大詠師の記憶   作:TATAL

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過去の番外ネタであった武官ルートモース様の続き、という名の思いついたシーン書き散らし


肉体派モースとルーク達

「オイオイ、何の冗談だいこれは……」

 

「申し訳ありませんが、冗談ではありません」

 

 私は目の前で困ったように額をさするカンタビレに言葉を返す。彼女の執務机に置かれているのは一通の書類。

 

「なんだってこんなタイミングで辞めるだなんて」

 

「このタイミングだからですよ」

 

 アッシュから連絡があった。ルーク達がザオ遺跡に到達したらしい。導師イオンを奪還した彼らはそのままデオ峠を超え、アクゼリュスに至る。そこでヴァンが引き起こす最悪の惨劇が待っているとも知らずに。

 

「導師イオンの行方も分かり、大詠師とヴァンの怪しい動きも見えてきました。とはいえ、私が表立って動くと第六師団そのものに迷惑がかかります。ですから……」

 

「待て待て、結論を急くんじゃないよ。お前が前から色々と動いていたことは知ってる。だけどその上で待てと言っているんだ」

 

「しかし……!」

 

 渋るカンタビレに詰め寄ろうとした矢先、執務室の扉が開かれる。

 

「何やら言い争っているようですが、いかがしましたか?」

 

「……オスロ―、ノックくらいしたらどうだい」

 

「しましたが、聞こえていなかったようですので」

 

 ジト目で睨みつけるカンタビレの言葉をさらりと受け流すと、入室してきた青年はスタスタと私とカンタビレの間に入り、そして机の上に置かれた私の辞表に目を留めた。

 

「……モース様、これは?」

 

「……私のけじめですよ」

 

 ひょいとそれを摘まみ上げた彼に、私は言葉少なに返す。彼をこれ以上深入りさせる気は無かったからだ。死の預言(スコア)を強引に捻じ曲げ、手元に置いたかのリグレットの弟は、私の部下として非常に優秀な人間だ。彼ならば私の後任を大過なく務めることが出来るだろう。

 

「……何故、相談してくれなかったのですか」

 

「すみません、あなたを巻き込むわけにはいきませんでした」

 

 声を震わせる彼に私は頭を下げることしか出来ない。これは私の身勝手だ。何を言われようとも受け入れるしかない。彼の手は辞表を握ったまま震え、その怒りを如実に伝えてくる。

 

「師団長に不満があるならそう言ってください!」

 

「は?」

 

「おっと、そう来たか」

 

 次に彼の口から飛び出した言葉に私はポカンと口を開け、カンタビレは天を仰いだ。

 

「確かに師団長はぐうたらです。仕事はしないし、暇があれば訓練だと言って棒振りに行くので剣の実力以外はハッキリ言って尊敬出来ません! ですが、そんな第六師団が何とか運営出来ているのはモース様のお力あってこそ! 今一度考えなおして下さい!」

 

「おいモース、上司がここまで言われてるんだぞ。少しは弁護してくれ」

 

「……私から何か言うとそれだけあなたに流れ弾が飛ぶだけでは?」

 

 先ほどまで私とカンタビレの間に流れていた重苦しい雰囲気はとっくに消失してしまい、どこか脱力したような空気が漂っていた。そんな中、私の手を取る彼だけが一人ヒートアップしていた。

 

「働く環境にご不満があるなら今すぐ第四師団に移りましょう! あそこはきちんと仕事をする師団長です。モース様ならどこに行ってもすぐにご活躍出来るかと」

 

「身内贔屓が過ぎるんじゃないかい……」

 

 堂々と直属の上司の悪口を言うことに加え、ここぞとばかりに姉であるリグレットが師団長を務める第四師団への異動を勧めてくるあたり、彼もここに来たことで随分と図太くなったらしい。そんな彼の後ろからカンタビレのやる気の無い抗議が飛ぶ。少しは自己弁護をしてはいかがだろうか。

 

「すみませんが、私がこれからすることは教団や神託の盾騎士団の誰にとっても不利益になりかねないことです。私が身を引くしか」

 

「問題ありません。カンタビレ師団長だけを残すことの方がよほど不利益です」

 

「そこまで言われるとはね。私が一体何をしたって言うんだい」

 

「何もしていないからでしょう」

 

「モースが全部やっちまうんだからしょうがない。楽で良いことだね」

 

 辛辣な言葉もどこ吹く風と笑い飛ばすカンタビレ。そして彼女は私の辞表を手に取ると、細かくビリビリに破いてしまう。

 

「なっ!?」

 

「お前の負けだよ、モース。それに今更お前以外の副官を置く気は無いからねぇ」

 

「カンタビレ師団長、モース副長いてこその第六師団ですから」

 

 そう言って二人がじっと私を見つめてくる。片方からは尊敬を、もう一方からは暖かな信頼を。

 

「行ってきな。お前が少し不在にするくらい何も問題は無いさ。何をしようと第六師団は私達についてくる。そうだろう、オスロ―?」

 

「ええ、勿論です」

 

「……まったく、二人してこんな老人一人を捕まえてどうしようというのですか」

 

 彼女らにそう言って笑みを返す。私の心をじくじくと痛めつける忌まわしい記憶。それから逃れるために駆け込んだ場所だというのに、気が付けば手放し難い居場所となっていた。

 

「では、しばし単身任務を頂いても?」

 

「許可する。ただし、報告だけはするように。何かあればこっちからも助けを寄越す」

 

「ご不在の間は自分がフォローに回りますので、師団の運営はお気になさらず」

 

「ええ、感謝します。カンタビレ師団長、オスロ―君」

 

 頼もしい二人に腰を折り曲げて謝意を示す。彼女らの信頼に報いるためにも、一刻も早くルーク達に合流し、アクゼリュスの悲劇を食い止めなければなるまい。

 

 余談だが、どこからかこの話を聞きつけたリグレットが頑なに私に同行しようとするのをカンタビレ達が必死になって食い止めたとか。後になって飛ばした報告の愚痴交じりの返信でそれを知ることになった。

 

 


 

 

ナタリア糾弾シーンにて

 

 

 背後には数多のキムラスカ兵、そして目の前には大鎌を携えた漆黒の偉丈夫。物心ついたときから父と慕っていた人間からの唐突な宣言に呆然自失となってしまったナタリアを背に庇いながら、私は周囲を牽制していた。

 

「……お前とこうして向かい合うのは避けたかったぞ、モース」

 

「それはこちらのセリフですよ、ラルゴ」

 

 渋面でこちらを睨みつけるラルゴ。神託の盾騎士団ではカンタビレ、リグレットに次いで親交を深めていただけに、この対立は私にとっても心が痛むものだ。ラルゴとナタリアの秘められた親子関係を知るが故に猶更。

 

「ラルゴ、私達はここで武器を向け合う必要は無いと私は信じていますよ」

 

「俺はそれを信じ切れていない。この世界を受け入れるには、俺は後戻りが出来ぬところまで来た」

 

 そう言うラルゴの大鎌の切っ先が微かに震えているのを私は見逃さなかった。彼ほどの武人が自らの得物の重さに負けることなどあり得ない。その震えはそのまま彼の心の迷いを映し出している。彼は言葉ほどにまだその心を頑なにしていないはずだ。どこかで迷っている。それを引き出せる最後のチャンスだ。

 

「かつて話したではないですか、この世には取り戻しのつくこととつかないことがあると。思い出の中に浸り続けることで、今目の前で作り上げることができる思い出を蔑ろにしてどうします」

 

「思い出の中にしか慰めを見出せなかった人間にその言葉は何の重みも持たないな、モース。失う痛みを知らぬお前の言葉など!」

 

 迷いを振り切るように一足で間合いを詰めたラルゴの鎌が私の首を刈ろうと迫る。身体を反らしてそれを避けると、彼の懐にこちらから飛びこんで拳撃をお見舞いする。

 

「失う痛みを知らずとも、友人がその痛みを更に受けようとするのを黙ってみているわけが無いでしょう!」

 

 柄で巧みに反撃を繰り出すラルゴだが、私もそれを杖でいなし、互いに武器だけでなく拳や蹴りも交えての泥臭い戦いに移行する。彼と模擬戦をするときも常にこのようになる。大柄な体躯に反して、鎌というトリッキーな武器を扱うラルゴと、杖術と譜術を織り交ぜて戦う私は、ラルゴが鎌を十全に使えずかつ私が譜術を織り交ぜる隙も無い至近距離でのインファイトによって勝敗を決することになるのだ。

 

「そんな上辺だけの言葉で今更ァ!」

 

「上辺だけな訳がありますか! あなたにはまだ、家族がいるでしょう!」

 

 幾度目かの応酬で、私のメイスがラルゴの肩に、ラルゴの鎌の柄が私の横腹に突き立ち、私は勢い良く吹き飛ばされた。それは周囲で固唾を飲んで見守っていたキムラスカ兵達を幾人も巻き込んで倒してしまうほどの勢いで。

 

「家族? 俺に家族と言ったか、モース。俺に家族などもういない!」

 

「いない、わけが無い。血の繋がりこそ無くとも家族にはなれる。ですが、血の繋がりを否定することもまた出来ません」

 

 私の手足を押さえ込もうとした兵士達を杖と譜術で吹き飛ばし、あるいは氷漬けにして固めながら、私は再度ラルゴへと肉薄する。

 

「あなたもまた迷っているはずです。でなければ、先の一撃で私は死んでいた!」

 

 杖でラルゴの鎌を上へとかちあげ、がら空きになった胴体に掌底を突きこむ。

 

「くっ……!」

 

「ですがそうならなかった。私はまだ信じています。あなたと対立するのではなく、隣り合える選択肢があることを」

 

「どこまでも甘いことを……!」

 

 何合かの打ち合いの末、再度の鍔迫り合い。

 

「お前は、今更俺が何を取り戻せると言う!」

 

「家族の絆を」

 

 互いに満身の力を籠めて相手を押し返そうとするが、拮抗状態となったそれは周囲の緊張状態と相まって一瞬の静寂を私達の間に生む。

 

「……その言葉を信じろと?」

 

「私があなたに嘘をついたことがありますか」

 

 その一瞬で交わされた会話は私達以外の耳には恐らく入っていない。けれど、私達にははっきりと聞こえた。

 

「ええい、いつまで手間取っているラルゴ! シンク、貴様も手を貸せ!」

 

「……ハァ、仕方ないな。ま、ラルゴじゃ本気でモースを殺そうとなんて出来ないだろうしね」

 

 ラルゴの後ろで泡を飛ばして叫ぶオーレルに、シンクが面倒くさそうに頭を掻きながら前に歩み出てくる。

 

「ラルゴ、そのまま押さえておきなよ。アンタがやれないって言うなら、ボクが代わりにやってやるからさ」

 

「……」

 

 私を押さえ付けるラルゴの圧力が増す。その力を正面から受け止めてしまえば最早動くことは叶わない。シンクがそれを見てから跳躍し、私の背後に回り込んだ。

 

「くっ、ラルゴ……!」

 

「……」

 

 ラルゴは何も言わず、じっと私の目を見つめ続ける。シンクを止めようとルーク達がこちらに加勢しようと動いたのが気配で伝わってきたが、キムラスカ兵達に囲まれている以上シンクを止めるには間に合わない。そして私の背後にピタリとついたシンクが私の背に手を当てた。

 

「じゃあね、モース。別に恨んでくれても良いよ」

 

「……! ぬぅあああああ!」

 

 これまでかと目を閉じた瞬間、獣のような咆哮と共に私を押さえ付けていた圧力が無くなり、同時に背後に在ったシンクの気配も消えた。

 

「……どういうつもりだい、ラルゴ」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 たった一度、得物を振りぬいただけだと言うのに大きく肩で息をするラルゴは、私を背に庇ってシンクと対峙していた。

 

「ラルゴ……」

 

「モース。俺はとうに失った家族を今更取り戻そうなどとは思わない」

 

 だが、とラルゴは続ける。

 

「俺は俺の手で、友と認めた人間を屠ることが出来る程愚かな人間に成り果てることなど出来んようだ」

 

「チッ、つまらない感傷でボクらの邪魔をするつもりかい、ラルゴ!」

 

 シンクが苛立たし気に吐き捨てるが、ラルゴはそれを切り捨てるようにシンクに迫る。

 

「俺は最初から最後まで、自分の心に従って生きるまでよ!」

 

「ならお前もここで死ぬだけだ!」

 

「させませんよ、アイシクルレイン!」

 

 ラルゴの攻撃を掻い潜り、痛打を与えようとするシンクに私はすかさず譜術を飛ばして援護する。シンクは大きく飛び退って私の攻撃を回避し、私達との間に距離を取る。その機を逃さず、ラルゴもその巨体に見合わぬ俊敏さでルーク達を囲んでいたキムラスカ兵に突進すると、謁見の間の扉を諸共吹き飛ばすような勢いで兵達を薙ぎ倒した。

 

「行け! ここは俺とモースが引き受けた!」

 

「え、えっと、ありがとう!」

 

 あまりの急展開に理解が追い付いていないながらも、今はこの場から逃げることが先決とルークはナタリアの手を取って走り出す。その後ろをティア達が追いかけ、数名のキムラスカ兵もそれを追いかけたがそれ以上の追跡を扉の前に立ち塞がった私とラルゴが食い止める。

 

「さて、ここまで大見得を切った手前、ある程度は暴れてから追いつくとするか」

 

「ラルゴ、貴様……!」

 

「悪く思うなよ、大詠師オーレル。もっとも、俺はハナからお前には何ら肩入れしてはいなかったがな」

 

「ラルゴ、あなた急に生き生きとしてきましたね?」

 

「かもしれんな。お前と肩を並べて戦えることを柄にもなく楽しんでいるのかもしれん」

 

 ラルゴと並んで立ち、互いに得物を構えて目の前にズラリと並ぶキムラスカ兵とシンクを睨みつける。

 

「いかんな、お前と戦って消耗しているはずだが、どうもこの程度の相手では負ける気がせん」

 

「奇遇ですね、あなたが味方についてくれたことで私も同じ気持ちですよ」

 

 さあ、見せてやろう。人の意志を。何もかもを掌中に収めているつもりのあの大詠師とヴァンに、一泡吹かせてやろう。






脳筋モース様は本編モース様より多少熱い感じになっているとラルゴと仲良くなれるんじゃないかと妄想しています。なおこの後良い空気吸ってるリグレットも合流してくる模様。
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