とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九九話、投稿します。
次は一一月二四日水曜日です。


第九九話:〈未元物質〉は別位相に挑む

オリアナ=トムソンは絶句していた。

 

学園都市がまるで神を冒涜(ぼうとく)するかのような、三対六枚の純白の翼を広げた能力者を造り上げていたからだ。

だが魔術世界は学園都市に翼を持つ能力者を造ってもいいかと一々お伺いを立てろなんて言っていない。

 

それに学園都市製の能力者は才能がある者たちだ。

その才能を開発して学園都市は能力者を育てており、恐らく彼には元々翼を広げることができる素質があったのだろう。

 

魔術世界で多大な意味を持つ翼を見て呆然としているオリアナの前で、垣根は獰猛(どうもう)に笑ってみせる。

そして空から六枚の翼の内、一枚をひゅっと伸ばしてオリアナを襲撃した。

 

「くっ────!?」

 

オリアナは正体不明の翼に本能的な恐れを抱き、素早い身のこなしで翼から逃れるためにその場から飛び退いた。

 

だが垣根の狙いはオリアナではなかった。オリアナが展開していた術式『明色の切断斧(ブレードクレーター)』だった。

 

翼が叩き下ろされると『明色の切断斧(ブレードクレーター)』が起動し、二〇八本もの真空刃が噴き出した。

 

「上条当麻。一番()()()()()から出て、とっとと土御門のバカの魔術を解いてやるんだな」

 

「ああ! サンキュー垣根!!」

 

垣根が上条を促すと、土御門は痛みに震えながらタイミングを見計らって手を出してきた垣根に向かってうっすらと皮肉を込めて嗤い、そんな土御門を助けるために上条は自分を取り囲んでいる真空刃の壁が一番薄いところを狙って幻想殺し(イマジンブレイカー)で打ち消して、真空刃のカーテンから脱出した。

 

そして上条は警戒しながらオリアナから離れ、オリアナが放り投げて風に乗って飛んで行ってしまった昏倒術式が記述された厚紙のもとへと走る。

 

オリアナは上条当麻を視界の端に入れながらも、自分の目の前に降りて来て地面に足を付けた垣根の翼を見てうっすら引きつった笑みを見せた。

 

「まさか、学園都市が天使を作ってるなんてね」

 

「んな胡散臭いモンとこの俺、垣根帝督を一緒にするんじゃねえよ。大体、この学園都市には翼が生えるやつが最低でも後一人はいるぜ? そう珍しいモンじゃねえよ」

 

オリアナが(うめ)くように告げるので、垣根は余裕の表情でハッと嘲笑する。

 

「んふ。お姉さんそれも驚きだけど、その翼あなたに全然似合ってないのも驚きだわ?」

 

「心配するな、自覚はある」

 

オリアナが自信たっぷりの雰囲気を放っている垣根に引き笑いをしながら皮肉を込めて告げるが、垣根は顔色を変えずに滑らかに口を動かした。

 

「でも気に入ってるヤツもいるモンにはいるんだ。だから外の人間であるお前に何言われようが心底どうでもいい」

 

垣根が自分の翼を無条件で好きだと言ってのける真守と林檎のことを考えて告げると、オリアナはふふっと妖艶に笑う。

 

「あら。大事な人がいるからお姉さんにはなびかないってことかしら?」

 

「いなくともテメエみたいな痴女はごめんだな」

 

垣根は余裕ぶったオリアナの服装──第二ボタン以外留めていない、大分はしたない格好の作業服に軽蔑の視線を向けながら吐き捨てるように告げた。

 

圧倒的強者。

 

おそらくこの学園都市の中でも有数の能力者だ、とオリアナ=トムソンは垣根のその余裕っぷりに対して警戒心を一層強める。

 

「──でもね。誰が相手だろうと、お姉さんは負けるわけにはいかないの!」

 

オリアナはそう叫ぶと、単語帳の一ページを口に(くわ)えて、ビッとちぎる。

 

そして炎の剣をいくつも宙に浮かばせると、それを一斉に垣根に向けて放った。

 

その炎の剣は垣根の未元物質(ダークマター)の翼に次々と突き刺さり、そこで爆発する。

 

──はずだった。

 

翼に突き刺さった炎の剣が現実に生み出した現象は違った。

 

何故か炎の剣は翼に突き刺さるとカッと()()()()()(ほとばし)らせたのだ。

 

「!?」

 

自分が今使ったのは完全に五大元素、火に由来する術式だ。雷を生み出せる術式ではないし、あの緑の閃光にも心当たりはない。

 

「おー。成程なあ。真守が能力と魔術がぶつかると不可思議な現象が起きるっつってたが、どうやら本当らしいな」

 

オリアナが困惑していると、翼の中から顔を出した無傷の垣根が感心したように自身の能力で造り上げた未元物質(ダークマター)の翼を確認しながら告げる。

 

どうやら彼の言う通り、魔術と能力がぶつかると不可思議な現象が起こるらしい、とオリアナは不可思議な現象を目の当たりにしてそう認識した。

まあ実際には一部の能力者のみに起きる事態なのだが、そんなことをオリアナは知る(よし)もない。

 

「なあ、魔術師」

 

臨戦態勢で自分を睨みつけているオリアナに、垣根は余裕たっぷりで笑いかける。

 

「魔術ってモンはこの世の法則に縛られねえんだよなあ?」

 

笑いながら余裕たっぷりで告げる自分よりも年下の少年に、オリアナは不本意ながらもゾクゾクとしてしまう。

 

垣根の顔立ちが整っているのもそうだが、俺様気質で傍若無人っぷりが凄まじくて、オリアナは敵対関係になければ絶対に自分はひれ伏すか、組み敷くかしていただろうな、と心の隅でなんとなく思っていた。

 

そんな多くの人間を(とりこ)にするほど美しい、天使の翼を生やした少年は告げる。

 

「だったら俺の未元物質(ダークマター)は、魔術にどこまで通用するんだ?」

 

瞬間、垣根は既に展開していた未元物質(ダークマター)励起(れいき)させて、物理法則を捻じ曲げた。

 

するとオリアナの立っていた地面からオリアナを貫き刺すように氷柱が突きあがった。

 

「くっ!?」

 

オリアナは飛び上がりながら宙で単語帳の一ページを口でちぎり取って、風の防御壁を生み出して宙に浮く。

 

「俺もせっかくだからお前にご高説してやるよ。心して聞け、魔術師」

 

垣根は余裕の表情で空中へと逃げたオリアナを見上げながら告げる。

 

「俺の能力は未元物質(ダークマター)未元物質(ダークマター)ってのはこの世界に存在しない新物質だ。そいつに既存の物理法則は通じない」

 

そこで垣根は自分が未元物質(ダークマター)で生み出した氷柱をくいっと顎で示しながら続ける。

 

「今のは()()()()()()()()()地面に付着している水蒸気を未元物質(ダークマター)によって凝固させて地面からお前を貫くように生成したんだ。異物ってのはそういうモンだ。たった一つ混じっただけで世界がガラリと変わっちまうんだよ」

 

(ヤツが使う魔術は全部根っこは同じだ。仕組みが同じなら()()()()()()()()()()()()()()、逆算すれば攻撃は必ず通る)

 

オリアナが自分の説明によって驚愕して顔を固まらせる中、垣根は高速で思考、そして演算して冷静に心の中で呟く。

 

垣根帝督はここ二、三か月、朝槻真守と共に過ごしてきた。

 

真守は流動源力(ギアホイール)という新たなエネルギーを生成する能力で、世界の物理法則に()()()()()()()()()()()し、物理法則を捻じ曲げている。

 

真守は新たな力を生成する能力者。対して垣根は新たな物質を生成する能力者だ。

 

だったら真守と同じように、魔術が展開されて歪められた世界を再定義し、その上で未元物質(ダークマター)を組み込み世界の法則を歪めれば、未知の技術である魔術にも対抗できる。

 

朝槻真守の近くにいて見出すことができた世界を再定義する方法。

 

その再定義には、魔術という法則を相手に発動させる必要がある。

真守が一方通行(アクセラレータ)の定義を壊すために後から能力をかぶせるように使うのと一緒だ。

 

オリアナ=トムソンは上条当麻との戦闘で一つの法則に基づいた魔術を数種類使用している。

 

仕組みは同じなのに違う効果を生む魔術を次々と繰り出すということは、魔術の仕組みを知るためのサンプルを次々と提示してくれているということだ。

 

オリアナ=トムソンという魔術師は、初めて魔術を世界に組み込んで再定義する垣根帝督にとって、これ以上はない程にやりやすい相手だった。

 

「ここはテメエで歪めた魔術によって作られる空間じゃねえんだよ!」

 

垣根が叫ぶと、オリアナは焦りながら口に咥えていた単語帳の一ページをプッと吐き出して次の魔術を発動しようとする。

 

だが既に未元物質(ダークマター)を展開させていた垣根はオリアナの風の防御壁を貫くための熱波を生み出し、オリアナに放った。

 

その熱波は暴風壁を突き破ってオリアナの持っていた白い布で巻かれた物品を弾き飛ばした。

 

だがオリアナは弾き飛んでいく物品をに目もくれず、単語帳の一ページをちぎって魔術を発動させて渦巻く水を垣根へと放った。

 

垣根は未元物質(ダークマター)の翼を展開させて自分の身を守る。

 

その瞬間、再び不可思議な現象が起こった。

 

渦巻く水が未元物質(ダークマター)の翼にぶつかると、突然炎へと変わって爆発したのだ。

 

だが既に不可思議な現象が起こると知っている垣根は冷静に対処した。

 

翼を動かして炎を完全にかき消すと、垣根はその勢いで翼を広げてオリアナ=トムソンを(とら)えるために視界を確保した。

 

「あ?」

 

だがオリアナ=トムソンが先ほどまでいた場所から消えていた。

 

辺りを見回してもどこにもおらず、オリアナ=トムソンは忽然(こつぜん)と姿を消していた。

 

「チッ。良いところだったのに尻尾巻いて逃げやがった」

 

垣根は魔術に対して自分の未元物質(ダークマター)がどこまで通用するか少しばかり楽しみながら戦闘していたのに、水を差すようにオリアナが逃走して苛立ちを露わにする。

 

するとオリアナが持っていた白い布に巻かれた物品が丁度自分のもとに落ちてきたので、垣根はそれを片手で楽々とキャッチした。

 

「垣根!」

 

そして垣根が地面にそっと降り立つと、そこに上条と土御門が駆け寄ってきた。

 

「にゃははー。流石超能力者(レベル5)ってところかにゃー。カミやんがあんなに手こずったオリアナを防戦一方に追い込むなんて」

 

「当然だろ。俺を誰だと思ってやがる。……そういうテメエは上条に助けてもらったようだな。チッ。そのまま後もう少し苦しんでりゃよかったのに」

 

垣根は悪態を()きながら未元物質(ダークマター)の翼をすぅっと空気に溶けさせるように消す。

 

そして器用に持ち上げていたオリアナ=トムソンが手放した『刺突杭剣(スタブソード)』であろう物体をガン! と、地面に立てるように振り下ろしてそれに寄り掛かった。

 

「で? これはどうすりゃいい」

 

「なーんかオリアナの動きに違和感があるが……カミやん。ちゃちゃっと『刺突杭剣(スタブソード)』を破壊してくれないかにゃー」

 

「違和感?」

 

上条が土御門の言葉に首を傾げると、垣根がその違和感を説明する。

 

「オリアナ=トムソンが簡単に『刺突杭剣(スタブソード)』を手放したのが違和感ってことだ。まあでも、これがここにあるってことはリドヴィア=ロレンツェッティが計画していた取引は完全に潰せる。……早くしねえと炎上した自律バスに気づいた警備員(アンチスキル)がやってくんぞ。やるならさっさと終わらせろ」

 

「わ、分かった」

 

上条は垣根からもらった『刺突杭剣(スタブソード)』を地面に置くと、白い布を取り外そうとする。幻想殺し(イマジンブレイカー)で直接触れなければいけないからだ。

 

「く……ッ! 何だこれ、結構硬いな……!」

 

「──貸せ」

 

垣根は『刺突杭剣(スタブソード)』の前で白い布に格闘する上条の真ん前に立って体をかがめると、巻き付けてあった布の一部を掴むとそのまま引き裂いた。

 

結構頑丈に巻かれていた丈夫そうな布を片手で引きちぎった垣根の腕力に唖然としながらも、上条は『刺突杭剣(スタブソード)』を見た。

 

「は?」

 

だが上条は思わず声を上げてしまう。

 

垣根が引きちぎった布の中から出てきたのは『アイスクリーム屋さん』と可愛い文字が書かれたハンドメイドされた看板だった。

 

大覇星祭期間中にオープンされる学生主導の屋台に使われるであろう看板。

 

オリアナ=トムソンはこれを後生大事に抱えて逃げ回っていた。

 

オリアナが手から弾かれたこれに目もくれずに逃げたのは、この看板が『刺突杭剣(スタブソード)』のカモフラージュに使われたものだったからだ。

 

最初からオリアナ=トムソンは看板を持って逃げ回っていた。

 

オリアナが塗装業者に扮装(ふんそう)して歩いていたのは看板を手に持っていたからで、オリアナはそれに最適な格好をしていただけだったのだ。

 

「カモフラージュつっても本物はどこにあるんだよ」

 

「……いや、もしかしたら前提から間違っていたかもしれないにゃー」

 

呆然としている上条と違って冷静な垣根の言葉に、ただの何の変哲もない看板を見つめながら土御門はぽそっと呟く。

 

「あ? ……前提? ってことは、まさか」

 

「ああ。──『刺突杭剣(スタブソード)』の取引が行われる。ここからして、もう一度調査しないといけないかもしれないぜい?」

 

土御門はそこで笑いながらも内心で焦りつつ、携帯電話を取り出して即座にステイルと連絡を取った。

 

「どうなってる……?」

 

上条は『前提から間違っていたかもしれない』と告げる土御門の言葉に困惑して(うめ)き声を上げた。

 

時刻は昼前。

 

大覇星祭一日目は折り返しを見せようとしていたが、まだまだ騒動は終わらない。

 




垣根くんが初めて魔術師と戦いました。

名言連発です。カッコイイ。

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