大詠師の記憶   作:TATAL

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前回の予告通りにょたモース様IFとなります

過去にこんなことがあったら面白いなあという妄想爆発


モース様がもし女性だったら その2

「フフ、随分と久しぶりねモース。相変わらずいつでも綺麗ね、あなたは」

 

「以前の訪問の際はあなたの体調が芳しくなかったものですから。あなたもいつまでも変わらず美しいですよシュザンヌ」

 

 バチカルはファブレ公爵家の屋敷にて、私はファブレ公爵夫人との久々の会話を楽しんでいた。

 きっかけは彼女の体調が悪化し、薬の原料となる特殊な素材を採取するためにルーク、アッシュと共にキノコロードを訪れたこと。無事に薬の原料を採取し終えた私達は、クリムゾンから感謝の印として歓待を受けていた。

 

「体調が多少良くなったとはいえあまり無理をするものではないぞ」

 

「自分の身体のことは自分が一番分かっていますよ。心配してくださるのは嬉しいですけれどもね」

 

「その、モース様はともかくどうして私がここに......?」

 

「そんなに緊張なさらないで、ティアさん。少し女同士でお話がしたかったのよ」

 

 シュザンヌの私室にいるのは部屋の主たる彼女と私、そして彼女の夫であるクリムゾンと何故かティアだった。恐縮してばかりいるティアにシュザンヌは朗らかに微笑みかける。とはいえ、ティアは過去にルークをマルクトまで吹っ飛ばしてしまった禊としてここで使用人として働いていたこともある。そのときの意識も相まってこの場でリラックスして、というのは中々無理な注文だ。

 私とシュザンヌ、クリムゾン、ティアという異色の面々で囲まれたテーブルで、昼食後のティータイムは過ぎていく。

 

「ここ最近は預言(スコア)を詠みに来ることも無くなったから寂しかったのよ、モース? てっきり私とはもう会ってくれないのかと思っていたわ」

 

「そうは言っても以前は毎月顔を合わせていたでしょうに。そもそも何年の付き合いだと思っているのですか」

 

「えぇっと、モース様とシュザンヌ様は長いお付き合いなのですか?」

 

 わざとらしくよよ、と泣き真似をするシュザンヌをため息混じりにあしらっていると、その気安い空気を不思議に思ったティアが私に問うてくる。

 

「そうですね、もう数えるのも億劫な年の付き合いになります」

 

「私とモースが初めて会ったのはいくつのときだったかしら。私が社交界デビューする年だったから、十六歳のときからの付き合いになるのね」

 

「そんなに昔から!?」

 

 顎に人差し指を添えて年を数えるシュザンヌにティアが目を丸くする。確かにキムラスカの王妹とダアトの一介の教団員がどうしてここまで長い付き合いになっているのかと思うのも不思議ではない。というより、私自身もここまで長い付き合いになるなど思ってもみなかったのだから。

 

「うふふ、モースは当時のキムラスカ社交界の華だったものね?」

 

「モース様が社交界の華......」

 

「仮にもダアト所属の人間を華扱いするのはいかがなものかと思いますよ、私は」

 

 何故か嬉しそうに語るシュザンヌに私は眉間に寄りそうなシワを指で揉んで解す。当時、大詠師どころか詠師ですら無かったにもかかわらず、異例の早さで律師に昇格した女性として当時の導師や大詠師に連れられ,バチカルやグランコクマを訪れることがあった。そういった導師や大詠師訪問の際は、キムラスカ、マルクトどちらでも王室主催で社交界が開催されるのが通例となっており、それを断ることも出来ずに壁の花に徹していた私にいつの間にか分不相応な渾名が付けられていた、という訳だ。

 

「美しく寡黙、けれどもいざ話してみれば物腰柔らかで機知に富み、貴族顔負けの教養を持った黒髪の女律師を誰がオトすか、当時のキムラスカ貴族の間ではそんな話で持ちきりだったわ」

 

「私はそもそも導師様の面子を潰さぬように場に居ただけで、誰かと踊ったり歓談する気は全く無かったのですよ」

 

 だが、話しかけられれば邪険に対応するわけにもいかない。失礼にならぬように対応していれば、気づけばただの壁の花が危うく宴の中心に担ぎ上げられそうになっていた。

 

「そんな態度の癖に意味深に微笑んだりするから殿方は勘違いするのよ?」

 

「意味深でも何でもなくただの愛想笑いですよ」

 

 シュザンヌの困ったものを見る目に抗弁する。社交界に参加している以上、私の一挙手一投足でローレライ教団の印象が悪くなってしまうかもしれないとなれば、話しかけられればそれなりの対応をしなければならないのは当然の話。

 

「そうして多くの幼気なキムラスカ貴族男子を手玉に取っていたのがモースだったのよ」

 

「シュザンヌ、ティアにあまり偏った印象を植え付けないでいただけますか?」

 

「いえ、その、モース様には悪いのですが少し納得がいきます」

 

「ティア!?」

 

 何故かシュザンヌの話を聞いたティアがうんうんと頷いている。そんな悪女のような振る舞いをした覚えはないというのに。

 

「モース様は今も綺麗なんですし、お若い頃に社交界になんて出ていれば当然そうなるかと」

 

「褒めてもらっているのに釈然としませんね......」

 

「身内からもそう言われるということはダアトでの普段のお前の姿もよく分かるな、モース」

 

 今まで黙ってお茶を飲んでいたクリムゾンがここぞとばかりに突いてくる。この男、シュザンヌが楽しそうに話をしているときは話題に入れなさそうに黙っていたくせに。

 私はため息を一つ溢すとカップの茶を口に含む。このまま私ばかりがからかわれるくらいならば、目の前で面白そうにしているこの夫婦も道連れにしてやらないと気が済まない。

 

「なるほど、では私も当時の面白い話をしてあげましょう。そこで笑っているお二人と私がどうしてここまで気安い関係になっているのか、というお話をね」

 

 


 

 

「いかがです? 私と一曲、踊っては頂けませんか」

 

 もう何度目になるか分からない誘い。ここまで来るとどうやって断るかを考えるまでもなく口が動くようになってしまっていた。

 

「お誘いは大変嬉しいのですが、私のような不調法者ではあなたと踊るには釣り合いません。どうぞ、私などに構わず」

 

 キムラスカやマルクトからの招待状に導師、大詠師と並んで私の名前が載るようになったのはいつからか。幾度目か分からないバチカルでの社交界でも、私は居心地の悪さを覚えないではいられなかった。周囲には赤や黄、明るくきらびやかなドレスに身を包んだ美しい令嬢達がたくさんいる。私はそうしたドレスを持っていないからと最初の方は参加を断っていたが、いつからか私の預かり知らぬところで夜会用のドレスが仕立てられるようになっており、今日の私はオブリークネックラインの濃紺のドレスに身を包み、壁の花に徹していた。

 華やかな色合いの中に一人だけ暗い色のドレスに身を包んだ女がいれば目立ちもする。それに、私は物心付いた頃からこの頭に巣くう呪わしい記憶のためか、どうにもこうした場を素直に楽しむ気になることは出来なかった。自分と似ても似つかない男が周囲の全てを巻き込んで破滅していく記憶。自分ではないはずなのに、この上なく自分であると確信できてしまうそれに悩まされ、いつしかその未来になることを避けるように、記憶の中の男のようにならぬようにと自らを権力から遠ざけるようになった。

 そのくせ、こうして社交界には出ているのだからつくづく救いようのない女だ、私も。本当にあらゆる権力から自分を遠ざけたいのであれば断固としてこうした催しからも距離を置いただろうに。

 

「まぁまぁ、そう仰らず。踊るのがお嫌でしたら少しバルコニーで夜風に当たりましょう」

 

 普段ならば一度断れば引き下がっていく。だが今夜私に声をかけてきた男性はそこで諦めるような方ではなかった。それどころか、私の背に手を添えて私を連れ出そうとしてきた。そういえば彼は今まで社交界で見たことがない。最近社交界デビューし、そこで不本意ながら以前から噂になっていた私に声を掛けてきた、というところだろうか。こっそりと周囲を窺ってみれば、こちらを幾人かの青年達がにやにやと笑いながら観察しているのが目に入る。どうやら私はいつの間にやら青年達の腕試しの的となってしまったらしい。

 

「お戯れが過ぎますよ」

 

「もっとあなたとお話がしたいだけですよ」

 

 やんわりと身を躱そうとするも、添えられた手に力が籠められる。ダアトの律師である私であれば多少強引であっても許されるだろうという打算だろうか。

 これ以上しつこいようであれば無理矢理になってしまっても逃げ出そうかと考えていると、それより前に私の肩を引き寄せられるのを感じた。

 

「そこまでしておいては如何ですかな」

 

「げっ、クリムゾン、様」

 

 私を引き寄せた腕の主を見れば、その先には鮮やかな紅。

 

「今宵は珍しいお客様もお見えな上、まだ社交界に慣れておられない貴殿が浮わついてしまうのも理解は出来ますが。この方はキムラスカ王家が招待した客人。あまり無体を働くと良いことにはなりませんぞ」

 

「う......、そうですね。少し酒が回ってしまっていたようです。失礼いたします」

 

 クリムゾンの威圧に怯んだのか、青年はサッと私から離れると、そそくさと退散していった。遠巻きにそれを眺めていた仲間の青年達もあからさまに視線を逸らし、私達から離れてホールの反対側へと逃げていった。

 

「助かりました。どのように断ったものかと思っておりましたので」

 

「申し訳ない。あなたは良くも悪くも有名になってしまっているもので」

 

 青年が去るとすぐさま私を解放したクリムゾンはそう言って私に軽く頭を下げる。それをやんわりと制しながら私も口を開く。

 

「頭を上げてください。公爵家のご子息であるクリムゾン様がそう易々と頭を下げるものではありませんよ。社交界に顔を出しておきながら壁の花に徹する私の態度にも問題はあるでしょう」

 

「こういった場にあまり乗り気でないのに幾度も招待しているこちらにも非はある」

 

 言いながらクリムゾンはバルコニーを手で示す。そこに先ほどの青年のような下心はなく単純にこちらを気遣ってくれていること、そしてこれ以上このホールに身を置いているのも少々居心地が悪いため、彼の誘いに乗ってバルコニーに出ることにする。

 

「最近の若い貴族連中の間では誰が黒薔薇を手中に収めるのかということが専らの噂だ」

 

「黒薔薇、ですか」

 

「暗い色調のドレスを着こなす黒髪の麗人。昼間の庭では鮮やかな他の薔薇に負けていても、月下では神秘に煌めき近づけば芳香に薫る。中々洒落た渾名だと思うが」

 

 随分と過分な評価をされたものだ。まさか目立ちたくないからと暗い色のドレスばかりを来ていることが逆効果になっているとは。

 

「噂と実物のあまりの落差に実際に目にした方は落胆しそうですね」

 

「そうだろうか? 私は噂通りの人物だと思って名付けた人間に感心しているが」

 

「女性を喜ばせるのが上手ですね。そうした言葉は私以外の女性に掛けてあげるべきだとは思いますが」

 

 ホール内の喧騒から切り離されたバルコニーでクリムゾンと会話を重ねる。彼の視線は私の身体を舐め回すようなものでも、値踏みするようなものでもない。友人としているような気安い会話は今夜のパーティで疲れた私には嬉しいものだった。話題はキムラスカの貴族で話題になっていることに留まらず、キムラスカとマルクトの外交やキムラスカとダアトの関係など、およそ夜会には似つかわしくないが、私達にとっては楽しい会話が繰り広げられる。

 

「なるほど、こうして話してみてやはりモースが他の貴族を狂わせるというのがよく分かった」

 

「この短時間で物言いに遠慮が無くなりましたね、クリムゾン様」

 

「公爵家嫡男と真っ向から政治について語れる女に遠慮など無用だろう。こんな才能を抱えているダアトが羨ましいな」

 

「何を心にも無いことを」

 

 そう言って二人して笑う。話した時間はそう長くないはずだが、私の認識はとっくに目の前の男を悪友と認識していた。

 

「本心だとも。こうして話が弾むような女性は稀だからな。ただ安易に我が国の貴族の女性観を破壊するのは遠慮してくれ」

 

「私は別にそのようなことをしているつもりも、するつもりも無いのですが......」

 

 あんまりなことを言うクリムゾンをジト目で睨み付ける。一度遠慮しないで良いと分かるとこの男はどこまでもずけずけと好き勝手に言ってくれる。

 

「冗談だ。そろそろ今夜はお開きになるだろうが、どうする。戻るか?」

 

「いえ、このまま終わるまでここで時間を潰していますよ。クリムゾン様は戻られた方がよろしいかと。私とこれ以上ここに居ると良からぬ噂を立てられかねません」

 

「そうは言うが私も女性らの熱烈なアプローチから逃げてきたクチでな」

 

 クリムゾンは気まずそうに深紅の髪を撫で付ける。どうやらあの場から逃げ出そうとしていたのは私だけではなかったらしい。

 

「困ったものだ。まだ内々の話だが、私は陛下の長女であるシュザンヌと婚約している。とはいえあまり断り続けるのも心苦しいと思っていたところだ」

 

「それで他国の女性を盾にしようだなんて、あなたも中々どうして良い性格してますね」

 

「お互いに利益があるとは思わないか?」

 

「あなたにとって醜聞になる可能性が高いのですが......」

 

 そう言うがクリムゾンは気にする素振りを特に見せない。私が今この場での出来事を意味深に吹聴するだけで彼どころかファブレ公爵家にとっても大きな瑕疵になってしまうというのに。そうでなくとも、周囲の者が面白おかしく騒ぎ立てても不思議ではない。

 

「そういうことをするような者でないことはこの時間で分かっている。それにファブレ公爵家を相手に確証も無い話でそうまでして騒ぎ立てる愚か者も我が国にはおらんよ」

 

「また随分と自信家なことで」

 

 つまりは私がこうした場でクリムゾンを盾にしたとしても気にする必要は無いということ。そうやって私を庇うことをクリムゾンだけでなく公爵家としても黙認しているということらしい。もしかすると、最近のキムラスカ貴族の間での噂を耳にした王家の意向もあるのかもしれないが。

 

「何にせよ、そちらは気にせず我が国と繋がりを作っていけば良い。面倒事はこちらに任せておけ」

 

「そうして恩を売ってあなたに得があるとは思えませんが」

 

「得ならあるとも。今日話して分かったが、あなたは将来更に上り詰めるだろう。そのときにこの恩を返してくれれば良い」

 

「......空振りに終わっても知りませんからね」

 

 どこか確信を持ったように話すクリムゾンに私はこれ以上言ってもどうにもならないだろうと諦め、彼が差し出した右手を握り返す。向こうが恩を売ってくれるというなら、売ってもらえるだけ売って頂くことにしよう。

 

 


 

 

「そうして以降はキムラスカでの催しに出るときはクリムゾン様にエスコートしていただくことが増えたのですが、それが原因でシュザンヌ様に睨まれてしまったのですよ。当時は互いにそんなつもりも無いのにシュザンヌ様に邪険にされるものですから、焦ったクリムゾン様の顔は面白いものでした」

 

「もう......、あのときは悪かったと思っているわ」

 

「こうして大詠師になっているのだから、当時の私の見る目は確かだったということだな」

 

 シュザンヌは恥ずかしげに顔を赤らめているが、クリムゾンといえばうんうんと頷いている。この男は無敵なのだろうか。

 

「一時はダアトまで噂が広まったせいで私も大変な思いをしたんですがね」

 

「それはこちらの預かり知るところではないな。別にその噂が事実になってもこちらは困らん」

 

「さらっととんでもない事を言いましたね?」

 

 クリムゾンの口から飛び出した言葉を咎める。

 

「キムラスカは優秀な人物を取り込める。ダアトはキムラスカと繋がりを深く出来る。どちらにとっても得があることだろう」

 

「清濁併せ呑み過ぎですよ、その考え方は」

 

 ため息が出るのを我慢することは出来なかった。

 

 






青年貴族の女性観絶対破壊するウーマンと化したモース様という毒電波を布教していく
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