この作品は、ある意味で俺TUEEEものですので、そういった作品が嫌いな方は読むのはおやめください。さらに、
・キャラ崩壊の恐れがあります。
・温かい目で見守ってください。
・辻褄? 何それ、美味しいの?
といった点も考慮に入れてお読みください。遅くとも、2期開始直後ぐらいには終わらせるつもりです。
では、心してどうぞ。
どこかもわからないとある空間。…いや、そもそも本当に存在しているのかもわからない虚数空間。一般人には辿り着くどころか知覚すらできないそんな領域。その中心に、信じられないものがあった。四畳半一間の和室である。そしてさらに信じられないことに、その中心には布団が敷かれていた。そして
「ZZZ…」
布団がある以上、当然そこに休んでいる人物もいるのだった。これが一般の現実であれば何の変哲もない光景なのだが、ここはその存在すら不確かな場所なのだ。普通の人間がこんなところで呑気に寝ていられるはずはない。と、
「う、うーん…」
目が覚めたのだろう。眠りに就いていたその人物が上半身を起こした。そして、
「ふあぁ…」
大きな欠伸の後に、うーんと伸びをした。
「いやぁ、良く寝ましたねえ…」
コキコキと首を左右に捻りながらそんなことを呟く。そうしながらも、周囲の状況には全く頓着した様子はない。
「さて…」
そのまま掛け布団をはねのけると、白地の肌着に縦じまのトランクスの出で立ちでその人物は敷布団の上に改めて腰を下ろした。
「どのぐらい寝てたんですかねぇ…」
そんなことを呟きながら首を捻ると、側にあった時計に目をやる。そこには、元号換算にすると令和の時代の日付を西暦で示しているデジタル時計があった。
「おや、こんなに…。ずいぶん経ってたんですねぇ…」
うんうんと頷きながらその人物がしみじみと呟く。そして目を離した瞬間にデジタル時計は跡形もなく消えていた。どころか、現れたのも音もなくだったりしたのだが。まるで、彼が望んだら当然のように現れ、そして役目を果たしたことでこれまた当然のように消えていった。…そんな風にも見て取れたのだった。と、
「さてさて…それじゃあ、古巣がどうなってるかちょっと見てみますか」
その人物が呟くと、また当然のようにすぐ側にあるものが現れた。そしてそれを手に取る。手に取ったそれは、『週刊少年ジャンプ』だった。
「♪♪♪」
軽く鼻歌を歌いながら寝っ転がると、その人物はジャンプを開いてそれを読んでいく。
「ほうほう…」
「ふーん…」
「成る程ぉ…」
掲載作品を頭から読んでいく。時に楽しそうに、そして時には感心しながら。そんなふうにして暫く経ちすべての作品を読み終えた彼は、ゆっくりとジャンプを閉じた。そして、
「ふーっ…」
と、大きく息を吐く。
「わかってはいましたけど、同期も先輩も後輩も、私が知っている面子は誰もいなくなってましたねぇ。それでもまだ、両津巡査長だけは残っていてくれてるかもと思っていたんですが」
これも時の流れってやつですかねぇ…としみじみ呟きながら、しかし彼には一つ気になった作品があったのだ。その手に持っているジャンプを再び開くと、そのとある作品に描かれているあるキャラに目を向けた。
「これは、間違いなくあの子ですねぇ。まさか私の古巣で見ることになるとは…。しかし、この姿はどういうことなんでしょう?」
そのキャラを目にしながら首を捻る。しかし、わかるわけもない。
「まあ、わからなければ調べてみればいいだけです」
そう言ってパタンとジャンプを閉じると、近くにそれを投げ捨てる。そしてまた自分の近くに手を伸ばした。そこには当然のように、そのキャラが出てくる作品の単行本が山積みになっていたのだった。
「どれどれ…」
一巻からそれを手に取り、のんびりと単行本を読み進めていく。そして、
「成る程ぉ…」
全巻を読破し終えると、納得がいったようにしみじみと呟いた。
「そんなことがあったんですねぇ」
そう続け、そのまま腕を組んだ。しばらくそうしていたが、
「まあ、これも何かの縁です。久しぶりに起きたことですし、少し様子を見てきましょうか。それに、後輩たちにもちょっと挨拶でもしてきましょうかね」
うーんと伸びをして立ち上がると、スーツにネクタイのいつもの格好に着替えて歩き出した。そこが不確定要素の世界、虚数空間の海であることなど構いもせずに歩みを続け、そしていつの間にかその人物はその場から消え去っていたのだった。
無限城。
鬼たちが本拠としているこの場所に、今宵、大きな動きがあった。上弦の鬼たち全員に召集がかかったのである。実に百十三年ぶりのことだった。その理由は上弦の陸である、『妓夫太郎・堕姫』の兄妹が鬼殺隊によって討たれたからであった。
「……」
城内に琵琶が鳴り響く。その琵琶の音と、その奏人を不快な表情で睨むのは上弦の参、『猗窩座』。と、
「これはこれは猗窩座様!」
猗窩座のすぐ側に置かれていた壺から声が聞こえた。そしてその壺から、アラジンの魔法のランプの魔人のように姿を現したのは上弦の伍、『玉壺』。
「いやはやお元気そうで何より。九十年ぶりでございましょうかな? 私はもしや貴方がやられたのではと心が躍った…ゴホゴホン! 心配で胸が苦しゅうございました」
そんな玉壺を心底どうでもいいものを見る目で見ている猗窩座。そして、
「怖ろしい、怖ろしい」
その反対側からまた声が聞こえてきた。そこにいるのは頭に大きな瘤のある小柄な老人の姿の鬼。上弦の肆の位を与えられている『半天狗』だった。
「暫く会わぬうちに玉壺は数も数えられなくなっておる。呼ばれたのは百十三年ぶりじゃ。割り切れぬ数字…不吉な丁、奇数! 怖ろしい、怖ろしい」
奇数は丁ではなくて半なのだが、そんな間違いを指摘する者はこの場には当然誰もいない。
「琵琶女、無惨様はいらっしゃらないのか?」
猗窩座も当然気にすることなく奏人にそう尋ねた。
「まだ御見えではありません」
「なら上弦の壱はどこだ。まさかやられたわけじゃないだろうな」
重ねて尋ねる猗窩座。そこへ、
「おっとおっと! ちょっと待ってくれよ猗窩座殿! 俺の心配はしてくれないのかい?」
また違う声が響いた。
「俺は皆をすごく心配したんだぜ! 大切な仲間だからな。だぁれも欠けてほしくないんだ俺は」
「ヒョッ、童磨殿」
「やあやあ久しいな玉壺」
猗窩座の肩に腕を回し、なれなれしく話しかけるこの男こそ上弦の弐、『童磨』である。
「それは新しい壺かい? 綺麗だねえ。お前がくれた壺、女の生首を生けて飾ってあるよ俺の部屋に」
見た目はただの優男だが、とんでもないことをサラッと言うあたりはやはり鬼であった。
「あれは首を生けるものではない…。だがそれもまたいい」
「そうだ。今度うちに遊びにおいで!」
なれなれしい口調そのままに玉壺を誘う童磨。と、
「どかせ」
猗窩座が口を開いた。
「ん?」
「腕をどかせ」
そしてそのまま猗窩座が童磨に裏拳を入れた。その威力は童磨の顎を吹き飛ばす。その光景に半天狗がまた怯えるものの、
「うーん、いい拳だ! 前よりも少し強くなったかな? 猗窩座殿」
童磨にはまるで効いていなかった。その事実、そしてそのいささかも変わらないなれなれしい口調に猗窩座が青筋を立てる。
「上弦の壱様は最初に御呼びしました。ずっとそこにいらっしゃいますよ」
そんな二人を諫めるため…というわけでもないだろうが、猗窩座が琵琶女と称した琵琶の奏人がそう告げた。
「!」
その言葉に猗窩座が目をみはる。と、
「私は…ここにいる」
とある場所に正座したままの後ろ姿がそこにあった。上弦の壱…十二鬼月で最高位に位する存在、『黒死牢』であった。そして、
「無惨様が…御見えだ…」
その言葉を言い終わるか終わらぬかと同時に無惨が現れたのだった。彼らがいる場所とは重力を正反対にし、彼らからしてみれば天井の部分を床にして何かの実験をしながら。そして無惨が何かを伝えるために口を開こうとする。が、その目の隅に不意に何かが留まった。そして、その留まった何かに焦点を合わせる。その焦点が合わさった時、無惨の表情がこの上なく不快に歪んだのだった。
何故ならそこには、自分が招集をかけていない者…死んだ上弦の陸である妓夫太郎・堕姫を除いた上弦の鬼以外の存在があったからである。
「貴様…」
その存在に向かい、無惨が口を開いた。当然、上弦の鬼たちも何事かと一斉にそこに目を向ける。そして同じく、その存在を目の当たりにしたのだった。それと同時に、自分たちが何も感じ取れなかったことに童磨と半天狗以外の鬼は驚きを隠せなかった。
「貴様…何者だ?」
その存在に、心底不快極まりないといった口調と表情で無惨が尋ねる。と、
「ぬっけちゃんでーっす!」
その人物…間抜作が手を挙げ、いつものように元気に答えた。そう、あの空間で眠っていて、そして平然とこの場に現れたのは間抜作…怪盗とんちんかんのリーダーであった。
「……」
そんな抜作に無惨はそれ以上興味を示さず、鬱陶しそうに指を弾いた。直後、抜作の身体が中央で縦に真っ二つに切断される。
「ひいっ!」
その様を見て半天狗がいつものように悲鳴を上げてガタガタ震えた。が、他の上弦の鬼たちは別段何の反応も示さない。無惨もそれ以上気にすることなく本題に入ろうとする。が、
「いや~…」
予期せぬその声に無惨をはじめ、上弦の鬼たちの動きも止まった。そして再び目をやると、そこには何もなかったかのように平然としている抜作の姿があった。
「全く…いきなりご挨拶ですねぇ。先輩に対する礼儀ってものがないんですか?」
同じ週刊少年誌の紙面を飾っていたものとして、先輩から後輩への諫言である。だが勿論、そんなことが無惨にも上弦の鬼たちにもわかろうはずもない。
「貴様…何故生きている」
間違いなく殺したはずの相手が平然と生きているその様子に、無惨が先ほどとは比べ物にならないほどの不愉快そうな表情へと表情を変貌させた。
「はっはっはっ、先輩の貫禄というやつです」
「ふざけるな!」
平然と生きていて、その上で茶化すような返答をされた無惨が怒気を孕ませて怒鳴った。『変化』を嫌う無惨にとっては殺したはずなのに死んでいない抜作の存在はうらやむべきものであるはずだが、今の表情からはそんな感情は微塵も読み取れない。あるいは羨望よりも、自分の思い通りにいかなかったことに対して腹立たしいのかもしれない。だが、抜作にそんな『常識』が通用するわけはない。
「まったく、怒りっぽいですねぇ。もう少し落ち着きを持ったらどうです? そんなだからネット上で歩く地雷原とかパワハラ会議なんて散々なあだ名が付くんですよ」
「貴様ッ!」
抜作としては忠告のつもりだったが無惨としては侮辱されているように感じたのだろう。言っていることの意味自体はまるでわからないものの、憤懣やるかたないといった表情で抜作を睨みつけた。そして、
「殺せ!」
集合した上弦の鬼たちに、忌々しげな表情でそう命令したのだった。無惨の命令を受け、上弦の鬼たちが抜作へと向かう。
普通ならば絶望でしかない状況であるのだが、そんな状況下でも抜作は軽快にスキップを踏んで楽しんでいるのであった。そして…
「あー、面白かった♪」
実に満足げな表情(とはいえ、抜作は表情の変化に乏しいのでパッと見では簡単にはわからないのだが)で抜作が無限城を後にする。その最中、抜作は一度だけ後ろを振り返った。その視線の先では、鬼殺隊の面々が見たら信じられないような光景が広がっていた。そしてその光景を作った張本人である抜作はというと、
「スキップ、スキップ、ランランラン♪ スキップ、スキップ、ランランラン♪」
何も気にする様子もなく平然と、そして軽やかにスキップを踏みながら無限城を後にしたのだった。