とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九話、投稿します。
※次は八月一四日土曜日投稿予定です。



第九話:〈渾身看病〉の果てに

真守と上条は自分たちのクラスの担任教師である月詠小萌先生のアパートを訪れていた。

 

上条はステイル=マグヌスとの戦闘に勝利した。

学生寮中の壁にべたべた貼られていたカードに書かれたルーン文字のインクを、スプリンクラーの水によって滲ませて消したのだ。

魔女狩りの王(イノケンティウス)』はその何千枚のルーン文字によって構成されており、そのルーン文字が使い物になら無くなれば力を失くす。

そうやって『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を無力化して、上条はステイル=マグヌスを撃破した。

 

迫りくる魔術師を撃破したのはいいが、問題が残った。

上条の学生寮は火事騒ぎで救急車が来たり消防車が来たり大騒ぎ。

その場に留まるのは非常にマズいが行く当てがないのだ。

 

真守は病院に入院中だからIDのないインデックスを連れていく事なんてできないし、そもそも上条の自宅は相手に知られているので再び襲撃を受ける可能性がある。

 

それにインデックスの傷は深く、電気エネルギーで刺激を与える事で細胞の再生速度を促す方法で治療しているので、完治にまだまだ時間がかかる。

 

ゆっくりと治療できる場所を求めた結果、二人は担任を頼る事にしたのだ。

自分たちの担任──月詠小萌先生を。

 

真守がインターホンを何度か鳴らすが小萌先生が出てくる気配がない。

 

「この時間で眠ってたら流石に外見通りだが」

 

「くっそ。早く出て来てくれ、よ!!」

 

上条がインデックスをおぶったまま不躾にもアパートの扉を蹴り上げると、中から声が響いて来た。

 

「はいはいはーい。対新聞屋さん用に、ドアだけは頑丈なんです。今開けますよーっと!」

 

ガチャッと扉を開けたのは、何故かピンクのウサギ耳付きのパジャマを着ている小萌先生。

 

「朝槻ちゃん! ……え、上条ちゃんも!? 新聞屋さんのアルバイトでも始めたのですか?」

 

「そんなわけあるかい。ちょっと色々困っているんで、入りますね。先生」

 

「失礼するぞ」

 

真守と上条は横暴な様子で小萌先生の部屋へと侵入した。

 

「ちょ、ちょちょちょっと! 先生困りますぅー!!」

 

小萌先生の声が後ろから響く中、真守と上条は担任の自宅を見て呆然とする。

 

オンボロアパートなのは外から見れば分かっていた。

それに関しては何も言わない。

 

はっきり言おう。小萌先生の自宅は汚部屋である。

 

無数に転がっている酒の空き缶。

それらにはぎっちりと吸った後の煙草がねじ込まれており、酒好きに煙草好き。

まさかそんな事はないと思いたいが、ギャンブルも好きだったら人間として道楽に明け暮れて楽しく生きてますねという有り様だった。

 

小萌先生が慌てて片付け始めるが絶対にこの量は片付かない。

 

「こんな状況で聞くのはあれなんですけれど。煙草を吸う女の人は苦手ですか?」

 

小萌先生は上条に問いかけるが、上条はその問いかけに答えず、空いたスペースにインデックスをうつ伏せに寝かせる。

インデックスの傷を見て小萌先生が叫んだ。

 

「ど、どうしたんですか。それ……」

 

「見て分かる通り重症」

 

「いや、そういうことを聞いているのではなくてですね!?」

 

真守がケロッと告げると、ツッコミを入れんばかりに小萌先生が叫んだ。

 

「ちょっと色々あったから先生の部屋を貸してほしい。理由は聞かないで」

 

「ええっ!? ちょ、それは聞き逃せないですよ、朝槻ちゃん!」

 

「ごめん、小言なら後で引き受けるから。今は治療に専念させて」

 

能力開放の証として体の表面に展開してた猫耳と尻尾を、真守が抗議の意味を込めてぴょこぴょこフリフリと動かすと、小萌先生は黙った。

 

「わ、分かりました……」

 

小萌先生が小さく頷くのを確認した真守は、手の平の表面にパリパリッと電気エネルギーを迸らせる。

そして、その手の平をそっとインデックスの体に手を当てた。

真守が能力を精密に操って、本格的にインデックスの体の傷を塞ぐために集中している姿を、二人は固唾を呑んで見守っていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

翌朝。

真守と上条は体を起こしたインデックスと顔を合わせていた。

 

真守は夜明けまで能力を行使していたため疲労困憊だが、先程まで仮眠を取っていたので頭はきちんと働いている。

 

「てゆーか。なんでビール好きで大人な愛煙家の小萌先生のパジャマが、お前にぴったり合っちまうんだ?」

 

下半身を布団に突っ込んで座っているインデックスは現在、小萌先生の私物であるピンクのうさ耳パーカーを着ていた。

 

インデックスが着ていたあの白い修道服だが、血がべったりとついていたので小萌先生が服を貸してくれたのだ。

修道服は上条の右手で本当にパーツごとに分解されており、インデックスは安全ピンで留めて着用していた。

 

本当に素っ裸にしたのかコノヤロウ、といった真守の軽蔑の視線に、上条は気まずくて顔を赤くして目を逸らしていた。

 

「年齢差、一体いくつなんだか」

 

上条が体型がまったく一緒の二人を見比べて溜息を吐く。

 

「……見くびらないで欲しい。私も、流石にこのパジャマはちょっと胸が苦しいかも」

 

「なん……っ! その発言は舐めているのです!」

 

インデックスの言い分に小萌先生が声を上げて、わいわいと騒ぎ始める。

 

一応の所元気になったインデックスの様子を見て、真守が安堵していると、小萌先生がそんな真守を見た。そして、次に上条を見る。

 

「ところで上条ちゃん、朝槻ちゃん。結局この子は一体なんなんです?」

 

「私の妹」

 

「大嘘吐きにも程があるのです、朝槻ちゃん! 確かに碧眼は朝槻ちゃんと通じるところがあります、が! 朝槻ちゃん、あなた身寄りがないじゃないですかー!! 一体いつ肉親が見つかったのですかーっ!?」

 

ごまかせなかったか、と真守は顔を背けてチッと小さく舌打ちする。

小萌先生が態度の悪い真守を見て、顔をしかめている隣で、上条は真守が置き去り(チャイルドエラー)だという事を初めて知ったので目を見開いていた。

 

「朝槻ちゃん、上条ちゃん!」

 

「……先生、一つだけ。聞いてもいいですか?」

 

「ですー?」

 

小萌先生が叱咤するところで、上条は小萌先生へと進言した。

小萌先生が首を傾げるので、上条はおずおずと訊ねた。

 

「事情を聞きたいのは学園都市の理事会へ伝えるためですか?」

 

「上条ちゃんたちが一体どんな問題に巻き込まれるか分からないですけど、それが学園都市の中で起きた以上、解決するのは私たち教師の役目です。大人の義務です。上条ちゃんたちが危ない橋を渡っていると知って、黙っているほど先生は子供ではないのです」

 

小萌先生は『教師』モードになって『生徒』二人を諭す。

 

「……先生には言いたくない」

 

小萌先生に事情を説明しなければ、と上条は口を開こうとしたが、真守が上条を制止させる形で拒絶の言葉を吐いた。

 

「朝槻ちゃん!」

 

「先生には()()()()迷惑かけたくない」

 

真守はこれだけは譲れないと明確な意志を持って小萌先生をまっすぐと見つめた。

 

真守は超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)という身分を偽って学校に通っている。

担任である小萌先生は真守が身分を偽っていると知っているのだ。

倉庫(バンク)の情報と真守の実際の能力が違うと、担任教師である小萌先生には隠し通す事なんて不可能だからだ。

 

上層部は真守が超能力者(レベル5)としての能力を有していると認識しているが、とある理由からそれを公的に認めようと動くことはない。

そんな上層部の意向を汲みながらも、真守を一生徒として守るために、小萌先生は色々と便宜を図ってくれている。

 

魔術とかいうよく分からないモノで、これ以上小萌先生に真守は迷惑をかけたくない。

ただでさえ上層部と真守の間で小萌先生は板挟みになっているのだ。

 

自分たちが解決できるならば先生を巻き込みたくない。

 

小萌先生は真守の様子を見て、溜息を吐いてから立ち上がる。

するとそのまま廊下へと向かっていった。

 

「先生?」

 

上条が去っていく小萌先生を見つめて首を傾げると、小萌先生は立ち止まって振り返った。

 

「執行猶予です。先生、スーパーに行ってご飯のお買い物してくるです。朝槻ちゃん、それまでにどう何を話すべきか、きっちりかっちり整理しておいておくんですよ? ……それと」

 

「……何?」

 

真守が小萌先生の言葉の続きに眉を顰めると、小萌先生はトテトテと歩きながら呟く。

 

「先生、お買い物に夢中になってると忘れるかもしれません。帰ってきたらズルしないで話してくれなくっちゃダメなんですからねー?」

 

そのまま、小萌先生は玄関から外に出ていった。

真守はそれを見送った後、インデックスの前にちょこっと座ってから目を伏せた。

 

「ごめん。どうしてもあの人だけは巻き込みたくない」

 

「ううん。私の事を助けてくれたあなたの気持ちだもん。私は大丈夫。……それに、これ以上私に関わる人を増やすのは良くないからね」

 

「一体どういう事だ?」

 

上条が真守の隣に座るために動いているとインデックスの言葉の意味が分からずに首を傾げた。

 

「魔導書っていうのは危ないんだよ。そこに書かれている異なる常識や違える法則、そういう違う世界って、善悪の前にこの世界にとっては有毒なの」

 

「有毒?」

 

「うん。魔術師ならともかく、この世界の人間が、違う世界の知識を知るとそれだけで脳は破壊されてしまうから」

 

真守はインデックスの言葉を聞いて頭の中で整理してから訊ねた。

 

「この世界、というのは科学世界の事を指しているのか?」

 

「そうじゃない。この地球って事。でも、そうじゃなくてもキミたち超能力者は魔術を使っちゃダメ」

 

「どうして?」

 

真守が問いかけるとインデックスは上条と真守を見てから諭すように告げた。

 

「魔術って言うのは才能のない人間が才能ある人間と同じことがしたいから生み出されたの。才能ある人間と才能ない人間は、回路が違うの」

 

「それは能力者が脳を無理やり開発して、それによって回路が異なっているという意味か?」

 

「そうなるね」

 

真守が即座に質問するとインデックスは頷いた。真守は畳みかけるように質問する。

 

「……それは能力者全員が等しく使えないのか? 能力者にも強度(レベル)があって、超能力者(レベル5)無能力者(レベル0)という才能の違いがあるんだが」

 

「回路を変えているという時点でもうダメなの。強度(レベル)? は問題じゃないんだよ」

 

「……お前は昨夜、あの神父と戦っている間にイギリス清教所属と言っていたな。魔術というのはイギリス清教が行っている超能力開発なのか?」

 

真守が昨夜、インデックス自身が言っていた『イギリス清教第零聖堂区「必要悪の教会(ネセサリウス)」所属』と言っていた事を思い出しながら訊ねると、インデックスは恥ずかしそうに眉を顰めた。

 

「もしかして、私は自動書記(ヨハネのペン)覚醒(めざ)めてた?」

 

自動書記(ヨハネのペン)?」

 

「うん。魔術を説明するための装置……みたいなものかな。覚醒めてた時のことはあんまり突っ込まないでほしいかも。……意識がない時の声って、寝言みたいで恥ずかしいからね。──それに」

 

インデックスは言いにくそうにしながらも自分の気持ちを吐露した。

 

「何だかどんどん冷たい機械になっていくみたいで、恐いんだよ」

 

インデックスの告白に、上条は息を呑んで、真守は目を細めた。

 

自分が少しずつ違う存在になるというのは、当の本人にとって恐怖しかない。

体の端から徐々に、自分という存在が蝕まれて段々と違うものへと変貌していく。

 

変化してしまったら、自分という存在が保てなくなる。

どう変化するのかは、変化した後にしか分からない。

 

変化した後の状態が心底嫌で、変わった事を変わった後に後悔しても。

その時にはもう元には戻れないかもしれない。

 

自分が明確に違うモノに造り替えられていく恐怖は、何も知らない人間にとって理解しがたいものだ。

 

「お前の恐怖は理解した。でも、お前は今ここにお前として確かに存在している。だから恐がらなくて大丈夫だ」

 

真守がインデックスの手を優しく握って切実な気持ちを込めて言い聞かせる。

──まるで、自分を鼓舞するかのように。

 

インデックスは真守の手の温かさを感じて、そっと微笑んだ。

 

「質問に応えてもらってもいいか?」

 

真守が訊ねると、インデックスはしっかりと頷いてから真守の先程の質問に答えた。

 

「私は確かにイギリス清教所属だけど、魔術は十字教全体で使われているの。それと超能力開発とは違う。魔術は超能力とはまったく別の技術だから」

 

「まったく別の技術。……だから回路が違うと使えないんだな?」

 

「うん。……十字教なんて元は一つなのに、どうしてローマ正教とかイギリス清教、もっと大きく言えば旧教や新教に別れちゃったと思う?」

 

インデックスは真守の問いに頷くと逆に問いかけてきた。

魔術が使われている十字教について、訪ねてきたのだ。

 

「そりゃあ……」

 

「政治に宗教を使ったからだ。まあ、宗教に政治を混ぜたとも言えるか」

 

上条が言いにくそうにしていたが、十字教に所属しているインデックスが問いかけてきたので、真守は侮蔑にならないと捉えて、正確な答えを告げた。

 

「うん。同じ神様を信じているのに分裂し、対立し、争いになった。それぞれが独自の進化を遂げて、個性を手に入れたんだよ」

 

「個性ねえ……」

 

上条が個性という言葉にピンと来ないで首を傾げている前で、インデックスは自分の身の上を話し始めた。

 

「私の所属するイギリス清教は、……もっと言えば、イギリスは魔術の国だから。魔女狩りや宗教裁判、そういう対魔術師用の文化が異常に発達したの。魔術結社っていう魔術師の集団もたくさんあるしね。穢れた敵を理解すれば心が穢れ、穢れた敵に触れれば体が穢れる。イギリス清教にはその穢れを一手に引き受ける、特別な部署があるんだよ」

 

「それが必要悪の教会(ネセサリウス)で、だからお前は一〇万三〇〇〇冊もの魔導書をその頭に記憶させられたのか?」

 

「そう。魔術っていうのは式みたいなものだから。上手に逆算すれば、相手の術式を中和する事ができるの。世界中の魔術を知れば、世界中の魔術を中和できるから」

 

「……そんなヤバいモンなら、読まずに燃やしちまえばいいじゃねえか」

 

上条がもっともな事を告げると、インデックスは首を横に振った。

 

「重要なのは本じゃなくて中身だから。原典を消してもそれを伝え聞かせちゃったら意味がないの。それに、原典の処分は人間には無理」

 

「え?」

 

「正確には、人の精神では無理なの。どうしようもないからこそ、封印するしか道がなかったんだよ」

 

魔導書の重要性を理解した真守は、インデックスに確認する目的で訊ねた。

 

「つまり、連中はお前の頭の中にある爆弾を回収したいってワケなんだな?」

 

「一〇万三〇〇〇冊は、全て使えば世界を例外なく捻じ曲げる事ができるからね。それがあれば大抵の事は叶えられるし」

 

「テメエ……なんでそんな大事な話、今まで黙っていやがった!!」

 

上条が拳を振り上げてインデックスへと怒鳴る。

上条の怒りを受けて、インデックスは布団から顔を半分出して気まずそうな顔をする。

 

「上条、怒鳴るな。落ち着け」

 

上条の事を横目で真守が諫めると上条は気まずそうな顔をして拳を下ろす。

 

「……だって、信じてくれると思わなかったし怖がらせたくなかったし、それに。あの……嫌われたくなかったから」

 

「ざけんなよ、テメエ! 舐めた事言いやがって! 必要悪の教会(ネセサリウス)? 一〇万三〇〇〇冊の魔導書!? とんでもねえ話だったし、聞いた今でも信じられねえ!! だけどな、たったそれだけなんだろう?」

 

「え?」

 

インデックスが上条の言い分が理解できずに首を傾げると上条は自分の主張を続けた。

 

「見くびってんじゃねえ。たかが一〇万三〇〇〇冊覚えたくらいで、気持ち悪いとか思うとか思ってんのか?」

 

「そうだぞ。完全記憶能力自体はそう珍しくない。覚えている内容がどうだろうと、お前が普通の女の子である事には変わりない」

 

「ちったあ、俺たちを信用しやがれ。人を値踏みしてんじゃねえぞ」

 

真守と上条がインデックスは普通の女の子であると口々に主張すると、

 

「ふえ…………」

 

インデックスは顔をくしゃくしゃにして泣きそうになる。

 

「ほら。俺って右手があるし、朝槻はなんと超能力者(レベル5)だ! 敵なんていねえって!」

 

既に真守は上条に自分が超能力者(レベル5)である事を話しており、それをインデックスを勇気づけるために使った。

それを聞いて、インデックスはジト目で上条を見つめる。

 

「……でも、学校に行かなきゃならないって言ったから」

 

「言ったっけ……?」

 

上条がすっとぼけると、インデックスが頬を膨らませた。

 

「絶対言った」

 

「そしてそれは補習なんだぞ、インデックス」

 

「朝槻さん!?」

 

真守がインデックスの味方をするように上条の情報を漏らすので、上条が顔を引きつらせた。

 

「……い、いいんだよ!! 学校なんて!!」

 

「じゃあ、なんで学校にいなきゃならなかったの? ……私がいると居心地悪かったんだ」

 

インデックスはふくれっ面になって訊ねるので真守は目を細めて上条に訊ねた。

 

「そうなのか、上条」

 

真守とインデックスの問いかけに上条は顔を背けるだけだった。

 

「悪かったんだ」

 

「……、」

 

インデックスが確認するように言葉をぶっきらぼうに零すと、上条は顔をもっと大袈裟に逸らした。

インデックスはそんな上条を捉えて口をあんぐりと開いて犬歯をきらーんと見せると、

 

「がぶっ!!」

 

っと、思い切り上条の頭に噛みついた。

 

噛んで噛まれての攻防を繰り広げているのを傍観してた真守は、突然自分の携帯電話が鳴り響いた事に気が付いた。

真守が上条とインデックス二人に断りを入れてから携帯電話をスライドさせて起動させる。

 

真守は表示された画面を見て、薄く目を見開いた。

 

「……ごめん、上条。主治医から帰ってこいって言われた」

 

真守が顔を上げて上条に伝えると上条はあー……。と、申し訳ない表情をした。

 

「入院しているのに夜通し帰ってなかったらそりゃ怒るよな……」

 

「うん。だから帰るね。何かあったら連絡して」

 

上条に帰る旨を真守は伝えると、何故か玄関に行って靴を取ってきた。

 

上条とインデックスが首を傾げている前で、真守は小萌先生の部屋にある窓に寄り掛かって靴を履き始める。

 

「え!? お前どっから出るの!?」

 

「ちょっと()()()()からここから出る」

 

上条が真守のまさかの行動に制止の声を上げるが、真守はそれを聞かずに靴を履く。

足を窓から投げ出した状態で靴を履き終えると、真守は蒼閃光で形作られた猫耳と尻尾を現出させて能力を解放した。

 

「んじゃ。上条、インデックス。またな」

 

真守は手を二人に振って挨拶をすると、そのままひょいっと窓から飛び降りた。

慌てて上条とインデックスが窓に近づいて外を見るが、既に真守の姿は見えなかった。

 

「行っちゃった……」

 

「お猫さまは気まぐれだなー……」

 

インデックスと上条は口々に既にいなくなってしまった真守についてそんな感想を述べていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

(まずい……)

 

真守は体内にエネルギーを効率よく循環させて人間の身体能力を向上させて街中を爆走していた。

真守は走りながら携帯電話を睨みつける。

 

(最悪のタイミングで『再燃』した……っ!!)

 

真守の携帯電話には、とあるサイトの掲示板が表示されていた。

 

[消えた八人目の超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)。朝槻真守の撃破ゲーム!]

[何をやっても死なない能力者! サンドバッグにピッタリ!]

[能力の腕試しをしたい人間はこの女が目印!]

 

そんな謳い文句と共に、真守の写真がアップされていた。

目に薄い線を入れただけでどんな顔をしているか一発で分かる写真だ。

その写真の服装は現在真守が着ている服であり、恐らく昨日どこかで盗撮されたのだろう。

 

朝槻真守は消えた八人目の超能力者(レベル5)である。

その身分は隠されている──ハズなのだ。

 

だが時々、掲示板などで真守の外見と共にこの能力者を襲撃して楽しもう、という悪趣味なゲームが開催される。

 

このゲームが度々開催されるから、真守は普段から不良に絡まれるのだ。

これまで何度か『再燃』しているこのゲーム。

 

(昨日ほぼ寝てないから体調が万全じゃない! いつもだったら余裕で『鎮火』するまで耐えられるけど、流石に今のコンディションでは不安が残る……!)

 

そのゲームが開催されるタイミングが最悪だから真守は焦っていた。

 

昨夜。

真守は魔術師と交戦した後にインデックスの深い傷を治療すために、電気エネルギーを生成してそれを操作し、細胞を活性化させて傷を塞ぐ──という、電子顕微鏡レベルの精密演算を夜通し行っていた。

少しばかり仮眠を取ったが、能力行使に必要な演算をするための脳は疲弊している状態だ。

 

真守が携帯電話に視線を落とすと、既に居場所を捕捉されており、どの方面に向かっているかリアルタイムで書かれていた。

 

不良たちの中には情報戦に長けている人間が必ずいるので、どこかに逃げ込んでも発見されてしまう。

 

だからゲームが『再燃』している間、真守は逃げ回らなければならない。

病院に帰るなんてもっての他だ。

 

大体ゲームはいつも二、三日で『鎮火』する。

それまで真守は仮眠を少しずつ取りながら対応しているのだが、疲弊している状態でゲームが『再燃』してしまうのは今回が初めてだった。

 

(とりあえず、一回どこかでわざと引きつけてから逃げるしかない)

 

真守は即決すると、相手を誘い出すために大通りからあからさまな路地裏に入って行った。

 

 

少しして。

その裏通りから凄まじい蒼閃光が迸り、真守が交戦に入った事が伺えた。

 

 

不良が自分の能力を振りかざすためのゲーム。

 

 

だが、今回のゲームはいつものゲームとは()()()

 

 

 

 

『とある代物』によって普段よりも過激なゲームになっている事を、真守はまだ知らない。

 




真守ちゃん、ハードモード突入。


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