大詠師の記憶   作:TATAL

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お盆は私用で書く時間が取れませんでした


終極の地と私

「ここが、アブソーブゲート……」

 

 ダアトを発ち、アルビオールで降り立ったのはかつてルーク達がヴァンと対峙した地。この星を巡るプラネットストームの収束地であるアブソーブゲートだ。オールドラント全土の記憶粒子(セルパーティクル)がここのセフィロトを通って地核へと還っていく。そんな地では、降り積もる雪と吹き荒れる記憶粒子(セルパーティクル)が幻想的な光景を作り上げていた。

 

「改めて、こんな壮大なものを作った創生暦時代の技術力には驚嘆するしかないですね」

 

「そうだな、これを作っていた時は、未来は良い方向に進むはずだと信じて疑っていなかったんだろうな」

 

 私が小さく零した呟きにガイがそう返してくる。確かにそうだろう。尽きることの無い無限のエネルギー。それさえあれば、人々は争う必要は無くなる。かつては皆がそう考え、これを作り上げたはずだ。

 

「ですが人はそこまで賢くなれなかった。現状が満たされれば更なる飛躍を、尽きない欲望は結局争いを生んでしまった。それが悪いことかどうかは意見が分かれるところでしょうがね。その欲望の恩恵を、今の我々は享受しているわけですから」

 

「だけどそれだけじゃもうダメなんだ。行こう、俺達で変えるために」

 

 そう言ってルークは拳を掌に打ち付けて気合を露わにする。

 

「そうね。それに急いだほうが良さそうだわ。リグレット教官達もここに来ているみたいだし」

 

「やっぱりあれって神託の盾騎士団の船だよねぇ……」

 

「彼らもアブソーブゲートに来ているのですわね」

 

 そう言うティア達の視線の先にあるのは、アブソーブゲートの入り口がある島に接岸されたタルタロスよりも一回り小さな装甲艦。神託の盾騎士団が所有しているものの一隻だが、もちろん今はここにあるはずが無い。各地の混乱の際に持ち出され、リグレット達の移動手段になっている船の一隻だろう。

 

「急ぎましょう。ここにラルゴやリグレットが来ているということは、ヴァンが地核から戻って来ようとしている可能性が高い」

 

 ジェイドに促され、私達はアブソーブゲートへと足を踏み入れた。

 

 アブソーブゲートは現代文明と隔絶した技術で構築された遺跡だ。柱が見当たらず、どこで支えられているのかも分からない床が続く回廊と、光に満ち、くぐれば別の場所にワープをする門の形をした転移装置。調査隊が何度踏み入ってもその秘密の一端を垣間見ることすら出来ていない超技術は、このような時でなければ私も足を止めてじっくりと観察がしたいほど興味を惹かれるものだった。

 

「それにしても、不思議ですね」

 

「どうかしましたの、モース?」

 

 そろそろ中腹まで降りてきただろうか。時間の感覚が少しずつ薄れてきたためにイマイチ自分達が今どのあたりにいるのかが把握できないが、少し開けた場所に出てきたため小休憩をしていたとき、ふと口を衝いて出た疑問を聞きつけたナタリアが私の方へと向き直った。

 

「いえ、少し気になったのですよ、アブソーブゲートはプラネットストームの終着点です。ヴァンが地核からローレライを取り込んで舞い戻ってくるとして、記憶粒子(セルパーティクル)が地核に流れ込むこのアブソーブゲートから戻ってくるのは素人目には合理的ではないと思ってしまっただけです」

 

 ジェイド達から聞いた話だ。ヴァンは地核に落下し、そこでローレライの一部をその身に取り込んだ後にアブソーブゲートに帰還する。かつて私が彼らに語ったらしいが、生憎とその記憶は私から欠落してしまっている。だからこそ、少しの違和感が私の中に生じたのかもしれない。

 

「ヴァンがやろうとしていることは水の流れに逆らって滝を昇ろうとするようなものです。普通は記憶粒子(セルパーティクル)の流れに乗ってラジエイトゲートから飛び出してくる方が楽ではないかと、そう思ってしまっただけですよ。まあそんな単純な話では無いのかもしれませんが」

 

「確かに、言われてみるとそうかもしれませんわね。アブソーブゲートから地核に落下したから、戻る時もそこから戻ってくるものだと勝手に思い込んでいましたわ」

 

 私の言葉にナタリアが顎に手を当ててなるほどと頷く。ルーク達も何故かヴァンがアブソーブゲートから戻ってくると確信しているような様子だった。もしかすると以前の私もそうだったのかもしれないが、そう思えるだけの材料が何かあったということなのだろうか。

 

「お二人とも、何か気になることでもありましたか?」

 

「ああ、ちょうど良いですね。少し気になったことが……」

 

 そんな私達の様子が気になったのか、少し離れたところにいたジェイドがこちらに寄ってきたため、今ナタリアに話していた内容をそのまま伝える。

 

「……なるほど、確かに私もディストやあなたから聞いた話からそうだとばかり思っていましたが、言われてみればヴァンはどこから戻ってきてもおかしくない」

 

「真正ローレライ教団がここに訪れているので私の疑問は的外れなのかもしれませんがね」

 

「いえ、実際彼らもどこからヴァンが戻ってくるのかは分かっていないのでしょう。ここで無ければ別のセフィロトを探しに行くはずです。とはいえ我々の目的はプラネットストームを停止させること。ヴァンがアブソーブゲートか、それ以外のセフィロトに降り立つのか、いずれにしろアブソーブゲートとラジエイトゲートの両方を訪れなければいけないのは変わりありません」

 

「……アッシュも我々とは別に各地の動向を探ってくれていますし、何かあればルークに伝えてくることを期待するしかないですね」

 

「そういうことです。さ、休憩はこの辺りにして、行きませんか?」

 

 


 

 

 アブソーブゲートの終着点は外界からの光が届かないくらいの深さに位置している。にもかかわらず、視界の確保に困らないどころか昼間の屋外とほぼ変わらない明るさが得られるのは記憶粒子(セルパーティクル)そのものが放つ光によるものなのだろうか。平時ならば遺跡の荘厳な様子を心行くまで観察していたいところだが、生憎と今は先客がそこにいた。

 

「リグレット教官!」

 

 ティアの声に振り向いたのはヴァンの右腕。虚ろな目をしたレプリカ兵を従えて、地核へと通ずる穴の淵に立っていた。そしてその隣にはもう一人、私にとってあまり嬉しくない因縁の持ち主がいた。

 

「ティア、まだその出来損ないと一緒にいるのか」

 

「モース! 貴様、よくもおめおめとここを訪れられたものだな! ユリアが遺した大地の御柱に、貴様のような背信者が足を踏み入れることが許されるものか!」

 

 こちらを振り返るなり冷たく言い放ったリグレットと、それと対照的に口角泡を飛ばさん勢いで捲し立てる男、詠師オーレル。いや、今は元詠師と呼ぶべきか。

 

「あまり騒ぐな。仮にも真正ローレライ教団の導師を名乗るつもりならばな」

 

「ぐっ……、まあいい」

 

「ラルゴもいると思っていましたが、どうやら別行動をしているようですね」

 

「私一人ならば何とかなるとでもおもっているのか、死霊使い(ネクロマンサー)

 

 ジェイドの言葉に眉をピクリと震わせ、譜業銃を構えるリグレット。それに反応してルーク達も武器に手をかけた。

 

「周囲をレプリカ兵で囲っているとはいえ、そちらは非戦闘員を抱えています。それで対等に戦えると思われているなら、あなたこそジェイドを見くびっているのでは?」

 

「言うようになったな、モース」

 

「出来損ないという言葉、取り消してください、リグレット教官!」

 

 各々が武器を構え、場に緊張感が満ちる。何か些細なきっかけがあれば戦闘が始まってしまうだろう。

 私がそう思って武器をメイスを握り直したそのとき、頭の中をかき乱すような痛みが私を襲った。

 

「ぐうっ!? この痛みは……!」

 

(聞こえるか、レプリカ!)

 

「アッシュ!?」

 

 突如として私の頭に響いた声と、その直後に隣から聞こえたルークの言葉に、私はこの頭痛がアッシュとルークの繋がりを何らかの理由によって傍受したことで発生したものだと理解出来た。

 

(ヴァンが戻ってきやがった! ラジエイトゲートだ!)

 

「何だって!?」

 

「ルーク、アッシュは何と?」

 

「ヴァンがラジエイトゲートに戻ってきた、と」

 

 動揺しているルークに代わり、ジェイドの問いに答える。私の言葉を聞いたジェイドが微かに目を瞠って私を見つめ返した。

 

「ラジエイトゲートですか。それよりも、どうしてモースがアッシュの言葉を直接聞くことが出来ているのです?」

 

「私にも分かりません。ですが、私の頭にもアッシュの声が響いてきたのです」

 

「そうか、閣下はラジエイトゲートに向かわれたか。であればここに留まっている意味も無いな」

 

 こちらの会話を聞いていたリグレットはそう言うと、譜業銃を下ろした。

 

「おっと、そう言われて見逃すとでも思うか?」

 

「リグレット! ここでこの背教者共を見逃すなど私が認めんぞ!」

 

 そんなリグレットを止めようと挑発するガイと、こちらへの憎悪を剥き出しにして吼えるオーレル。

 

「見逃すさ。その為にコイツを連れてきたのだから」

 

 だが、そんなガイに対してリグレットは焦りを見せることも無く、隣で激昂するオーレルに冷たい目を向けた。

 

「リグレット? 何を……」

 

 疑問に思ったオーレルが言い終わる前に、リグレットが彼の胸倉を掴みあげる。

 

「閣下がお戻りになった以上、貴様は用済みだ」

 

「がっ、何を、離せ!」

 

「まったく、自身の器を弁えずに喚き散らすばかりの貴様もようやく役に立つときがきた」

 

 オーレルの身体はリグレットによって掴みあげられ、辛うじてつま先立ちになっている。そんな彼の顔に、リグレットは空いた片手を向けた。

 

「喜べ、貴様が欲しがっていた第七音素(セブンスフォニム)の才能をくれてやる。私はディストほど優しくは無いから、どうなるかは分からんがな」

 

「ひっ、や、やめ、ぁぁぁああああ!」

 

 酷薄な笑みを浮かべながら、リグレットはオーレルの顔に譜陣を刻みつけていく。見る見るうちに彼の顔は血まみれになり、想像を絶する痛みにオーレルの悲鳴が辺りに響き渡った。

 

「いけない、止めなくては!」

 

 それを止めようと彼女らに向けて走るが、そこにレプリカ兵達が立ちはだかる。十人以上の兵達が私達とリグレットの間の壁となり、そのせいで譜術を飛ばそうにも視界を通すことすら出来なくなってしまう。

 

「い、痛い! いだいぃぃぃ!! ぎぃいいい!」

 

「くっ、退きなさい!」

 

 ルーク達の援護も受けながら、レプリカ兵をなぎ倒すが、彼らは痛みなど感じていないかのように何度も立ち上がり、私達に向かってくる。その間にもオーレルの絶叫が木霊し、私は焦燥を募らせた。リグレットが今していることは、私がかつてディストにしてもらったことと同じだ。目に譜陣を刻み、第七音素(セブンスフォニム)を強制的に体内に取り込む。それを目だけでなく、他の部位にも、下手をすれば全身に刻みつけているのだろう。その先に待っているのはディストの説明によれば精神の汚染と肉体の変容だ。処置直後ならばジェイドが何とか出来るかもしれない。

 

「嫌だ! イヤだぁぁぁ!」

 

 オーレルの悲鳴が響き続ける中、私は何人目かのレプリカ兵の兜にメイスを叩きこみ、ルークとガイは対峙するレプリカ兵を切り伏せる。

 

「まとめて吹き飛ばしましょう。タービュランス!」

 

「ホーリーランス!」

 

 そしてジェイドの譜術で生じた暴風が兵達を壁に叩きつけ、ティアが追撃として放った光の槍が彼らに殺到する。そうして動けるレプリカ兵が疎らになり、視界が開けたところで、私達は肉の壁の向こう側で行われていた惨事を目にすることとなった。

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