暗殺者の旗を掲げよ   作:これこん

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ブラックラグーンにハマった勢いで一年ほど前に書いたものを掲載します。
ロアナプラにルークスみたいなギャング組織をねじ込みたいと思ったのが書いた理由です。
誤字等あれば教えてくださると幸いです。


とある暗殺者の一生

───目を覚ましたら、産業革命期のロンドンだった

 

 テレビを見ながら夕飯を食べて、翌日の大学に備えて23時頃に布団に入ったところまでは覚えている。

 そして次に気がついた時には身体が縮んでおり、しかも見知らぬ土地に身一つで放り出されていた。

 最初は夢だと思いもう一度寝ようと身体を横にしたのだが、固い地面の感触や何処からともなく漂う悪臭がやけにリアルだったことが俺を驚かせた。

 

 結局、もう一度寝ても目の前に広がる光景が変わることは無かった。

 少し出歩いて見れば、道を歩く人々はほぼ全員が白人で、たまにだが黒人や他の人種も見える。

 建造物は以前テレビで観た近代ヨーロッパ辺りのものらしかった。

 どうやら、ここが日本で無いことは確からしい。

 

 そのまま街を彷徨うこと数時間、俺はとても信じれなかったが、自分がタイムスリップをしたのだと理解した。

 

 

 

 タイムスリップした後の俺の生活は、それはもう酷いものだった。

 俺が目を覚ました場所は所謂貧しい人々が住む区域の一つらしく、衛生状況が最悪なのに加え、日々生き残るための殺し合いが行われている土地であった。

 一人の住人に尋ねたところこの街はロンドンであるらしく、年代は1868年。

 産業革命中、最悪の衛生環境だったことで知られる都市である。

 病気か殺人による死がごく身近にあるという、日本では考えられなかった状況にあるこの場所から早く逃げたいと思っていたが、それは叶わなかった。

 俺は貧民街の孤児の一人であり、戸籍も人権も無かった。

 そんな俺が外で暮らせる筈もなく、俺はこの掃き溜めで生きていくしか無かったのだ。

 

 日本にいた頃は特別裕福という訳では無かったが、衣食住に困る生活はしていなかった。

 それどころか大学にも行かせて貰っていたのだ。充分恵まれていたと言って良い。

 バイトに勉強、友人達との交流。

 ごく普通な日本の学生にとって、病気や暴力の蔓延るロンドンでの生活は大変厳しかった。

 それでも何とか生きていけたのは、絶対に死にたくないという気持ちのお陰だろう。

 

 人間死ぬ気になれば何でも出来る、とは誰の言葉だっただろうか。

 俺は拙い英語と死にたくないという意思、そして暴力を以てこのロンドンを生きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが当然、そんな生活が長く続く筈もない。

 ギリギリの綱渡りによって何とか命をつないでいた日々は、ある日突然崩壊した。

 

 その日は、厚く黒い雲にロンドンが覆われていた日だった。

 俺は貧民街で出来た仲間の数人と人通りの多い地区に繰り出していた。

 そこは生活環境がある程度整っており金持ちが多い。つまり俺達はスリをしに行くのだ。

 俺達が生きていくには糞みたいな労働環境の工場や炭鉱で死ぬまでボロ雑巾の様に扱われるか、他人から奪うしか無い。

 知り合いの中には相手を殺して財産全てを奪うような奴もいるが、そういう奴は大体すぐに死ぬ。

 一回か二回ならば何とかなるかもしれないが、生きていくにはそれでは全く足りない。

 流石に警察も頻繁に強盗殺人が起これば行動を起こす。

 そうなってしまえば俺達は余りにも無力だ。

 それに日本人として生きていた時の倫理観によって、それは駄目だろうという気持ちの面もあった。

 

 

 出来るだけ目立たぬよう俺達は盗みを行った。

 その日はそれなりに成果は出たし、誰かに気付かれたような感じも無かった。

 だが、その日の俺達が冒した大きな間違いは二つ。

 

 一つは、俺達のスリが被害者達から気付かれていたこと。

 もう一つは、その被害者達が血生臭い話をよく聞くギャングであったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、仕事を終えて拠点に帰って来たら何やら騒がしいことに気がついた。

 何があったのか聞いたところ、仲間の一人が見るも無惨な姿で殺されていたという。

 そこからは、あっという間だった。

 

 次の日、銃を持った連中に襲われた。

 俺は護身用に持っていた拳銃とナイフで応戦したが叶う筈もなく、腹に風穴を開けられて暗い路地裏で気絶した。

 

 どうやら連中は俺が死んだと思って帰ったらしいが、これじゃあ俺もすぐ死ぬだろう。

 思い返してみれば、いつ死んでもおかしく無い日々だった。

 これまで死ぬかと思ったことなど何度もある。

 そう考えれば、頑張った方ではないか。

 心の中で自分にそう言い聞かせる。

 

 だが、俺は諦められなかった。

 

───嫌だ、死にたくない!

 

 もう助からないと自分では理解しつつ、鉄のように重くなった身体を引きずりながら拠点を目指す。

 火で傷を焼いて止血すれば何とかなるかもしれない、と淡い期待を抱きながら。

 これまで祈ったことの無い神様にも心の中で助けてくれと願った。

 果たして、それは届いたのかもしれない。

 

「───銃声がしたから来てみれば、死にかけのガキが一人か」

 

 現れた男はシルクハットを被り、黒い衣服を身に纏った白人だった。

 彼は俺を見ると、もう一度口を開く。

 

「子供にしちゃあ良い目をしている。 どうだ、生きたいのか?」

 

 死にたくない、と俺は言おうとしたが声が出ることは無かった。

 だがどうやら意思は伝わったようだ。

 

「なら助けてやる」

 

 彼はそう言うと俺に向かって歩いてくる。そこで、俺の意識は途切れた。

 

 その日、俺は彼らに拾われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 産業革命期のロンドンを裏から実質的に支配する組織があった。

 それが、テンプル騎士団。

 何でも、俺を助けてくれた恩人───ジェイコブ=フライとその双子の姉エヴィー=フライはその組織からロンドンを解放するべく暗躍しているアサシン教団の一員らしい。

 元々ロンドンにいたアサシンは壊滅し、大きな力を持った騎士団に対抗するため彼らはルークスというギャング組織を結成、ロンドン解放のため日々暗躍しているらしい。

 

 エデンの秘宝というものを利用して世界を支配せんとするテンプル騎士団とそれを阻止するべく活動しているアサシン教団の沿革をエヴィーさんから教えて貰った俺は、彼らに自分に出来ることなら協力したいと伝えた。

 

 これはテンプル騎士団が世界を支配することを防ぐことに対しての使命感に駆られた訳ではない。

 単純に彼ら兄弟への恩を返したいからだ。

 ジェイコブさんに助けて貰えなければ俺は確実に死んでいたことだろう。

 別に彼らに協力してもしなくても、俺のこれからの人生が変わることは無いだろう。

 このまま街に戻っても、人に必要とされることの無い、いつ死ぬか分からない日々に戻るだけだ。

 それならばならば恩人達に報いようと思った。

 

 だがしかし、まだ身体がガキの俺が出来ることなど限られている。戦闘要員としては役立たずも甚だしいし、特別優れた頭脳があるわけではない。

 なので子供であることを活かして情報収集に回ったりすることが多かった。

 

 

 そんな日々が数年経った。

 ロンドンのアサシン勢力はテンプル騎士団を追い出すことに成功しており、ルークスもロンドン随一のギャング組織として名を馳せていた。

 正確な年齢は分からないが、15歳程になった俺は戦闘要員として前線に出ることも多くなり、それなりに経験を積むことが出来た。

 それとは別に、俺はアサシン教団の情報提供者としても活動していたからか、ジェイコブさんの弟子としてアサシンの修行をつけて貰った。

 

 その後数年の修行を経てアサシン見習いとなった俺はロンドン等の都市を駆け回り、時にテンプル騎士団やその他勢力との戦闘をこなしていた。

 気づけば前世の大学生であった自分の年齢は越え、人数は少ないが部下も出来た。

 過ぎていくのは、日本で生活していた頃の記憶は徐々に消え、倫理観も此方に染まって来たことを自覚する場面さえ少ない、慌ただしい日々だ。

 

 

 

 

 

 俺が生きた19世紀後半は、記憶にある一連の流れから少しもずれること無く進んでいった。

 世界各地で新兵器が競うように開発され、多くの死者を出した戦争が幾つも勃発した帝国主義の時代だ。

 20世紀に入ってもそれは変わらず、世界大戦を筆頭とし戦火が世界を覆った。

 

 

 あっという間だったなぁ、と自室の椅子に座りながら思う。

 かつての師からアサシンの技を教えられた際は20歳程だったのに、気づけば自分は白髪でシワだらけの老人だ。

 

 コンコン、と扉がノックされ一人の男が部屋に入ってくる。

 

「師よ、失礼します」

 

 入って来たのは、自分より頭一つ背の高い英国人の青年。

 20年ほど昔に仕事で訪れたとある都市で死にかけていたところを俺が拾った弟子の一人だ。

 

「騎士団の連中に外は囲まれています。 奴らはもうすぐ突入してくるでしょう」

 

 直ぐに逃げましょう、と彼は俺に言う。

 確かに、彼らに捕まれば命は無い。

 彼らは私たちを殺しに来ているのだから。

 

 

「───いや、お前が先に逃げなさい」

 

 弟子は何を言っているのだと言わんばかりの形相で詰め寄ってくる。

 まぁ、気持ちは分からなくもない。

 

「俺の足がロクに動かないことを知っているだろう。 足手まといを連れていればお前も死ぬことになるぞ」

「しかし…」

 

 数年前に脚を銃で撃たれロクに動かせ無くなってからは前線を退き、評議会に誘われはしたものの参加せず、教団の所有している住宅で余生を過ごそうと思っていたのにこのザマだ。

 何処から情報を手に入れたのかは分からないが、数十人で攻めて来やがった。

 俺が今までしてきたことを考えれば妥当な最期なのだろうが。

 

「隣街に通じる隠し通路がある。 行くぞ」

 

 ちなみに、この家には地下を通る隠し通路が用意されている。

 階段を下り地下室へ行き書斎の本棚の一つをずらすと大人一人がギリギリ通れる程の大きさの、木の板に塞がれた穴が現れる。

 これを通れば彼は無事逃げられるだろう。

 

 弟子の彼は俺が隠居したと聞き付けて遠く離れた土地から来てくれたというのに、約5年ぶりの再会がこんなことになってしまって申し訳無く思っている。

 

「わざわざ来てくれてありがとう。 無理をせず身体は大事にな」

「いえ、今までありがとうございました」

 

 隠し通路の入り口の前で別れの言葉を掛け合う。

 彼は目に涙を浮かべており、こんな自分でも大切に思ってくれていたのだと分かりありがたく思った。

 

「偉大なマスターアサシンにして導師よ、貴方の元で学べて私は幸せでした。 どうか御武運を」

「…ありがとう」

 

 別れを済ませた後、彼は穴に入り込み暗闇に消えていく。

 それを見送った俺は穴に板を被し、本棚を元の位置に戻す。これで暫くはここが通路だと気付かれない筈だ。

 

 

 俺はもう一度自室に戻り、椅子に座る。

 そして目を閉じ、今までの人生を振り返る。

 ありふれたとは言えない日々であったが、その中でも幸せはあった。

 自分なりに理不尽に虐げられる人々を救おうと努力し、その為に多くのものを失った。

 

 かつての双子の師の子は立派に育ち、弟子達も同様に大きく成長した。

 いつ死ぬか分からない故に妻は娶らず自分の血が繋がった子供はいないが彼らのお陰で日々は楽しかった。

 

 そんな思いにふけていると玄関から木材の破壊される鈍い音が聞こえた。

 どうやら扉が破壊されたようだ。

 多くの人間が家に侵入し、1分もかからず地下室へ降りてきた。

 全員が銃を装備しており、どう見たって俺に勝ち目は無い。

 

「追い詰めたぞ、老いぼれめ」

 

 そう言いうのはリーダー格の壮年の男。

 服の上からでも分かる鍛え上げられた肉体と頬の大きな切り傷は見る者に威圧感を与える。

 

「我々は散々貴様に煮え湯を飲まされてきた。 大人しく死んでくれ」

 

 そう口にして銃口を俺に向ける男。

 俺が何も手にしていないことから抵抗する気が無いと考えているのだろう。

 

 その時、天井が爆発した。

 侵入してくる時間を予想して仕掛けておいた爆弾が起動したのだ。

 いきなりのことに悲鳴をあげるテンプル騎士達。

 すかさず懐に両手を突っ込み、二丁の拳銃を目の前の人間に放つ。

 

「───ッ!!」

 

 リーダー格の男は右肩に1発受けたものの、素早く身体を投げ出して回避する。

 だが撃たれた衝撃で銃を落とした。

 これでは反撃は出来ないだろう。彼は部屋の外に何とか退避した。

 俺の放った弾丸は部屋に入って来たテンプル騎士を次々襲い、部屋にいた10名ほどの刺客は全滅した。

 

 廊下で待機していた連中も突入してくるが、俺はそれらを狙い撃ちする。

 突入は不可能だと察知したのか距離を取り俺を射殺しようとするも、準備しておいた鉄製のテーブルを倒し、それを遮蔽物にした。

 

 窓が砕け散り、壁は風穴が空く。

 屋内での銃撃戦が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の眼下には、腹から血を流して瀕死のリーダー格の男がいる。

 刺客は、彼以外全滅した。

 

「この、化け物がァ…!」

 

 俺を睨む男に、一言。

 

「眠れ、安らかに」

 

 ズドン、と眉間に一発弾を撃ち込む。彼は絶命した。

 粉々に割れた窓から外を見れば、見張りだったと思われる2人の男が中の様子を伺っているのが見えた。

 彼らは窓から俺が見ているのに気付き逃走を試みたが、俺は逃げる彼らを撃ち殺す。

 辺りにはこれ以上敵の気配は無い。

 どうやら、これで刺客は全滅したらしい。

 

 俺はフラフラと歩きながら、銃弾を何発も受けてボロボロになった椅子を立てて、それに座る。

 瞬間、バキリと音を立てて椅子は崩れ俺は部屋に倒れる。どうやら体重を支えられなかったらしい。

 

 爆発によって大きな穴の空いた天井を眺めながら、一言。

 

「…疲れた」

 

 戦闘で多くの銃弾を受けたせいで身体中から血が止まらない。あと少しで死ぬのだろう。

 思えば、この時代に来て俺の命を最初に繋いでいたのは、死にたくないという気持ちだった。

 死にたくないが為に必死に生きる術を探して来たが、今の自分は死ぬことに恐怖を覚えていない。

 

 ロンドンの隅から始まったこの人生のお陰で神経が図太くなったのかもしれない。

 先に逝った師がこの事を知れば、歳をとってボケただけだ、と言うだろうが。

 

 段々と薄れていく意識の中、随分と風通しの良くなった家の外からは聞き覚えのある声が聴こえて来た。

 この街の警察が来たのだろう。

 

 遂に身体が震えだした。

 意識が更に薄くなる。

 耳も段々と聴こえなくなる。

 

 そして遂に、全てが暗闇に包まれた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「これは酷い…」

 

 そう呟くのは、つい先程まで銃声が鳴り響いていた家を捜索していた1人の警官だ。

 この家の中では銃を装備した男達の死体が38見つかり、その内の1つはこの家の住人の者だった。

 

 家の持ち主である、老いた日本人の彼は近所からの評判は良く、良く遊び相手になっていた子供達からも慕われていた。

 以前はロンドンにおり、学校の先生だったのだと警官は彼から聞いていた。

 

───そんな彼が、どうしてこんなことに?

 

 警官の同僚は、マフィアの幹部か何かだったのだろうと予想していた。

 何故彼らは殺し合ったのか。

 生き残っている当事者がいない為、彼の疑問が晴れることは無かった。

 結果、一連の捜査によってこの一件はマフィアの抗争であったと結論付く。

 しかし不思議なことに、この家で死んでいた者達の身元が割れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

───聴き慣れた銃声で目を覚ます

 

 目を開けてみれば、自分は見知らぬ街に1人立っていた。

 何やら既視感のあるシチュエーションだが、自分の身長はかつての時のように縮んではいない。

 どうやら自分は道の真ん中で立っていたらしく、周囲には黒人に白人、アジア系から中東系まで様々な人種の人々が歩いている。

 異様なのは、彼らの悉くが犯罪者のような厳つい風貌をしており、銃を腰に下げている者も珍しくないという点だろう。

 

 そして、この土地は酷く蒸し暑い。

 周囲の暗さから現在は夜なのであろうが、早くも汗をかきはじめている。

 

 人の流れに沿って少し歩いた所に、服を売っている露天があり、そこには鏡が立て掛けてあった。

 それで現在の自分を確認して見れば、髪は黒く、顔にシワも出ていない。

 歩いても痛みが無いことから勘づいていたものの、あの襲撃によって負った傷もない。

 

 身に付けている装備は両腕のアサシンブレードと、それを隠している裾の長い黒い衣服のみだ。 

 

 道行くチンピラの様な風貌の男に声をかける。

 ここは何処だ、と。

 

 男は何言ってるんだお前、と言わんばかりの表情で俺を見た後、口を開く。

 

「───ここは世界屈指の悪徳の都、ロアナプラに決まってるだろ」

 

 

 因みに、現在は西暦1989年だとか。

 どうやら俺はまたしてもタイムスリップしたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで下さりありがとうございました
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