『加護、《弱体化》を受けとりました。』『……は?』 作:ふーちゃん
『加護、《弱体化》を受け取りました。これから貴女の力は加速度的に減少し続けます』
「……は?」
一瞬、耳が腐ったのかと思った。いや、というかそうでないと不味い。
凍ったような世界の中、私は我らが神『アザラーク』の気持ちの悪い石像に向かい、祈りの姿勢を解いた。ゆっくりと息を吐く。
「ふぅ……」
……落ち着け、落ち着くんだ私。これまで培ってきた百十三年の知識と、経験を活かし、今の神託をしっかりと理解するんだ。
まず、『加護、《弱体化》を受け取りました』。なるほど、良い。私の力からすればむしろ加護を受け取れないことが問題だ。
あまりにも弱すぎればあり得る事例らしいが、そんなことはなかった。流石私だ。
次、《弱体化》。うん、なるほど。
予想するなら、相手の力を弱体化する加護か。私が強すぎるがゆえに、使いどころは無いが、まあ持っておいておくだけなら良い。
次。加護の説明が本来くる場所だが……『貴女の力は加速度的に減少し続けます』。
ふむ。
……ふむ、ふむ。
…………ふむ。
――はあぁあああああぉああぁあぁあぁああ?!!!!!!
◆◇
私の人生は常に絶頂だった。
『力こそ全て』を標語とする魔族で、私は瞬く間に軍部の出世街道をかけ上がった。軍の最高幹部と言える『二天蒼』、『四天王』、『七師長』で、私は成人前にして『七師長』の第五位に就いた。
すでに力は武の祭典たる天武祭で示したあとだったゆえに、誰も反対する者はなく、このまま行けば『二天蒼』はおろか、政治と軍部の頂点に立つ『魔王』すら夢物語ではないと言われていた。
今代の『魔王』は、千年の統治を続ける歴史上稀に見る才者だったが、それでも私なら出来ると周りの友人達は言ってくれた。
そして、私もその期待に答えんと、その気概でいたのだ。
そう、いた。
いたのだ、が……。
「……いつ誰に負けるか分かったもんじゃない。もうこれ以上を望むのはやめよう」
一度口に出すとスッキリした。なんなら、さらに地位を下げることすら考慮にいれたかったが、魔族では一度就いた立場を手放すのは難しい。
下から『交番戦』を受け、了承し、更にそこで負けなければ下へいくのは不可能なのだ。
――だが、それは不可能だ。既に私はありとあらゆる場所へと喧嘩を売ってしまっている。
理由は簡単。魔族では、格下と話すのはあまり行儀のよろしいことではないとされているからだ。それが理由にならない?いや、なるんだ。
つまり、私はそれに沿った。沿ってしまったのだ。
誰と話すのも、なるべく端的に、短く淡々と。冷たくあしらい極力言葉を口に出さない。
それを徹底していたのだが、つまりそれは『私はお前らよりと上だ』と真っ向からあらゆる場所に向かって大声で言ってるのとなんら変わりはない。
そしてだ。もし私が弱い、なんてことになったら……恐らく途轍もない報復を食らう。私に『負け』は許されない。
つまり、私はこれまでの対応を崩してはならない。
なるべく、そう、敵対種族との戦闘辺りで力を見せつけ、地位に文句を言わせないよう立ち回りつつ、同時に交番戦は決して仕掛けない、受けないを徹底。
そして力の減少が不味い域に入ってきたら、そのまま円満退職。悠々自適な余生を楽しむ。
ふむ、完璧だ。そして、私は全ての計画を立て終わったあと、気が付いた。
…………無理ゲーでは?これ。