大詠師の記憶   作:TATAL

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睡眠時間を犠牲にアライズをクリアしました
出てくるカップルが皆尊くて素晴らしい作品でした
これにはカプ厨おじさんもニッコリ

アライズの某キャラの中身がカプ厨おじさんになってあの手この手で主人公たちの尊いシーンを鑑賞しようとする毒電波を受信したので誰か書いてくれないかな(他力本願)


紅瞳と私

 想像していたよりもあっさりと私の軟禁は解かれる結果となった。本来ならば謁見の間で一行と顔を合わせるはずだったのだが、客室に軟禁されている故にそれは叶わなかった。とはいえ、親書を受け渡す程度なのだろうから私が居るかどうかはそこまで大きな変化は無いだろう。

 

 私の疑惑に関しても、バチカルに帰ってきたヴァンが関与を否定し、導師イオンも彼にしては珍しく強く抗議の意思を示したことが大きいらしい。部屋に訪れたセシル少将が珍しいものを見たと言わんばかりの表情で経緯を説明してくれた。とはいえ、私の疑惑が晴れてもヴァンの疑惑が残っているため、私の記憶通りヴァンは一時勾留される結果になったらしい。ヴァンが私を切り捨てなかったのは導師イオンの手前か、もしくはまだ私に利用価値があると見た故か、あるいはその両方か。

 ともかく、ルーク達帰還の報があった次の日、解放された私は導師イオンとアニスの部屋に通された。

 

「ホントにひっどい話ですよねー! なんでモース様が疑われなきゃいけないんですか!」

 

「そうですね、教団としても正式に抗議すべき案件だと僕も思いますよ。ローレライ教団の大詠師を一国が独断で裁くことは許されていないはずです」

 

 ぷんすこという擬音が聞こえてきそうなほどに全身で憤りを表現しているアニスはともかく、普段は静かな導師イオンが無表情ながら怒りを滲ませている様子なのはどういうことなのか。私に向けられている怒りではないとはいえ、背筋に寒気が走った。これを直接向けられたキムラスカ王国の重鎮達に勝手ながら同情を禁じ得ない。

 

「あの、取り敢えずアニスも導師イオンも落ち着きましょう、ね?」

 

「モース様はもっと怒るべきですよぅ!」

「その通りです。こういうところはきちんと指摘しておかなければ」

 

 宥めようとしたが、アニスと導師イオンに詰め寄られてタジタジと後ずさるしかなかった。どうして直接軟禁された私よりも二人の方が怒っているのだろうか。というか段々私が怒られているみたいになってきてないだろうか。普段から感情豊かなアニスはまぁ分かるが、導師イオンがここまで感情を見せるのはとても珍しい。記憶の中ではこの頃はまだあまり感情を出していなかったように思えるため、これは良い変化だ。彼が導師イオンのレプリカとしてではなく、一人の人間として生きようとしている証左だと私には思えるからだ。

 

「そ、それはともかくとしてですね。お二人がいなくなってからのことを聞かせて頂けますか? マルクト軍人にファブレ公爵家の嫡男などという珍しすぎる取り合わせです。お二人の口から詳しく知りたいですね」

 

 尚も怒りの収まらなさそうな二人をソファーに座らせ、話題を変えるためにこれまでの旅の話を聞くことにした。大まかな話はアニスからの報告書で把握しているが、細かなところまではフォローし切れていない。チーグルの森でのこと、タルタロスの襲撃、コーラル城でのことなど、詳しく聞いておかなければならないことが山積している。

 

「これまでの旅、ですか」

 

「色々大変だったんですよ~」

 

 うまく話題を逸らせたようだ。二人は表情を緩め、これまでの道のりについて話し始めた。

 

 エンゲーブでは食料盗難騒ぎからチーグル達と出会ったこと。チーグルから事情を聴いたルーク達がライガの巣に向かったが、群れの長は姿を消しており、残ったライガ達をジェイドと協力して掃討したらしい。どうやらアリエッタの説得が功を奏し、ライガクイーンとその子どもは別の場所に移ってくれていたようだ。これならルーク達とアリエッタの確執はそこまで深くならないだろう。

 

 タルタロスでは記憶通り六神将による襲撃が発生し、同行していたジェイドがアンチフォンスロットによってその能力の大半を封じられてしまったこと。

 

 カイツール軍港が襲撃され、コーラル城で攫われたルークが不思議な機械に繋がれていたこと。

 

 細部は多少異なるものの、大筋では私の記憶通りに彼らの旅は進んでいたようだ。ということは数日後にはルークが親善大使に選ばれ、アクゼリュスに向けて出立することになるだろう。別経路にはなるが、ヴァンと共に。

 

「そうですか、導師イオンもそうですが、アニスも大変だったようですね。タルタロスで護衛すべき導師イオンとはぐれてしまったのは良くないですが、それでもよく導師イオンを守ってくれました」

 

 私はそう言って彼女の頭に手をやり、髪を乱さないようにしながらゆっくりと撫でる。この小さい身体に大きすぎる責任が圧し掛かっている、いや私が背負わせてしまった。今ここにいない彼女の両親の代わりにはなるまいが、こうして労わるくらいはしてやりたい。それが許される身ではないとしても。

 

「んへへ~、アニスちゃん頑張りましたよぅ」

 

「ええ、あなたに任せて良かったと改めて思いましたよ。ですが……」

 

 私は撫でる手を止めた。

 

「タルタロスから飛び降りるなど、余りにも無茶なことをしましたね? 運よく怪我が無かったから良かったものの、死んでいてもおかしくはなかったのですよ?」

 

「あ、あのぅ、そのぅ……」

 

「私はそのときにその場に居なかったのですから本来何も言うべきではないですし、守護役とはそうした危険があるのだと分かってはいます。ですが、あなたに万が一のことがあれば私はあなたのご両親に何と説明すれば良いのですか」

 

「うぅ、ごめんなさぁい……」

 

 私の言葉にアニスはしょんぼりと項垂れてしまった。心なしか彼女のツインテールも萎れているような気がする。これは、言い過ぎてしまったかもしれない。彼女を導師守護役に任命したのは他ならぬ私だ。危険があると分かっていて、そんな私が彼女に説教をする資格など無いのに、つい言ってしまった。

 

「申し訳ありません、アニス。ですが、ご両親も、任命しておいてどの口がと思われるかもしれませんが私だって心配しているのです。お願いですから、無茶はしないでください」

 

「ごめんなさい……モース様」

 

「私も言い過ぎました、謝ることはありませんよ。本当に無事で良かった。ダアトに戻ったらアニスの好きなものを作らせて下さい」

 

「! それじゃあビーフシチューが良いです!」

 

「またそれですか、好きですね、あなたも」

 

「デザートにいちごパフェも食べたいで~す!」

 

 先ほどまでの消沈具合はどこへやら。急に元気になってぴょんこぴょんこと彼女のツインテールが跳ねている。導師イオンが微笑ましいものを見る目でこちらを眺めており、何だか居た堪れない心地になってきた。

 

「こ、こほん。導師イオン、あなたもですよ」

 

「僕も、ですか?」

 

「そうです。私はあなたも心配していたのですから。身体が弱いのにダアト式譜術を使うなど、ライガを追い払う程度なら他の術があったでしょうに」

 

「は、はい……」

 

「私がこのようなことを言うべきでないことは分かっています。ですが、言わせて頂きたい。私は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉は、アニスには何のことやら理解出来ないことだろう。現に首を傾げて不思議そうな顔をしている。しかし、彼にならば伝わるはずだ。オリジナルの想いを知り、私の記憶についても把握している彼ならば。自らの末路まで知ってしまっている彼ならば。

 

「……あなたも無茶なことを言うのですね、モース」

 

「それが、私に課せられた使命ですから」

 

 儚く笑う導師イオンは、それでも私の目にはどこか嬉しそうな色を滲ませてるように思えた。

 

 願わくば、少しでも救いのある結末を。

 

「あぁ、そうだモース。あなたに会わせたい人がいるのですが……」

 

「私に、ですか?」

 

 


 

 

「いやはや、思いのほか早い再会でしたねぇ」

 

「喜ぶべきか否かは判断が分かれそうなところですがね」

 

 薄く微笑む紅瞳の男を前にして、顔が引き攣らないように堪えた自分を褒めてやりたかった。何故この男と私を引き合わせたいと導師イオンは言ったのか、それに部屋には現在自分とジェイドの二人きり。先ほどまでの心癒されるひと時の引き換えというには少し重くはないだろうか。

 

「取り敢えず、導師様を誘拐した疑いで拘束してもよろしいので?」

 

「それは困りますねぇ……我々は偶然導師様とお会い出来たのでこれ幸いと使者として同行を願い出て、そして導師様も快く協力してくださったのですが」

 

「……そういうことにしておきましょうか。結果的に、事が上手く運ぶのでしたら」

 

「おや、意外ですね」

 

 眉を上げてわざとらしくおどけるジェイドに私はジト目を寄越した。

 

「本当のところを暴いたとて、意味がありませんからな。無駄な労力を割く気はありません」

 

「無駄なこと、導師様の安否に関わるのでは?」

 

「今導師様は安全で、少なくともマルクトが導師様を害する理由も必要も無い。それに神託の盾騎士団のティアと導師守護役のアニスもいますからな。万が一あなたが何か事を起こしたとしてもアンチフォンスロットにかかったあなたに対処することは容易いでしょう」

 

「もうそこまで知られていましたか。確かに、その通りですねぇ」

 

 ハハハ、と声だけ笑って見せるが、彼の目は私をじっと観察している。私の一言、一挙手一投足から私という人間を掴み取ろうとしているようだ。実際そのつもりなのだろうが、だがそれを悠長に待ってやるほど私は優しくはない。この男と話すのは胃がいくつあってももたないが、ならばこの数少ない二人きりで会話出来る機会にこちらから彼に踏み込んでいくべきだ。ディストが言っていたように、ジェイドの助け無しではレプリカ達の諸問題を解決することは難しいのだから。協力を得られる時期が早まることで悪いことは無いはずだ。

 

「しかし、私にとってもあなたとこうして話が出来るのは僥倖でした」

 

「ほう? 一介のマルクト軍人の私にローレライ教団の大詠師様がどんなお話があると?」

 

「いえいえ、ジェイド・カーティス大佐にはあまり用は無いのです。用があるのはジェイド・バルフォア博士に対してなのですから」

 

 この言葉に、今まで微笑を保っていたジェイドの顔から表情が消えうせた。紅瞳にあった探るような色も無くなり、代わって冷徹な光が私を射抜く。

 

「……その名を出すということは、あなたにも知られているということですね」

 

「聡明な博士のことならば最早気付いているのでしょう? 実際にあなたは目にしたはずだ。タルタロスで、彼と、あの子の両方を見比べた」

 

「そしてコーラル城でディストから奪ったフォンディスクの情報。なるほど、導師イオンか、アニスから聞きましたね? 抜け目ないことだ」

 

「詳しいことまでは何も。ですが、それ以外の情報網も私にはあるのですよ」

 

「六神将ですか? キムラスカとマルクトの戦争を切に望んでいるらしいじゃありませんか。そのために暗躍して我々を妨害し続けた、とか」

 

 おっと、どうやら彼の中では六神将を差し向けたのは私ということになっているらしい。それもそうか、ヴァンは彼らと同行していたし、対外的に六神将は大詠師派ということになっている。彼らが動くのならば大詠師である私の指示があったのだと考えるのが自然だ。

 

「にしても、今代の大詠師様はとても頭が切れますねぇ。六神将を動かしながら、導師イオンとその守護役も懐柔し、自身に疑いを向けさせない。いやはや、その手口は見習いたいものです。導師イオンもあなたの手に掛かればただの操り人形。それを止められるものは教団にはいない、というわけですね」

 

 この男から見れば、私は導師イオンを擁する和平使者団を六神将を使って妨害しながら、しかしそれを当の導師本人に疑わせないほどに導師の心に深く入り込んでいる奸臣のようなものか。なるほど、彼がここまで警戒するのも頷ける話だ。そしてこのすれ違いは多少話をしたところで解消できそうも無いのが痛い。いきなり未来を知っているなどと話してそれを信じる人間はそうはいない。タトリン夫妻ほど純粋ならばあるいは信じるかもしれないが、

 

「六神将を動かせるのは私だけではない、と言ってもあなたは信じないのでしょう」

 

「どうでしょう。案外すんなり信じるかもしれませんよ?」

 

 そう言ってジェイドはまた薄く微笑むが、その目は全く笑っていない。嘘をつくのが下手な男だ。真に狡猾な男は自身にまで嘘をつくことが出来る。殺したいほど憎い仇を目の前にしても、その仇をまるで自らの家族かのように思いやり、気遣ってしまえるのだ。そういう意味では、この男もまだ未熟者なのかもしれない。あるいはこれがこの男の手口ということなのか。

 

「それを言うならもう少しうまく表情を取り繕うべきですな。私は言うべきことを言うだけです。聞いてどうするかはあなたに委ねるしかありませんが」

 

「……聞かせて頂きましょう」

 

「私はあなたがいつか私に協力してくれることを願っています。半ば事情を知ったあなたならば、ルークと正面から向き合うことも出来るでしょう。己の罪から目を背けず、彼を見てあげることを私は願います。それと……ヴァンには気をつけることです」

 

「…………あなたは、一体どこまで知っているのですか」

 

「……さぁ、私にも皆目見当もつきません」

 

 


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