「突然じゃがお前さんは死んでしまった」
「あ、これ生前に聞いたことある!」
これが転生物の小説なら雑な導入、もしくは死んだ瞬間のエピソードの直後に置かれるようなセリフである。
そのため俺は――山崎照男は目の前の老人の神様につい叫んでしまった。いや、仕方ないと思う。
「そこで儂の悦楽の為に転生させる。欲しいチートは何じゃ?」
「チート貰えるんだ……って悦楽?お詫びとかじゃないの?」
「儂が手違いで人を殺すと思ったのか?故意に決まっておるじゃろ」
「より悪辣ゥ!」
しかしチートである。何でも切れる剣、無限の魔力といったいわゆる転生特典だ。神の力か何なのかは知らないが現実じゃあり得ない力を手に入れられる。それだけで俺の心はウキウキだった。
とはいえ俺も男である……故に選ぶチートは決まっていた。
「ナデポで」
ナデポ……頭を撫でるだけで相手の女の子が自分に惚れるという洗脳に近い能力である。やっぱ男ならハーレムしたいじゃん?だったら惚れさせればいいじゃない!という安易な考えのもとによる選択である。冴えない男にとって、無双できる絶対的な力よりも女の子とイチャイチャするための力のほうが大事なのだ。
「欲望に素直なのは嫌いじゃないぞい。しかしそれだけでは生き抜く力が圧倒的に足りていないじゃろ?こっちで適当に強化しておくからな」
「生き抜くって……あ、転生する世界はどんな場所なんです?これでサバイバルとか始まったら死にますよ俺」
「『パンチ・ストレート!』の世界じゃ」
「知らない世界だ……」
「は?パンスト知らないとかお前さん本当に人間か?」
最近は違う世界の名前を頭に入れておかないと自分の種族を疑われるってマジ?てか略称がクソすぎだろ、熱血っぽい名前が女性の下半身用衣類になっちゃってるじゃん。
「いいか、パンストはな……」
冗長な神様の説明をまとめると、「パンチ・ストレート!」は異能バトルもののアニメらしい。
知らん。
また、その世界は必殺技のほとんどがパンチらしい。キックは悪役が使うんだそう。
これは……クソアニメじゃな?
そして敵は女の子で、主人公の男の子が敵を倒し、改心させていくというシナリオだということ。
つまり腹パンってことだよな?ちょっとダメじゃない?内容的には一般的なバトルアニメなのにやってることがニッチすぎるって。
それで女の子が敵で?俺が手に入れたチートがナデポ?
「あの神様、俺が敵の女の子と仲良かったら主人公くんに敵扱いされない?倒されない?」
「ほー……確かに。よし、それでは主人公も女の子にしておこう」
ごめん主人公くん、俺の不用意な発言で君の息子が存在しないことになってしまった。謝って許されることじゃないかもしれないけど許してほしい。本当にごめん。
「なんなら主人公とお前さんを幼馴染とかの関係にしとくか」
ごめん主人公ちゃん、俺は何も発言していないけれど君の過去が捻じ曲げられてしまった。許さないでくれていい。本当に、本当にごめん。
いや実際助かるから何か言い返すことも出来ないのだけれども。
その後も色々と打ち合わせというか相談をして。
「転生前に決めることはあらかた終わったが……質問はないか?」
「敵の女の子もいきなり撫でようとしたら多分拒否されるよな」
「そうじゃな」
「俺女の子を殴った後に撫でることになんの?絵面ヤバすぎない?」
傍から見たらまんまDV男である。しかも撫でたら惚れるからマジで絵面がDVじゃん。
完全にアウトだよ。スリーアウトチェンジだよどう足掻いても。
「じゃあナグポにしようかの」
「ナグポ??」
ナグポ???????????????
※ナグポ
殴った相手が惚れるチート。拳の威力に応じて惚れ度合いも変わる。
つづかない