大詠師の記憶   作:TATAL

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かなり昔にやったゲームの知識故、設定やストーリーが曖昧になっています。外伝も覚えていないので足りない知識はwikiで補うスタイルで書いていきます。

ここ設定間違ってるゾ。矛盾してるじゃねぇかオラァン!ってときは言ってくれると助かります(修正するとは言っていない)


謡将と私

 導師とアニスとの食事を終えた次の朝。まだ空がぼんやりと白みかけてきた時間に、私は神託の盾騎士団の訓練場へと足を運んでいた。

 

 士官学校に入学してから、奏将となった今でもずっと続けている日課の訓練を行うためだ。

 

 まだ誰もいない訓練場の中央に立つと、教団の譜術士に支給されるものとは少し意匠が異なる杖を構えた。奏将となったときに特注で作らせたものだ。片腕と同じ長さ程ある棒の先端に、淡青色の宝玉が据え付けられ、それを保護するように棒と同じ素材の金属で格子状に覆っている。また、宝玉と反対側の先端は丸く膨らんでおり、殴打の威力を上げる工夫がなされている。

 構えは杖の中ほどを右手で握り、左手は宝玉の辺りに添える。専守防衛の構えである。呼吸は深く、穏やかに。最初は動きもゆっくりと。身体を型に馴染ませるように杖を振るう。筋肉が解れてきたと感じれば、動きは少しずつ速く、激しくしていく。

 

 半刻もしないうちに、私の身体からはとめどなく汗が流れ、杖が朝の空気を切り裂く音と私の荒い息遣いだけが訓練場に響き渡っていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…、やはり私ではこんなものですか」

 

 この訓練の時、私の目の前にはいつも幻想のヴァン謡将が立ちはだかっている。栗色の髪、髭をたくわえた偉丈夫が振るう剣は、想像の中でさえ私を容易く切り伏せるのだ。そのことが、どうしようもない壁を痛感させ、私を更に鍛錬へと打ち込ませる。

 

 杖術の訓練を終えれば、次は譜術の訓練である。私は杖を目の前に構えると、身体の中を流れる音素に意識を集中させる。

 

「荒れ狂う流れよ…『スプラッシュ』!」

 

 言霊に合わせて宝玉は輝きを増し、身体から力が抜ける感覚と共に目的の現象を発生させる。

 訓練場の中を流れ、全てを押し潰す濁流。第四音素の中級譜術、スプラッシュである。

 私はどうやら第四音素との親和性が高かったらしい。士官学校の頃から、第四音素の譜術に関しては同期の中でも頭一つ抜けた実力を発揮できていた。今の地位にいられるのも、この素養が大きいと個人的に感じているほどだ。

 スプラッシュに続き、私は音素の許す限り譜術を行使し続けた。このような乱暴な訓練、もし候補生や騎士団員がしていれば止められているところだ。私も何度も教官から怒られた。だが、私はこの訓練を止めるつもりはなかった。ともすれば音素枯渇で意識を失う、一歩間違えれば死んでしまいかねないが、そこまで自身を追い詰めなければいけなかった。でなければあの男の影さえ踏むことが出来ないのだから。

 

「出でよ…敵を、蹴散らす……ぐっ」

 

 何度譜術を行使したか分からない。遂に身体が意志に反して崩れ落ち、まともに立っていることすら出来なくなってしまった。私は訓練場の真ん中に横たわり、呼吸を整えることに集中する。

 

「やはり、この程度では……」

 

「相変わらず無茶な訓練をしているな」

 

「!? カンタビレ…いつから見ていたのですか」

 

 いつの間にやら訓練場の片隅に立っていたのは、六神将と並び立つ第六師団の長、カンタビレだった。眼帯によって片目しか使えないにも拘わらず、その実力は六神将と伯仲している強者である。彼女とはこの訓練場で顔を合わせることが多い。いや、この時間に訓練場に足を運ぶのは彼女くらいしかいないのだが。

 艶のある黒髪と、漆黒の装いは物陰にいれば存在を認知できなくなってしまいそうな見た目ながら、一度彼女を見てしまえばとても無視出来ない美貌であった。

 

「お前が譜術を滅茶苦茶に乱発し始めてからだな。ったく、お前以外がやっていたら殴ってでも止めてたところだ」

 

「ハハハ、非才の身ではこれくらいせねばいけませんからな」

 

「非才、ね」

 

 仰向けになった私を上から覗き込んだカンタビレの目には、どこか呆れの色が浮かんでいるように見えた。しかし、師団長を前にしていつまでも寝転んでいるわけにはいかない。私はまだ重たい身体を何とか動かし、身体を起こした。

 

「非才ですとも。ここまでやっても尚私の力はあなたや六神将には遠く及ばない。立ち合えば敵と認識される間も無く地に倒されているでしょう」

 

「そりゃな。大詠師としての仕事があるお前と違って私は訓練することも仕事だ。むしろお前に負けたら情けないくらいだよ」

 

「確かに、その通りですな。やはり私はまだまだ驕っていたようです」

 

 それもそうだ。大詠師として働いている間も、彼女らは訓練し、自らの実力を磨き上げている。高々少し死にかけたくらいでそれに追いつけると考える事こそ傲慢な考えだった。反省しなくてはいけないな。

 カンタビレは最早呆れを隠すつもりも無いようで、私を見てやれやれと言わんばかりに首を振っていた。彼女からすれば呆れどころか怒っても良いくらいの考えだったな。その実力のみを以て師団長の地位に就いた彼女にしてみれば、私の考え方はとても受け入れられたものではなかっただろう。

 

「失礼なことを言ってしまいましたね、すみません」

 

「謝るなよ。私は確かにお前には負けるつもりはないが、だからといってあんたを認めてないわけじゃないんだ。少なくとも歴代の大詠師であんた程真面目に訓練に打ち込んでた奴はいなかっただろうさ。派閥としては中立だけど、私人としてはあんたには見どころがあると感じてるんだ」

 

「これはまた…過分な評価を頂いてしまいましたな」

 

 カンタビレからの予想外の評価に戸惑っていると、私の眼前が白い何かで遮られた。

 

「ほら、汗を拭きな。汗だくのおっさんなんかいつまでも見たくないからね」

 

「そうですね。見苦しいものを見せてしまいました。と、話は変わりますが、ティア・グランツ候補生はどうですかな」

 

「良い子だね。堅苦しいのは玉に瑕だが、真面目だし、何より優秀だ。最初はヴァンに傾倒していたけど、今はそれもマシになっているしね。訓練期間が終わればお前の情報部隊に預けようと思うが、どうだい?」

 

「ええ、それで構いません。私としても、彼女には是非私の下で働いて欲しいと思っていますからね」

 

 そうすることでヴァンへの牽制になるだけでなく、記憶の通りに救世の旅が進んでいるかをティアとアニスの両方から情報として得ることが出来る。記憶の中の私はアニスからの連絡のみで情報を得ていたようだが、それだけでは不足だ。情報源は多くなるに越したことはないのだから。

 私はそう考えて発言したのだが、どうやらカンタビレはそうでもなかったようだ。ニヤリとからかうような笑みを浮かべて私を見てきたのだから。

 

「おやおや、節制のモース様も若い女の魅力には勝てなかったってところか?」

 

「何を言っているのですか、カンタビレ。冗談にしても、グランツ候補生が可哀想でしょうに、私のような男にそんな目で見られてしまうなど。私がグランツ候補生ならば身の毛もよだつ思いですよ」

 

 というか節制のモースとはなんだ。いつの間にそんなあだ名が私に付けられているのだ。別に節制を美徳として率先したことは無いのだが。いや、確かにこの歳になって妻どころか恋人すら出来たことのない寂しい人間であることには違いないのだけれども。

 

「何だい、からかい甲斐の無い奴だな。少しは焦ったりしないもんかね」

 

「ここで焦ってしまってはそれこそ語るに落ちるというものでしょう」

 

「ハッハッハ、違いない。ま、そういうことならよろしく頼むよ。お前ならヴァンに預けるよりかは信用できるし、ティアもお前の下ならって乗り気だ」

 

「その信用を裏切らないように努力しましょうか」

 

「ああ、お前ならそう言ってくれるだろうと思っていたよ」

 

 借りたタオルは洗って返すことを約束し、私の朝の訓練は幕を閉じたのだった。

 

 

 


 

 

 

 大詠師の仕事には、定期的に開催される詠師達との会議に参加することも含まれる。月に一度、導師、大詠師、詠師、神託の盾騎士団の首席総長が一堂に会し、様々な議題について意見を交換するのだ。

 広い会議室に設置された長方形の机を囲むように、導師イオン、大詠師である私、主席総長のヴァン、教団の詠師が席を並べる。議長席には導師イオンが座り、その右隣には私、ヴァン、そして大詠師派閥の詠師達が続く。反対側には導師派閥および中立派の詠師達が席についている。いつの頃からか、この会議では大詠師派閥とそれ以外の派閥が対立するような席順が固定されてしまった。

 大詠師派閥はすなわち預言(スコア)遵守派閥である。一般の信者は皆預言(スコア)を遵守することを当然と考えている。したがって教団の最大勢力であり、その筆頭として大詠師である私が立つ。その一方で預言(スコア)はただの指標に過ぎず、緩やかに預言(スコア)からの解放を唱えるのが導師イオンの率いる改革派である。ただし、この派閥はトップの導師イオンがしばしば体調を崩すこと、派閥自体がまだ小さいことから、どうしても勢力基盤が弱く、導師イオンの力によってのみ立つ派閥に過ぎない。

 私は導師様とは私室で頻繁に顔を合わせ、話をするものの、こうした公の場では導師様と対立せざるを得ない。預言(スコア)の遵守など、自分からしても馬鹿らしいとしか思えないが、何も知らない人々は今日も預言(スコア)を拠り所にしているのであり、無用な混乱を招いてしまえばそれこそヴァンが暗躍しやすくなるだけだ。

 

「では、本日の議題に関してですな」

 

 会議の進行役である詠師トリトハイムが、参加者全員が揃ったことを確認してから口を開いた。

 

「近年キムラスカとマルクトの国境で緊張感が高まっております。目ざとい商人の中には開戦気運が高まっていると流通を絞り始めているものまで出始めているとか。生活に窮した一部の人々がダアトに移住を願い出ております」

 

「ダアトは誰に対しても中立で、門戸を開いています。可能な限り受け入れるべきでしょう」

 

「待て! 無作為に受け入れてはダアトに住む教徒達に我慢を強いることになりかねませんぞ。神託の盾騎士団だけでは治安維持にも限界がある」

 

「しかし受け入れないわけにもいかないでしょう。マルクトであれ、キムラスカであれ、彼らは心底困窮しているのですから」

 

「キムラスカはともかく今のマルクトは預言(スコア)嫌いのピオニー陛下ですぞ。なぜ教団に逆らうものを教団に受け入れねばならないのです」

 

 会議ののっけから改革派と保守派が激しく舌鋒を交わしている。導師様は瞑目し、私もまた踊る会議を何の感慨も持たずに眺めるのみである。ヴァンは見た目こそ穏やかな表情を浮かべて話を聞いているものの、その目は冷徹な色を隠しきれていない。

 

「モース、あなたはどうすべきだと考えますか」

 

 両派閥の人間が僅かに静まった隙を見計らったように、導師様は声を発した。その声は、静かながら周囲の人間全ての注意を引き付けた。

 

「……そうですな。民に関しては受け入れる他ありますまい。教団の宿舎にまだ空きがあったはず。しばらくはそこで過ごして頂き、入れなかったものは最悪街の外縁部でバラックを建てて住むしかないでしょう。神託の盾騎士団がダアト周辺の魔物を掃討し、その解体や周囲の開拓作業を仕事として与えて少しでも収入を与えれば今すぐにどうこうなることは防げるでしょう。騎士団に関してはヴァン謡将にお願いしてもよろしいのでしょう?」

 

「ええ、お任せください。人員の配置を進めましょう」

 

 保守派の人間としては今のダアトに住む人々が大事だ。もちろん困っている人を助けることは教義にも適うのだが、それも自身に余裕があることを前提としている。誰も彼もがタトリン夫妻のように自身の身を削って奉仕できるわけではないのだ。

 

「ありがとう、モース。では、そのようにしましょう」

 

 ただ無条件に受け入れるだけではだめだ。その場しのぎでしかなくとも、当座の仕事を与えねばならない。私の提案は導師様の求めるものであったようだ。彼がそう言ってしまえば、それに反対できるものは誰もいない。この議題はこれで決着だ。

 

「では、難民は受け入れる方向で話を進めるということで。本日はその他に大きな議題は上がっておりませんし、このまま解散でよろしいかと思いますが、如何か」

 

「そうですね。僕はモースとヴァンに相談したいことがあるので、少し残って頂けますか?」

 

 トリトハイムと導師様の言葉に、詠師達は会議室を後にする。全員が部屋を出るのを見届けてから、詠師トリトハイムも私とヴァン、導師様に一礼して部屋を出た。

 この会議室に残ったのが導師様、ヴァンと私だけになったことを確認してから、導師様は徐に口を開いた。

 

「先ほどのキムラスカとマルクトの緊張感の高まり。それに関連して、マルクト皇帝のピオニー陛下から、和平の使者の要請が僕に届きました」

 

 これだ。ここが一つの転換点だ。私は表情こそ変えなかったが、心臓は煩いほどに鼓動を荒げていた。記憶を想起する中で、私は常に疑問であった。何故、導師イオンはマルクト軍から半ば誘拐されるような形で使者となったのか。マルクトからキムラスカへの親書などという大きな行事ならば、必ずダアトに一度は打診があったはずだ。タルタロスなどという大型兵器を持ち出しての行軍。本当ならば堂々とキムラスカとマルクトの国境を越えたかったはずなのだ。

 なのに、実際は人の目を逃れるように親書は秘密裏に導師イオンの手に渡り、キムラスカへと届けられた。それは何を意味しているのか、

 

「僕としてはこの申し出、受けるべきだと考えています」

 

「いけませんな、導師イオン。その申し出は受けるべきではありませんぞ」

 

 そう、大詠師モース()がそれを拒否したのだ。その権力を使って、半ば軟禁という形で。

 

「ダアトは、ローレライ教団はあくまで中立の立場。マルクトの親善大使という立場は我々の権威がマルクトに政治利用されるということになりますぞ」

 

「ですが、モース……」

 

「それに、導師イオンが使者となってキムラスカとマルクトの橋渡しをすることなど、預言(スコア)にも詠まれていません」

 

 私なら、大詠師モースならばこう言うだろう。キムラスカとマルクトに戦争を起こしてもらわなくては困る大詠師モースは、何としてでも両国に火種を残しておきたいのだから。

 

「モース様、とはいえ戦争になれば多くの死者、難民が出ますぞ?」

 

 白々しく、ヴァンが私を窘める。どの口が言うのか、導師イオンが和平の使者になって欲しくないのは貴様も同じであろうに。ヴァンは私が強硬に反対することを見越して導師イオンの肩を持つのだ。そうすることによって今の導師イオンの心に自らを植え付けていくのだ。だからこそ記憶の中の導師様は薄々ヴァンが怪しいと感じながらも、どこかでそれを信じ切れていなかったのだろう。

 

「黙れ! 預言(スコア)から外れたことをするなど許されるわけが無い! ヴァン、導師イオンを部屋にお連れしろ。お疲れのようですからな、導師守護役と共に部屋で休ませ、騎士団員に部屋の前で警護させて誰も通さぬようにしておけ」

 

 こうして傲慢に振る舞うことが、ヴァンの計画に含まれているはずだ。これでヴァンの、そして()()()()()()狙い通りになるはずなのだ。

 預言(スコア)狂いの大詠師、これほどまでに扱いやすい駒はないだろう、ヴァンよ。

 

「申し訳ありません、導師イオン。ご同行願えますかな?」

 

「……ええ、分かりました」

 

 私の言葉に従い、ヴァンは導師イオンに付き従って会議室を後にする。部屋を出る前に導師イオンがほんの僅か、視線をこちらに向けた。私は答えるように目礼した。

 

 さあ、ようやく始まるのだ。聖なる焔の光による救世の旅が。多くの命を救うために、生まれて間もない幼子を犠牲にするふざけた物語が。

 

 貴様の筋書き通りになどしてやるものか、ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ。人は、預言(スコア)に縛られたままの家畜などではないことを教えてやる。

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