無惨様でも敵わない   作: ノーリ

3 / 3
下編です。一応、完結編となります。

二期は年内に放送開始とのことだったのでてっきり冬クールの頭からかと思ったら、本編自体は12月からの開始ということで予想が外れました。なので、それまでのつなぎにでもなってくれたら幸いです。

では、どうぞ。


下 無限城にて ~あのとき何が起こったか~

無限城。

抜作が産屋敷邸を訪れてかつての教え子を救い、その去り際に言ったセリフがあった。

 

『四番目と五番目は単行本を読んでこの時点で退場してることがわかってたんで適当にあしらっておきましたけど、三から上の方たちとはちょっと遊んできました。みんな誰かしらに因縁があるから排除はしなかったですけど、程度の差はあれ心はへし折っておきましたんで、実際に戦うときには少しは楽になるはずですよ』

 

このセリフはどういう意味だったのか。暫し時を戻し、あのとき無限城で何があったのかを詳らかにしよう。

 

 

 

 

 

「殺せ!」

 

無惨の命令により抜作に歩み寄る上弦の鬼たち。しかし、抜作はまるで動じる気配はない。

 

「ふー…」

 

スキップを終わらせて額に滲んだ汗を拭うと、当然のように何もないところからあるものを取り出した。それは抜作の古巣である『週刊少年ジャンプ』である。但しそれは最新号ではない。抜作が活動していた当時の週刊少年ジャンプだった。そう、俗にジャンプ黄金時代と言われたときの週刊少年ジャンプだった。抜作は手にしたそのジャンプを無造作に開き、その開いた紙面の方を上弦の鬼たちに向ける。

 

『???』

 

抜作の意図がわからない上弦の鬼たちが警戒しつつも首を傾げた。と、次の瞬間、抜作がその場に沈んでいく。足元は普通の床だというのに、まるで底なし沼にでも吞まれるかのようだった。

 

「!」

 

逃がすかとばかりに上弦の参、猗窩座が一瞬で距離を詰めて自慢の拳打をお見舞いする。が、紙一重でその拳は抜作を捉えることができなかった。

 

「チッ!」

 

忌々しげに舌打ちすると猗窩座が周囲に視線を巡らせる。

 

「どこだ、アホ面!」

 

威嚇するように猗窩座が唸るが、抜作の姿はどこにも見えない。

 

「どこ行っちゃったのかねぇ、あの人」

「面妖な…」

 

上弦の弐、童磨と同じく上弦の壱、黒死牢が視線を周囲に巡らせる。と、

 

「なっ、なっ、ななななな!」

 

突然妙な声が聞こえてきた。無惨をはじめ、上弦の鬼たちがその声の発生源に視線を送ると、そこには上弦の伍、玉壺の姿があったのだがしかし、普通の状態ではなかった。玉壺は吸われていたのだ。まるで掃除機に吸い取られるかのように。そしてその吸い取っている掃除機に当たるものこそ先ほど抜作が開いていたジャンプだった。そう、抜作は今、玉壺のすぐ近くにいたのである。

 

「お、お、おおおおお!」

 

そして抵抗したものの敵わず、玉壺はそのままジャンプの中へと吸い込まれたのだった。

 

「な!」

「へぇ…」

 

黒死牢が驚き、童磨は楽しそうにしている中、

 

「貴様ぁ!」

 

猗窩座が先ほどと同じように抜作に迫る。が、

 

「はっはっはっ」

 

抜作は笑いながら先ほどと同じ要領で消えたのだった。そしてまた直後、

 

「ひ、ひええええええっ!」

 

同じような妙な声が聞こえてきた。そこに視線を向けると、今度は上弦の肆、半天狗が先ほどの玉壺と同じようにジャンプに吸い込まれようとしていたのだった。

 

「お、おた、おた、お助け~っ!」

 

半天狗がらしく助けを求めるものの、まるでブラックホールを思わせるかのようなジャンプの吸引力に抗うことはできず、玉壺と同じようにジャンプの中に吸い込まれてしまったのだった。

 

「これでよし、と」

 

上弦の肆と伍をジャンプの中に閉じ込めた抜作が満足そうに呟く。

 

「作中では、私が産屋敷くんのところに出向くタイミングではこの二人は既に退場していますからねぇ。史実通りこの二人の処理はあの二人と他の皆さんにお任せするので、私が今相手をするわけにはいかないんですよ。ですので、私の同期の皆さん方と暫く遊んでいてください」

 

そして抜作はそのジャンプを投げ捨てる。そして当然のように投げ捨てられたジャンプはどこかへと消えたのだった。

 

「貴様…っ!」

 

そんな抜作に猗窩座は獰猛な唸り声をあげ、

 

「面白いことをするね…」

「斬る」

 

童磨は童磨らしくニヤニヤヘラヘラと笑い、黒死牢は刀に手をかけた。そして、

 

「ッ!」

 

無惨もこれまた無惨らしく猗窩座よりもブチぎれていたのだった。

 

「ゴミクズがっ!」

「はっはっはっ、本当に先輩に対する礼儀がなってませんねぇ」

 

人差し指を立てるとそれを左右に揺らしながら、チッチッチッと舌打ちする抜作。その態度、そして物言いがまた無惨の癇に触ったのだった。

 

「何をしている! とっとと殺せ!」

「おっと、そうはいきませんよ」

 

そう言うと抜作は無惨たちに尻を向けた。そう、あの往年のいきなり尻見せのポーズである。が、ズボンは脱がない。そして、

 

「ターイムストーッ」

 

とまで言った後、『プッ』と屁をこいた。直後、無惨たちが凍り付いたように固まってしまう。その中には当然、鳴女の姿もあった。そんな中、

 

「無惨さま!」

 

猗窩座だけは自由に動けていた。

 

「さて、お楽しみの時間です」

 

そんな猗窩座に抜作がそう語りかける。抜作に振り返った猗窩座は獰猛さを増した表情で抜作を睨んだのであった。

 

 

 

 

 

無限城にて、今二人の戦士が戦っていた。一人は上弦の参、猗窩座。上弦の中でも参の位を与えられた強者である。事実、少し前には炎柱である煉獄杏寿郎を葬り去った実力の持ち主だった。しかし、

 

「がはっ!」

 

その猗窩座は今、弾き飛ばされて地に伏していた。

 

(バカな!)

 

その事実を認められず、すぐさま相手に飛び掛かる。が、

 

「フン」

 

つまらなそうにその攻撃を受け止められ、そして、

 

「ぬるいわ」

 

嘲笑するようにそう言われ、再び攻撃を食らって吹き飛ばされたのだった。

 

(えー、あの猗窩座殿が?)

(バカな…)

(な、なんだこれは…。私は悪い夢でも見ているのか?)

 

その猗窩座の姿に童磨、黒死牢、無惨が信じられないとばかりに驚いていた。彼ら三人は抜作のタイムストップにより動けなくなっているが意識はあるため、この猗窩座の惨状をまざまざと見せつけられることになったのだった。そして猗窩座を含めた四人が愕然としている大きな理由はその相手にあった。女だからである。しかも年頃の妙齢の乙女ではない、顔に皺があり、白髪も生えている老人だったからだ。

 

「なんじゃ、もう終わりか?」

 

その老人が揶揄するように猗窩座を挑発する。

 

「ふざけるな!」

 

挑発に乗った猗窩座が飛び掛かるものの、

 

「単調な攻撃じゃのお」

 

全て受け止められ、そして先ほどまでと同じように攻撃を食らって吹き飛んだのだった。

 

「いや~」

 

その二人の戦いの様子を、これまた少し離れたところで見ている人物がいた。言うまでもなく抜作である。そして抜作は猗窩座を手玉に取っているその老人の強さに改めて感嘆していた。

 

「さすが大家さん。相変わらずとんでもない強さですねぇ」

 

抜作がうんうんと頷く。そう、今猗窩座を相手にしているのはついでにとんちんかん誌上での最強キャラである大家の婆さんだったのだ。と、

 

「こりゃ、抜作さん!」

 

大家の婆さんが鷹のような鋭い眼光で抜作に振り返った。

 

「はっ、はいぃ!」

 

抜作がビビり声を出す。ついでにとんちんかん作中では無敵で傍若無人な抜作だが、唯一と言っていい弱点がこの大家の婆さんなのだ。そんな人物に睨まれ、いつもの態度はどこへやら。抜作は委縮するしかなかった。と、

 

「あんた、年寄りに働かせておきながら、自分はこたつにみかんとはどういう了見じゃ!」

 

大家の婆さんが抜作を詰問した。その言葉通り、抜作は無限城内にこたつを設え、それに入ってみかんを剝きながらゆっくりと猗窩座と大家の婆さんの戦いを見物していたのだ。もう一つ加えると湯呑みに日本茶も入っていたりする。

 

「ま、まあまあ」

 

抜作が震えながらも大家の婆さんを宥めた。

 

「ちゃんとギャラはお支払いしますから」

「当たり前じゃ。ただ働きなんぞさせようものなら、向こう一年分の家賃を前払いしてもらうぞ」

「ひええ、お許しを…」

 

胸の前で手を組んで必死に許しを請う抜作。その姿に毒気が抜かれたのか、大家の婆さんはフンと鼻を鳴らして再び猗窩座に相対した。

 

「全く、色つやの悪い肌とセンスのない格好じゃ。気色悪いのう」

「何だと、ババぁ!」

「おうおう、いっちょ前に吠えよるか。だが、その婆ぁに手も足も出んお前さんはどうなんじゃ? なっさけないのう」

「殺す!」

 

猗窩座が怒気と殺気を漲らせながら構えた。

 

「血鬼術、空式!」

 

そして己の血鬼術である『破壊殺』の一つ、空式を展開する。直後に衝撃波の大軍が大家の婆さんを襲った。衝撃波という見えないものであり、尚且つ猗窩座の技量の高さから、並の人間ならば何が起こったかわからずに死ぬ攻撃である。が、

 

「遅い遅い!」

 

大家の婆さんは苦も無くその全てをかわしていた。作中最強に加え、ギャグ補正がかかっているがゆえのこの結果である。だが、猗窩座も攻撃の手を緩めるわけはない。

 

「乱式!」

 

とてつもない速さで大家の婆さんの懐に入ると猗窩座はこれまた目にも見えないほどの拳打を繰り出す。そうしながら、

 

「脚式!」

 

当然、蹴り技も忘れない。

 

「飛遊星千輪!」

「流閃群光!」

 

大技を乱発する。だがどれもこれも大家の婆さんの身体を捉えることはできなかった。

 

「くそっ!」

 

全ての技が不発に終わったことに歯噛みしながら猗窩座が距離を取った。

 

「何故だ! 何故攻撃が当たらないんだ!?」

「年季の違いじゃよ。お前さんのごときヒヨッ子の攻撃に、わしが当たるわけないじゃろうが。わしを舐めるなよ」

「ババぁッ!」

 

挑発に怒気を孕ませる猗窩座。だが、大家の婆さんは微塵ほどもたじろがない。年季という意味では実際は猗窩座は大家の婆さんの何倍も生きているのだが、知らないのだからそれは意味をなさなかった。

 

「殺す!」

「面白い。やってみろ、若造」

 

怒りと憎しみに満ちた猗窩座に対し、挑発しつつもどことなく楽しそうに大家の婆さんが答えた。そして、

 

「血鬼術」

 

再び己の血鬼術、破壊殺を展開する。だが、今回は大家の婆さんも違っていた。

 

「何なのか知らんが、さっきの攻撃は少し楽しませてもらったの。じゃがな、わしも気合いでは負けんぞ!」

 

そして拳を握ると呼吸を整え、猗窩座と同じように構える。練り上げられた気合いが大家の婆さんを包み、オーラのように形を成す。

 

(な、何だ!?)

 

そのことに内心で戸惑う猗窩座。自分の使う血鬼術とは別物だということはわかる。鬼殺隊が使用する呼吸と違うのもわかる。だがそれでも、大家の婆さんの戦闘力が高まっているのが猗窩座は肌で感じ取れたのだった。と、

 

「ほれ、どうした」

 

大家の婆さんが不敵に微笑んだ。

 

「用意ができたのならかかってこんか」

「くっ! うおおおおっ!」

 

大家の婆さんの挑発に乗った猗窩座が大家の婆さんに向かって飛び掛かる。

 

「砕式! 万葉閃柳! 鬼芯八重芯!」

 

大技を繰り出す。だが大家の婆さんは万葉閃柳は回避し、鬼芯八重芯は受け流したのだった。

 

(バカな!)

 

そのことに驚きを隠せない猗窩座だったが、勝負はまだ終わっていない。ここで躊躇したら勝てるわけがないのは本能でわかっていた。

 

「滅式!」

 

それ故に絶技である滅式を放つ。炎柱であった煉獄杏寿郎の生命を奪った技だ。ここまでして負けるわけはない。猗窩座はそう考えていたが、その想いは無残にも砕かれる。

 

「ふん!」

 

大家の婆さんが腕を交差させ、猗窩座の絶技である滅式を受け止めたからだ。

 

(何ッ!?)

 

そのことに驚きを隠せない猗窩座だったが、こうなってしまった以上は押し切るしかない。身体をブーストさせてさらに圧力をかける。が、

 

「おおおおおおおっ!」

 

大家の婆さんの裂帛の気合がそれすらも受け止めてしまっていた。圧力を加えているからジリジリと下がってはいるものの、吹き飛ばす、あるいは生命を刈り取る域にまでは達しないのが猗窩座にはわかってしまった。

 

(こ、こんな、こんなバカなことが!)

 

その事実を認められず愕然とする猗窩座。そしてその隙を、大家の婆さんは見逃さなかった。

 

「隙ありじゃ!」

 

防御を解いた大家の婆さんが猗窩座のその腕を取る。そして、

 

「吹き飛べ!」

 

そのまま一本背負いの要領でぶん投げたのだった。

 

「うおおおおっ!?」

 

ぶん投げられた猗窩座は何とか態勢を整えて着地する。が、

 

「これで終わりじゃ!」

 

その声に猗窩座が顔を上げると大家の婆さんが眼前で拳を振りかぶっていた。そして、

 

「中々楽しませてもらったぞ」

 

年甲斐もないイイ笑顔を猗窩座に見せると、大家の婆さんはその拳を猗窩座の顔面にぶち込んだのだった。

 

(猗窩座!)

(猗窩座!)

(猗窩座殿!?)

 

無惨、黒死牢、童磨がその結果に驚きを隠せないが、現実は非常である。猗窩座はそのまま無限城の壁面にしこたま叩きつけられ、そして気を失ってしまったのだった。

 

「フン」

 

猗窩座を退けた大家の婆さんは楽しそうな顔を収めると両手首をプラプラとさせて戦闘モードを解除する。そしてそのまま抜作のところへと向かった。

 

「抜作さん、こんなもんでええか?」

「はい。十分です」

 

こたつから出ると抜作は懐から一枚の封筒を大家の婆さんに差し出した。大家の婆さんはそれを乱暴にひったくると、すぐさま中身を確認する。そこには今回のギャラ…とある高級温泉宿の宿泊券が入っていた。

 

「確かに」

 

中身を確認した大家の婆さんがそれを懐にしまう。

 

「いやあ、助かりました」

「全く…こんなのは今回限りじゃぞ?」

「わかってます」

 

釘を刺された抜作が大家の婆さんに頭を下げる。

 

「それと…抜作さん」

「はい?」

「たまにはこっちにも戻ってきんさい。皆、あんたの顔を見たがっとるぞ」

「そーですか。では、そのうち」

「ああ、待っとるぞ。それじゃ、わしはこれで」

「どーもありがとうございました」

 

抜作が再度頭を下げると、パンパンと手を鳴らす。すると、突如マイクロブラックホールみたいなものが大家の婆さんの眼前に現れた。だが大家の婆さんは眉一つ動かさずにその中に入っていき、そして大家の婆さんを飲み込んだ後、そのマイクロブラックホールみたいなものも消えたのだった。

 

「さて…」

 

大家の婆さんを見送った抜作が動き出す。童磨はともかく、無惨、黒死牢はまだ猗窩座の敗北を信じられずにいたが、三人がそんな状態であるなど知る由もなく、抜作はいつもの小走りで猗窩座の許へと向かったのだった。

 

「……」

 

猗窩座はまだ気を失い、ぐったりと伸びている。

 

「勝負は付きましたので、あなたも暫く大人しくしててくださいね」

 

その言葉と共に、抜作はあるものを取り出した。それは御札の張ってある電子ジャーである。その蓋を開けると、猗窩座はその中に吸い込まれたのだった。先ほどの半天狗、玉壺と同じように。

 

「よし…と」

 

猗窩座を吸い込んだ電子ジャーの蓋を閉めると、抜作はそれを投げ捨てる。すると電子ジャーは当然のようにその場から消えたのだった。

 

「古くはピッ〇ロ大魔王も封印されていた由緒正しい牢獄です。こちらの片が付くまではその中で大人しくしててくださいね」

 

腕を組み、うんうんと頷く抜作。そしてくるりと振り返った。その視線の先には残った三人、無惨、黒死牢、童磨の姿があった。

 

(うわぁ、滅茶苦茶だなぁ)

(面妖な…。実に面妖な…)

(何だと…何だというのだ、あのアホ面は!)

 

自分たちに向けられる視線に三者三様の感想を抱く三人。と、

 

「さて、次はあなたです」

 

抜作がそう言ってビシッと指を指したのは上弦の弐、童磨だった。最初が上弦の参の猗窩座だったので、序列通りと言えば序列通りである。と、直後に童磨の身体が自由を取り戻したのだった。

 

「お」

 

首をグルグル回したり、腕をブンブン回したりして見えない拘束から解除されたことを確認する童磨。それ自体はありがたいのだが、

 

(うわぁ、やりたくないなぁ…)

 

それが偽らざる童磨の本心だった。目の前で猗窩座がまさかの敗北を喫したのを見てしまった童磨は、抜作が尋常ならざる存在であることを何となく感じ取っていた。だからこそ、できればやりあいたくないのが正直なところなのである。

 

(でもねぇ…)

 

童磨がチラッと無惨と黒死牢に視線を向ける。この二人が見ているのに逃亡などできるわけもない。特に無惨からは、そんな真似をしたら容赦なく殺すとのテレパシーが送られてきているのだった。

 

(はぁ…)

 

内心で溜め息をつきながらもどうすることもできず、童磨はイヤイヤながら抜作の元へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

(えぇ…)

 

童磨は今地に伏していた。何故か、それは劣勢だからである。上弦の弐である自分がこんな目に遭うとは思ってもいなかった。だがそれ以上に、

 

(一体何なんだ、この子は)

 

目の前の、自分をこんな状態に追い込んだ存在に対して愕然としていた。何故ならそこにいるのは年端もいかない少女だったからである。そしてもう一つ愕然とさせられた事実があった。それは、

 

(何故、食えない?)

 

これだった。どこからどう見ても年端もいかないただの女の子なのに、食えないのである。何をどうしても食えなかったのだ。その理由がわからず童磨が頭を捻っていると、

 

「もっとあそぼ!」

 

その少女が童磨の許に何の警戒もなく近寄ってきたのだった。身長はそれほど高くなく、紫色のストレートヘアー。キャップをかぶり、眼鏡をかけて天真爛漫に笑う。

その少女…名前を『則巻アラレ』というのだった。

 

 

 

「いや~…」

 

先ほどと同じくこたつに入ってみかんを食べながら、抜作がその光景を見て感心していた。

 

「性格はアレですけど、千兵衛さんは本当に天才ですねぇ」

 

みかんを食べる合間に日本茶を嗜みながら、抜作がしみじみとそう呟いたのだった。コミック読破という予習のおかげで童磨が特に女性に執着するタチであるのはわかっていた。それゆえの今回の『助っ人』である。そして、抜作がアラレを助っ人に選んだ理由はもう一つ。

 

「粉凍り」

 

童磨が己の血鬼術を発動させる。だが、

 

「ほよ?」

 

アラレは首を傾げるだけで全く変化がない。

 

(何で効かないんだ?)

 

そのことが童磨を混乱させる。そしてこれこそが抜作がアラレを童磨との戦いの助っ人に選んだもう一つの理由だった。

童磨の血鬼術は氷をベースにしたものであり、普通の人間では容易に太刀打ちできる代物ではない。温度の低下により直接的な身体の機能を奪われてしまうのだ。では、身体の機能を奪われない存在であればどうだろう。抜作はそう思ったのである。唯一心配だったのが、やはり温度変化によってアラレが文字通り『機能停止』してしまうことだったが、

 

「きゃはははは!」

 

童磨の血鬼術も扇もものともせず、アラレは笑っていた。そして、

 

「どごーん!」

 

と、正拳突きを見舞う。それを食らった童磨は、派手に吹っ飛んだのだった。

 

(ギャラ〇ティカマグナムですね)

 

そんな感想を浮かべながら、童磨の動向を見る抜作。派手に吹っ飛んだものの流石は上弦の弐だけあり、それなりのダメージは食らっていたようだがすぐに回復したのだった。

 

「参ったなァ、こりゃ…」

 

童磨がどうしたものかと首を捻る。ここまで少ししかやりあっていないものの、己の血鬼術が効かない。自慢の扇も傷を与えられない。そして何より食うことができないと八方塞がりの状態であった。かと言って、無惨と黒死牢の監視は今もなお続いている。そういう意味では逃亡もできない。

 

(ホントに八方塞がりだなぁ)

 

どうやってこの難局を切り抜けようかと考えた童磨だったが、とりあえず己の血鬼術を次々に駆使することにした。

 

「蓮葉氷」

「蔓蓮華」

「枯園垂り」

「凍て曇」

「寒烈の白姫」

「冬ざれ氷柱」

「散り蓮華」

 

タイミングも攻撃範囲も威力も何もあったもんじゃない、ただの血鬼術の重ね掛けでアラレを襲う。しかし当のアラレは、

 

「ほよ?」

 

周囲が氷景色になったことに首を傾げたものの、すぐに、

 

「すごいすごーい!」

 

と、ジャンプを繰り返しながら喜んだのだ。勿論、血鬼術は何一つ効かない。温度低下によって機械が凍る、固まることを危惧した抜作ではあったが、その心配は全くなかった。そのことも、千兵衛は天才という先ほどの発言に繋がるのである。

 

(やっぱりかぁ…)

 

表面には出さないものの、童磨が内心でガックリと肩を下ろす。それに追い打ちをかけるように、

 

「きーん!」

 

両手を横に伸ばしたいつものポーズでアラレが童磨へと突っ込んだ。その速度は、流石の上弦の弐といえども捉えることはできず、そして、

 

「がはっ!」

 

交通事故よろしく童磨はそのまま真上に吹き飛ばされたのである。

 

「いや~、ホント心強いですねぇ」

 

アラレの働きぶりに感心する抜作。一方で、

 

(バカな…あのような…あのような童が童磨を圧倒しているだと?)

(先ほどのババぁといい、今のこのガキといい、何が起こっているというのだ! どういうことなんだ!?)

 

再び見せつけられる信じられない光景に、黒死牢と無惨は理解が追い付かなかった。童磨は自分たちより弱いとはいえ、それでも『上弦の弐』に位置する存在である。その童磨が、どう見てもただの少女に手も足も出ないのだ。理解が追い付かないのは仕方がないことだった。

 

ギャグマンガ補正・ジャンプ黄金時代を作った先輩の力・アラレが実はロボットであること

 

これらの強力な手札の存在など知らないので、こうなるのも必然であった。一言で言えば、『相手が悪すぎた』のである。鬼滅がいくら人気作品でも、大いなる先達に一人で立ち向かうのは分が悪すぎたのであった。と、

 

「念のため、そろそろこれを渡しておきますか」

 

抜作がこたつから出ると、ズボンのポケットからあるものを取り出した。それは哺乳瓶である。そしてその中には、勿論アレが入っていた。

 

「アラレちゃーん」

 

抜作がアラレに声をかける。

 

「ほよ?」

 

振り返ったアラレに、抜作がその哺乳瓶を投げた。

 

「せんせー、ありがとー!」

 

キャッチすると礼を言い、それを飲む。その中身はアラレのエネルギー源である、『ロボビタンA』であった。

 

「ぷはーっ!」

 

飲み干したアラレが満足そうに口元を拭うと、哺乳瓶を捨てる。それと前後して、

 

「うぅ…」

 

童磨が再び立ち上がった。身体は先ほどまでと同様変化はないが、流石にきついのか頭を抑えながらフラフラしている。そんな童磨に対してアラレは大きく息を吸い込んだ。

 

「お、アレが出ますか」

 

生で見るのは久しぶりですねぇ、そんなことを抜作が思った直後、

 

「んちゃーっ!」

 

アラレの口から大音量の挨拶と共にビームが放たれたのである。アラレの一番の大技である『んちゃ砲』であった。

 

「へ?」

 

未だ定まっていない視点を戻そうとする童磨。だが、そうする間もなくんちゃ砲によって童磨の胴体部分の八割が吹き飛んだのだった。そして童磨の身体を吹き飛ばした後もんちゃ砲の威力は衰えることなく、そのまま無限城の一角を崩壊させたのだった。

 

((!?!?!?))

 

またも自分たちの理解の追いつかない状況に黒死牢と無惨は目を白黒させる。童磨は童磨で胴体の大部分をごっそり持っていかれたので流石に簡単に回復することはできず、半死半生でどうすることもできない状態になっていた。

 

「ふむ」

 

その状況を確認した抜作が、いつもの小走りでアラレの許へと向かった。

 

「アラレちゃん」

「あ、せんせー」

 

んちゃ! という挨拶に、同じようにんちゃ! と答える抜作。

 

「ありがとうございました。もーいいですよ」

「そーなの?」

 

アラレが首を捻った。

 

「ええ」

「アラレ、もうちょっと遊びたかったなー」

 

不満…というわけではないが、それでも持て余し気味にアラレがそう呟いた。

 

「はっはっはっ、相変わらずお元気ですねぇ」

「うん!」

 

満面の笑みでアラレが答える。

 

「まあ、今日のところはこの辺で。近く、ペンギン村にも顔を出しますから」

「ホント!?」

 

アラレの顔がパアッと輝いた。

 

「ええ」

「わかった。それじゃ、今日は帰るね」

「ありがとうございます。千兵衛さんたちにもよろしく」

「ほーい!」

 

いつものように元気に手を挙げると、アラレは再びきーんで、今度はその場を走り去ったのだった。

 

「ああ、行っちゃいました…。この世界にはペンギン村はないのに。仕方ないですねぇ」

 

やれやれと溜め息をつきながら抜作がパンパンと手を叩く。と、アラレの身体が発光して薄くなり、次の瞬間にはその場から消え去ってしまったのだった。

 

「さてと」

 

アラレを見送った抜作がそのまま小走りで童磨の許へと駆け寄る。身体は再生を続けているものの、それでも今までの疲労が蓄積しているからか、平時に比べたら明らかに再生速度が遅かった。

 

「やあ」

 

そんな状態の童磨の眼前に現れた抜作に、童磨がいつもの感情のまるでこもってない笑みを浮かべて挨拶をする。

 

「何者なんだい、あの子?」

 

そして抜作に尋ねた。

 

「同じ釜の飯を食った同士であり、心強い助っ人ですよ」

 

それに対し抜作が答える。が、童磨はその回答が不満だった。間違ったことは言っていないのはわかるが、有益な情報とはとてもではないが言えないからである。

 

「いや、そういうんじゃなくって「それよりも」」

 

童磨が文句を言っている途中で、抜作がずぬーと童磨に顔を寄せた。

 

「な、何?」

 

いきなり抜作の顔がどアップになったことで、童磨は思わず引いてしまっていた。

 

「その様子じゃもう何もできないでしょうし、しばらく大人しくしててください」

「え? へ?」

 

どういう意味だろうと思った童磨を抜作が掴むと、そのまま童磨を自分の口の中に放り込んだのだった。

 

「えええええっ!?」

 

まさか食われると思わなかった童磨が悲鳴とも驚きともつかない声を上げ、それが童磨の末期の声となった。童磨を平らげた抜作は口を抑えるとげふっと一発軽くげっぷをする。

 

「ああ、安心してください。用事が終わったら出しますので」

 

そして自分の腹をさすりながらその腹に言い聞かせるように語り掛けたのだった。その光景を目の当たりにさせられた無惨と黒死牢は、もう何度目になるかわからない衝撃に愕然とするしかなかった。

 

(お、お、鬼を…上弦の鬼を喰っただと!?)

(化け物め…)

 

無惨と黒死牢は目の前の光景が未だに信じられない。その視線の先にいる抜作が二人に尻を向ける。そして、

 

「ぷっ」

 

と屁をこいた。直後、無惨と黒死牢の身体の自由が利くようになる。

 

「ッ!」

「……」

 

拘束から逃れられたことに無惨は忌々しげな表情になり、黒死牢は不機嫌な表情になった。両者とも、身体の自由を無理やり奪われたことと自分の力でその拘束を解除できなかったことに激しい不快感と嫌悪感を抱いているのだろう。と、

 

「さあ、最後はあなたたちです」

 

抜作がそんな二人…鬼の始祖、無惨と最強である上弦の壱、黒死牢にそう宣告したのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」

 

無限城にて無惨と黒死牢が両膝と手をついて肩で息をしていた。俗に言う【○| ̄|_】←このポーズである。そしてその額には汗が滲んでいた。まあ鬼殺隊であろうが柱であろうがお目にかかれない体勢である。一方で抜作はというと、

 

「ヤーッホー、ホトゥラララ! ヤッホ、ホトゥラララ…ヤッホ、ホトゥラララ…ヤッホ、ホトゥラララ…」

 

高らかにおおブ○ネリを歌いながら軽やかにスキップを踏んでいたりする。誰が見ても絶好調なのが手に取るようにわかった。

 

「くっ!」

 

そんな、一切様子の変わらない抜作に無惨が忌々しい表情を向ける。

 

「何なのだ、貴様は!」

 

そして立ち上がると抜作を怒鳴りつけた。

 

「は?」

 

抜作が歌とスキップを止めて軽く首を傾げた。

 

「何がでしょう?」

 

そんな抜作の問いに、

 

「何故だ、何故死なん!」

 

無惨はイラつきを隠せずにさらに詰め寄ったのだった。

 

「貴様…物の怪の類か…」

 

少し遅れて立ち上がった黒死牢も抜作を睨む。こちらは無惨のように感情を露にすることこそなかったが、イライラ度というか怒りの度合いでは無惨に勝るとも劣らなかった。だが、二人がこんな状態になっているのも無理はない。何故なら殺しても殺しても抜作が死なないからだ。

斬ろうが、裂こうが、叩こうが、捻じろうが、摺り潰そうが、血を注入しようが、何をやっても死なないのである。アクションを起こした次の瞬間には何事もなかったかのように復活していたのだ。無惨がブチ切れるのも当然と言えば当然と言えた。

 

「はっはっはっ、何を言ってるんですか」

 

だがそんな無惨たちの感情を逆撫でするかのように抜作が腕を組む。

 

「物の怪というならあなたたちの方がよっぽど近いじゃないですか。何せ、『鬼』なんですから。それに、太陽の光を浴びるか特殊な刀で首を斬られない限りは死なないあなたたちに、死なないことについてあーだこーだ言われたくはないですねぇ」

「! 貴様ぁ!」

「!」

 

挑発された(と感じた)無惨と黒死牢が再び抜作に襲い掛かる。しかし、今度は抜作もただで殺されはしなかった。何と、いきなり四人に分裂したのである。

 

「なっ!」

「!」

 

その光景に出足が止まってしまう無惨と黒死牢。だがそれも一瞬だった。

 

「ええい! 死ね!」

「月の呼吸…」

 

無惨と黒死牢が襲い掛かる。だが不思議なことに、今度はその攻撃は抜作を捉えることができなかった。そこに間違いなくいるのに、まるで煙や霞を攻撃しているかのように何の手ごたえもないのである。

 

(一体、一体こいつは…!)

(我ら以外にこのような存在がいたというのか…)

 

まるで手ごたえのない抜作たちに無惨と黒死牢はもう何度感じたかわからない愕然とした想いを再び感じていた。黒死牢に至っては自分の理解の範疇を超えた存在として、タイプこそ全く違うが弟である縁壱が浮かんだほどである。

 

「くっ!」

「っ!」

 

襲い掛かったはいいものの、全く手ごたえを得られなかったことに歯噛みして無惨と黒死牢が一度距離を取る。

 

「貴様、一体…」

 

歯噛みした無惨に、

 

「魂でーす!」

「背後霊でーす!」

「エクトプラズムでーす!」

 

四人のうちの三人の抜作が元気よく答え、そして、

 

『不気味トリオでーっす!』

 

と、口を揃えたのだった。そして次の瞬間、不気味トリオたちは抜作に襲い掛かる。

 

「く、苦しい…」

 

いきなり仲間割れしたその展開に無惨と黒死牢も呆然とするしかない。だが、それも一瞬のことだった。不気味トリオたちはすぐに本体の抜作を解放し、そして、

 

『うっ…うっ…』

 

先ほど無惨たちもしていた【○| ̄|_】のポーズになって涙を流していたのだった。

 

「平成の初めに連載が終わり、それから早や三十年以上…」

「ミラクルとんちんかんやオリジナルクエストはありましたが、再び元号が変わってやっと再登場できるとは…」

「たとえ無名の二次創作書きが書いた二束三文の二次創作でも、悔いはありません…」

 

(…無名の二次創作書きの書いた二束三文の二次創作で悪かったな、おい)

 

とまあ、メタい発言はこの辺りにして、不気味トリオはそのまま本体である抜作の中に戻ったのだった。

 

「貴様、今のは一体…」

「え? 自己紹介したじゃないですか。私の魂と背後霊とエクトプラズムですよ」

 

何事もなかったかのようにそういう抜作に、もう無惨と黒死牢はどう反応していいかわからなかった。

 

「それより、もう終わりですか?」

 

抜作が首を捻って尋ね、肩を竦めた。

 

「どれほどのものかと思ってたんですが、当てが外れましたか」

「何だと!?」

「我らを…愚弄するか…」

 

その抜作の一言に無惨と黒死牢が凄む。だが、抜作には全く変化がない。

 

「まあ、仕方ないですよ。いくら凄い作品でも、私たちと比較しては…」

「おのれ!」

「…斬る」

 

挑発に乗ったのか、それとも下に見られるのがどうしても許せなかったのか、再び無惨と黒死牢が抜作に襲い掛かった。しかし、結果は先ほどと全く変わらず。斬ろうが、裂こうが、叩こうが、捻じろうが、摺り潰そうが、血を注入しようが、何をやっても抜作は死ななかった。そして、

 

「ホルディア…ホルディヒヒヤ、ホルディクク…ホルディヒヒヤ、ホルディクク…ホルディヒヒヤ、ホルディクク…ホルディヒヒヤホー」

 

今度は音楽を『山のごち○う』に変えてやはり軽快にスキップを踏んでいたりする。先ほどとは歌が変わっただけで、それ以外は何も変化がない。それがまた無惨たちを愕然と、そして激怒させる。

 

「いやー、お二人とも強いですねぇ」

 

そんな中、抜作が急に無惨と黒死牢を誉めだした。とは言え、何度も挑んでいるのに全く殺せないターゲットにそう言われてもバカにされているとしか思えない。それがまた無惨と黒死牢を苛立たせる。特に無惨はその性格から、苛立ちが半端ではなかった。

 

「でも」

 

そんな無惨を更に挑発するかのように抜作が続ける。

 

「私の同期の方々に比べればまだまだ…」

「何だと!?」

「人外で言うなら先ほどのアラレちゃんをはじめ、サイヤ人の彼らとかⅮ・Sとか現代に復活した龍の騎士とかの方が上でしょうし、人間でも北斗の長兄とか男塾の塾長とか黄金の聖闘士とかはあなたたちより上かもしれませんねぇ。ま、彼らは人間と言ってもギリ人間ですけど。ああそれと、実際に戦えば間違いなくあなたたちが勝つでしょうけど、対峙したときの絶望感というか恐怖感というか迫力では奥羽の二子峠の主の方が上でしょうし、『鬼』っていう範疇だけで言うのなら兄弟誌でしたけど、月間の方で活躍していたあの赤き雷光の鬼神や黒き雷雲の闘神の方が上でしょうねぇ。もっとも、向こうはただの鬼じゃなくて鬼神。あなたがたは元々はただの人間ですから当然ですけど。…まあこんなこと言ってますが、実は赤き雷光の鬼神が活躍した作品と私とは連載時期は被ってないんですけどね」

「つくづく…我らを…侮辱するか…」

 

黒死牢も不快感を隠しきれない様子だった。

 

「まさか」

 

しかし抜作は首を左右に振る。

 

「ただ、あなたがた単体ではジャンプ黄金期を作った私の同期の方々にはとてもではないけど及ばないってことです。例えあなたがたが今、空前絶後の破竹の人気を獲得していてもね」

「人気だと?」

 

意味がわからず無惨が怪訝な表情をした。

 

「ああ、気にしないでください。こっちの話です」

 

抜作が言葉を濁す。言っても無惨たちには意味がわかるわけはないのだから仕方ない。

 

「それより、ついさっきも言いましたけどもう終わりでしょうか?」

「くっ!」

 

何をしても何もできないことに、ここにきて初めて焦りや恐怖を感じ始めた無惨が恥も外聞もなく己の身体を真っ二つにして解放した口で抜作を捕食したのだった。

 

「あああああ~」

 

喰われているというのに随分と余裕のある悲鳴を上げ、抜作は無惨の体内へと消えていった。

 

「身の程知らずめ…」

 

ようやく抜作を排除できたことに安堵する無惨。だが、それも一瞬だった。

 

「うっ!」

 

無惨が己の身体を抱きしめる。

 

「無惨様?」

 

黒死牢が怪訝な表情になって無惨の様子を窺う。と、黒死牢は信じられないものを目の当たりにすることになった。何と、無惨がガタガタと震え出したのだ。それだけでなく、顔色もいつも以上に青白かった。

 

「無惨様!」

 

黒死牢が再度無惨の名を呼ぶ。だが、今の無惨には黒死牢に構っている余裕などなかった。今の無惨を支配している想いはただ一つ。

 

(喰われる)

 

これだった。わかるのだ、抜作を捕食したのだが逆に己の細胞一つ一つが抜作に乗っ取られていくのが。

 

(喰われる、喰われる、喰われる!)

 

自身の身体を侵食していく抜作に恐怖を感じた無惨はまた身体を真っ二つにして口を解放する。そして、

 

「お…ご…う…え…」

 

己を侵食しようとしているものを吐き出したのだった。己の全てを総動員して吐き出していく。吐き出したそれはもはや原型などない黄色の液体になっていた。だがその液体の中から人の頭がぬーっと出てくる。そして胴体、足と姿を現し、手と片膝を地面に着いた抜作が一丁上がりだった。そして抜作は無惨に視線を向け、キリッと表情を引き締める(とはいえ、あの顔なので引き締めたところで引き締まりはしないのだが)と一言。

 

「暴飲暴食が過ぎたようだな、バッファ○ーマン」

 

だが、言われた無惨と黒死牢には当然何のことかわからない。しかし、そんな二人は放置して抜作が立ち上がる。

 

「本来ならここからネオキン肉○スター→キン肉○スターの流れなんですけど、残念ながら私にはできませんのでここまでで。まあ、キン肉○スターで叩きつけられるあなたの姿も見てみたかったですが。あるいは、全く関係なくなっちゃいますけど、真上にぶん投げてからの覇○流卍天牛○めとかでも良かったんですけどね」

「わけのわからんことを…」

 

ようやく乗っ取りの危機から立ち直ったのか、無惨が抜作を睨む。だが、実際はそれしかできないのが現状だったりする。

 

(おのれ!)

 

自分をもってしても何もできない、打つ手のない状況に無惨はこれまでの人生で味わったことのないほどの屈辱を味わっていた。

 

「貴様は…」

 

そこで無惨は現状をどうにかできないものかとアプローチを変えてみることにした。

 

「はい?」

「貴様の目的は、一体何だ?」

「目的ですか?」

 

尋ね返すようにそう口にすると、抜作は右手の指を三本立てた。

 

「三つあります」

「何だ」

「一つは先輩として後輩の視察。まあこれは割合としては二割程度のものですかね」

 

そして抜作が指を一本折る。

 

「一つは教え子のため」

「教え子だと?」

「ええ。産屋敷くん、知ってますよね?」

『!』

 

その名を聞き、無惨と黒死牢の雰囲気が剣呑なものになった。

 

「産屋敷くん、一時期私の教え子ったのでねぇ。教え子のために力を貸すのはおかしなことじゃないでしょう? でもま、これも割合としては三割程度のものです」

 

そして抜作がまた一本指を折った。残るは最後の一つ。そして、目的の半数の割合を占める要素。

 

「そして、これが一番大きな理由ですが…」

 

そこで、抜作は不意に巨大化して無惨たちに顔を近づけた。巨大化したと言ってもヌケゴンの半分ぐらいの大きさであるが。が、巨大化したこととあの顔に距離を詰められたことで無惨たちはたじろぐ。しかも、何故か抜作が泣いているのでますますわけがわからなくなった。と、

 

「あなたたち、人気があるみたいですね~」

 

無惨と黒死牢に顔を寄せながら抜作はそう詰め寄ったのだった。

 

「人気だと!?」

 

先ほども少し言われたが何のことかさっぱりわからない無惨は戸惑うしかない。が、抜作は流す涙を止めずに言葉を続けた。

 

「単行本の発行部数は総計で億を超え、アニメを作れば大ヒット。関連グッズは飛ぶように売れ、映画は興収四百億を突破。羨ましいですね~。そして」

 

そこで抜作の涙がピタッと止まり、

 

「呪わしいですね~」

 

声が幾分低音になった。

 

「私は単行本の刊行総数ではそう変わりませんが億などとても届かず、人気も広い世代には支持されず、アニメ化してもそれなりどころか大人たちから大なり小なり苦情がある始末。そんな立場からすれば、あなたたちには嫉妬しかありません」

 

そして抜作は幽霊のようになると無惨と黒死牢の周囲をまとわりつくように飛び回った。

 

「羨ましいですねぇ、憎らしいですねぇ、恨めしいですねぇ、呪わしいですねぇ、死んでくれませんかねぇ」

「ふざけるな!」

 

ここで無惨がキレた。

 

「貴様が何を言ってるかわからんが、私には関係ない! ただの八つ当たりだろうが!」

「そうですねぇ」

 

無惨の指摘に抜作が先ほどまでの状態に戻る。

 

「その通りですけど、八つ当たりの権化であるあなたに言われたくはないですねぇ」

「貴様ッ!」

 

無惨が憤怒の表情を露にする。黒死牢も刀を構えるが、先ほどまでのことがあるので何をやってもムダだろうとも思っていた。

 

(先ほど少しこの男が言っていたが、我らと相対した鬼狩りの連中もこんな心中だったのだろうな…)

 

遠い昔、自分が鬼狩りだったころのことを黒死牢は思い出していた。不死身の相手に対して戦いを挑むことの虚無感というか絶望感に黒死牢はそう思わざるを得なかったのだ。仕方のないこととはいえ、勝利の道筋がまるで見えないので心が折れてしまっていたのである。もっとも、自分ではそれに気づいてはいないが。

 

「というわけで、あなたがたのことが羨ましくて、憎らしくて、恨めしくて、呪わしいので、八つ当たりさせてもらいます」

「何!?」

 

そこで抜作は全身の力を抜いて棒立ちになると、肛門からジェット噴射を噴き上げて上空に飛びあがった。

 

「これは私や同期の方々とは全く関係ないですけど、中の人ネタです」

 

そう宣言する抜作。やはり何を言ってるのかさっぱりわからないが、無惨と黒死牢は抜作から目を離すことができなかった。

 

(あのアホ面、一体何をするつもりだ…)

(いざとなれば、無惨様だけでも御守りせねば…)

 

無惨と黒死牢がそう考えていると、抜作の両拳と胸の辺りが発光し始めた。ゆっくりと空中を自由に浮遊しながら抜作は両拳を突き合わせるように胸の前へ持ってくる。そして、

 

「冥王の力の前に、消え去っちゃいなさ~い♪」

 

その両拳を胸の前に付き合わせると抜作の胸には『天』の文字が浮かび、直後、無惨と黒死牢は意識を失ったのだった。

 

 

 

 

 

「あ…あ…あ…」

「う…ぐ…が…」

 

無限城にて、無惨と黒死牢が瀕死の状態になりながら地に伏していた。体組織のほとんどを失い、生きてるのが不思議な状態になっている。と、一仕事を終えた抜作が二人の前にゆっくりと降り立った。

 

「やあ、これはこれは…」

 

そして、無惨と黒死牢の状況に言葉を漏らす。

 

「こうなってもまだ生きてるとは、流石にしぶといですねぇ」

「……」

「……」

 

抜作にそう言われたものの、無惨も黒死牢も答えることはできない。答えられる状態ではないというのもあるのだがそれ以上に、

 

(逃げなくては…逃げなくては逃げなくては逃げなくては…)

(御守りせねば…御守りせねば御守りせねば御守りせねば…)

 

二人ともそれぞれの執着に囚われているからであった。無惨は縁壱以来の死の恐怖に怯え、黒死牢は何とか無惨だけでも逃そうとしていたのである。だが、体組織のほとんどを失った状態ではそれすら敵わない。

 

「さ~てと♪」

 

そんな二人に対し、抜作はこの場には全くそぐわない軽い口調でそう呟いた。そして、

 

「たっぷりと楽しんだことですし、それじゃ、そろそろ帰りますか♪」

 

そう告げると、無惨と黒死牢に背を向けたのであった。

 

((な!))

 

まさかこういう展開になるとは思ってもいなかった無惨と黒死牢が驚愕に彩られる。とは言え、この展開は無惨と黒死牢には願ったり叶ったりである。鬼の始祖と上弦の壱の立場であるのに情けないことだが、二人は抜作の気が変わらないでいることを祈った。が、

 

「ああ、そうそう」

 

何かを思い出した抜作がポンと手を叩くと、無惨たちに振り返る。その挙動に、無惨と黒死牢はビクッと身体を竦ませた。

 

「いずれ、産屋敷くんたちとの決戦の折にはまたお邪魔するかもしれませんので、そのときは宜しくお願いしますね♪」

 

ある意味、死刑宣告と言ってもいい宣言に無惨と黒死牢の思考が固まる。

 

「それじゃあ、とりあえず返すものはお返ししときますね」

 

抜作はそう答えると、まずは己の口の中に手を突っ込んだ。そして、体内から童磨を引きずり出すと近くに投げ捨てる。

次に、パンパンと柏手を叩くと少し上空に電子ジャーが現れ、重力に従って落ちてきた。抜作はそれをキャッチするとその蓋を開ける。直後、猗窩座が電子ジャーから弾き出された。

役目を終えたその電子ジャーを投げ捨てると、抜作は今度は近くの空間に手を突っ込む。空間が歪み、その歪んだ空間から戻ってきた抜作の手には往年の『週刊少年ジャンプ』が握られていた。それを無造作に開くと、開いた面を下にして上下に軽く振る。間を置かずして今度は半天狗と玉壺がジャンプの中から吐き出された。

 

「お、お、怖ろしい怖ろしい…何故ただの人間が空を飛べる。それに手から出していたあの光の玉は一体…」

「あ、あ、あの黄金の鎧をまとった連中め、本当に人間か? あ、あんな人間、認めん! 断じて認めんぞ!」

 

二人は顔面蒼白になりながらそんなことを呟き、身体をガタガタと震わせている。

 

(どこに放り込まれたかと思っていましたが、ドラゴン○ールと聖闘士○矢の世界に放り込まれたみたいですね。まあ、サイヤ人たちと黄金聖闘士なら遅れをとることもありませんか。流石に空のキャ○パスとか、気まぐれオレ○ジロードとか、山下○ろーくんの世界だと滅茶苦茶になっちゃいますし、バトルものでもウイン○マンとかシティー○ンターやキン○マンじゃ少し荷が重いですからねぇ)

 

うんうんと頷きながら結果に満足し、抜作は彼らに背を向けて無限城を後にしたのだった。そして後に残るのは、

 

 

 

身体の殆どを失い、未だ再生途上の鬼の始祖と上弦の壱。

完全にノビてしまい、いつ意識を取り戻すかもわからない上弦の弐と上弦の参。

そして、先ほどまでジャンプ黄金期の先輩たちの洗礼を受け、ガタガタ震えている上弦の肆と伍。

おまけとして、直接的な被害はなかったもののこの状況に理解が追い付かず口から魂を吐きながら呆然としている鳴女。

 

 

 

このような陣容だった。彼らは暫くしてようやく復活を遂げるものの、その代償として抜作に対する恐怖心を骨の髄まで叩き込まれたのだった。

そのことが、いずれ迎える最終決戦での戦いに関わることになるかどうか…。

 

 

 

 

 

それはまた、別の話。




もしリクエストがあれば、番外編という形で最終決戦編も書くかもしれません。まあ、そうなったとしても現状でネタは全く練れてませんので気長に待っていただくしかないのですが。

それでもお待ちいただけるのでしたら、本当に気長にお待ちください。お約束はできませんけど。

一応、参考用としてアンケートを設置しておきます。

番外編として最終決戦も? と少し考えていますが、この二次創作を使用した最終決戦のお話は

  • できれば読みたい
  • ここで終わりでいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。