A. いる(鋼の意志)
テイルズ特有のスキットが好きなのでネタが続く限りは入れます
本編に入らない小ネタ的会話とか思いついたらスキット化
なおそんな小ネタばっかり思いついてしまう模様
サブタイトルが被っていたので慌てて変更。行き当たりばったりでサブタイトルをつけてたってハッキリわかんだね
「落ち着きましたか?」
「あの、その……お恥ずかしいところを」
自身の血に由来する役割と、身体を蝕む病魔のプレッシャーが和らいだためか珍しいティアの涙を見ることが出来た。泣かせたいわけではないが、こうして年相応の感情を見せてくれるのはとても微笑ましく思える。
「さて、ではそろそろ私の方からもお話せねばいけないでしょうな」
その言葉と共に私は居住まいを正してルーク達に向き直る。空気が変わったのを感じたのか、彼らの表情も自然と引き締まる。
「あなた達から聞きたいこともたくさんあるでしょう、カーティス大佐は特に」
「そう思われる程度にはご自分が怪しいとは思っていらっしゃるのですね」
「自覚はしているつもりですよ。特に先ほどはあからさまでしたから」
「そうですね。ティアの症状に対してまるで予め準備出来ていたように対策を打ち出した。我々の動向をティアやアニスがあなたに知らせていたとしてもディストの協力を得てこの装置を作るには時間がかかるはず。それにあなたはアクゼリュスで何が起こるかも知っていた。崩落することは
眼鏡の奥から私を射貫く紅瞳は、軍人としての彼を象徴するように鋭い光を宿している。その視線に晒されているだけでまるで槍の切っ先を突き付けられているような錯覚を覚えた。
「それで、カーティス大佐は何から聞きたいのですか?」
「一番知りたいのはあなたの目的。そしてどこまであなたが知っているのか、ということですかね」
ジェイドの言葉は彼らしくも無い漠然とした物言いだった。それだけ彼にとって私の動きは不気味に映っていたのだろう。
「私の目的ですか。ヴァンの企みによる犠牲を可能な限り少なくすること」
「ということはヴァン謡将とは敵対関係であると?」
「そうなります。もちろん信用されるとは思いませんが。そして二つ目の質問についてですが、少なくともあなた達より多くのことを知っているでしょう。これでもローレライ教団の大詠師だった人間ですから」
それだけでは無いが、私の事情を深く知っているのはこの場ではイオンだけだ。今私の記憶を明かしたとして、それを容易く信じてもらえると思うほど私は楽観的にはなれない。
「あなたの行動を見ていればヴァン謡将と協力しているわけではないことに疑いはありません。ですが……」
「あなた達の味方であるようにも見えない、ということでしょうか」
「そうなります。本当にあなたが我々の味方であるならば、アクゼリュスに向かわせた理由が分かりません。ティアやカンタビレがいたから我々は死ぬことはありませんでした。しかし、そもそもあなたの権力があればルークをアクゼリュスに向かわせず、被害を出さないことも出来たのではありませんか? そうすれば、ルークが辛い思いをすることも無かった」
彼の言葉を黙って聞きながら、内心私は驚きを隠せなかった。まさかジェイドがルークを慮るようなことを言うとは。記憶の中の彼は最後こそ彼に対して心を開いていたものの、この時点でこうして彼への気遣いを素直に言葉にすることは無かったはずだ。私がかつて投げかけた言葉によるものか、あるいはルークの姿を見て感じることがあったのか。
「そのことについては、私はルークにどれだけ罵倒されようが甘んじて受け入れましょう。ルークにとって辛いことですがアクゼリュス崩壊は私には止めることは出来ませんでした。もし無理矢理止めようとしても私がローレライ教団での求心力を失って大詠師の座を退くことになり、キムラスカはやはりルークをアクゼリュスに送り込んだことでしょう。その場合、カンタビレによって事前に市民を避難させることも間に合わなかった可能性があります」
そしてその行為は今以上にオーレルが動く大義名分を与え、ヴァンの暴発を招く可能性もあった。それを思えば迂闊に動くことは憚られた。結局今の状況はそれと似たようなことになってしまっているが。
そのことを伝えると、ジェイドは未だに難しい顔をしたままながらも、取り敢えずは納得したように頷いた。それを見て私はルークへと視線を向ける。
「さてルーク。今も言ったように私はあなたには何を言われようが、何をされようが受け入れるしかありません。あなたは私に言いたいことはありませんか」
「お、俺?」
突然話を振られて目を丸くさせるルーク。自分に話が回ってくるとは思っていなかったのだろうか。
「……その、少なくとも俺は恨み言を言うとか、そんなつもりは無いよ」
「それは何故です?」
「その、だってバチカルで俺の身を案じてくれてただろ。ローレライ教団の大詠師だから
「ルーク……」
彼の言葉に、傍らにいたティアが表情を和らげて嬉しそうに呟いた。彼を近くで見てきたティアだからこそ、彼の変化が、成長が感じられるのだろう。そして私も彼の言葉に自らの今までの行いを肯定されたような気がして、ともすれば視界が滲んでしまいそうだった。そんな資格は無いというのに、許されたように錯覚してしまう。私がしてきたことは間違いではなかったのだと。その優しさに甘えてはいけないのに、私のような罪深い者が。
「もしかしたら理解ある大人のフリをしているだけかもしれませんよ?」
「そうやって悪ぶろうとするところ、ジェイドと似てるな」
ルークに言い返されてしまい、何も返せずに言葉に詰まる。それを見てアニスが堪えきれないとばかりに噴き出した。
「モース様、もう良いんじゃないですか? 大佐も色々と疑っちゃうのは分かりますけどぉ、モース様はそんな悪いこと出来るような人じゃないですよ」
「そうですね、それは僕からも保証します。何より僕もナタリアもダアトでモースに救われたのですから」
「少なくとも個人として悪い人では無いというのは確実ですわ」
アニスの言葉を皮切りに、イオンもナタリアもそう言って私を擁護してくれる。確かに彼らを助けたのは事実だが、それだけでここまで信用されるというのもどこか居心地悪く感じてしまう。子ども達に懐かれることもそうだが、私のような人間が慕われることに違和感が拭えない。
「……ま、取り敢えずそういうことにしておきましょうか」
「あっさりと説得されてしまうのですね、カーティス大佐。ガイもそれで良いのですか? ともすればあなたにとって私は最も憎むべき人種なのかもしれませんよ?」
ジェイドが肩を竦めてそう言ったため、今度はガイに話を向ける。先ほどから黙ってこちらを観察していたが、彼にも私を疑い、憎む理由はそれこそ山のようにある。
「そう言うってことは俺のことも知ってるってわけだな」
「ええ、知っていますよ。消滅したホドにあったマルクトの名家、ガルディオス伯爵家の嫡男。ホドの消滅は
私がガイの事情を把握していることに、彼は驚く素振りは見せなかった。これまでの私の様子を見て、それくらいなら知っていると思っていたのだろう。
「そりゃあ
「ガイ……」
「そんな顔するなよルーク。少なくとも今は復讐なんて考えちゃいないさ。お前がアクゼリュス崩落の責任に耐えかねて潰れちまってたら、どうなってたか分からねえけどな」
「それは一体どういうことですか?」
ガイの言葉に私はいまいち理解が及ばない。ルークが精神的に潰れてしまっていたら公爵家に復讐をしていたかもしれない? 私の記憶ではガイがルークを気遣うことはあれど、そのようなことを口にしていた覚えはない。
「俺のご主人サマはルークだからな。そりゃあ主人を害されたら怒るさ、俺は忠義者だからな。それに、その頃からあんたが大詠師だったわけじゃないだろ。ローレライ教団の関係者だから復讐するなんてなったら俺は何人を手にかけなきゃいけないか分かったもんじゃないさ。むしろカンタビレを動かしてくれたおかげでルークが罪も無いアクゼリュスの人々を死なせることもなかったんだ。それを考えれば感謝したいくらいだね」
「モース様、そんなにご自分を卑下なさらないでください。モース様に救われた人は大勢います。私だってそうです」
ガイに同調するようにティアも言葉を重ねる。やめてくれ、私はそのような優しい言葉をかけてもらえるような人間ではないのだから。
「ガイ、それにティアもありがとうございます。ですがこればかりは性分ですので」
「さて、では話もこれくらいにしてベルケンドに向かいましょうか。ティアの容態も見てもらわないといけませんしね。ノエル、お願いしますよ」
「お任せください!」
ジェイドの言葉に操縦士のノエルが舵を切り、アルビオールは機首をベルケンドの方角へと向ける。
「ほらほら、モース様、こっちに座って外を見てみてくださいよ。すごい景色ですよ!」
深刻な話は終わりと言わんばかりに、アニスが自分の座っている席から私に呼びかける。それに従って窓へと目を向ければ、バチカルは足下に遥か遠くなり、イニスタ湿原も一望できる高さからオールドラントを見下ろしていた。その光景に一瞬幼い頃に戻ったかのように胸が高鳴り、思わず窓に手をついて眼下に広がる美しい景色に見入ってしまった。ここまで美しい景色があったとは思いもしなかった。ローレライ教団の施設も大詠師や導師の部屋は高い階層に割り当てられているため、眺めは悪くない。だが、この景色はそれとは一線を画すものだ。
音譜帯は今私達がいるよりも遥かに高いところに位置している。つまり音譜帯にいる音素集合体はこの景色を常に眺めているのだろう。唯一地核に残されたローレライを除いて。始祖ユリアとの契約のためとはいえ、孤独に地核に囚われているローレライが解放を望む気持ちが理解出来た気がした。
心行くまで景色を堪能した後、アニスが空けてくれた席に腰を下ろす。まだ興奮は収まらない。表情こそ変わらないように引き締めているものの、胸の内で心臓がどくどくと鼓動を打っているのを強く感じた。
「……素晴らしい景色でした」
「そうでしょそうでしょ~」
「……あの、何故私の膝の上に座るのですか、アニス」
「アニスちゃんも疲れちゃいましたし~。他の席には大佐やティアが座ってて空いてないんですもーん」
私が腰を下ろすと同時に、当たり前のように私の膝の上に座るアニスに問いかけるが、彼女は何も気にした様子なく上機嫌に頭を揺らしている。座りたかったのならば私に席を譲ることなどなかったというのに。
とはいえ、アニスが上に乗っている以上立つことも出来ず、アニスがそこまで重くもなく、負担になるわけでもないため、甘んじてベルケンドに到着するまで彼女の椅子になることにしたのだった。
途中で頭を撫でることまで要求されるとは流石に思わなかったが。
スキット「大詠師のおしごと(過労死編)」
「そういえばローレライ教団の大詠師って普段何やってるんだ?」
「いきなりな質問ですね、ルーク様。ま、余り大した仕事があるわけではありませんよ。各地の統括は詠師が行っていますからね、私が主にするのは教団全体の方針策定にキムラスカ、マルクトとの折衝。導師様のスケジュール管理くらいでしょうか。神託の盾騎士団にも教団との連携の上で指示を出すこともありますが」
「ダアトは宗教自治区ですからね。導師を国王とするならば大詠師は宰相のようなものでしょうか。僕は知識が無かったのでモースは国王としての仕事も兼任する摂政みたいな位置づけでした」
「それってもしかしなくとも滅茶苦茶偉いんじゃないのか?」
「めちゃくちゃ偉いですよぅ。それにたった一都市なのにキムラスカやマルクトみたいな大国と交渉する必要もあるから大詠師はとっても大変なんだってパパやママみたいな普通のダアト市民でもよく言ってるよ。ダアト市街で見かけるモース様って大体早歩きだし」
「マルクトに大詠師が来られるときは通商関連の交渉がメインでしたねぇ。ピオニー陛下も何度も言い包められて悔しがっていたものです」
「キムラスカには預言を詠みに来ることが多かったですわね。そのときに私も色々とアドバイスして頂きましたわ」
「そんな人がこんな所にいるって改めて思うとすごいことだな……」
「いや、ルーク様。公爵家嫡男のあなたも十分にすごいのですよ?」
「俺自身は何かしたわけじゃないからなぁ」
「それを言うならば私もですよ。結局私は皆の意見を聞き、それを取りまとめるだけです。王みたいなものと言っても所詮は一都市の長に過ぎませんから」
「その一都市の長がマルクト皇帝を丸め込んでたってのはすごいことなんじゃないのか、旦那?」
「そうですね、ガイ。陛下も大詠師がマルクトで生まれていれば何としてでも臣下にしてやると言っていましたよ」
「あの陛下なら言いかねないな……」
「というか今は大詠師でもなくなったわけだし、ピオニー陛下なら嬉々としてスカウトしそうだな」
「良いところに目をつけましたわねルーク。我がキムラスカにスカウトいたしましょう!」
「僕がダアトに戻ってモースをもう一度大詠師にするので大丈夫ですよ」
「流石イオン様! アニスちゃん大賛成でーす!」
「いやぁモテモテですねぇ、モース様は」
「マルクトに関してはカーティス大佐がもう少しピオニー陛下の補佐をすれば良いのでは?」
「ハッハッハッ、私は子どもですからね。難しいことは分かりません」
「さてはあなた、前に言ったことを未だに根に持っていますね?」
「この感じだと、大詠師様はどこに行っても休むことは出来ないんじゃないか?」
「そうね、ガイ。皆して好き勝手なこと言って。もう、こんなことならユリアシティにきてお祖父さまと一緒に市長をして頂きたいわ。ルークもそう思わない?」
「いや、ティアも援護してるように見せかけてちゃっかり引き込もうとしてないか?」
「必要とされるのは嬉しいのですが、身体がもちませんね……」
「刺客に殺されるんじゃなく仕事に殺される大詠師か……」
「滅多なことを言わないでください、ガイ。冗談に聞こえません」