暗殺者の旗を掲げよ   作:これこん

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思った以上にブクマが付いたので意外でした。ありがとうございます。
とりあえず続きを書いてみました。


悪徳の都に潜む

 辺り一帯で最も高いビルに登り、そこからロアナプラを一望する。

 街の構造を頭の中に叩き込み、これからの行動をしやすくするのが目的だ。

 とりあえず、ここらの土地は大体把握できたので下に降りるとしよう。

 ビルの下に丁度良い藁山でもあれば直ぐに降りられたのだが、どうやら無いらしい。

 仕方無いので階段を使い降りていく。

 

 もう一度街に出たのだが、とりあえずこの土地の通貨を手に入れないことには始まらない。

 このロアナプラはタイの港町らしいのだが、現在街を巻き込んでの抗争中ということもあって、陸路も海路もマフィアの手によって監視されているらしく、組織の人間と話をつけなければ外へ出るのは容易では無いらしい。

 しかもこの街には現在嵐が近づいているらしく、当分船は出ないのだとか。

 

 この街に来たばかりの俺にそんなことが出来るはずもない。

 無理やり脱出するにしてもせめて護身用の拳銃位は欲しい。

 つまり、抗争が終結するまでとは言わずとも暫くこの街で生活する必要が出てきたのだ。

 

 どうしようかと思いながら歩いていると繁盛している飲み屋を見つけた。

 相変わらず客はチンピラばかりだが、皿洗いのバイトでも募集していないだろうか。

 とりあえず店主に確認してみるか。

 

 店に入るや否や客の視線を集める。

 どうやらこの街の新参者の面を確認しているようだ。

 そんな視線を特に気にすることもなく店主と思われる男の元へ歩く。

 見たところ、この店で強そうな者はロシア人の様な外見をした2人組だろうか。

 纏う雰囲気は軍人のもののようで、他の客とは一線を画している。

 今の時代を考慮すると、ソ連か何処かの軍隊にいたのだろうか。

 

 だがまぁ、彼らの事情は自分には関係の無いことなので、見た感じアジア人だと思われる店主に英語で声をかける。

 

「この店は従業員を募集していないだろうか?」

 

 返答はいかに。店主が口を開こうとしたその瞬間。

 

 

 

 

───殺気を感じる

 

 俺は店主の襟を掴み、直ぐ様カウンターの裏に飛び込んだ。

 

 店に飛び込んで来たのは銃を装備した10人以上の男達。

 彼らは店の敷居を跨ぐや否や銃を乱射した。

 

 

 

 嗅ぎ慣れた血と火薬の匂いはあっという間に店に充満した。

 カウンターの裏には俺と店主の他に先程のロシア人の二人組もいる。

 俺達がここに逃げ込んでから少しの後彼らもまた退避してきた。

 危機察知能力は中々のものだ。やはり何処かの軍隊にいたのだろう。

 俺達の頭上を何発もの弾丸が通過する。

 この分では顔を出した直後に蜂の巣だ。

 

「やはり嗅ぎ付けて来やがったか!」

 

 そう恨めしそうに吐き捨てるロシア人の片割れは男は腕を撃ち抜かれており、出血が激しい。

 もう1人の方は目に見える外傷は無いが彼1人では多勢に無勢も良いところだろう。

 

 銃声の中、ここをどうやって切り抜けるか思考を巡らせている時だった。

 

「奴等はたった3人だ! ロシア人2人にアジア人が1人、裏切り者を殺せ!!」

 

 3人という言葉に嫌な予感がする。店主は流石に勘違いされないだろうから、どうやら俺も彼らの仲間に入れられているらしい。

 ロシア人の彼らを見てみれば、何やら気の毒なモノを見る目で俺を見ている。

 

「…そういうことだ。 生きたかったら俺達に加勢してくれ」

 

 このまま仲間ではないと言って外に出ても奴等は信じてはくれないだろう。

 どうやらやるべきことは決まったようだ。

 

「銃を借りるぞ」

 

 既に手負いの男から拳銃と弾を奪い取る。

 棚に置いてある酒瓶の反射で敵の様子を確認しながら機会を伺う。

 そして、床に転がっていた椅子をカウンターの上に投げるとそれを何発もの銃弾が襲った。

 そのタイミングでカウンターから身を乗りだし、奴等に肉薄しながら拳銃を連射。

 まさか弾幕の中出てくるとは思わなかったのだろう。突然のことに焦っている彼らに弾を撃ち終え空になった拳銃を投げつけた後、両腕のアサシンブレードを起動する。

 

 銃は距離さえ詰めればこちらのものだ。

 乱戦になり、俺は無防備な喉を刃で掻き切りながら仕留めていく。

 カウンターからの援護射撃もあり、店を襲った連中は程無くして全滅した。

 刃に付いた血をマフィアの衣服で拭き取った後に、彼らにしゃがみ込み敬意を捧げる。

 

「安らかに眠れ」

 

 目を見開いたままの者の瞼を閉じさせる。

 死者に対する最低限の心得だ。

 

 するとロシア人の2人組が俺の元に寄ってくる。

 店主を含めてこの店の生存者は俺達4人のみらしい。

 

「お前がいなければ危ない所だった。 感謝する」

 

 見ない顔だがこの街に来て直ぐか、とも尋ねられた。

 それは遠回しに、自分達と敵対する組織の人間では無いかという確認の意味もあるのだろう。

 彼の目は、俺が嘘をついていないかどんな仕草も見逃さんとしている。

 

「あぁ、そうだ」

「随分と腕が立つようだが、ソロか?」

「まぁそういうことになる」

 

 その後少しだけ言葉を交わした後、2人組は人目に付かぬよう帰っていった。

 辺りを見渡せば、至る所が破壊されており営業が出来るような状態では無い。

 もし可能なら金を貯めるためこの店で働こうかと思っていたのに、そんなことは言っていられる状況では無くなった。

 

 外を見渡せば、銃声を聴いたギャラリーが集まり始めている。

 俺も早めに撤収することにした。

 

 そんな時、店主が俺の腕をがっちり掴み声をかける。

 

「採用」

 

 彼の目は、掘り出し物の骨董品を見つけた時のような、そんな目をしていた。

 

 そして店の修理が終わった数ヶ月後。

 そんな経緯で、俺は【BAR イエローフラッグ】のホール担当として雇われた。

 店主の名前はバオさんと言うらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 悪徳の都ロアナプラでとある噂が流れた。

 それは、イエローフラッグの店主バオが用心棒を雇ったというものであった。

 ロアナプラには幾つも酒場が有るが、イエローフラッグ程破壊と再建を繰り返している酒場は無いだろう。

 何故か他の酒場よりも戦場となる場合が多く、その度に半壊以上の被害を被ることもざらにあるこの店の常連達はその情報を聞いてもさほど驚かなかった。

 

 だが、様々な組織が日夜争っているこのロアナプラの住人には聞き捨てならない事がある。

 それは、その用心棒が強者だと言われているからだ。

 

 先月のイエローフラッグが半壊した戦闘の際、巻き込まれる形で戦闘に参加したその東洋の男はほぼ1人でロシアンマフィアに送られた刺客を制圧したのだとか。

 一部始終を見ていた1人のギャラリーがそう説明していたが、信じるものは殆どいなかったものの、彼を見た一定以上の実力を持つ悪党達は口を揃えて言うらしい。

 

───あれは化け物だと

 

 後にロアナプラの街で最恐の暗殺者と呼ばれることになる1人の男。

 狙った獲物は決して逃がさず、地の果てまで追いかけて地獄への片道切符を渡す死の番人。

 

 その男の名前は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 この街に来て3ヶ月程経ったある日、俺はこの時代の教団がどうなっているのか探ってみた。

 すると、世界的にアサシン勢力は劣勢であり、テンプル騎士団の勢いは止まらないようだ。

 ちなみにロンドンにあったルークスは現在様々な組織に枝分かれしており、今も尚教団の協力者らしい。

 

 アサシンが歴史の表舞台に出たことは十字軍時代のマシャフを筆頭に度々あったが、騎士団は時代によってその在り方を変化させながら常に歴史に躍り出る。

 ある時は国の議会、またある時は宗教騎士団、そして資本企業。

 現在騎士団はアブスターゴという多国籍企業を隠れ蓑にしながら活動を続けているらしい。

 

 この時代の東南アジアにも幾つか教団支部が存在するが、かつての勢力は今や衰えかけている。

 

 例に漏れずこのロアナプラにも騎士団由来の組織が幾つか存在する。

 彼らは俺が教団の人間だと気づいていないらしい。

 当然だ、それを知っているのは俺のみなのだから。

 

 俺はこの後アサシンとして彼らと闘うのか、それともこのままこの街で過ごすのか。

 もし騎士団と対立するのなら組織が力を持たなければならない。

 世界を秘法の力で支配しようとする彼らと対立する時が来るのならば、きっとその時は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がこの街に来て1年程経った。

 最初は直ぐに抜け出すと考えていたのだが、色々な原因が重なったことで結局この街を拠点に活動することになっている。

 

 住めば都という言葉があるが、この街もその言葉に漏れない。

 この街では力のあるものが正義であり、逆に言えば力さえあれば生活が保証される。

 まるでかつてのロンドンのような街だ。

 

 まだマフィア同士の血生臭い抗争は続いているが、別に矢面に立たないように立ち回り、流れ弾に注意して過ごせば問題ない。

 俺はイエローフラッグで働きつつこの地に貿易会社を設立し、マフィアの連中から目を付けられない分野の事業で細々と暮らしている。

 ちなみに会社の名前はフライ商会、ロンドンの双子の師匠のファミリーネームを使用した。

 

 

 更に、俺に2人部下が出来た。

 それは、あの日イエローフラッグで共闘したロシア人のペアだ。

 何でも元々ソ連軍に所属していた彼らは捕虜の扱いを巡って上官と対立、軍を除隊しとあるロシアンマフィアの一員になったらしいがそこで仕事を失敗したためこの街に逃げてきたという。

 あの日イエローフラッグを襲った連中は面子を潰されたことに腹を立てたマフィアの追手らしい。

 

 この街にもホテル・モスクワというロシアンマフィアがいるため俺が彼らを受け入れたら目を付けられるのではないかと思ったが、それとは全く関係の無い組織なのだとか。

 俺は長年様々な人間を見てきたため嘘をついている奴が分かるのだが、彼らは確かに本当のことを俺に喋っていた。

 

 彼らはソ連軍にいたというだけあって優秀な戦士だが、そうであっても仕事を失敗することなど生きていればあるだろう。

 そんな経緯でフライ商会は社員3人で今日も業務に励んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪徳の都ロアナプラでも特に治安の悪い地区の1つに、彼女はいた。

 信じていた父親に裏切られ、無理やりその身を汚され遂には社会の底辺にまで転がり落ちた米国と中国の混血の少女。

 

 生きていくために犯罪に手を染め、幼くして幾人もの命を奪うことを受け入れた彼女は自身が生まれたニューヨークを旅立ち、世界中から悪人の集まるこの吹きだまりに辿り着いた。

 だからといって、彼女の生活が変わることは無かったが。

 

 銃で、刃物で、時には拳で。

 暴力の支配するこの街で彼女は日々を生き抜いていた。

 

 ただ、今日は相手が悪かった。

 道の端で血だらけで倒れている彼女は、何故こうなったのかを思い返す。

 ターゲットの背後から頭に拳銃を突き付けた所までは狙い通りだった。

 問題は、相手が複数であることに気づかなかったことだ。

 あっという間に囲まれ、路地裏に連れていかれてリンチされた。

 まだ成長途中で脆い少女の骨は何ヵ所も折れ、もしかしたら内臓にまでダメージが届いているかもしれない。

 

 段々と意識が遠退く彼女の頭の中に有ったのは、この世への憎悪。

 何故自分がこんな目に遭わなければならないのか。

 以前覗き込んだテレビのブラウン管の向こう側には、両親と幸せそうに遊園地で遊ぶ同年代の少女がいた。

 年相応の輝かしい笑顔は、彼女とは似ても似つかないものである。

 自分は何処で間違えたのだろう。

 答えてくれる人は誰もいない。

 

 

 

 現れたのは1人の東洋人の男だった。

 大男と呼べるほどの体格はしておらず、この街の住人にしてはいささか顔の厳つさが足りない二十代と思われる男。

 半袖ハーフパンツの服装で肌の多くをさらしているにも関わらずタトゥーは見えなかった。

 そんな男は少女を見下ろしながら一言。

 

「…似ている」

 

 少女は死にかけながらもその男の眼が闇を掬い取ったかの様に暗く光を帯びていないことに気づく。

 確かに、男はこの街の人間らしい。

 

 

「その眼はまだ生きることを諦めていないだろう。 死にたくないのならばどうだ、一緒に来るか?」

 

 手を差し出す男。

 その時少女は迷わずそれに手を伸ばした。

 

 そこで一旦、彼女の意識は途切れる。

 

   

 

 




読んで下さりありがとうございます。
誤字脱字等ありましたら教えてくださると幸いです。
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