とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九三話、投稿します。
次は一一月一八日木曜日です。


第九三話:〈重要取引〉に次々参戦を

真守は大玉転がしが終わってスポーツドリンクを飲んでいた。

 

大玉転がしは学年対抗で、それぞれ二五個の大玉を転がして敵軍の後方にあるゴールラインへと半数以上を先に入れた方が勝ちというシンプルなゲームだ。

敵も自陣の後方にあるゴールラインへと大玉を転がしてくるので、最低一度は自軍と敵軍の大玉が交差する。この瞬間に大玉をぶつけたり、能力を飛ばして相手を妨害するのだ。

 

真守のクラスは女子組と男子組、それと男女混合組で計三つ大玉を担当していたのだが、競技中に女子組の大玉が男子組の大玉にぶつかってしまい、逃げ遅れた上条当麻が大玉に()かれるという事故が起こった。

いつもの上条当麻の不幸体質による事故だったが、真守は男女混合組だったので被害はなかった。

 

「うわあ。上条、背中に思い切り踏みつけられた跡がついているぞ」

 

真守はスポーツドリンクを飲みながら、大玉に轢かれてその大玉を転がしていたクラスメイトに踏んづけられた跡が背中にくっきり残っている上条の白かった体操服を見つめながら呟く。

 

「いてて……不幸だ……で? 『刺突杭剣(スタブソード)』ってのがどうして聖人に効くんだよ?」

 

どうやら上条はステイルと土御門が話しているところを目撃はしたが、学園都市というナイーブな場所で取引が行われており、その取引にイギリス清教が表立って動いて事態を収束できないこと、そして取引される物品、『刺突杭剣(スタブソード)』があらゆる聖人を一撃で即死させられるということしか聞いていないらしい。

そこら辺はステイルから連絡を受けた真守と一緒だった。

 

真守も詳しい話を聞きたかったのでそう切り出した上条と一緒に土御門を見つめた。

 

「聖人ってのはあれですたい。『神の子』に身体的特徴が似ているから強い力を秘めている人間ってこと。カミやんには前に話したと思うが、『偶像の理論』ってのに基づいているんだにゃー」

 

「『偶像の理論』って……ああ、なんか十字架のレプリカにはある程度力が宿るとかって言う……?」

 

上条が随分とふんわりした言い方をするので、土御門は苦笑する。

 

『偶像の理論』とは姿や役割が似ているとその性質を宿すというもので、真守にも『偶像の理論』に基づいて『光を掲げる者(ルシフェル)』の役割(ロール)が付与されていたりする。

 

そんな『偶像の理論』を真守が頭の中で復習していると、土御門が説明を続けた。

 

「『神の子』の処刑に使われた十字架を模したレプリカにはある程度の力が宿る性質と同じで、『聖人』は『神の子』と身体的特徴が似ているから『神の子』の力の一端を持つことができるんだにゃー。その一端だとしても超絶大な力で、だから聖人は魔術世界の核兵器みたいなもんですたい。だが、聖人には欠点が一つある」

 

「欠点?」

 

上条が土御門の説明の最後に反応すると、土御門はここからが重要事項だと言うように真剣な声で告げる。

 

「簡単に言えば、『神の子』の弱点そのものも受け継がれちまってるってことだ」

 

「……なるほど。つまり刺突か。納得がいった」

 

「刺突って? 『神の子』の弱点がなんで刺突なんだ?」

 

真守が土御門の言葉に即座に反応すると、上条は首を傾げる。

 

「上条。『神の子』が聖書で一体どうなったか、それくらいは知っているだろう?」

 

真守は呆れた様子で上条を見つめながら、簡単に『神の子』の弱点について紐解くために問いかける。

 

「え? ……ええーっと、確か復活したとかなんとか……あれ、でも復活したらどこ行ったんだ?」

 

真守は上条の聖書知らずを聞いて『コイツマジか。聖書も勉強させなくちゃいけないようだな』と、久しぶりに上条に勉強を教えようと決意して、そんな真守の隣で土御門は思わず苦い顔をして笑った。

 

「いいか、上条。簡単に言うと『神の子』は一度死んで復活して天に昇ったんだ。一度死んだ、その死に方が弱点になるんだ。その死に方とは、両手と足に鉄の釘を打って十字架に固定されて、最後には槍で脇腹を刺殺されるというやり方だ。刺突されて死んでるだろう?」

 

「あ! だから『刺突杭剣(スタブソード)』……!」

 

上条がそこで初めて『刺突杭剣(スタブソード)』の意味を理解して声を上げる。

 

「まあ槍がトドメだったのか生死を確かめるための一撃だったのかは神学者でも意見が分かれるんだけどにゃー」

 

そこで土御門は真守の説明に本職として思わず補足説明をして、それから真剣な表情に変わる。

 

「詳しい説明を始めるぞ。『刺突杭剣(スタブソード)』ってのは、処刑と刺殺の宗教的意味を抽出し、極限まで増幅・凝縮・集束させた『竜をも貫き大地に縫い止める』とまで言われる霊装ですたい。普通の人間には何の効果もないが、相手が聖人ならば『偶像の理論』に基づき、一撃で葬る力がある。距離に関係なく、()()()()()()()()()()()で聖人は死ぬ」

 

「な……っ距離に関係なく!?」

 

真守が土御門の説明に驚愕で静かに目を見開く中、上条が声を上げた。

そんな二人の反応を見て土御門はにやにやと嗤いながら、その実全く何も面白くないとでも言いたげに告げる。

 

「怖いだろう? 『刺突杭剣(スタブソード)』は一度発動したが最後、核シェルターに籠ろうが、地球の裏側にいようが、冥王星まで逃げ延びようが切っ先を向けられただけで聖人は死ぬ。その凶悪さと利便性はレーザー兵器どころじゃないぜい。元々は私欲に走る聖人を葬るために作られたものらしいんだけどにゃー」

 

「そんなもんを取引して、魔術師たちは何をするつもりなんだよ……?」

 

上条が恐ろしさに(うめ)きながら訊ねると、土御門はスポーツドリンクを軽く振ってケロッと言い放つ。

 

「もちろん、戦争だろうさ。さっきも言ったが聖人ってのは、魔術業界じゃ核兵器に等しい意味を持つ。敵軍の聖人だけを上手く殺し、味方を保護するだけでも戦況は随分変わってくるぜい」

 

「けど、聖人以外の魔術師だっていっぱいいるんだろ? 例えばイギリス清教だって、神裂がいなくても戦えそうな気がするけど?」

 

『戦争になる』というスケールの大きさにピンと来ていない上条を見て、真守は現実味を帯びさせるためにとある質問をした。

 

「上条。お前、超能力者(レベル5)を確実に殺せる兵器を魔術師連中が造ったって言ったら一体どうなると思う?」

 

「大問題だろ。最悪、戦争に……」

 

真守が現実味を感じさせるために意図的にした質問によって、上条はハッと息を呑んで言葉を途切らせた。

 

「朝槻の言う通りぜよ。力の象徴である聖人の死は、魔術社会の制度全体の破滅を想像させちまうものなんだぜい。……聖人を恣意(しい)的に殺され、宗教的パワーバランスを狂わされた国や組織が一か所でも崩れれば、周りが動く事になる。それだけで戦争の火種だ。そんなの、対魔術師用の国際治安維持機関であるイギリス清教の『必要悪の教会(ネセサリウス)』が黙って見過ごせるわけないにゃー」

 

「でも、そんなヤバイ問題ならインデックスに協力を仰いだ方がよくないか?」

 

魔術の専門家であるインデックスに何故教えないのかと上条が当然の疑問を口にすると、土御門は肩を竦めて告げる。

 

「禁書目録はいつでも事件の中心にいる。だから禁書目録を中心として魔術師は学園都市の外からレーダーみたいな術式を使って魔力の流れを感知しているのさ。少しでも動きがあれば即踏み込めるようににゃー。学園都市へ大量の魔術師たちが組織的に踏み込んでくるのがマズい。だから特例で俺やカミやん、朝槻やらステイルなんかが動いているわけだが。……それを快く思っていない組織もある」

 

「科学世界は学園都市一強だが、その科学世界を狙っている魔術世界は多勢力に分かれていつでも隙を伺っている、か。……だからこそ面倒なんだよな」

 

「つまり、俺たちだけで動くしかないって事かぁー……」

 

土御門と真守の淡々とした説明に上条が深刻な問題だと呟くと、真守はとても気まずそうな顔をして上条をちらっと見た。

 

「ちなみに、今回私も表立っては動けない」

 

「え。なんで?」

 

「カミやん。朝槻は科学世界を背負って立ってんだぜい? 大覇星祭のプロパガンダに使われている超能力者(レベル5)第一位が出るって競技に本人が出なかったら大問題だにゃー」

 

「……そうか。お前、そう言えばこの大覇星祭の目玉だもんなあ」

 

上条がしみじみした様子で呟くので、真守はムッと顔をしかませて上条を睨み上げる。

 

「お前は超能力者(レベル5)が周りにいすぎて少しおかしくなってるんだ。一八〇万人の中で超能力者(レベル5)は八人しかいないんだぞ。レア中のレアだ、まったく」

 

「そうか。……朝槻と神裂が動けない。結構な痛手だなあ……」

 

「……まあアテがないワケじゃない」

 

ぼやく上条に真守が顔をしかめながら呟くと、当然の如く上条がきょとんとした。

 

「え? どういうことだ?」

 

「ふっふーん。朝槻の近くには使い勝手がいい人間がいるんだぜーい。そんでアイツ、協力してくれそうかにゃー?」

 

「詳しく説明してないけど、多分大丈夫。私が絡んでくるなら絶対に口出すヤツだし。それに大覇星祭の競技に出ないから自由に動けるし。……でも気難しいヤツだから大変じゃないか? 土御門、お前相当嫌われてるけど」

 

土御門が問いかけてくるので、真守はつい先日に土御門に対してブチ切れていたとある人物の機嫌を取るのが大変だったなあ、と顔をしかめながらも土御門を心配する。

 

「まったく人生の先輩がちょっと言っただけで拗ねるとかどんだけですたい」

 

「お前たちは何言ってんだ?」

 

「決まってるだろ」

 

二人の会話の意図が読めない上条が当然の如く小首を傾げると、土御門はニヤニヤと嗤いながら告げる。

 

 

「垣根帝督。超能力者(レベル5)第三位のアイツなら自由に動けるってことにゃー」

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「あらあらまあまあ。何かマズいことになっているわねえ」

 

真守たちが大玉転がしをしたグラウンドの観客席では、真っ白なレースの日傘を差した銀髪碧眼の貴婦人──アシュリン=マクレーンが座っており、姪の真守と上条、それと土御門の話を魔術で盗み聞きして、心底楽しそうにくすくすと微笑んでいた。

 

「どうされますか? アシュリン様」

 

隣にいた黒いスーツを着た従僕が話しかけてくるので、アシュリンはくるくるとレースの日傘を回しながら微笑む。

 

「真守ちゃんが関わるならば黙って見過ごせるわけないでしょう? それにしてもローラめ。考古学的な意味合いのある物品の取引なのに、わたくしのこと蚊帳の外にして楽しんでいるのかしら? 今度会ったら髪の毛でも抜ける呪いをかけて差し上げようかしらね?」

 

(……あなたが出しゃばると問題が悪化するからでは?)

 

アシュリンがイギリス清教の最大主教(アークビショップ)、ローラ=スチュアートの事を思って黒い笑みを浮かべていると、従僕はそんなアシュリンを見つめて心の中で思わず呟く。

 

「何を考えているの? 従僕の分際で」

 

アシュリンが従僕の心の中を的確に見抜いて微笑むと、従僕は咳ばらいをしてから居住まいを正す。

 

「失礼しました。……で、いかがいたしましょう」

 

「真守ちゃんの競技を見ること以上に重要事項は存在しないわ。それにローラとわざわざコンタクト取るのも面倒。だから──ステイル=マグヌスを探しなさい。一介のルーン魔術師に(おく)れを取るようならさらし首よ?」

 

「拝命いたしました」

 

アシュリンがさらりと残酷な事を告げるが、従僕は慣れているのかそれとも自分の実力を誇っているのかこれっぽっちも恐怖せずに頷く。

 

「それにしても『刺突杭剣(スタブソード)』ですって。鑑定しがいがありそう。一体どんな伝承や意味合いが込められているのかしら。……この魔術と関わり合いのない地で行方不明という事にして、横からかすめ取ってしまうのもよさそうねえ」

 

「……また最大主教(アークビショップ)に怒られますよ。だからあなた様を蚊帳の外にしたのでは?」

 

「あら。あの女狐がキーキー怒ったって怖くないわ。色々と枷をかけられている立場の者たちを翻弄することほど、面白いものはなくってよ」

 

アシュリンの隣に座っていた女性の従僕が(なだ)めると、アシュリンはそんな従僕に綺麗な仕草でウィンクをした。

 

「……そういう性格だから怒られるんですよ」

 

「あら次は真守ちゃん、パン食い競走ですって。いつから日本でパン食い競走は主流になったのかしら。面白い文化よねえ?」

 

アシュリンは従僕がため息を吐く隣でパンフレットを取り出して真守の出場する競技を見ており、そんなアシュリンを見て従僕は再びため息を吐いた。

 

その様子はどこからどう見ても強者の余裕を秘めており、そして彼女にはその雰囲気に伴う実力があった。

 




説明回でした。

垣根くん、ここで初めてがっつり魔術に関わることになります。しかも真守ちゃんがいないところで土御門と共闘です。またイジり倒される……。
そしてアシュリンも動きだしました。次回から本格的に動く事になります。波乱の予感ですね。


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