とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九七話、投稿します。
次は一一月二二日月曜日です。


第九七話:〈同類犠牲〉でも進み続ける

土御門は淡々とこれからやるべきことを説明する。

 

「オリアナはステイルの生命力を読み取った後に『速記原典(ショートハンド)』を使ってこちらの動きを妨害してる。その迎撃の術式にしても、魔力が使われているはずだ。この『占術円陣』は迎撃魔術の魔力に反応する形で起動し、どこから魔力が飛んできたのか、その方角と距離を逆算してくれる」

 

「だって無理だろ土御門! 迎撃が入るって具体的に何が起こるか分かってんのか!? そんなの実行すればもう一度ステイルが倒れる羽目になるんだぞ!」

 

上条のステイルを思っての言葉に、土御門は冷酷な笑みを浮かべながらサングラスの表面をキラッと(きら)めかせる。

 

「もう一度? 誰がそんな事を言った。一度で済むはずがないだろう? それにステイルはここでリタイアするわけじゃないぜい。最低でも迎撃術式を破壊した後にもう一回、オリアナを捜すための『理派四陣』を使ってもらう。それ以前に一度の『占術円陣』で迎撃術式の場所が掴めなければ──何度でも試してもらうしかない」

 

「……、テメエ。本気で言ってんのか?」

 

上条は土御門の残酷な発言に体操服の(えり)を掴み上げる。あまりの強さにブチブチと土御門が首にしていた金のネックレスがはじけ飛んだ。

 

「カミやん。忘れているようなら一つだけ教えておく。これは命がけの戦いだ。結果によっては国や世界が傾くほどの、な」

 

「でも……ッ!!」

 

上条はそこで歯噛みをして、片手で今まで土御門の襟を掴み上げていたが、両手で土御門に殴りかかる前のように顔を近づけて襟首を引っ張る。

 

「分かったよ。それで行こう」

 

「だって、お前……!! 垣根も何か言えよ! こんなことは間違ってんだろうが!!」

 

だがステイルが即座に土御門のやり方を肯定したので、上条は土御門に顔を近づけるのをやめるが、それでも襟首を引っ張りながらステイルを見て、その次に垣根をその視界に(とら)えた。

 

「あ? それ以外方法がなくて本人が嫌がらないでやる気ならいいんじゃねえの?」

 

「!? 垣根!!」

 

「気持ちが悪いから慣れ合うなよ上条当麻。それで全部終わらせられるなら問題はない」

 

上条が垣根に怒りの矛先を向けていると、ステイルはやれやれと言わんばかりに頭を横に振ってから土御門を睨みつけた。

 

「代わりに何があっても迎撃術式の居場所を突き止めろ。そしてこの問題は僕たちだけできちんと片付ける。これ以上大きな問題には絶対に発展させない。分かったか?」

 

「オーケー。これ以上問題をこじらせることでインデックスに強制帰還命令が下るような結果にはさせないぜい。彼女の学園都市での生活は確実に守る。それがお前の条件だったな?」

 

ステイルの言葉を受けて、土御門はステイルの要求を上条と垣根に言い聞かせるかのようにわざと口にする。

それを聞いていた上条は、土御門の襟を掴んでいた手を思わず離した。

ステイルが体を張る理由が、自分と一緒にいるインデックスの平穏を守るためと知ったからだ。

 

(……この不良神父はそこまであのシスターに入れ込んでんのか)

 

垣根が真守から聞いた話では、(くだん)のシスター、インデックスは現在イギリス清教が特別に学園都市で生活することを認めている状態にある。

だがそれは綱渡りのようなもので、どちらか一方に不利益が生じたり、情勢が変わったことによってすぐに崩れてしまうような生活なのだ。

 

それにインデックスはイギリス清教に管理されるために記憶を一年ごとに消されていたらしい。

おそらくインデックスは同僚だったこの不良神父のことを何も覚えていないのだろう。

 

記憶を消されて自分のことを忘れられたとしても、どんなことがあってもステイル=マグヌスはインデックスが学園都市で幸せに生活することを願っている。

いつだって彼女の幸せを願っている。

 

それは朝槻真守が人ではない何かになって、自分を必要とせず、離れていってしまっても絶対に一人にしないと誓った垣根帝督と同類のようなモノだ。

 

(同類多すぎんだろ)

 

「上条当麻。……僕は、キミが今ここにいることが気に食わない」

 

垣根が嫌な顔をしている前で、ステイルは土御門が朱色で描いた『占術円陣』の円の中へ迷わず踏み込みながら告げる。

 

「何故、あの子のそばにいないんだ。あの子がそれで顔を曇らせたら、全部キミのせいだろうが」

 

(でも土御門のクソ野郎と違ってこの魔術師は嫌いじゃねえな。……やっぱりアイツが気に入らねえだけか)

 

垣根は土御門の性格そのものが同族嫌悪の前に気に入らないと理解して、嫌そうに顔をしかませながらも、ルーンの炎を発動させたことにより迎撃術式に迎撃され、絶叫を(とどろ)かせるステイル=マグヌスを無言で見つめていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

秋風がそよそよと整備場を流れて彼の黒い装束を揺らすが、地面に横たわったステイル=マグヌスは動かない。

浅く小さな息が聞こえてくるので生きてはいるのだろうが、それでも反応がないので体調が悪いことは確実だ。

 

「反応は……出た出た。ここが、こう変化すると……方角的には北西か? 『速記原典(ショートハンド)』らしき反応までの距離は……、この色の強味から考えて、三〇二メートル。チッ。意外と近くに仕掛けてやがったのか。反応が全く動かないところを見ると、予想通り設置型って感じかにゃー。オイていとくん。地図持ってないかにゃー? ここから北西三〇二メートル地点に何が建ってるかを知りたい」

 

「だからその名前で呼ぶんじゃねえよ。つーかテメエ早く傷の手当しろよ。致命傷になるぞ」

 

相変わらず土御門に名前でイジられるので、垣根は舌打ちをしながらも、言われた通りに携帯電話をジャージのポケットから取り出す。

 

「にゃー。お前、結構優しい性格なんだぜい? だから朝槻も惚れてんのか」

 

「うるせえやっぱりそのまま死ね」

 

「……? 何の話してんだ……?」

 

土御門がにぱーっと笑い、(から)元気でおちょくってくるので垣根が暴言を吐くと、土御門の冷徹に静かに怒りを燃やしていた上条は二人の会話におかしな点があると感じて、顔を怪訝そうにしかめた。

 

「あーカミやんには分かんないかにゃー?」

 

土御門がおどけて言った瞬間、彼の額がピッと薄く切れた。

そしてじわじわと脇腹の体操服が赤く染まっていく。それはまるで刺し傷のように。

 

「つ、ちみかど……?」

 

「『占術円陣』は……飛んでくる術式の魔力に反応して、距離と方角を伝えてくれる。そんな便利なシロモノを、魔力を使わずに発動できるはずがないだろう……俺がもっと魔術を使えてりゃ、ステイルは、こんなことにはならなかった。認めてやるよ、だから……、好きなだけ恨め」

 

土御門はポケットから取り出した包帯を体に巻き付けながら息も絶え絶えに呟く。

 

真守が心配したようにぽそっと呟いていたから垣根は知っているが、土御門は無能力者(レベル0)だとしても肉体再生(オートリバース)という自身の体を再生させる能力者なので、魔術を使っても普通の魔術師よりも魔術を使う回数に多く耐えられるらしい。

それでもやっぱり重要な器官や血管が傷ついてしまえば、能力によってカバーしきれないで死んでしまうのだ。

 

ステイルと同じように命を懸けて守るべきものを守ろうとしている土御門。

 

アレイスターの犬という点で垣根は気に食わないが、こうやって接していると真守の言う通りに根っからの悪党ではないらしい、と垣根は携帯電話で地図を見ながら考えていた。

 

「俺は必ず『速記原典(ショートハンド)』を見つけて破壊する。そしてオリアナも捕まえて、『刺突杭剣(スタブソード)』の取引も、絶対に、この手で潰す。それで、まずはイーブンだ。残りの利子は、全部、終わってから……ステイルに返してやるさ」

 

「オイ、手当てが済んだら早く動いた方がいいみてえだぞ」

 

土御門が息も絶え絶えで悔しげに包帯を巻いている中、垣根は片手をポケットに突っ込んだまま携帯電話から顔を上げた。

 

「マズいことでもあったかにゃーていとくーん」

 

「うるせえテメエも懲りねえヤツだな。……『速記原典(ショートハンド)』の設置場所は中学校の校庭のど真ん中だ。オリアナのヤツがそんなところに行くはずねえだろうから、第三者の手でそこまで運んでもらったとかだろうが……面倒な状況なのには変わりねえな」

 

垣根が携帯電話で二人に地図を見せながら告げると、位置を確認した二人の顔が驚愕で固まる。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

上条と土御門はもう少しで競技が行われるという『速記原典(ショートハンド)』が設置された中学校まで急行していった。

 

垣根はというと、ステイルを一人にしておけないという上条のお願いを聞いて整備場に残っていた。

 

まあ専門家である土御門の指示で幻想殺し(イマジンブレイカー)を持つ上条が『速記原典(ショートハンド)』を破壊すれば済む話なので、無駄な労力が嫌いで大体人をコマにして動かす垣根は元から現場に行く気がなかったのだが。

 

垣根は動けないステイルを引っ張って整備場の端の方に移動する。

整備場にはメンテナンス機械をメンテする技師たちが行き来しているからだ。

彼らに見つかったら流石にマズい。

 

(常盤台中学か……あのお嬢様学校が校庭で暴れんなら、いくら魔術の術式でもでも壊れそうなモンだが……そんな簡単にはいかねえか。迎撃術式ってんなら一般人が触っただけでアウトになりそうだしな。まあなんにせよ、アレを破壊すればオリアナの居場所が見つけられんだから問題ねえな)

 

垣根は浅い息を吐くステイルの隣で心の中で一人呟く。

 

垣根の率いる未元物質(ダークマター)で造り上げたカブトムシを中学校の校庭に秘密裏に送り込んで『速記原典(ショートハンド)』を探せば効率がいいが、あれは真守のために秘密裏に築いたネットワークだ。

アレイスターが進めており、真守ががっつり関わっている『計画(プラン)』の情報もカブトムシで集めているので、アレイスターの手先である土御門の前で使うことはできれば避けたい。

 

そのため垣根は土御門と合流してからカブトムシとのネットワークに接続しないようにしているが、真守が心配なので真守のそばで警護させているカブトムシには、何かあれば自分に連絡するようにオーダーを出していた。

 

(何も連絡がないってことは真守の方は大丈夫そうだな)

 

「……キミは、彼女の一体なんなんだい?」

 

「あ?」

 

垣根が真守のことについて考えていると、そこでステイルに真守について声を掛けられたので、垣根は怪訝な声を出して息を荒らげているステイルを見た。

 

「いや。なんでもかんでも自分で解決できるから、彼女は誰かに頼みごとをしたりするのが根本的に苦手だろう? それなのにキミを寄越したということは、そこまでキミが彼女に近いところにいるのかと気になってね」

 

ステイルの問いかけに、垣根は軽く笑ってから答える。

 

「確かにアイツは人を頼ったりしねえ。つーか人が頼れっつってんのに未だに一人でなんでもこなそうとしやがる。ありゃ完全に病気だな。……そんなアイツのことをお前はよく分かってんだな」

 

「これでも神父だからね。人を見る目はある方さ」

 

ステイルは自分が不良神父だとでもいう自覚があるのか、自嘲気味に笑う。

垣根はそんなステイル=マグヌスを横目で見た。

 

世界で一番大切な女の子に忘れ去られてもなお、その少女の幸せを願う男。

 

これから世界で一番大切な女の子がもしかしたら自分のことを欠片も想ってくれなくなったとしても、その少女を一人にしないと垣根帝督は誓った。

 

自分の幸せが大切な女の子の幸せで、その幸せを守るためならばどんなことでもするという生き方。

 

少し違うが、垣根帝督はいつかステイル=マグヌスのような生き方をするようになるのだろう。

 

「……お前、あのシスターに忘れられてんだろ」

 

「そんなことがどうかしたのかい?」

 

ステイルがそんな些末(さまつ)な問題はどうでもいいのだと告げるので、垣根は薄く笑った。

 

()()()()()。……俺にとって真守は、そんなお前にとってのシスターみたいなモンだよ」

 

「……そうかい、それは簡潔で良いね。納得だ」

 

ステイルは垣根の同意した言葉に、柔らかくフッと笑った。

 

(やっぱコイツからは不快な感じはしねえな。……つーことは土御門のクソ野郎が気に入らないだけで、アイツに対する不快感は別に同族嫌悪じゃねえんだな)

 

そんなステイルを横目で見ながら、垣根はいつでもおちゃらけている土御門元春の性格自体が嫌いなのだとそこでもう一度自覚していた。

 

そこから二人は話すこともないのでそのまま待機していると、ステイルは携帯電話に着信があったので胸元から携帯電話を取り出して、土御門からの通話をスピーカーフォンにして電話に出た。

 

〈カミやんがオリアナの『速記原典(ショートハンド)』を破壊した。なんか体調に変化あるかにゃー?〉

 

「言われたところで、実感はないが……」

 

ステイルはルーンのカードを一枚取り出す。

そのルーンのカードには以前上条当麻との戦闘で見受けられた水に弱いという欠点をカバーするためにラミネート加工が施されており、垣根はそれを見てただの印刷技術だけを使ってんじゃねえんだな、と思っていた。

 

そんな垣根の前でステイルが一度深呼吸してから小さく呟くと、小さなボッという音と共に、ステイルの人差し指の先に魔術の炎が灯った。

そのままじっと待つステイルだったが、全身に襲い掛かる日射病のような迎撃術式の攻撃がやってこないと知ると、構えて力を入れていた体からフッと力を抜いた。

 

「……いける。問題はなさそうだね」

 

〈そうか。なら『理派四陣』の探索術式を頼むぜい。折り紙と魔法陣の配置は事前に俺が用意しておいたはずだけど、使い方は分かるな?〉

 

「みくびるなよ」

 

ステイルはそこで土御門が描いた円と四方に置かれた折り紙と、その中心に置かれたオリアナが使用した厚紙の前に立つ。

 

「しかしそちらは大丈夫なのかい? オリアナの迎撃術式は競技場の真ん中に設置されているから選手として競技に潜り込んだんだろう? カメラの目と観客の目があるから競技が終わるまでは不用意に抜け出せないんじゃないのか?」

 

〈それなら問題ないにゃー。俺たちはもう競技場の外に出ているぜい〉

 

「……、どうやって?」

 

〈俺たちの目の前で生徒が一人やられちまった。そいつは重度の日射病ってことで病院に運び込まれてる。俺たちは意識を失ったソイツを介抱し、競技場の外へ運ぶふりをしながら退場したってワケだ〉

 

土御門の言葉に垣根は薄く目を見開く。

速記原典(ショートハンド)』を破壊できれば犠牲者が出てもどうでもいいと思っていた垣根だったが、それでも本当に、しかも一般人に犠牲者が出たということは、オリアナ=トムソンに容赦がないということだからだ。

 

オリアナに対して垣根が警戒心を(あら)わにしていると、ステイルがぽそっと呟くように土御門に問いかける。

 

「……上条当麻は、荒れているか?」

 

〈分かっているなら頼むぜい。そろそろこっちも反撃に出たい。じゃねーと、倒れちまった生徒さんに申し訳が立たないにゃー〉

 

土御門はそこで一旦通話を切る。

 

「……誰だって完璧なワケじゃない。上条当麻でも失敗するということだね。……だからこそ、自分の未熟を悔いている、か」

 

ステイルは一人呟くと『理派四陣』の魔法陣を起動する。

 

真守でさえ源白(みなしろ)深城を完璧に助けられなかったのだ。

誰も彼もが完璧に周りの人間を助けることなんて不可能だ。

 

垣根は魔法陣を発動したステイルの隣で、深城を完璧に助けられなかったと自分に告白した時の真守の悲痛を帯びた顔を思い出しながら、同じ感情を上条当麻も抱いているのだろうとなんとなく考えていた。

 




垣根くん、土御門のことが普通に嫌いだと悟りました。

それでもなんだかんだ言っても優しいからちゃんと心配しています。真守ちゃんが大切にしている人ですし、真守ちゃんに家族のことでアドバイスしてましたから、それなりに恩は感じています。

……でもやっぱり気に入らないという垣根くん。多分一生土御門のこと好きになれない。

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