源王は玉座を譲らない   作:青牛

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戦士は迷いを捨てられない

「雷門イレブンは折れませんでしたね」

 

「その程度は予期できていたことです。まだまだ想定内ですよ。というより、この試合は日本首脳陣の皆さんへのハイソルジャーのPRなのですから、あまり簡単に折れられても困るのですがね」

 

「はっ……」

 

 グラウンドを見下ろす研究所の展望室。

 そこから、一連の事件の黒幕である吉良星二郎と彼の執事である研崎が、試合の行方を見物していた。

 

「とはいえまさか、ジェネシスの“スーパーノヴァ”を頭に受けて平然と立ち上がってくるとは……」

 

「それも、私の見込んだ通りですよ」

 

 研崎の呟きに、星二郎は自信ありげに語る。

 

「いまでこそ雷門イレブンが台頭して来ましたが、計画段階でジェネシスの仮想敵としていたのは、当時日本トップだった帝国学園。そのキーパーである彼は、ジェネシスの破壊力のアピールのために、実にいい対戦相手になってくれるだろうと考えていました。

 それが真・帝国学園で影山零治に使い潰されたと聞いたときは残念に思っていましたが……」

 

「……影山め。旦那様の計画を乱し、恩を仇で返して消えたあの男、全くもって許しがたいですな」

 

「まあ、それもいま目の前にある光景を思えば些細なことですよ」

 

 真・帝国学園の名前に、研崎が表情を険しくして影山への憤りを見せるが、星二郎はやはり泰然としていた。

 慈悲深いようにも、腹黒いようにも見える笑みと共に、グラウンドへ視線を戻して言う。

 

「彼がこうして、地上最強イレブンの一員としてジェネシスの前に立ち塞がってくれて本当によかった。現日本サッカーでも随一に名の知れた王者。それさえも下してこそ、ジェネシスの最強は間違いなしと証明されるのですから」

 

 そう笑い、笑って見下ろす星二郎の姿は、闘技場(コロシアム)で猛獣を眺めているようだった。

 如何に猛獣とて、所詮は自分の計画という檻の内であると。

 

 

 

 

 

 

「源田、大丈夫なのか!?」

 

 ジェネシスの強力なシュートを防ぎきれず、顔面に受けてたというのに立ち上がってきた源田に、思わず駆け寄って尋ねる円堂たちだったが、当の源田はけろっとした顔で答えた。

 

「咄嗟に顔を逸らして受けたからな。問題ない」

 

 源田の言う通り、よく見ると彼の頬にはボールの痕がうっすらとある。あったが。

 

「ほら、血も出ていないだろう?」

 

 そういう問題ではない。

 円堂どころか、聞いていたジェネシスの者たちでさえそう思ったが、当人は本気で言っていた。

 

「それよりも、先制点をやってしまってすまない」

 

「フッ、お前が無事なら大丈夫だろう」

 

 もう源田のこういうところにすっかり慣れている鬼道。

 

「そうさ! 一人でダメなら、皆で守る。皆で点を取り返す。それが雷門のサッカーだ!」

 

「ああ。そうするとしよう」

 

 そして円堂の言葉に源田は頷きながら、アフロディとアイコンタクトをするのだった。

 

 

 

 ジェネシスの先制点となった試合。

 失点を取り返そうとする雷門イレブンは、果敢にぶつかっていった。

 

「これ以上シュートはさせないよ! ザ・タワー V2 !」

 

「無駄だ。サザンクロスカット!」

 

「なっ、キャー!」

 

 さりとて、ジェネシスの力も凄まじいことに変わりない。

 塔子が“ザ・タワー”から打ち下ろした雷を、アークが強い踏み込みと共に一瞬でタワーの足下をすり抜けることでかわした。

 それだけでなく、彼が抜けていった瞬間に十字の爆発が起こり、根本から崩れるタワーの轟音と共に塔子の悲鳴があがる。

 

「行かせないっス! ザ・ウォール 改!」

 

 しかし、間髪を入れない壁山の“ザ・ウォール”による二段構えのブロックが、アークの行く手を阻んだ。

 “ザ・ウォール”の岩壁は“ザ・タワー”よりも横幅が大きく、すり抜けられるサイズではない。

 二連続の強行突破は流石に分が悪いと踏んだアークは、素早くパスをしようとして、

 

「ふん!」

 

「!」

 

 パスを読んで先回りしていた鬼道に、カットされた。

 

「よこすッポ!」

 

イリュージョンボール 改!」

 

 奪い返そうと襲いかかってきたクィールも、鬼道の巧みな必殺技でかわされる。

 

「行かせると思うか!」

 

 そこへ、今度はウルビダが来る。

 鬼道は立ち止まらず、彼女と向かい合った。

 巧みなボール捌きですり抜けようとする鬼道と、互角に読み合い、その進路を塞ぐウルビダ。

 拮抗した競り合いだった。

 

「フッ」

 

「ちっ!」

 

「ナイス!」

 

 だが、そこでウルビダの不意を突いたノールックの横パスが、走り込んできていた塔子へ渡る。

 必殺技を破られて失点したものの、不屈の姿を見せた源田により、チームの士気はまだ保たれていた。

 彼らのプレイには、その勢いが乗っているようだった。

 

「一之瀬!」

 

「土門!」

 

「アフロディ!」

 

 流れるように繋がる雷門のパス。

 

真 フォトンフラッシュ!」

 

ヘブンズタイム 改

 

 飛び上がったゲイルが眩い光を纏ったのを、臨界に達する前に抜き去ったアフロディがペナルティエリアへと辿り着く。

 その勢いのまま、アフロディによるシュートが放たれた。

 

「フン、そんなもの!」

 

 軌道が正面から曲がり、コーナーを狙う鋭いシュート。

 とはいえ所詮ただのシュートならば、必殺技を出すまでもないと横っ飛びのパンチングで難なく弾いたネロ。

 しかし、回転がかけられていたボールの飛ぶ先を見て、アフロディの狙いに気づく。

 

「ハァーっ! メガトンヘッド!」

 

 円堂が、猪突猛進にゴール近くまで上がってきていたのだ。

 勢いそのままに、再び強力なヘディング。今度は最初のシュートとは逆サイドを狙っていた。

 アフロディのシュートに誘われたネロの隙を突く、見事な連携だ。

 

「いっけぇー!」

 

プラネットシールド!」

 

 しかし“メガトンヘッド”は、立ち塞がったゾーハンのシュートブロックによって阻まれてしまう。

 

「くっそー! ごめんアフロディ」

 

「惜しかったね、円堂くん。でもキーパーの揺さぶりには成功していたよ」

 

 力押しでネロを破るのは難しい。

 そこから不意を突くことを狙ったのだが、それでも届かなかった。

 ジェネシスの壁は厚く、高い。

 

「だからこその最強なのさ!」

 

 誇らしげにそう評しながら、グランが駆ける。同様に、ウルビダとウィーズもだ。

 先ほどの得点時と同じ構え。

 勢いのある反撃を止められた雷門に、止めを刺すために。

 

スーパーノヴァ!」

 

 二度、空より新星が墜ちる。

 ゴールを砕かんとする、禍々しい光がグラウンドを覆う。

 ジェネシスは、これが再び雷門ゴールを貫き、二点目になることを信じて疑っていなかった。

 

「言ったはずだ」

 

 しかし、彼はその逆。

 

「次は、止めてやると!」

 

 叫ぶ声と同じくらい、力強く打ち合わされた両拳。それらが発生させる黄金の盾。

 放つ輝きは、迫る凶星(まがつぼし)の光よりなお強い。

 

 

キングシールド!」

 

 

 進化したその名はーー

 

 

G3!!

 

 源田の誇る究極奥義が、更なる進化で星を噛み砕いた。

 

「なにっ」

 

「アフロディ、いくぞォ!!」

 

「ああ!」

 

 そして、絶対の自信のあった攻撃が凌がれたジェネシスに、立ち直る暇も与えない速攻。

 掴み取ったボールを、源田がそのまま思い切り投げ放つ。

 はじめ、地面すれすれで土埃を巻き上げる低い軌道だったボールが、跳躍した獣のように急上昇し、上空で待っていたアフロディの下へ届く。

 

 雷門の攻勢は、まだ終わってはいなかったのだ。

 

キマイラブレイク!!」

 

爆 時空の壁!」

 

 お返しとばかりの電光石火の反撃。

 神獣の突撃を、ネロは全力で迎え撃つ。

 

「フーッ……」

 

 歪んだ時空の中で、ボールが速度を落としていった。

 それを見届けたネロは息を吐き、そして、

 

「……なに!? ぐあぁ!」

 

 獣の咆哮のような唸りを上げて回転し、自らの時間へ立ち戻ったボールを見て、声をあげる。

 翳していた手を弾かれ、雷門のシュートを拒み続けていたジェネシスのゴールネットがついに貫かれたのである。

 ついに一点を返した地上最強イレブン。

 神と王のタッグが、試合の形勢をこちらへと引き戻した。

 

「よっしゃあ!」

 

「やったなアフロディ!」

 

「よく止めたぞ源田!」

 

「よし、源田とアフロディに俺たちも続くぞ! 追加点だ!」

 

「おう!」

 

 初得点に湧く雷門イレブン。

 

「我々ジェネシスが、点を失うなど……」

 

「これ以上、父さんに恥をかかせるわけにはいかない。いいな!」

 

「おう!」

 

 動揺したジェネシスも、キャプテンであるグランの渇で、気を引き締め直した。

 まだ戦況は、振り出しに戻っただけ。

 再びジェネシスが点を奪うのか、それとも雷門イレブンが逆転するのか。ここから試合が決まるのだ。

 双方それを理解して配置に戻った。

 

「円堂くん、源田くん。侮っていたつもりはなかったけど……君たちを改めて認めるよ。雷門は、ここまでの戦いで確かに地上最強と呼ぶに相応しいチームになったんだと」

 

 ジェネシスのキックオフで試合再開。

 

「だが、真の最強はジェネシスだ!」

 

 その瞬間、鳴り響いた笛の音に弾かれたかのような勢いで駆け出したグラン。

 アフロディがそのグランの進路に立ち塞がる。

 

「邪魔だ」

 

 超人的なスピードでそのまま抜き去ろうとするグランに、アフロディは単純なスピードだけでなく、先を読んだ動きで着いていく。

 

「ダメだよ、行かせない」

 

 振り切れないと思えば、今度はグランが強引なタックルを仕掛け、しかしアフロディも軽やかな足運びでそのタイミングを外し、突進をまるでそよ風のように受け流し、突破を許さない。

 優雅な体捌きと裏腹に真剣な表情、鋭い目でグランの動きを見通していた。

 

「ボクが君に何かを言う資格があるのかとは思うけれど……君はそれでいいのかい?」

 

「なんだい? “真・神のアクア”を使っていた君が、エイリア石の力は間違っていると高説を語るのかな」

 

 じりじりとした競り合い。アフロディが口を開く。

 それに対峙するグランがからかうような声を掛けたが、首を横に振った彼は言葉を継いだ。

 

「いや……君たちの力は、確かに身に付いているものに見える。ただ、力に溺れていた世宇子(ボクたち)と違って、君は、溺れることもできていないように見えてね。少し、苦しそうだ」

 

「……! いい加減に、行かせてもらうよ。ライトニングアクセル!」

 

「!」

 

 表情を険しくしたグランが、更なる急加速でアフロディをかわした。

 続けざま、雷門イレブンをごぼう抜きに突破したグランは再度の得点を目指して走り、ゴールに立つ源田を睨む。

 

 “流星ブレード”はおろか、“スーパーノヴァ”さえ止めた男。しかも、止めればアフロディとの連携でそのままカウンターシュートに移るという無法ぶり。

 生半可なシュートでは、返す刀でこちらの失点リスクを生むだけだ。

 ならば当然、狙うべきは削りを狙った小細工ではなく、カウンターを許さない一撃必殺。

 

「ウルビダ、ウィーズ!」

 

「お前に言われるまでもない、グラン!」

 

「いくぜ!」

 

 ジェネシスの三人が何らかのシュートの構えに入ったのを見た源田が、警戒態勢を取った。

 そこで、彼らの必殺技に目を見開く。

 

()()()()だと……!?」

 

 気を高めたウルビダを囲うように地面から現れたのは、宇宙服を着込んだ5羽のペンギン。

 彼らはウルビダが空へ送り出したボールを追うように飛び上がり、そして上空で待っていたグランとウィーズがボールを同時に蹴った。

 

「帝国学園の“皇帝ペンギン”は、1号も含め、よいサンプルでした」

 

 グラウンドで起こったその光景を眺める星二郎が、自慢気に呟いた。

 

「これがジェネシス最強の必殺技!」

 

スペースペンギン!!』

 

 奇妙な軌道を描き、ゴールへ迫る5羽のペンギン。

 

キングシールド G3!!」

 

 源田が渾身の守りで迎え撃つ。

 “キングシールド”はボールを受け止め、ペンギンたちは邪魔な盾に対してひたすら体当たりを繰り返した。

 

「おおォ……!」

 

 ペンギンの体当たりの度に、足が後ろへ押される。

 盾がピシリと音を立てる。

 そして、体当たりが十数回に達して、ついに限界が訪れた。

 

「やらせるかァ!」

 

 しかし、源田も退かなかった。

 “キングシールド”が砕けてもなお、ボールに両腕を添え、投げ飛ばすような勢いでゴールポストへ叩きつけ、シュートの軌道を上へ逸らしたのである。

 ガァン、と音を立ててボールが跳ね上がった。

 

「馬鹿な……!」

 

 最強の必殺技でさえ、源田の技こそ破ったが得点が叶わなかったことにウルビダが苛立ちと共に歯噛みする。

 だが、それだけではすまない。

 彼らがシュート前に危惧していた通り、得点に失敗すれば、源田にはカウンターがあるのだから。

 

「アフロディ!」

 

 跳び上がってボールを捕まえた源田が、空中でそのまま前方へと投げ飛ばした。

 当然、その先には準備万端のアフロディが。

 

「やはり流石だね、源田くん。キマイラーー」

 

 二得点目、逆転のチャンス。

 そう思われた瞬間、空に神々しいアフロディの力と違う、もう一つの力が現れた。

 

流星ブレード V2 ゥゥ!!」

 

「なにっ!?」

 

 跳び上がっていたグランが、アフロディの蹴るボールを、反対側から蹴り返していたのだ。

 ボールを挟んで鬩ぎ合う両者。

 

「ウオオォーーッ!」

 

「ハァーー!!」

 

 “キマイラブレイク”の強い力を打ち返すのは、グランといえども難業だろう。

 それでも、彼は足を振り抜く。

 

「俺は、父さんのために……! 勝つ!」

 

「くっ!」

 

 込められる力の限界に達したボールが、空中で()ぜた。

 星の爆発のごとき激しい閃光がグラウンドを照らし、見上げていた者たちの目を焼く。

 光が収まって、皆が逸らしていた顔を再び上に向けると、二つの影が地上へ落ちてくるのが見えた。

 グランとアフロディだ。

 

「グラン!」

 

「問題ない」

 

 体勢を整えて着地し、ウルビダの声に答えたグランは、息こそ乱れていたが言葉通り怪我はないようだ。

 しかし、もう一人はそうではなかった。

 顔を痛みに歪め、頭から地上に落ちそうになる。

 

「アフロディ!」

 

「くっ……」

 

「大丈夫か!?」

 

 降ってきた彼を源田が受け止めて事なきを得たが、アフロディは顔をしかめながら右足を押さえていた。

 グランとの激突で、痛めてしまったらしい。

 

「すまない、円堂くん。生まれ変わったボクの力を、最後まで貸したかったけれど……」

 

「無理するな、アフロディ。今のお前は、あの決勝(とき)よりずっと強かった」

 

「フフ、ありがとう……後は、源田くんと……」

 

 駆け寄った円堂の言葉に安心した様子のアフロディは、自身を抱き抱える源田と、

 

()に、お願いするよ」

 

 ベンチで立ち上がっていた少年の顔を見て、そう言った。

 

「俺はいけるぜ、出してくれ監督!」

 

 彼の顔には、研ぎ澄まされた氷のような、鋭い闘志しかない。

 

「……選手交代! アフロディに代わって、吹雪アツヤ!」

 

 長い雌伏の時を乗り越えた若き狼が、グラウンドに足を踏み入れる。

 




グラン
アフロディとの新旧ボス対決をした。

源田幸次郎
元々ジェネシスの仮想敵であった。
スーパーノヴァを止め、スペースペンギンもギリギリ凌ぐ。

アフロディ
グランと渡り合い、彼の迷いを見抜いた。
空中の激突で足を負傷。
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