勇者や賢者が生まれるハジマリノ村。
 この村ではレアスキルを持ちながら、目立たず地味に過ごす青年がいた。

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さあ、読むんだ。


君だけのレアスキル

「ここは ハジマリノ村 です」

 

 村の入口付近でそう言うだけの仕事。

 誰でも出来る仕事。

 看板にでも取って代わられておかしくない仕事。

 

 給与の少ない仕事。

 他者から敬意を持たれない仕事。

 そんな仕事はゴメンだった。

 

 そんな仕事をしている男を見た、ムサイ・ゼンブダーメは将来はああなるまいと強く思っていた。

 ムサイの両親は、首都の町と比べれば大したことがないにせよ、辺境のハジマリノ村の中では、平均よりは裕福であった。

 勿論、ハジマリノ村の中にもムサイ家よりも裕福な家庭はある。

 例えばムサイの同級生のパウワ・アスリートや、ガクシャーナ・カシコーサやエリト・ソンチョーは、ムサイよりも裕福な暮らしをしている。

 

 パウワは両親譲りの優秀な肉体を持ち、スポーツ全般において能力が高かった。

 将来は王宮戦士として首都のミャーコに就職するつもりらしい。

 ガクシャーナは村の私塾で一番賢く一番美少女だった。

 彼女もまた、ミャーコのアカデミーを目指すらしい。

 エリトは全般的に能力が高かった。

 彼は村長を継ぐか、ミャーコの官僚を目指すか迷っているようだった。

 ムサイの環境は悪いものではなかった。

 村の道場と私塾の両方に通わせて貰える時点で、決して貧困とは言えなかった。

 しかし、それだけやっても学力は村の中で上の下止まり。

 武術に関しては、同級生の中では下から二番目であった。

 

 彼は基本的にあらゆる才能がない。

 努力で能力を高める事は出来るが、地力と成長率は低いのだ。

 しかし、彼には唯一誰よりも優れた才能があった。

 それは、『やらない理由を探す才能レベル5』。

 このスキルをレベル2や3で持つ者は多くいたが、彼の様にレベル5で持っているものはいなかった。

 彼だけの固有スキルといってもいい。

 

 何をやっても、同程度の努力をする他者に負けてしまう彼であったが、『やらない理由を探す』事に関してだけは、周囲から絶賛された。

 

 ムサイは何をやっても駄目な奴なのだ。

 何かするたびに失敗するのだ。

 遅かったり失敗したのは誰かと調べてみれば、たいていムサイか他の2,3人なのだ。

 ムサイは周りにバカにされる側の人間だったのだ。

 

 だから、ムサイに複雑で困難な事を任せられないのだ。

 だから、ムサイに何かのリーダーを任せられないのだ。

 

 故に、そんなムサイが『やらない理由を探す』スキルを持っている事は、周囲にとっても良いことだった。

 能力とスキルが見事に一致していたのだ!!

 

 彼は武術の自主練習も、勉強の自学研鑽もしなかった。

 それは、やったところでパウワやガクシャーナの様にはいかないから。

 コスパが悪いからと言ってやらなかった。

 そしていずれそれらについていけなくなった事に嫌気が差して止めた。

 武術については10歳の頃に止めた。

 私塾については、10歳の頃までは頭が良い方であった。

 それこそナンバー3程の頭の良さであったのに、授業が難しくなる14歳位の頃には、ムサイはついていけなくなり、18歳の頃に私塾もやめてしまった。

 

 

 時が経ち、パウワとガクシャーナとエリトはミャーコへと旅立った。

 ムサイも王宮戦士やアカデミーの試験を受けたが落ちてしまった。

 時間を使い切るほど本気でやれば、王宮戦士は体力とセンスと容姿が求められるので絶対に無理でも、アカデミーにはもしかしたらギリギリで受かったかも知れなかったが、彼がそうしなかったからだ。

 

 何故なら、落ちるかもしれない試験の為に青春を全部費やすのはコスパが悪いから。

 しかし、彼が青春で得たものは無かったし、結局アカデミーは受験だけはした。

 …全く問題が解けなくて途中退席したが。

 一応、彼は下級兵士の仕事は受かったが、ブラックな労働待遇と聞いて辞退した。

 

 しかし、彼は今までに一度も悪さを働いたことが無い事だけは評価されて、周囲のツテで仕事を紹介してもらった。

 

 自分の才能とは一切関係の無い仕事だが、それは仕方ない。

 自分の希望とは一切関係の無い仕事だが、それは仕方ない。

 

 前任者から教わった通り、彼はそれ以降ずっとその仕事をしている。

 ムサイはハジマリノ村の入口で、今日も彼は来訪者に伝えるのだ。

 

「ここは ハジマリノ村 です」


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