おんなのこのなまえは、バーゲストちゃん。
どうやらおなかがすいているようです。
「ほら、なかないで。ぼくのかおをおたべ」
アンパンマンは、かおのアンパンをすこしちぎってたべさせてあげました。
おいしい!
パンをたべたバーゲストちゃんは、たちまちえがおになりました。
よかったね、バーゲストちゃん!
逆転する正義。変えられない「在り方」。
※本小説には、「Fate/Grand Order 第2部 第6章 Lostbelt No.6 『妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻』崩壊編」及び2021/8/11実装サーヴァントまでのマテリアルのネタバレが含まれます。
ご笑読の際にはご注意願います。
追記
2021/8/11 カーテンコールを追加しました。
──
汎人類史ブリテンの常識は、妖精國ブリテンでは通用しない。
幻想から生まれた妖精にとって、食事という行為は元来不要なもので。妖精國で行われるほぼ全ての行為は、人間文化の模倣でしかなかった。
彼らが生を終えるのは、飢えた果てではなく、己の「在り方」、「生まれた目的」を見失ったときである。
故に、真の意味において妖精國において食事を必要としているのは、人間を除けば「生まれた目的」に食べることが組み込まれている妖精だけだ。
「うぅ……あぁ……うう──」
一匹の獣が、慟哭の声をあげながら獲物を捕食する。
獣の名はバーゲスト。妖精食いのバーゲスト。
「強きものを捕食し、より優れた野性になる」ことを「生まれた目的」とする妖精、いずれブリテンに厄災をもたらす悪性因子だ。
彼女は獲物を捕食するとき、いつも大粒の涙を流した。
不幸だったのは、彼女が妖精らしからぬ性質を持っていたことだろうか。
中立中庸、無邪気で享楽的な多くの妖精とは違い、彼女は汎人類史でいうところの「善性」を生まれながらにして備えていた。
不幸だったのは、彼女の属する牙の氏族に意識改革が施されたことだろうか。
かつては粗野粗暴、獣性の限りを尽くしていた牙の氏族であったが、女王歴800年の虐殺、女王歴1000年の代替わりを越えて、氏族長は氏族の方針を転換させた。
肉食偏重から菜食主義に。爪と牙を用いた捕食からテーブルマナーに則った食事へ。
多くの牙の氏族はその意図を理解しなかった。バーゲストも同意しかねる点もあったが、それでも礼節を身につけた。
不幸だったのは、彼女が妖精の中でも並外れて強力だったことだろうか。
ヒトに近い姿で生まれ、モース戦役の呪いすら疑われた彼女の強さは卑王を騙るものでさえ目をつけるほどで。
本気になった彼女を止められるのは、妖精國女王など一握りだけだった。
不幸だったのは、
種族として同族を重んじ、時には家畜であるはずの人間をも重んじ。
それでも、妖精らしい衝動に身を任せてしまうことは避けられなかった。
だからこそ、「愛するものを食べる」ことが妖精としての在り方だった彼女は、善性と本能の狭間で苦悩することとなる。死ぬまで。
バーゲストは、獲物の魔力を食いちぎり、血肉を啜る。
物言わぬそれは、つい先程まで彼女が愛していたものだった。
男も、女も、老いも、若いも、妖精も、人間も。
強きもの、彼女が愛するに足ると感じたもの。
それら全てをバーゲストは喰い散らかしてきた。
食べたくないのに。食べたくないのに。
「ごめんなさい。──嗚呼、美味しい……」
たまらなく美味しく、最高に生きている実感を得られたので、泣きながら彼女は
だから、俺が惚れ薬を使ったことだって仕方ないこと、そうだろう?
これは、バーゲストの
「おまえの名は何という」
「はっ、バーゲストであります」
「──では問おう、バーゲスト。おまえは何故妖精を護ろうとする」
バーゲストが生まれて数十年。
生まれた時より一際強かったバーゲスト。成長すれば、亜鈴返りの氏族長とその好敵手を除けば、もはや牙の氏族にも並ぶもの無し。
モースとの戦いで妖精を護ることで頭角を表したバーゲストは、ついに女王陛下の目にも止まることとなる。
絢爛豪華なキャメロット城。
妖精奸吏どもに囲まれた中でバーゲストはモルガンに謁見することとなった。
女王陛下の問いかけに、バーゲストは己が正義を吐露する。
「──私は『弱肉強食』を是としております。強きものはより強きものの肉となり、弱きものには食らう価値無し。なれば、モースと戦えぬ弱き妖精たちは、我々が護る必要があると愚考いたします」
きぃきぃ、きぃきぃ。
途端、溢れ漏れる嗤い声。
ヒト擬きの黒犬がよく言うよ。
やだ、怖い、わたしたちも食べられちゃうかもね。
えー、意味わかんない。それって面白いの?
きぃきぃ、きぃきぃ。
失笑、嘲笑、苦笑、冷笑。
周りの妖精たちが嗤う中、モルガンはバーゲストの宣誓を切って捨てた。
「くだらんな。ああ、くだらん。妖精にそんな価値はありはしない。己が在り方を捻じ曲げてまでやることではなかろうよ。愚劣極まりない」
モルガンはバーゲストを視て、続けた。
「……だが、いいだろう。好きにするといい。
──ウッドワス! この娘を私の近衛に任ずる!」
時は流れて女王歴1800年。100年に一度の厄災の年。
鏡の氏族によれば、今年は「土地食いの厄災」が訪れるとのこと。
「出陣する。私の後に続け!」
厄災襲来の知らせを受けて、玉座より女王モルガンが飛翔する。女王のみに杖を執らせて何が近衛か! バーゲストおよび配下の妖精たちは彼女の後を追ってキャメロットを打って出た。
おいおい、モルガンが悲鳴を上げた話はカットかい?
うじゃうじゃ、うじゃうじゃ。
平原についたキャメロット一行が目にしたのは、底が見えないほどに土地を埋め尽くすモースの群れ! 群れ! 群れ!
芋虫、毛虫がうじゃうじゃ、うじゃうじゃとひしめき合っている。
彼らが持つのは、触れるだけで心身を毒するモース毒。バーゲストをはじめとして、ほとんどの牙の氏族は接近戦を主とする。
立ち回りすら困難なほどに蠢く蟲の群れは、あまりにも脅威だった。
たたらを踏む近衛に壕を煮やしたのか、上空よりモルガンが詠唱を始めた。
一言、二言、三言、四言、五言……。
現代の汎人類史において、
黄昏の空が蒼翠に塗り替えられていき──
「慈悲だ。頭を垂れよ。恐怖はない、希望もない、ただ罪人のように死ね。何人も──通るに能わず!
──ひかりが走り、おとが消えた。
幾多もの光柱が天より降り注ぎ、着弾した側から魔力爆発を起こす。
大半のモースは身じろぎすらできず消滅し、一部の超大型モースのみが被害を物語った。
地を這う毛虫は砕かれ、穿たれ、刻まれ、潰され。
爆発はモースの層を掘り起こし、体液と肉片──モースの残留魔力だ──があたりに飛び散る。高域まで巻き上げられたそれを、モルガンは悠々と旋回し、回避した。
平原に埋め尽くしていた毛虫型モース、実に七割弱! それだけの数をたった一度の魔術行使で消失させた魔術師は、無表情で地に降り立ち、城へと踵を返した。
「もう無理。帰る。バーゲスト、あとは任せます」
さしものモルガン陛下と言えども、流石に連発はできないか。だったら大したことないね!
頭の足らぬ妖精はそう嘯いたが、バーゲストをはじめとする、ごくごく、ほんの一部の妖精はそうは考えなかった。
たった一度しか撃てずとも、あれだけの破壊力。街を、都市を、氏族を潰して余りある。それを厄災に対して向けた。彼女が妖精國の女王であることに我々はもう少し感謝すべきではないか?
いや、そもそも、顔色ひとつ変えなかったあのご様子、実は全然疲れてなんて居ないのでは?
残念! 想定が甘いよバーゲスト。玉座に座した女王なら、モースどころかその元凶だって吹っ飛ばせるさ。そのせいで、俺はあんなに苦労したんだよ。
それから、表情が変わらなかったのは疲労がなかったからだって? それも間違い!
彼女は虫が大嫌いでね、奴らの体液がかかりそうになったことで、表情筋の許容量をこえたんじゃないかな?
モルガンが城に引きこもった後の話。
戦争に非協力的だったファウル・ウェーザーという名の妖精を捕食したバーゲストは、新たに獲得した堅牢なる力を用いて各地のモースを潰して回った。もとより数と接触事故だけが脅威の毛虫型。女王が数を間引いて、防御を固めた牙の氏族の前ではさしたる障害ではない。その上、「妖精騎士ガウェイン」の名を着名して遠距離攻撃の手段も得たバーゲストにとっては、文字通り蟲にも等しい。面白いように焼き払えた。
そうして、「土地食いの厄災」を退け、女王モルガンの傍に控えること10年、20年、50年。
当初は物言わぬ彫刻として振る舞っていた
初めに言葉を投げかけてきたのは女王陛下の方からだったと思う。それから先、官吏も近衛もいない二人きりの時に、彼女たちはちょくちょくと話をしていた。
そんなある日のこと。
ガウェインは長年の疑問を、この日ついにぶつけてみることにした。
「──陛下、質問させていただいてもよろしいでしょうか」
「なんだ、ガウェイン卿。言ってみるがいい。官吏の妖精どもならいざ知らず、おまえなら答えてやってもいい。限度はあるがな」
「──ありがとうございます。それでは恐れながら……何故、私は『ガウェイン卿』の名を着名したのでしょうか」
じろり。
モルガンはガウェインをじっと見つめる。
「……何を突然──ああ、なるほど、
これだ。時折、女王は会話をすっ飛ばして、核心に迫る時がある。心を読んでいるのではないかのようなその先読み、ガウェインは女王の慧眼に感服する。
汎人類史め、忌々しいものを取り替えてくれる……。
そんなガウェインの内心をよそに、モルガンは二、三ぶつくさと呟き、言葉を続けた。
「──それで、どうだった」
「……は?」
「どうだった、と聞いている。ガウェイン卿。『アーサー王伝説』、だったか。その本の『私』はどうだった?」
思わず言葉を選んでしまうガウェイン。そんな彼女を見て、モルガンはニヤリと笑って、
「淫蕩、残忍、自分勝手……そんなところだろう?」
そう嘯いた。
思わずあわあわと慌ててしまうガウェイン。
そんな彼女を見て、モルガンはくすりと笑って、ひらひらと手を振った。
「よいよい、そう焦るな、ガウェイン卿。粗相をしても良い、とは言わぬが、おまえのような妖精は私は嫌いじゃない。
──まぁ、なんだ。その本はある種正しい。確かに私の本質は、淫蕩で、残忍で、自分勝手だ。もし何か一つでも違ったら、そちらの『私』のように振舞ったかもしれぬな。
今の私? もう、飽きたよ。
ブリテンを、私の妖精國を護れれば、もうそれでなんでも良い」
話を戻そうか。
「それで、何故おまえに『ガウェイン』の名を与えたか、だったか。
何、なんの意味もない、ただの戯れよ。
猛犬には首輪をつけるものだが、私はもう獲物を喰らうだけの犬を飼うつもりはない。
『ガウェイン』は大層立派な騎士だそうだな。アルトリア──アーサー王に仕えた忠節の騎士。
私の
それはガウェインを馬鹿にするようでいて。
どこか温かみを感じさせた。
──ああ、この御方は厳しくも優しい妖精なのだ。
「妖精國を護る」という女王の正義に、ガウェインが同調したいと思った瞬間だった。
「──何? 『ガウェイン』は『モルガン』の息子でしたが、妖精の女王にも子供を産む『機能』はあるのですか、だと……?
……そう、いいでしょう。ガウェイン卿、私は限度はあると言ったはずです。足元で許しを請いなさい」
妖精騎士トリスタンという女王の後継者が出来るまで、彼女たちはそんな軽口を叩くこともあった。
そんな春の日の思い出。
まったくもって、同意だね!
モルガンが真に冷徹な圧政者だったら、妖精國の治世に隙はなかったよ。うん、保証する。「とるに足らない小さな虫」としては、その甘さは噛みやすくて助かった!
あの
──女王は変わってしまわれた。
あの思い出から100年が経ち。
女王とガウェインの関係は随分と変わってしまった。
妖精騎士トリスタンが着名してからというもの、女王は今までより一層、妖精に対し苛烈に接し始めた。
女王が令呪で徴収する「存在税」も、昔は妖精が干上がるほどではなかった。今は違う。下級妖精が死のうとも、モースになろうとも、お構いなしに税を取り立てる。
王の氏族を筆頭に不満はたまるばかり。それでも女王は気にしない。その気になればいつでも潰せる、と言わんばかりに。
ガウェインと女王が二人きりで話したのも、ここ50年はない。彼女の周りには後継者たる娘がいて、最近は夫を名乗る魔術師まで現れた。べったりと張り付く彼らを差し置いて、ガウェインが話しかける機会などありはしない。
それでも、変わらないものもある。
ガウェインは今も妖精騎士ガウェインであり、モルガン陛下の忠節の騎士だった。
これは、ガウェインの
「警備の隙をついての襲撃とはな。小賢しい智慧だけは回る」
女王の所有する財産、人間牧場を円卓軍が襲撃した。
矮小! 貧弱!
名前に怯え剣を構えもしない軟弱者に、語る言葉などなし。
だが、その中に、毛色の違う人間と妖精がそれぞれ一人と三翅。
彼ら彼女らは怯懦の心を握り潰し、震える脚を統率して立っていた。
なるほど。あれが「汎人類史」とやらの侵略者か。いい目をしている。
単純なスペックは先程の反逆者にも劣るが、見どころはある。
これで強くさえあれば、ガウェインの
とはいえ、侵略者は侵略者。妖精國流で
「私の名はガウェイン! 妖精円卓の一人、ブリテンを守護するもの!
──陛下より与えられたこの名で、貴様らを蹂躙する!」
黒角、抜刀。
真っ向から粉砕し、制圧を始めよう。
あーあ。ここでバーゲストがカルデアを削いでおけば、俺が負けることもなかったろうに。
……だが、そうすると巡礼は失敗し、モルガンは倒れず、か。
俺も妖精らしく頭空っぽに振る舞いたかったよ。黒幕を羽織るのも大変だ、そうは思わない?
「──取り逃しましたか」
一人のサーヴァントに足止めされたことにより、汎人類史のマスターは逃げおおせた。
部下に追走を命じたが、正直無駄足だろう。
聞こえた嘶きは妖精馬のものだ。走ることが「在り方」の妖精馬にはそうそう追いつけまい。
牙か、王か、円卓か、それ以外か。
女王に反旗を翻す可能性のある不穏分子は、今の妖精國にはあまりにも多すぎた。
ガウェインは思考を打ち切る。
そうして振り返るのは直近の戦い。
『私は貴女がたの事情を知り得ず、また貴女がたの正義に関心はありません。
私は私の愛する者のために命を使う。このように、誰よりも冷酷に』
ガウェインは、妖弦を使ったサーヴァント──人間を思い出す。
人間牧場全ての建築物に糸を繋げ、全ての重量をガウェインに集中させる幻奏の矢。
「巨大化して黒角を叩きつける」などという技とも言えぬ力任せとは違う、まさしく超絶技巧。
……とはいえ、種族が違う。出力が違う。
どんなに技巧を凝らそうとも、サーヴァントという位階に達そうとも、人間という劣等種が妖精に勝ることなどありはしない。
……そう頭では理解しても、ガウェインの心には強く印象に残った。今まで潰したどんなモースよりも、どんな妖精よりも。
軟弱といえば軟弱だった。
貧弱といえば貧弱だった。
──だが、そこには意志があった。主君を護ろうとする、身命を賭した強い意志があった。
──だが、そこには歴史があった。たった一度の糸を通すための無窮の修練、無限の積み重ね。技術の歴史があった。
──だが、そこには人間があった。享楽的で、日和見で、
この戦いではガウェインが勝利を収めたが、それはあくまでこの戦いに過ぎない。
一対一で弓兵と白兵戦を演じた時点で既に圧倒的に有利だったのだ。
剣に槍に盾、前衛が揃えば結果は逆だったかもしれない。
あの
それでも──
──あのような人間こそが、『騎士』と呼ばれるのだろうな。
ところで、みんなは
見たい? 見たくない? もう見た? プレイ済み? ふむふむ。
見たい人には悪いけど。残念ながら、
さあ、悲劇の幕をぶち上げろ!
女王が『大厄災』で妖精もろとも汎人類史を滅ぼそうとしていることを知って。
汎人類史の『異邦の魔術師』、カルデアが少なくとも今は妖精國を、妖精を護ろうとしていることを知って。
女王を謀殺したその角で、『大厄災』からキャメロットの民を護ると嘯いて失敗し。
そして、そして──。
間違いだった! 間違いだった!
妖精に護る価値なんてなかった!
私は初めから、全てを間違えていた!
はじめから、この島には正義など何もなかった。
この邪悪な生き物を。一匹残らず殺さなくては──!
さあ、ころせ! さあ、ころせ!
泣き声をきくのはたのしいな! 鳴き声をきくのもたのしいな! でもやっぱり泣き声のほうがたのしいな! だってそのほうが「人間らしい」からね!
領地・マンチェスターに戻ったバーゲストが目にしたのは、人間で
弁明を聞こうとすれば、奴等は
「なにって、領主サマのマネゴトさ! ボクたちみんな知ってるからね!
毎日とっても楽しそう! ボクらもマネをしただけさ!」
封印した記憶が開く。
それは、彼女の愛した人の記憶。
強くもなく、
そんな彼、花を慈しむ彼を、後ろから捕食した黒犬が──。
「契約をしよう、バーゲスト。君が呪いを受けるには、まだ少し刻が早い。
この記憶にフタをしてあげよう。君の心の中で、いつまでも彼が生きていられるように」
つまり、なんだ──?
私は彼を、アドニスを。自分で食っておいて、その
強くなるため。そんな最低限の言い訳さえ使えない。
なんたる醜悪、なんたる無様!
一体全体、どの面下げて騎士を名乗っていた!
愛するものを食料としてみる。
そんなのただの──
妖精にとっての「在り方」の重要性は、今更語る必要もない。
そして、「在り方」と名前には密接な関係がある。
名前を忘れた妖精は、「在り方」を忘れて存在を保てないように。
名前──自己認識を歪めた妖精の「在り方」は醜く歪む。
「そんなのただの──獣じゃないか」
バーゲストと名乗っていた妖精は、「獣の厄災」へと姿を変じた。
随分と大きくなった。
もっと大きくなろう。
そのために、雷雲を食べよう。
もっともっと、大きくなろう。
ブリテン島の妖精を皆殺しにするために。
「獣の厄災」、その「在り方」は「妖精の根絶」。
かつて明晰を誇った思考力。そんなものは獣には必要ない。「在り方」の分を残して黒犬にでも食わせてしまった。
かつて磨き上げた戦闘技術。そんなものは獣には必要ない。獣としての機能を残して黒犬にでも食わせてしまった。
かつて志した正義。そんなものは獣には必要ない。終末装置は余分なものを全部黒犬にでも食わせてしまった。
かつて『彼女』から貰った
「わたしが、止めないと……!」
「獣の厄災」の前に、何かが立ち塞がる。
妖精のような人間と、それを護る二つの影法師。
よく匂いを嗅ぎ分ければ、影法師には魔力の糸がついている。
「獣の厄災」は妖精もどきを足で払い、影法師を捕食した。
弱肉強食。より強く、より強くなるために。
「まだ……倒れません!」
すぐに妖精もどきは立ち上がってくる。鬱陶しい。
「『厄災』を打ち祓い!
ブリテンを救う、円卓の一人です!」
「行くぞ、円卓の同胞よ!
盾の騎士の道を、我々で切り開く!」
「おう、────参る!」
妖精もどきが鳴き声をあげると、妖精もどきが三つに増えた。鬱陶しい。
「お二人とも、ありがとうございます!」
鬱陶しい。
「どうか、私に彼女を倒す力を……いえ、救う力を、お与えください!」
鬱陶しい! ブリテンに、妖精に救う価値など、ありはしない!
「彼女の名はバーゲスト。
このブリテンを護り続けた忠節の騎士!」
──おまえの名はなんという。
──はっ、バーゲストと申します。
──ブリテンを、私の妖精國を護れれば、もうそれでなんでも良い。
── 私の
「────────────!!」
獣は叫ぶ。
名前を思い出したことで、「獣の厄災」ではすでになく。
「在り方」が変わったことで、妖精バーゲストではすでになく。
主君への忠節を裏切った彼女は、妖精円卓の騎士ガウェインでは、いいや、もはや騎士ですらありはしない。
「黒き厄災。妖精を喰らう獣の頭よ。
円卓に名を連ねたものとして──ここで、その行進を食い止めます!!」
「厄災」としても妖精としても騎士としても不完全な
つぎはぎだらけの魔犬バーゲストは、もう帰れない春の記憶を思い出して、遠吠えを上げた。
炎を纏った魔犬に対し、円卓の騎士は恐れずに突っ込んでくる。
先ほどと同じように足で蹴散らそうとするが、「太陽の騎士」と「湖の騎士」が■剣を振るって斬り払う。
ならば、魔力を喰らい尽くしてやろう。大きく口を開いた魔犬だが、「盾の騎士」がラウンドシールドを構えると、白亜の守りが広がり魔犬の捕食を阻害する。
それなら「盾の騎士」を喰らってやろう。そう思い、「盾の騎士」の元へ身体を向ける魔犬だが、その駆動が突如静止する。
目を向ければ、体に纏わりつく妖弦の糸。「盾の騎士」の後方に、「哀しみの騎士」の影法師が控えていた。だが、魔犬の身体からは炎が吹き出していた、本来ならこの程度の糸、溶け落ちるはず──?
魔犬の本能が抱いた疑問は、冷たい水で解き明かされる。
見れば、「盾の騎士」の後ろにもう一つ影法師があった。
「好機!」
動きが封じられた魔犬を見て、円卓が動く。
「──この剣は太陽の現身! あらゆる不浄を清める焔の陽炎!」
「太陽の騎士」が剣を上空に投げ放つ。
それはクルクルと輪転し、獣の厄災の力の源たる雷雲を斬り散らした。
まずい。魔犬は直感した。
あれは撃たせてはならない。あれは私を終わらせる一撃だ。
身体は動かない。ならばどうする?
──これまでに喰らった雷雲を解放しよう。
魔犬は大きく口を開け、雷光を吐き出した。狙いは今、剣を持たない「太陽の騎士」!
迫り来る電熱に、「太陽の騎士」は身じろぎもしない。諦めたのか? いいや、違う。
「真名、開帳──わたしは、災厄の席に立つ!
──顕現せよ!
顕現する白亜の城。妖精國の王城に瓜二つのその城は、使用者の心が折れなければ決して崩れることはない。
ブリテンの土地に立ち、護りたいマスターの前に立ち、円卓の騎士の横に立ち、救いたい妖精を前にして、彼女の心が折れるはずもなく。
いや、それ以前に。
明らかに雷光の勢いが弱まっていた。
「──バーゲスト、さん……?」
思わず「盾の騎士」が疑問を漏らす。
──魔犬にはできなかった。
その白亜の城が、違う世界のものとはいえ。ただの魔力の編み物とはいえ。
『彼女』が築いた『キャメロット城』を壊すことなんて出来なかった。
最後の切り札である雷光すら放つのをやめてしまった魔犬。
「太陽の騎士」の■剣を阻むものは、もう何もない。
「
植え付けられたその邪念! 円卓が一席、このガウェインが断ち切らせていただく!
──
ガウェイン卿の■剣より放たれた熱閃は、瞬く間に魔犬を飲み込む。
太陽のような暖かさの中で、バーゲストはゆっくりと眠りについた。
こうして、真なる円卓の騎士たちにより、円卓の騎士を騙る「獣の厄災」、同族喰らいの魔犬・バーゲストは討滅されました。
めでたし、めでたし。
と、まあ。これで話は終わりなんだけど。
──気持ち悪い。反吐が出る。これで「めでたし、めでたし」だって? すごいな。センスを疑うよ。
……お前が言うな? おいおい。獣ならともかく、嘘つきの虫に愛を求めるなよ。
「──ん、ぅぅ。ここ、は……?」
太陽の■剣に消しとばされたバーゲスト。
眠りについたはずの彼女は、何故か次代に受け継ぐこともなく、バーゲストのままで意識を取り戻した。
頬を撫でる風。手や足をくすぐる草花。
がしゃり、がしゃり。身じろぎするたびに、金属の擦れる音が鳴る。どうやら妖精騎士の鎧も着ているらしい。
あたりがどうなっているのか確かめるために、バーゲストは立ち上がり、周囲をぐるりと見渡した。
「……ここはどこでしょう」
口から疑問が漏れる。
付近に建物、街並みはなし。マンチェスターでも、ノリッジでも、キャメロットでもない。
遠くに森が見えるが、あれがウェールズだとするとここはブリテン中部平原あたりか? ──いや、違う。ウェールズの森は自分が燃やしたから、残っているはずがない。
いやいや、そもそもだ。
ここには、炎も、雷雨も、呪いも、モースも、厄災もなかった。
ブリテン島の終末の光景が何一つなかった。
代わりに、妖精國の妖精が見たことのない景色が広がっていた。
バーゲストの上空には、抜けるような美しい
黄昏のような茜色ではない、青い、青い空が広がっていた。
知らぬ間にブリテン島を出てしまったのか?
カルデアの言うところの、「汎人類史」とやらに来てしまったのか?
空を見上げて呆然とするバーゲスト。
そんな彼女の視界の端に、ちらり、と何かが映った。何かは豆粒のような大きさからぐんぐん大きくなる。
遥か上空を飛翔していた
ランスロットのような直線高速飛行ではない。もっと柔らかな飛行だ。
敵対の可能性あり。いつでも制圧できるよう、身構えるバーゲスト。
だが、着陸したその存在を前に、さしもの彼女も呆気に取られた。
「ぼく、アンパンマンです。
その存在は、一見すると風の氏族や翅の氏族のように見えた。それでいて、境界の竜の妖精、彼女のような規格を外れた圧倒的な力強さを感じた。
だが、違う。断じてありえない。妖精かどうかも怪しい。ありえない部位があった。
聞きしに及ぶ汎人類史にもこんな奇怪な存在はいないだろう。
──その顔は、きっとパンで出来ていた。
「わ、
「わかった! バーゲストちゃんだね!」
ちゃん付け。
妖精の中でも一際巨体の自分をちゃん付け。
実は初めて。ちょっと照れるバーゲスト。
アンパンマンを名乗る存在は重ねて質問する。
「バーゲストちゃん、こんなところでどうしたの?」
「申し訳ありません。実は私自身、ここがどこかわかっていなくて……。マンチェスター、キャメロット、いいえ、コーンウォールはどちらですか?」
領地にはもう何もない。白亜の城はすでに落ちた。
ならば、まずはカルデアに合流し、今後の話をすべきだ。
そう決意するバーゲストに、アンパンマンは申し訳なさそうに話した。
「ごめんね、バーゲストちゃん。まんちぇすたー、きゃめろっと、こーんうぉーる、だっけ? ぼく、そんな
動揺。
内心は分かっていながらも、バーゲストは信じられない。
あれだけ妖精を島の外に出すまい、出すまいとしていた自分が真っ先に外に出るなんて。
「で、では、ブリテン島は?」
「ブラックロック
「いえ、ブラックロック島ではなくブリテン島で──オーロラ姫?」
聞き覚えのある名前に思わず聞き返す。
知り合いだと思ったのか、アンパンマンは朗らかに笑顔を浮かべて──この短時間でパンの表情が読み取れるようになったことを、バーゲストは少しおかしく感じた──「オーロラ姫」のことを話した。
曰く、オーロラ姫は氷の国や雲の上のオーロラの国から夜空にオーロラを描くことを「在り方」としている。
曰く、オーロラ姫にはオーロラ娘なる部下がいる。
曰く、オーロラ姫は杖の先にオーロラを束ねてビームを出す。
うん、別妖精。
ビーム出せないセイバーはセイバーじゃないは戯言だが。
ビーム出すオーロラは風の氏族長じゃない、これは確実だった。
バーゲストは確信する。
ここは、ブリテン島ではない。オーロラも、彼女の知り得る妖精は誰もいない。
ああ、なんという……。
悲しみに暮れるバーゲストだが、それでも本能は抑えられないもので。
目の前に立っているのは、あんまりにも、とびきりの強者。彼女が愛するに、喰らうにふさわしい獲物だったので。
くうくうおなかがなりました。
ああ、なんだ、私は所詮獣なのか。
あまりの度し難さに泣けてくる。
しかし抑えられないその獣性。
──ないているおんなのこに、アンパンマンは、じぶんのかおをすこしちぎって、たべさせてあげました。
「バーゲストちゃん、おなかがすいているのかい? ほら、なかないで。ぼくのかおをおたべ」
それは、本能をしばし忘れるほどに、驚愕すべき行いだった。
初めてだった。
自分から彼女に喰われようとする存在は、老若男女人間妖精含めて、初めての存在だった。
狼狽えるバーゲストに、アンパンマンは早く食べるよう催促する。
「どうしたの? さあ、どうぞ」
「い、痛くないのですか!?」
「? うん。だってぼくパンだもの」
アンパンマンは、バーゲストにパンを差し出す。
一部が欠損しているというのに、その顔は、妖精のように純粋な笑顔を浮かべていた。
「──いただきます」
そのパンは、自分で焼いたパンよりも、キャメロットの料理人が焼いたパンよりも、遥かに美味しく感じられた。
「アン、アン、アーン!」
「これは、ご丁寧に。名犬チーズ殿。私はバーゲストと申します。かつては宮仕えをしていたとはいえ、今は野良犬。なにかと粗相をするかもしれませんが、どうかご容赦を」
「アン! アン!」
「いえいえ、浅学非才な身で申し訳ないですわ」
「うふふ、チーズったら、レアチーズちゃんのほかにもガールフレンドができて、うれしいのかしら」
「アン! アン!」
顔を焼き直してもらう、とアンパンマンが拠点に戻るということなので、バーゲストは彼について行くことにした。
その際に、バーゲストを軽々と抱き上げ、空を飛ぶアンパンマン。
バーゲストの見立てに間違っておらず、彼はやはり強かった。
アンパンマンの顔が焼き上がるまで、バーゲストは工房助手のバタコという妖精と、彼らの家族である名犬チーズと話をしていた。
情報を統括するに、ここはやはりブリテン島でも汎人類史でもない未知の世界だろう。ベリル・ガットが話していた他の異聞帯……とも違うようだ。
バタコは妖精だが、六氏族とは違う氏族の──というより、氏族という概念がなく、「妖精」は「妖精」で完結しているらしい。
全くの未知の世界。全くの未知の環境。
さて、どうしたものか。バーゲストは考える。
「
しばらくして、工房の中よりアンパンマンが出てきた。
「──アンパンマン、大丈夫ですか?」
「うん、バーゲストちゃん。ぼくは
情報共有の中で、アンパンマンは顔に欠損を受けたり、カビや水に侵されたりすると著しくスペックが低下するとバーゲストは知った。
新しい顔と取り替えれば元気になるとバタコは言っていたが、それでも彼女の常識の上ではやはり心配だった。
そんな心配に、アンパンマンはあっけらかんと心身の健康を主張する。
ほっ、とバーゲストは安堵のため息をついた。
自分は捕食し、殺さなくて済んだのか。
アンパンマンが元気いっぱいであることにバーゲストは感謝した。
そうして、話はバーゲストの今後へと移る。
今のバーゲストには、行き先も、やるべきこともない。「生まれた目的」はあったが、アンパンマンがいれば多少はマシだろう──バーゲストはその自身の思考を嫌悪した。
「それなら、アンパンマンのパトロールをてつだってみてはどうだい?」
工房より声。
中から出てきたコック帽を被った老体の妖精、ジャムおじさんがそう提案した。
確かに、バーゲストには腕っぷしもあり、
一飯の恩義もある。バーゲストはそれを快諾した。
「はい、バーゲストちゃん。あげる!」
「あ、ありがとうございます──ごめんなさい、角に掛けるのはやめてくださいまし」
「──! ごめんね、バーゲストちゃん。いたかった?」
「いいえ、いいえ。違いますわ」
──警邏なんて必要なのか?
角──亜鈴の触角に花輪を掛けようとするネコの子供にやんわりと断りを入れながら、バーゲストは一人疑問に思った。
街を訪れたが、全くの平和だった。
争いも、トラブルも、何もなかった。せいぜいが、子供同士で口喧嘩をしていた程度で、それも彼らの教員である
もちろん、人間を殺そうとする妖精なんて──そもそも人間がいないので断定こそできないが──いなかった。
純心。
ブリテン島には、悪性の純心さを持った妖精しかいなかった。
ここには、善性の純心さを持った存在しかいない。
学校の授業に同行し、近隣の花畑へと向かったバーゲスト。
街道を歩く中で、バーゲストは野盗やモースのような存在のために周囲を警戒するが、そのような悪性の存在は何一つ存在しなかった。
──罪なき者のみ通るがいい。
白亜の城、その城門に刻まれ、かつて『彼女』が塗りつぶしたという文言。
この世界に来て、『彼女』がそれを塗りつぶした意味がよくわかった。
きっと、
しかし、本物の
本当に「罪なき者」だけの世界などそうそうない。
「はっひふっへほ〜! ここにある
──ドキンちゃん、
「うわぁぁぁ!
意思持つカビを引き連れて、バイキン星──異星から、
背中から煙突を生やした巨人は、
そんなことをすれば、付近にはとんでもない規模の地震が起こる。
その鍛えられた肉体からなる強靭な足腰を持つバーゲストはなんとか立ってられたが、共に花畑を訪れた子供達と先生はそうではない。
逃げることすらできずに、頭を抱えて震える子供達。バーゲストは撒き散らされる土石から彼等を護るので精一杯。
そんな彼らを助けに、正義の味方が飛んできた。
「やめるんだ! ばいきんまん!」
「きたな、アンパンマン! だけど、
ばいきんまんの言う通り、今回の
背中の煙突から、もくもくと煙が上がる。
煙は上空で雲となり、雨雲となり、雷雨となり。
土砂降りの嵐はアンパンマンを強かに打ちつけた。
「──か、かおがぬれて、ちからがでない……」
「はっひふっへほ〜! やっぱりおれさま、だいてんさい! こうすれば、ぜったいおまえのかおは、ぬれちゃうもんね〜!」
ブルン。
巨人はアンパンマンにかかりきりだ。今のうちに、バーゲストは乗り物に駆け寄る。
乗り物の上方から、バタコが顔を出し、顔を顰めた。
「だめ、これじゃあ……」
「バタコさん! どうした! 顔を交換しないのか!?」
「だめよ、バーゲストちゃん! この
バタコの言葉に、ばいきんまんは自慢げに声を張る。
「ぐふふふふ。いっつもいっつも
ずーっとぬらせば、あたらしい
バーゲストは理解する。
アンパンマンとばいきんまんは幾度となく戦いを繰り広げてきたのだろう。
その戦いは、常にアンパンマンの勝利で収めてきた。
その上で、ばいきんまんは「アンパンマンは顔を損傷すると力が落ちること」、「顔を濡らしてもバタコに交換されること」を経験し、「顔を交換されてもすぐに濡らせる環境」が勝つために必要と考えたのだろう。
バーゲストは戦慄する。
ばいきんまんは、アンパンマンを詰ませるために、勝つために、努力を惜しまない敵だった。
ばいきんまんは、妖精國には滅多にいない、学習し、工夫し、成長する敵だった。
空をよろよろと飛び、魔手を逃れるアンパンマン。
地面は掘り返され、花畑は無惨な姿となる。
子供たちは涙を浮かべ、先生は必死にそれを宥める。
そんな彼らも、運が悪ければいずれは踏み潰されてしまうだろう。
アンパンマンとバーゲストは、警邏を任されてここに来ている。
アンパンマンはその職責を全うしようと、弱体化してもなお巨人に食らいつく。
ならばバーゲストは何をすべきか?
『私は私の愛する者のために命を使う。このように、誰よりも冷酷に』
尊敬した騎士の言葉を思い出し。
かつて自分も騎士を名乗っていたことを思い出し。
バーゲストは静かに
「亜鈴触角、露出! く、ぅぅ──嗚呼っ!!
バーゲストは黒角を上空に投げ放つ。
それはクルクルと輪転し、空に広がる雷雲を捕食した。
だが、まだ足りない!
煙突からは際限なく雷雲が排出されている。装置を破壊しなくては雨は止まない!
なので、黒角を再びその手に収めて。
肥大化しようとする肉体を、意志で押さえつけ。
漏れ出そうとする黒炎を、黒角に無理矢理纏わせ。
──本来ならば、この行為には何の意味もない。亜鈴の触角にいかに力を束ねようとも、灼熱の剣閃を放つことなど、できるはずがない。
妖精國の成り立ち、その根幹は、「聖剣という概念」が誕生しなかったこと。
故に、異聞帯ブリテンの妖精には、聖剣の模倣だけは、決してできない。
それでも、バーゲストは、模倣を続けた。
我こそが騎士であると示すように。
──そんな様子を、『彼女』は最果てよりずっと見ていた。
千里眼を持たない『彼女』であったが、その代わりに
かつて、
この世界にビーコンはない? いや、ある。
妖精騎士ガウェインの
……実のところ、『彼女』はバーゲストのことがそんなに好きではない。というより、『彼女』は誰のことも好きではない。むしろ嫌いだ。
人間も嫌い。妖精も嫌い。
弱いものも嫌い。醜いものも嫌い。
平等という概念も嫌い。平和という概念も嫌い。
虫は特に大嫌い。
ブリテン島と島の秩序ある支配。それ以外全部嫌いだ。
ただ、「嫌い」であっても、「いらない」というわけではない。
ブリテン島と島の秩序ある支配。これに関することで、有用であれば、少しは嫌いではない。
例えば、ブリテン島を侵す厄災、それを祓うのに役立った牙の氏族は、妖精の中でも嫌いじゃない。
例えば、「人間の花嫁を送り出す」というブリテン異聞帯では決して満たされない「在り方」に苦悩していたのに、それでも協力してくれた「糸紡ぎの妖精」は嫌いじゃない。
例えば、妖精らしからぬ善性を備えながら、誰よりも弱い。それでも『彼女』を助けようとしてくれた、そんな妖精のことも、嫌いじゃない。
例えば、最後こそ裏切ったものの、300年近く『彼女』の支配に賛同してくれた忠犬のことも……まあ、嫌いじゃない。
淫蕩、残忍、自分勝手。
妖精國女王としては発揮されなかったが、それは無くなったわけではない。なりを潜めているだけだ。
ふとした拍子に、再発することもある。
──余分な手間ではあったが、その忠節には褒美を取らせねばなるまい。妖精國はすでに無く、貨幣にも価値はない。ならば──
『もう、わかりました。わかりましたよ。
──もう! 本当に自分勝手!
こほん。それがバゲ子の運命をかけた戦いであれば──』
──姉みたいな先輩にせっつかれて、聖剣の妖精は杖を掲げた。
『異邦の国、時の終わり、なれど剣は彼女の手に』
肉体の暴走が収まる。黒角の焔が収束する。
妖精國に「聖剣の概念」が存在しなかったのは、バーゲストが斃れるほんの少しだけ前まで。
なれば、聖剣の妖精の承認さえあれば、たとえ妖精國の妖精であっても、聖剣を振るうことができる──!
『──集え、円卓の守護者たちよ!
……なーんで私があの人の言うこと聞かなくちゃいけないのかなぁ。普通、逆じゃないかなぁ』
『ブリテンの守護者』が認めた時。
共に戦う者は『円卓の騎士』の
希望を胸に、
「『この剣は太陽の現身! あらゆる不浄を清める焔の陽炎!』」
かび、雷雨、ばいきん、何するものぞ!
「──
騎士は聖剣を振るう。
たった一度の見様見真似、模倣そのものの剣閃。
それでも、模倣は妖精の特技だ。
太陽の熱閃は、かびるんるんを押し退け、雷雲を切り裂き、
雷雲が斬り開かれ、空が広がる。
黄昏の空に浮かんだ白亜の城の幻影が、うっすらと消えていった。
「あ〜! よくもやったなお
辛くもばいきんまんがUFOに乗り聖剣から逃れる。
しかし、もはや趨勢は決した。
「──今だ! バタコさん!」
「アンパンマン! あたらしいかおよ!」
ところで。
運命の世界からアンパンマン・ワールドに「聖剣・神造兵装の概念」がもたらされたことで、この瞬間、拡張された存在がいる。
さて、アンパンマンとは、どのような存在だっただろうか。
勤勉なパン職人の妖精、ジャムおじさん。
彼がいつものようにアンパンを作っていると、空から流れ星が降ってくる。かつて世界に水と緑をもたらした「いのちの星」と呼ばれたそれは、アンパンにいのちを与え、アンパンマンを生み出した。
当初目的のなかったアンパンマンだったが、彼の生みの親を助けたこと、感謝を受け胸の奥が暖かくなったことで、人を助けること──みんなの夢を守ることが彼の「生まれた目的」となった。
つまりは、星の力を借り、妖精が鍛え、人々の夢を守るために生まれた
エクスカリバーは菌糸類の
イースト菌の
「
ばいきんまん、もう
濡れた頭が取り替えられ、力を取り戻すアンパンマン。
彼の姿を見たバーゲストの心には、元気と勇気、それに希望が湧いてきた。
迫り来るアンパンマンに対し、
「なにおぅ! バイキンパーンチ!」
「アーンパーンチ!」
「──ばーいばーいきーん!」
姉妹剣・ガラティーンが道を切り開き。
ブリテン島において、円卓の騎士において、アーサー王伝説において、それは約束された勝利の流れである。
夜、パン工場。
いつもであれば寝静まった深夜の時間だが、その日はいつまでも灯りが消えることはなかった。
バーゲストだ。彼女は床にもつかず、椅子に座りずっと起きていた。
戦闘で目が冴えているのか──それもある。
模倣とはいえ太陽の聖剣を振るえて興奮しているのか──それもあった。
だが、今バーゲストが悶々としている主題ではなかった。
コンコン、と扉がノックされる。
バーゲストがドアを開けると、ジャムおじさんがマグカップを手に立っていた。
「こんばんは、バーゲストちゃん。まだおきているのかい?」
「──ええ、申し訳ありません。ジャムおじさん」
「ホットミルクをのむといい。よくねむれるよ」
ありがとうございます。
バーゲストは礼を言い、カップに口をつける。
美味しい。少し冷える夜にちょうどいい暖かさだ。
静かな夜、バーゲストがミルクを舐める音だけが時折聞こえる。
やがて、ジャムおじさんは話を切り出した。
「──なにか、なやんでいるのかい?」
「……どうしてですか?」
どうしてわかったのか。
どうしてそう思ったのか。
複数の意図の問い。
ジャムおじさんは、「なんとなく」と答えた。
この妖精も、『彼女』と同じように洞察力に優れているのだろう。
バーゲストは観念して、一番の疑問を口にした。
「──アンパンマンは何故、ばいきんまんを倒さなかったんですか?」
「……? おいはらった、とおもうけど?」
それはバーゲストも目撃した。
アンパンマンの必殺技は、バイキンUFOを地平線の彼方まで吹き飛ばしていた。
それは確かに目撃した。
その上で、疑問に思った。そのような疑問が出ること自体、「罪なき者」には程遠いと思いつつ。
「違います。違いますわ……。
……どうして、アンパンマンはばいきんまんを
沈黙。
ややあって、ジャムおじさんは訪ねた。
「──バーゲストちゃんは、ばいきんまんがきらいなのかい?」
いや、嫌いではない。
嫌うことができるほど、バーゲストはばいきんまんのことをよく知らない。
それでも──
「──いいえ。私は彼のことを知りません。しかし、彼が『悪』であることはわかります」
──「罪なき者」の世界に邪悪はいらない。
ブリテン島で妖精を根絶しようとしたのは「獣の厄災」であったが、バーゲストでもあったのだ。
正義などない存在を生かすべきではない。
バーゲストはそう考えている。
しかし、ジャムおじさんはそう考えなかったようだ。
「──バーゲストちゃん。ばいきんまんはアンパンマンをたおしたいだけなんだ。それに、ばいきんまんは、イタズラをよくするけど、いいこともたまにはするんだよ」
誰かに助けてもらったとき、ばいきんまんは例えアンパンマンを前にしても、その人に恩義を尽くすと言う。それは善なる行いだ。
ばいきんまんの前で、失敗したり、落ち込んだりした人がいたとき、彼はその人を励ますことがあると言う。それは善なる行いだ。
アンパンマンと共に更なる悪と戦うこともあると言う。それは、善なる行いだった。
今回の騒動はどうだっただろうか。
『はっひふっへほ〜! ここにある
──ドキンちゃん、
「──あっ」
「ドキンちゃん」が家族か恋人かは知らないが、大切な存在なのだろう。彼女に贈る花を集める。行為を別にして目的だけを抜き出せば、今回も善なる行いだった。
少なくとも、愛するものを捕食するよりは、よっぽど正義に近かった。
「じゃあ、正義って、悪って……」
わからない。バーゲストにはわからない。所詮、社会性に乏しい妖精には、社会が発展した先の「正義」と「悪」という概念はわからない。
なので、いつかのように、『彼女』に問うたように、今回も智者に尋ねてみることにした。
「──では、ジャムおじさん。貴方の考える『正義』について教えてくださいますか?」
しかし、バーゲストの予想は外れて。
ジャムおじさんは、うんうんと首を捻って唸り考えるが、やがて諦めて謝罪する。
「うーん。ごめんね。わたしには
ジャムおじさんの言うように、この世界の住人たちは、そのような考えを巡らせることはない。
彼らにややこしい思想や概念は求められていないからだ。
「とっても、ものしり」なジャムおじさんであっても、その例に漏れない。
故に、この世界にバーゲストの質問に答えられる存在はいない。
「──あっ、でも、むかしパンを
──唯一、たった一人を除いては。
こほん。と空咳一つ。
ジャムおじさんは
「『まず、正義なんてかっこいいものじゃないよ。正義を成すなら、辛い思いをしてでもやらなくちゃいけない。すごく頑張らないといけないよ。
それに、正義なんてあやふやなもので、突然逆転する。悪人にだっていい心はあるし、善人にだって悪い心はある。二つはそう簡単に分けられない。だから正義を決めるなんてことは、我々には酷く難しいのさ。
──それでも
アンパンマンは正義に
……だったっけ。
すっと、心に、落ちた。
カルデアは、汎人類史のマスターはこれまでの旅路を語るとき、苦悶の表情を浮かべていた。
異邦の魔術師は自分たちの正義を成すために、多くの痛みを抱えてきたのだろう。その痛みに苦悩しながらも、押し潰されまいと、歯を食いしばって必死に立っていた。
しかし、そんなカルデアも、妖精國において当初は「悪」の謗りを受けていた。バーゲスト自身もそう思っていた。
話を聞くにつれ、カルデアが「正義」で女王が「悪」だとバーゲストは考えたが、それは誤りだった。
カルデアも「正義」で、女王も「正義」。
ただ相いれなかっただけだ。
知ってたじゃないか。女王の心には、正義も、悪も、両方備わっていることなんて。
マンチェスターで暴虐の限りを尽くした妖精たち。
しかし、彼らは本当に、根絶やしにしなくてはならないほどに「悪」だったのだろうか?
妖精たちは言っていた。
「なにって、領主サマのマネゴトさ! ボクたちみんな知ってるからね!
毎日とっても楽しそう! ボクらもマネをしただけさ!」
はじめから、この島には正義など何もなかった?
この邪悪な生き物を、一匹残らず殺さなくては?
──はっ、何を賢しらに。知ってたじゃないか。
妖精とは模倣の種族。
享楽的で、日和見で、中立・中庸。善も悪もない。善も悪もある。
彼らはたまたま
いたはずだ。
本当に美しいものを見て、善き人々を見て、正義の行いを模倣し、自らを律した妖精だって。
きっと、バーゲストが知らないだけで。
マンチェスターでは見つからなかっただけで。
妖精國の何処かにはいたはずだ。きっと、必ず。
女王歴1899年に牙の氏族で突如行われたテーブルマナーバトルを思い出した。
牙の氏族長とその好敵手が「テーブルマナー」などと言う、牙の氏族が全く重視しない概念で長の座を争う。
正直バーゲストは滑稽だと思っていたが、それは誤りだった。
ウッドワスとボガードは、悟っていたのだ。
牙の氏族には、暴力衝動という「他人を踏みつけにする幸せ」ではなく、マナーある食事という「自分だけで完結する幸せ」が必要だと。
菜食主義を勧めたのもそうだ。
彼らは、戦いという原初の正義から、一歩も二歩も先に進んだ正義を志していたのだ。
妖精國には邪悪なものしかないと思っていたが、違った。
妖精國には多様な正義が生まれ始めていたのだ。
バーゲストと相いれなかっただけで。
ああ、今わかった。
『私は貴女がたの事情を知り得ず、また貴女がたの正義に関心はありません』
妖弦の騎士の言葉は、傲慢からくるものでは決してなかった。
多様性に富むと言う汎人類史。
そこには、数多の正義があったのだろう。数多の悪があったのだろう。
きっと彼は、彼らは、汎人類史は、異なる正義に何度も直面してきたはずだ。
何が本当に正しいのか不確かな世界で、それでも自分の正義を主張し、相手の正義を退ける
そんな哀しみからなる言葉だったのだ。
──
幸せに生きるためには、まずは食べる必要がある。
バーゲストは、ジャムおじさんに何か食べるものはないか尋ねた。
ジャムおじさんは朗らかに笑って応えた。
何故ならここはジャムおじさんのパン工場。
無垢な子供に幸せを配る、人理*1継続保障機関だ。
火は消えることなく、常に灯り続ける。
「ありがとうございます。──嗚呼、美味しい……」
たまらなく美味しく、最高に生きている実感を得られたので、泣きながら彼女は
なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
こたえられないなんて そんなのはいやだ!
それ、ゆけ! バーゲストちゃん!
──これは夢想の童話。
死と断絶と絶望の先の、決してありえぬ旅路の交差。
それでも君は思い描く。
苦しみを積み上げた巡礼の果ての、愛と勇気と希望の物語を。
なんてね。
一部の中華思想においては、人としてそうあるべき道理、人間として歩むべき道、人倫のことを指す。
「更新、成長が汎人類史の
永遠はどこにもない。どこまでも続いていく。
俺はそういうの、面倒だから。俺から言うべきことは、もう無い。
全ては夏の夜の夢だ。これで満足か?」
──────返事はない。
騙り部の声に耳を貸すものは、誰もいない。
大嘘つきの虫は落ちる。
陥穽にはまって、奈落を堕ち続ける。
「……なんちゃって! ここまでの話は全部嘘だ。俺が語り部な時点でわかっていただろう? ご愁傷様!」
──────返事はない。
騙り部の声に耳を貸すものは、誰もいない。
大嘘つきの虫は落ちる。
陥穽にはまって、奈落を堕ち続ける。
「『全ては夢まぼろし。ここで起きた出来事は真実に値しない』。
──いちいち俺が
──────返事はない。
騙り部の声に耳を貸すものは、誰もいない。
「バーゲストの奴も、ブリテンでのたれ死んで、それで終わりさ。死と絶望と断絶の先なんてない。
──命とは終わるもの、永遠なんていらないんじゃなかったっけ? じゃあこれでいいじゃないか」
──────返事はない。
「バーゲスト。あいつが幸せになりたいだなんて、それ自体が虫のいい話だとは思わないか? ウェールズの森を焼いたのも、恋人や妖精を食ったのも、結局のところ、自業自得だろう?
……あれ〜、怒った? 笑える〜。でも俺を恨むのはお門違いじゃない?」
──────返事はない。
「『アンパンマンとバーゲストちゃん』。
このタイトルを見て、どう思った? ちょっと笑ったりしなかったか? 下に見たりしなかったか?
うん、わかるよ。
どうせ、また次の話がくれば忘れるんだろう?
おっ、図星か? なら今日は俺が生まれて初めて真実を言った、記念すべき日だ! 盛大に祝ってくれ!」
──────返事はない。
「───────────────。
……はぁ、飽きた」
独り言を話すのも、流石に飽きてきた。
初めは良かった。
ここには
だが、すぐに気がついた。
ここには一匹、気持ち悪い虫がいた。
奈落の虫とかいう、気持ち悪い虫が。
『何をやっても嘘』。
そんなレッテルのおかげで、虫の言動はその全てが嘘になるように呪われてしまった。
妖精眼を持っていた虫にとって、それは堪らぬ苦悩だった。
自らの言動が全て嘘になる。それに妖精眼が反応して、嘘を暴き出し不快になる。
生きて、動き、口を開くたびに吐き気を催す、クソみたいな悪循環。
自分も含めて、全てに嫌悪感が湧く。
虫の話は全て真偽不明、信じるに値しない与太話。
それでも、口にするまでは、行動に移すまでは。彼の心の内海では、嘘は真実を保っていられる。
だから、虫は本当に大切なこと、嘘にしてはいけないことだけは決して口にしない。
行き着くところまで行ってしまった、愚かで手のつけられない女の子。
手駒にするつもりだったのに、結局最後まで付き合ってしまった異邦の魔術師。
彼らと旅したつまらなくも予想外の旅。夢の中ならいざ知らず、起きたままではその思い出を口にはしない。
混沌・悪。虫自身が語った
理不尽に虐げられる異邦の妖精、彼女に智慧と力を授ける。
破綻した「在り方」の黒犬、彼女の崩壊を先延ばしにする。
童女のような夢を見続けた女王、彼女の書いた絵本は嫌いじゃない、と褒め称える。
存在そのものが嘘と定義づけられた輝ける星、彼女のために世界を滅ぼす。
今は亡き王女──誇り高き、きみの愛と献身を想う。
そんな、混沌・悪。
大嘘つきの虫は落ちる。
陥穽にはまって、奈落を堕ち続ける。
黒犬の捕食行為と違い、魔竜の捕食行為は対象の死をもたらさない。
寧ろ、逆だ。
魔竜に喰われたものは、死ぬこともなく、ただ空洞を落ち続ける。ずっと、ずっと、永遠に。
始点も終点もないが故に、通常の手段でここを出ることは不可能だ。
英雄の王──世界を裂き、天地を
巌窟の王──シャトー・ディフ、「地獄」とさえ称された死の牢獄。そこから脱獄した逸話を持つ彼ならば、話はわからない。
だが、彼は妖精の王。そのような宝具も逸話もなく、「地獄」から出ることは叶わない。
大嘘つきの虫は落ちる。
陥穽にはまって、奈落を堕ち続ける。
さて、復習の時間だ。
妖精にとっての「在り方」の重要性は、今更語る必要もない。
そして、「在り方」と名前には密接な関係がある。
──それは、当然、妖精王にも当てはまる。
奈落【名】(な - らく)
①「地獄」。終末装置が起動した後。
②最後。終わり。陥穽にはまった最果て。
③劇場の床下。
星見たちの守護英霊召喚システムは、例外・不可能・低確率。そんな縛りを越えて、どんなサーヴァントでも召喚できる。
──双方の同意さえあれば。
「……なんだこれ。なんだってこんなことになっている……?」
「──元気だった? 力を貸してよ、
「はあ……いいよ、諦めた。そういう人間だもんな、きみは──」
夏の記憶。
帳が下りて、雲雀が鳴くまでの、静かな時間。
語り部と傍観者が、舞台に上がるカーテンコール。
そんな、運命の夜の
これにて、おしまい。
めでたし、めでたし。とっぴんぱらりの、ぷう。