た民事解決用干渉部隊、『黒鴉部隊』のリーダーであるシャットアウラ=セクウェンツェアが暗がりから姿を現して彼女に小銃を向けた。

 

シャットアウラ率いる『黒鴉部隊』に元々レディリーは鳴護アリサの警護を頼んでいた。

だがシャットアウラが自分の目的を知ってしまったが故にレディリーは彼女を幽閉。

そんな彼女は『黒鴉部隊』の部下に救出され、こうしてレディリーを追ってエンデュミオンを使って宇宙へとやってきたのだ。

 

「……バカな子! 来てしまったのね」

 

レディリーがシャットアウラに笑いかけた瞬間、シャットアウラは忠告もなしに発砲してレディリーの心臓を正確に撃ち抜いた。

 

レディリーは血を噴き出させながら衝撃で地面に倒れ伏すが、血を吐きながら体を起き上がらせてシャットアウラを見上げて力なく笑った。

 

「言ったはずだ。父を殺したお前を絶対に許さないと!!」

 

シャットアウラは立ち上がろうとしていたレディリーの体を何度も銃で撃って衝撃で転がらせて、レディリーを殺せるまで攻撃し続ける。

 

シャットアウラが告げた通り、レディリー=タングルロードはシャットアウラの父、ディダロス=セクウェンツェアが死亡するに至った原因を造った張本人である。

 

ディダロス=セクウェンツェアは三年前の『八八の奇蹟』が起こったオリオン号事件で死亡したただ一人の人物で、その死を隠蔽されていた。

 

オリオン号が事故に遭った時、実はオリオン号には乗客乗員合わせて()()()が乗っていた。

何故なら密閉空間であるはずのオリオン号に突如として八九人目の鳴護アリサが現れたからだ。

そのため一人だけ死亡者が出たのに最初に乗っていた人数と帳尻があってしまった。

『オリオン号の八八の奇蹟』から零れ落ちたたった一人。

それがシャットアウラの父、ディダロス=セクウェンツィアなのだ。

 

だからこそシャットアウラ=セクウェンツェアは奇蹟を信じない。

当然のことだ。父だけがその『奇蹟』で助からなかったのだ。そんなものは『奇蹟』でもなんでもない。

『奇蹟』なんてものは量子力学的な偶然の偏差と『見えざる手』を求める人々の欲望で生み出されたものなのだから。──そう思わないとシャットアウラは正気を保っていられなかった。

 

そんな『オリオン号の八八の奇蹟』を生み出し、自らの父を失った元凶であるオリオン号にスペースデブリが接触した事故。

 

それはレディリー=タングルロードが不老不死から解き放たれるために、オリオン号の乗客乗員八八人を巻き込んで盛大な自殺を図ろうとしたことが原因だった。

 

レディリー=タングルロードは真守の推測通りどうしても死にたかった。

 

生まれたのは一二世紀。

十字軍の遠征で負傷した兵士を助けた際に『アンブロシア』を貰った。

『アンブロシア』とはギリシア神話由来の神々の食物であり、神々の食物であるが故に不死の効力を持っている。

そんなギリシア神話の英雄や神にゆかりあるものをレディリーは食べてしまい、不老不死となったのだ。

 

「……そう…………もう千年は生きたかしらね」

 

レディリーは今まで生きてきた人生を(かえり)みながら傷が瞬く間に癒えていく自分の体の感触を忌々しく思いながら、虚ろな目で独り()ちるように呟いた。

 

シャットアウラはそれを見て舌打ちをしながら弾倉(マガジン)を替えてレディリーに向けて再び銃を構えた。

 

「オリオン号の実験も結局失敗したけど……その代わり、思わぬ副産物が生まれたわ。……それがアリサよ。あの奇蹟の力で……私は死ぬことができる……!!」

 

レディリーはシャットアウラを狂喜の瞳で射貫いた。

 

死という心の底から恋焦がれたものがすぐそばまで来ている喜びと共に、左手を力弱く(かか)げて宇宙に広がる巨大な魔法陣へと伸ばした。

 

その瞬間、レディリーの左腕の腕輪の石が黄金色に輝き、エンデュミオンの周りに展開されている魔法陣が呼応するように輝く。

 

「さあ一緒に終わりましょう!!」

 

「させるか!!」

 

シャットアウラがレディリーの目論見を阻止しようと銃を構えると、そこへと長身のライダースーツを身にまとった仮面の男がシャットアウラの後ろから迫って来た。

 

シャットアウラは振り返って仮面の男へ銃を撃つが、仮面の男は魔術で作られた自動人形なため、人間には到底真似できない速さで銃弾を避けてシャットアウラへと近づく。

 

シャットアウラは初め自動人形に()されていたが、機転を利かせ一瞬の隙を突いて自動人形の顔面を銃で撃った。

 

自動人形は激しくのけ()るが、仮面と左眼球が破損しただけで身を(ひるがえ)して地面へと身をかがめて降り立つと、姿勢を整える。

 

そこを狙ってシャットアウラが狙い撃ちするが、自動人形は身をかがめたまま地面を滑るように移動して避け続け、レディリーを庇うように通路の真ん中に立った。

 

シャットアウラは自動人形が下がった瞬間を見計らって自分の背中に取り付けてあるバックパックからレアアースでできた円盤を取り出し、仮面の男に守られるレディリーの前方へとレアアースの円盤を複数個投げた。

 

そしてシャットアウラはレアアースを自在に操る自らの能力、大能力者(レベル4)希土拡張(アースパレット)によって起動させて連鎖的な爆発を起こす。

 

中継ステーションの外は宇宙で真空だ。

そのため爆発で施設が損傷して穴が空けば施設内の空気が真空である宇宙へと流れ出してしまい、宇宙空間へと人間は放り出されてしまう。

 

そのため爆発が起こる前にシャットアウラは既にその場から駆け出しており、地面を前転しながら距離を取ってその先で匍匐前進をするように床にしがみつく。

 

次の瞬間爆発によって宇宙空間と室内を仕切っていた強化ガラスが割れ、中から外へと空気の流れが生み出される。

 

レディリーと仮面の男──魔術的に生み出された自動人形はそのガラスの穴から宇宙空間へと放り出されたが、地面にしがみついていたシャットアウラは暴風に耐えながら爆発と衝撃でひしゃげてしまった柵へと手首のワイヤー射出装置からワイヤーを射出してくくりつけて必死にその場に(とど)まった。

 

レディリーは宇宙空間に放り出されたことにより、酸欠に襲われる。

だが苦しいだけで死ねなかった。

やはりエンデュミオンで構築した術式でしか死ぬことはできない。

 

 

そう思った瞬間、レディリーは視界の端に宇宙空間にいるはずのない人影を見た。

 

 

先程自分と一緒に宇宙へと放り出されてバラバラに砕け散った自分の自動人形ではない。

 

その生身の人間は超能力者(レベル5)、第一位。流動源力(ギアホイール)、朝槻真守だった。

 

宇宙空間をわがもの顔で華麗に泳ぐ真守を見て、レディリーは目を見開いた。

 

(……あの超能力者(レベル5)、数日前にエンデュミオンで宇宙(そら)に昇って何をしていたか知らされていなかったけれど、宇宙空間で活動できるから統括理事会に指示されて何らかの秘匿工作を行っていたのね……!)

 

レディリーが心の中で考えていると、真守はレディリーに近づいてそっとお姫様だっこして抱え込むと、そのままエネルギーをジェットのように噴射してエンデュミオンへと戻ろうと動く。

 

レディリーはそこで息ができない苦しさがなくなって目を見開いた。

 

相変わらず宇宙は真空で息がないはずなのに、何故か苦しくない。

 

そこでレディリーは悟った。

 

朝槻真守が自身の生命活動に必要な全てを取りそろえ、体を密着させることによって自分へと送ってくれていることに。

 

『お前の永遠を終わらせてやる』

 

レディリーはそこで必要なエネルギーと一緒に流れ込んできた真守が自分の脳に書き込んできた言葉に目を見開いた。

 

『だからもう少しだけ頑張れ、レディリー』

 

レディリーはその言葉に硬直して動けない。

 

この少女は本気だ。

 

本気で自分を救おうとしてくれている。そして、その手立てが見えている。

 

たった一五歳の少女。自分の百分の一程度しか生きていない少女。

 

そんな少女がレディリーには救いの女神にしか見えなかった。

 

真守の右肩にくっついている謎のカブトムシが無機質なヘーゼルグリーンの瞳で自分を見ているが、真守はエンデュミオンへと戻ろうとしていて自分を見ていない。

 

だがそのエンデュミオンを見つめる瞳に自分がこれまで向けられたことのないほどの多大な慈愛が秘められていると感じて、レディリーはただただ真守に見惚れるようにじぃっと見上げていた。

 




真守ちゃん、再び宇宙へ。

エンデュミオンは記念作品で映画ということもあり、とある作品の良いところが全てギュギュっと詰め込まれていますので、垣根くんにも真守ちゃんのために本気出してもらいました。

堕ちた英雄なんて言わせない。

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