とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九五話、投稿します。
次は一一月二〇日土曜日です。


第九五話:〈本職人間〉からのご高説

土御門は陣を描きながら魔術を全く知らない垣根と上条のために説明する。

 

「術式の名前は『理派四陣』って言うんだが──『御使堕し(エンゼルフォール)』ん時もコイツが使えりゃ楽だったんだけどにゃー……俺は魔術一回使って体ボロボロ。神裂ねーちんは結界張るのが苦手。んでロシア成教に魔術教えるのもマズかったし、使えなかった代物ぜよ」

 

「あ? 『御使堕し(エンゼルフォール)』? なんだそりゃ」

 

「文字通り、天使が落っこちてきた事件だにゃー」

 

垣根が『御使堕し(エンゼルフォール)』について反応すると、土御門は手を動かしながらあっけらかんと言う。

 

「へえ。そんな御大層なことが魔術で起こせるのか。天使落とすとかその度に世界が終わりそうなモンだがな。意外と頑丈なんだな、この世界」

 

学園都市でも大概色々と起きてはいるがそれはあくまで内々なだけで、実は世界規模で見てみると『御使堕し(エンゼルフォール)』だけではなく何度も人類滅亡の危機がやってきているらしい。

やっぱり真守みたいに視野は広く持った方がいいな、と垣根が考えていると、ステイルが焦った表情をする。

 

「いやいや。あれはちょっと異常だったよ。というよりキミ、割と柔軟性が高いんだね。普通科学サイドの人間が天使なんて聞いたら意味不明だって思うけど?」

 

「んーこいつはどっちかって言うと存在自体がメルヘンだからにゃー。理解が早いに決まってる」

 

ステイルの焦りに土御門が手を動かしながら自分を罵倒してくるので、垣根は殺気を込めて土御門を睨みつける。

 

「オイ。ぶっ飛ばすぞお前。つーかアイツだって翼出るし。もちろん知ってんだろ?」

 

「直接は見たことないが知ってるにゃー」

 

「チッ。やっぱり信用ならねえ」

 

「何の話してるんだ?」

 

垣根が多角スパイでなんでも知ってる土御門のことを敵視していると、それを聞いていた上条は小首を傾げた。

 

「ちょっと込み入った話だにゃー。あ、カミやん、『理派四陣』の術式砕かないように下がってろ。どうせ俺もカミやんのそばまで下がるし、垣根もなー」

 

土御門に言われた上条と共に垣根が陣から下がると、土御門は地面に印をつけて陣を完成させた後、告げた通りに二人のもとまで下がった。

 

土御門が作り上げた陣は直径五〇㎝の黒い円で、中心にオリアナが魔術に使った厚紙が置いてある。

その円の四方には青、白、赤、黒の新品の折り紙が設置してあり、それぞれ東西南北に照らし合わせて置かれているらしい。

 

ステイルは土御門の描いた陣の前で片膝を突いて両手を祈るように組んで目を閉じた。

 

「──風を伝い(IITIAW)しかし空気ではなく(HAIICT)場に意思を伝える(TPIOA)

 

ステイルがノタリコンを呟くと四枚の折り紙が起き上がって垂直に立ち、ぐるぐると円を描いて回り始め、そしてその円は少しずつ中心へと向かい小さくなっていく。

 

「ルーンってのは染色と脱色の魔術で意味のある文字を刻み、その溝を力で染めることで術式を発動し、脱色することでスイッチを切る。ステイルの場合は、印刷という手段を使って『あらかじめ染めておいた』カードを使うから術式の発動が異様に速いぜよ」

 

「魔術が科学使ってもいいのかよ?」

 

垣根が土御門に問いかけている最中も円はどんどんと中心へと向かって狭まっていく。

 

「別に魔術師が科学使っちゃダメ、なんて規定はないにゃー。まあ確かに科学に弱い人間もいるにはいるが、大体は科学に頼ってるぜい。『エンデュミオン』で術式発動しようとしたレディリー=タングルロードとかが良い例だにゃー。……ステイルはあらかじめ染めておいたカードを『燃やす』ことで脱色のプロセスも一瞬で済ませられるんだ。まあ普段はあらかじめ『染めておいた』術式しか使えないワケだがな」

 

「つまり『染色と脱色』の法則さえ守れば臨機応変に対応できるってことか?」

 

「そうそう。さっすが超能力者(レベル5)。仕組みの理解が早い。ちなみにルーンの標準フサルク二四文字から外れてもルーン魔術ってのは発動できるんだにゃー。実際、単に『ルーン文字』っつっても時代によって数パターンにも派生しているし」

 

話している最中に円がオリアナの厚紙へと迫っていき、後一五センチまでのところまで迫る。

 

「これを使うと、そんなぴたりとオリアナの位置が分かるもんなのか?」

 

「ま、半径三キロ以内ならほぼ確実だにゃー。けど、そのラインから外に出られちまった場合は何もつかめないぜい。ついでに言うと一回『理派四陣』を発動させると次の準備に一五分ぐらいの空き時間が必要になっちまうにゃー。一回で成功させりゃー問題ないない」

 

「使い勝手が悪ぃな。問題だらけだろ」

 

上条の質問に土御門が術の仕組みを話すので垣根はそれにケチをつける。

 

そのケチに土御門は手を横に振ってナイナイと動かす。

 

「いやいやていとくん。俺だって魔術師なんだぜい。一発限りになっちまうが困った時は『赤ノ式』で終わらせちまう手があんだよ」

 

「だからいちいち(かん)に障る名前で呼ぶんじゃねえ。つーかテメエ、魔術使ったら死ぬんじゃねえのかよ。それとお前が魔術使って迎撃するとお前が魔術師ってバレるし、外に張ってる魔術師が学園都市になだれ込んでくるだろうが」

 

垣根が青筋を立てて土御門を睨みつけると、土御門はおどけた風ににやーっと笑う。

 

「おやおや心配してくれているのかにゃーん?」

 

「ムカついた。殺してやろうか?」

 

「朝槻が怒るぜい?」

 

「…………この野郎……!」

 

自分の脅しに間髪を容れず現在大覇星祭を頑張っている真守の名前を出してくるので、垣根は殺意を込めて拳を握り締める。

 

「まあ、ふざけるのも大概にして。一撃必殺で決めたら危機は去ったからお前たちの出番はないって言えるし、『赤ノ式』は火の術式だから誰が魔術使ったって追及されたら炎が得意なステイルが砲撃しましたって言えば済むって話なんだぜーい」

 

「……ま、また大胆だな。そんなに上手く騙せんのか?」

 

土御門の話題転換に食いついたのは上条で、垣根は土御門の言葉に嫌そうに顔をしかめてチッと舌打ちしているが、話はちゃんと聞いていた。

 

「できるできる。『必要悪の教会(ネセサリウス)』には魔導書一〇万三〇〇〇冊分の知識が保管されてんですよ? 十字教の術式以外を勉強してたって少しもおかしくないし、何よりステイルのルーンは十字教と関係ない術式だからカモフラージュにはぴったりだぜい。まあ魔力の練り方を東洋じゃなくて西洋っぽく加工しなくちゃなんねーが、気を付けるのはそれくらいだしなー」

 

「……それ、何かすっげえこじつけだな」

 

「ごまかし方としては妥当だろ」

 

上条が顔をしかめて苦言を(てい)するので垣根が吐き捨てるように呟くと、土御門が両者の意見の食い違いに笑う。

 

「あっはは。そこら辺は正攻法を好むカミやんと邪道も躊躇(ためら)わないで使うていとくんの見解の相違だにゃー。なんにせよ、オリアナの位置さえ正確に掴めればこっちの勝ちだぜい。欲を言えば捕まえてリドヴィアともう一人の取引相手についても吐かせたいが、今はとにかく『刺突杭剣(スタブソード)』の取引中止が最優先だにゃー。そのためなら『刺突杭剣』を吹っ飛ばそうがオリアナの体を砕こうがお構いなしだぜい」

 

「……今、空間に干渉するような魔術使ってたから良かったなあ。そうじゃなかったら空間ごとテメエを圧し潰してたぞ、コラ」

 

「うわー超能力者(レベル5)サマキレたらマジヤバーい」

 

再三に渡る土御門のイジりに垣根がイライラと殺意を込めた目で土御門を睨むが、土御門はまったく気圧されずに、にまにまとおどけた様子で笑う。

 

「マジでこれ終わったら潰す……!」

 

垣根が土御門を睨みつけていると、四枚の折り紙がオリアナの残した厚紙に触れてパン! と乾いた音と共に折り紙が弾けて人の中に精密な地図が浮き上がる。

 

その精度は緻密なもので、衛星から撮影した超高解像度写真と化していくので垣根は土御門への怒りを忘れて思わず息を呑んだ。

 

「ごっがァあああああ────ッ!?」

 

だが次の瞬間、いきなりステイルが体を九の字に折り曲げて叫んだ。

 

それと同時にバギン! という物音と共に地面に描かれていた地図のラインが四方八方に飛び散った。そして骨が砕かれるような音が響き、上条はステイルの骨が砕けているのかと息を呑み、垣根は何らかの理由で空間が歪み、軋みを上げる音だと気が付いて警戒心を露わにした。

 

「魔力の暴走で空間がたわんだ単なるラップ音だ! カミやん、ステイルの体を殴れ! 多分それで止まると思う!!」

 

上条は垣根が感じていたことを的確に表現した土御門の言葉に従い、ステイルの懐に飛び込んで彼の背中を慌てて力加減など考えずに叩いた。

 

空気が抜けるような音が響き、空間が軋みを上げる音が止んで、ステイルが脱力したように地面に倒れ込んだ。

 

「なん、だ。今のは……逆探知の防止術式の一種みたいなものか……?」

 

ステイルが汗で額に張り付いた赤い長髪を掻き上げる前で、土御門は動かなくなった折り紙の一枚を地面から拾い上げて精査する。

 

「だったら、『理派四陣』の魔法陣たるこっちにも影響がありそうだが……そんな痕跡はないぜい。恐らくステイルの魔力を読まれて、ステイル個人の魔力に反応して作動するような迎撃術式が組まれてんだろうさ。オリアナの狙いは俺たちに魔術を使わせて魔力を読み取り、それを迎撃することだったんだろうさ」

 

「魔力には能力者が発するAIM拡散力場みてえに個性があって、それを読まれて攻撃されたってことか?」

 

垣根が現状からそう読み取ると、土御門は肩をすくめて告げた。

 

「魔力は能力者のAIM拡散力場とは全然違うにゃー。魔力ってのは術者の練り方次第によって質と量が変わるんですたい。完璧な迎撃術式を即興で組み上げるなんてことは普通できないぜい」

 

「じゃあオリアナはどうしてるんだよ?」

 

上条の尤もな疑問にステイルは体を起こしながら独り言を呟くように説明する。

 

「魔力そのものは複数のパターンが存在するが、その前段階なら違うんだ。つまり生命力を読まれた。……しかし、処刑(ロンドン)塔とかウィンザー城地下とか、魔術師を収容するための大規模拘束施設を利用するならまだしも、生身一つで生命力の探知・解析・逆算・応用・迎撃まで全てをやってのける術者がいるだなんて──流石は『追跡封じ(ルートディスターブ)』のオリアナ=トムソンと言ったところだね」

 

追跡封じ(ルートディスターブ)』オリアナ=トムソン。

 

その名にたがわぬ曲者(くせもの)の運び屋という事実が明るみになり、ステイルの言葉に芳しくない雰囲気が辺りに満ちて場の空気が少し重たくなっていった。

 

それでもどんな強敵であっても『刺突杭剣(スタブソード)』の取引は絶対に阻止しなくてはならない。

 

そのため土御門たちは次の一手を考え始め、垣根はそんな土御門たちを注意深く観察し、上条は気を揉んでその様子を見ていた。




土御門の魔術講座。

ここら辺魔術についての説明が多くなりますが、垣根くんが魔術を学ぶ大事な場面ですので少し続きます。ご容赦ください。


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