主人公が真っ当に主人公してるしヒロインもヒロインしてますね、楽しい
戦闘は……よく分かりません(ライフボトルぐびー)
「ではこの手紙をダアトの詠師トリトハイムにお願いしますね」
そう言って差し出された手紙を、バチカルに同行してきた
詠師トリトハイムに宛てた手紙には、謁見の間でのあらましと共に、今後の教団の舵取りを任せる旨を認めておいた。それと同時に、文面に暗号を散りばめ、詠師オーレルの動きに注意されたし、ということも。神託の盾騎士団の連絡で用いられている暗号文の中でも、非常に古いものを用いた。検閲では当然見咎められなかったし、教団や神託の盾騎士団関係者でも解読できるものはそうはいないだろう。詠師トリトハイムが読み取ってくれるかどうかは賭けになってしまうが、あの抜け目ない男ならあっさりと暗号に気づくのではないだろうかと思っている。もし気付かなかったとしても、ハイマン君まで手紙が渡れば何とかなる。
「承知いたしました。この命に代えても」
私の手紙を受け取った
「あの、そこまで覚悟を決めなくとも良いのですよ?」
「何を仰いますか! モース様には私を取り立てて頂いた大恩があります。それに、あのようなガマガエルがダアトに戻って自由にするなど考えただけで恐ろしい。必ず手紙を詠師トリトハイムに届け、モース様がお戻りになるのをお待ちしております!」
どうやらこの青年は私に恩を感じてくれているらしい。過去に彼を取り立てたようだが、そんなに大したことはしていないのだが。私が自身の情報部隊を立ち上げる際に組織を多少再編した都合で
「そこまで言って頂いたのですから。私もまだまだ頑張らねばいけませんね。任せましたよ」
「はい、モース様もどうかご無事で」
そう言って客室を後にする
私の軟禁部屋は王城に数ある客室の一つであり、自由に出入りが出来ないということを除けば居心地は悪くない、むしろ教団で用意されている私室よりも調度品が豪華なくらいだ。流石に証拠も無く、疑わしいというだけで問答無用で牢に入れることはしないようだ。まあ事はあくまでダアト内のこと、キムラスカとしても不用意なことをするわけにはいかないのかもしれない。対外的には私はキムラスカの要請を受けて長期滞在するということにでもなっているのだろう。私はソファーに腰かけ、背もたれに頭を預けてぼんやりと天井を眺める。
頭を過るのはこれからのことだ。恐らく記憶通りにヴァンはルークと導師イオンを連れてバチカルに戻る。そしてルーク出奔の関与を疑われて勾留される。記憶と異なるのは、そこに導師イオン失踪に関わっているという疑いが追加されるということだろう。ここであの男がどう動くかについてはある程度私にも読める。
ある程度私の記憶について把握している導師イオンならば私を庇ってくれるだろうと予想できる。そうなれば、導師イオンの失踪に関しては正体不明の誘拐犯の仕業ということになり、その手を逃れた導師イオンとアニスをマルクト軍が保護した、というシナリオになるだろう。ヴァンもそのシナリオに乗ってくると考えられる。
もしそこでヴァンが私に疑いを向けるようなことを供述したとすれば、私を見限ったか、あるいは私の動きに勘付いて排除しにきた、ということになる。大人しく私が解放されればまだ私は奴にとって都合の良い駒のままという認識だ。最悪のパターンはヴァンが詠師オーレルと繋がっていた場合。ヴァンに私の動きがばれており、尚且つ既に都合の良い駒を確保している状態だとすれば、私はもはや用済みだ。ヴァンの手に掛かって殺されてしまうことも有り得る。
「……そうなったら私も一巻の終わりかもしれませんね」
ヴァンが私を殺しに来たとしたら、もう化かし合いも何もない。私は始めからヴァンの掌の上で滑稽な踊りを披露していただけということになる。ならば考えるだけ無駄というものだ。最悪一歩手前までならばまだ何とかなると信じて、今は彼らを待つことにしよう。
と、そこまで考えていたところで、部屋の扉をノックする音に思考が現実に引き戻された。
「どうぞ、開けて頂いても構いません」
私の言葉に部屋の扉が静かに開かれる。その前に立っていたのは、私にとっては少々意外な人物であった。
「まさかあなたの方から訪ねてきてくれるとは思ってもいませんでしたよ、クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ公爵」
「バチカルに来る際に私に個人的に面会を申し入れてきたのは貴殿であろうに。どうやら予定が少々狂ったようだが」
焔のよう、あるいは戦場においては血のようだとも形容される特徴的な赤髪を持つ彼こそが、ルークの父親でもある現ファブレ公爵。ホド戦争においてガルディオス家に自ら乗り込むほどの武勇を持つキムラスカの忠臣だ。
「そうですな。身内の手綱も握れていなかったとお恥ずかしいばかりでございます」
「フン、その割には落ち着いているようにも見えるが」
私の対面のソファーに腰かけたクリムゾンは、腕組みをし、硬い表情で私を見据える。
「それで、ローレライ教団の大詠師ともあろうものが私に何の用だ。またぞろ
「そういうわけでは……いえ、
「……そういうことか」
私の言葉にクリムゾンは納得したように息を吐き、表情を緩めた。それを受けて私は視線を扉へと送る。その意図に気付いたクリムゾンも、扉を一瞥すると、私へと視線を戻して一度頷いた。どうやら扉の前にはキムラスカ王国軍ではなく、白光騎士団を立たせているらしい。それに客間とはいえ王城の一室だ。防音もしっかりとしている。この部屋の会話は外に漏れることはないと考えても良いだろう。
「ええ、大切なご子息を
「何もかも貴様の言った通りになったというわけだ」
「ええ、残念なことにではありますが」
「はっ、
「あなたの前で今更取り繕うことに意味はありますまい」
その言葉にクリムゾンはそれもそうかと笑った。
私はアッシュが生まれ、そしてヴァンによって攫われて今のルークにすり替えられたとき、一度ファブレ邸を訪れていた。表向きはキムラスカにとって重大な運命を背負った人間が何らかの異常をきたしていないかを教団の代表として確認するという目的だった。しかし、実際のところ、私の目的は今目の前に座っている赤髪の公爵であった。
「七年前、訪ねてきた貴様がいきなり
「私自身もそう思っていますよ。ここまで自分が言ったことがその通りになるなど、自分で自分が悍ましいもののように感じてしまいます。ですが、だからこそこのまま人は
私は七年前、クリムゾンに向かって私の記憶の一部を話したのだ。その上で人々を
「あの日のクリムゾン様は今にも私を斬り捨てんばかりの剣幕でしたね」
「当たり前だ。誰のせいで私は自身の息子を愛することを出来なくなったと思っているのだ。あろうことか張本人から全てをひっくり返すようなことを言われて、よくその首を落とさなかったものだと過去の私の忍耐力を褒めてやりたいところだ」
あの時のクリムゾンの迫力は今思い返しても身震いする思いだ。首を落とさないまでもその刃は私の首に少しばかり傷跡を残した。詠師服は首元まで覆うので普段は見えることはないが、未だに薄っすらと跡が残っている。首に包帯を巻いていた時は、普段何かといがみ合ってばかりのアニスとアリエッタが揃って私を心配し、息の合った連携であれこれと私の世話を焼こうとしたものだ。やっぱり本当は相性が良い二人なのだと微笑ましく思ったことを覚えている。
「ですが、クリムゾン様は私の首を落とさず、私から得た情報の裏付けを取りました」
「……ヴァン・グランツはかつてホドにいたフェンデ家の人間。そんな人間が敵国たるキムラスカの、よりにもよってバチカルに入り込んでいただと? 冗談にしても笑えなかった。この国の防諜を一から見直すことになったわ。それに、そうと分かればあの日いなくなったルークをヴァンが連れ戻した、というところから疑わしく見えてくる。奴が何か良からぬ細工をルークにしていたとして、それによってルークが記憶を失ってしまったのならば奴が
「ですが、それを知って尚あなたはヴァンをルークの剣術の師として雇い続けた」
「記憶を失ったルークが唯一心を開いたのがヴァンだった。それが奴の策略だったとしても、あの時のルークからヴァンを引き離すことは出来なかった。愛情の示し方を忘れたとはいえ私はルークの父親だ。それに貴様もそうすることを勧めた」
「その通りです。そして遂に今年、ルーク様はアクゼリュスに赴き、
「そうだ。だが、そうならない為に貴様は動いたのだろう? それを信じたからこそ私はその通りになるように動いたのだから」
クリムゾンはそう言って試すような視線を私に投げかける。どうやら私が望んでいた答えが受け取れるようだ。七年間待たされたが、それでも彼から私の求める言葉を引き出せたならお釣りが返ってくるくらいだ。
「……ということは、クリムゾン様は私にご協力頂けると考えてもよろしいので?」
「何を今更。私は親として最低限の愛情すらルークに示してやれなかった最低の人間だ。だがな、どこの世界に子どもの死を望む親がいるものか。良いだろう、大詠師モース。クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレは貴殿に協力する」
その言葉と共にクリムゾンは私に右手を差し出した。その意味が分からないほど私は愚かではない。私もそれに応えて彼の右手を握り返した。
「これでもし貴様がしくじれば私はキムラスカに対して背信行為を働いた大逆人になるわけだな」
「ええ、そのときには私は大詠師でありながらローレライ教団に反旗を翻した稀代の大悪党ということになりますね」
「ならばそのような未来にならぬようにせねばならんな、