大詠師の記憶   作:TATAL

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アビスって割と用語関係の説明が少なくてプレイ中はフィーリングで進めていた思い出

改めて調べてみるとそうだったのねって設定が多くて驚きました


反抗への道と私

 ビリジアン知事の館で休養を取った翌日、応接室に集まった私達は、昨晩ジェイドと二人で話した内容を共有していた。

 

「……えぇ~っと、そのディバイディングラインとか、記憶粒子(セルパーティクル)ってのはよくわからねぇけど、つまり各地のパッセージリングを操作して外殻大地を一斉に降ろせば何とかなるってことか?」

 

 話を聞いたルークがこめかみに人差し指を添えて眉間に皺を寄せながら確認するように私の方を向く。そういえばこれらの話はローレライ教団の詠師以上にしか知られてない話も含まれていた。そうした背景知識が無いまま話をしても中々飲み込めなかっただろう。きちんと具体的な行動を読み取ってくれただけでもルークがきちんと理解しようと話を聞いてくれていたのだと分かる。

 

「急に込み入った話になってしまいましたね。少し整理しましょうか」

 

 そう言って私は身体ごとルークに向き直る。それに対してルークはきまり悪そうに肩を縮めた。

 

「ご、ごめん。知らない言葉ばっかで混乱して……」

 

「謝る必要はありませんよ。知らないことを恥じる必要などまったく無いのですから。むしろ責められるべきは不親切な説明をしてしまった私です。分からなければ何でも聞いてくれれば良いのですよ。それを咎めるなど、少なくとも私にはできません。それにあなたが疑問に思ったことは大抵の人も疑問に思っていることなのですよ。それを聞いてくれることは周りの理解も助ける上で大切なことです」

 

 アクゼリュス崩落の際、カンタビレがフォローし、ジェイドも不器用なりにルークを気遣ったと聞いている。それ故か今のルークに記憶の中の彼ほど卑屈になっている気配は見受けられないが、それでも罪悪感から彼の自尊心が著しく低くなってしまっており、ふとしたことでも自分の落ち度だと思い込んでしまうようになってしまっていた。落ち込むルークに対して私は気にすることは無いとルークに笑いかけながら、補足を始めた。

 

 そもそも第七音素(セブンスフォニム)記憶粒子(セルパーティクル)は互いに密接な関係にある。地核に含まれている膨大な記憶粒子(セルパーティクル)がプラネットストームによってオールドラント上空に噴き出すと、それは音譜帯に到達する。その際に音譜帯と結びついた記憶粒子(セルパーティクル)第七音素(セブンスフォニム)を生み出す。記憶粒子(セルパーティクル)にはこの星の行く末が記録されており、それ故に第七音素(セブンスフォニム)を扱う素質のあるものは第七音素(セブンスフォニム)と結びついた記憶粒子(セルパーティクル)から預言(スコア)を読み取ることが可能になる。

 そして記憶粒子(セルパーティクル)の噴出を利用して外殻大地を押し上げる機構がセフィロト。各地のパッセージリングは地核と繋がるセフィロトを操作してセフィロトツリーを形成しており、このセフィロトツリーが外殻大地の直下全域を覆うように形成している力場がディバイディングラインというわけである。この力場によって外殻大地は支えられ、魔界(クリフォト)の障気が外殻大地に噴き出すことを押し留めている。

 つまり外殻大地降下作戦は、このディバイディングラインを利用して緩やかに外殻大地を降下させると共に障気を押し込め、地核振動の原因となるプラネットストームを停止させることで大地の液状化を止め、外殻大地を安全に魔界(クリフォト)に浮かべることを目的としている。

 

「でもそれじゃ、障気は消えないんだろ? いつかはアクゼリュスみたいにまた噴き出してきちまうんじゃねえか」

 

 説明を受けたルークは、そう言って首を傾げる。やはりこの子はとても頭が良い。基となる知識が少ないだけで、その着眼点と頭の回転は人よりも優れている。

 

「とても素晴らしい質問ですね、ルーク様。ですからこれは一時凌ぎでしかないのですよ」 

 

「べ、別にそんな大した質問じゃねーよ……」

 

 失われてしまった自信は、こうして些細なことから成功体験を積み重ねることでしか取り戻すことは出来ない。彼が気恥ずかしげに頬を掻いているが、それに構うことなく私は彼を褒めた。

 

「もちろん障気はそのままです。したがって障気の根本的な解決は」

 

「我々大人の仕事、ということになります。人遣いが荒いですねぇ、大詠師様は」

 

 私の言葉を引き継いでそう締めたジェイドがやれやれと肩を竦めた。私はそれに対してジト目を返す。もちろん冗談だと分かっている。少し難しい話になったため、ジェイドなりにブレイクをとったのだろう。

 

「最も大変な仕事を子ども達に任せるのですから、せめて後顧の憂いを断つくらいはしないと。情けない大人と言われたくはないでしょう? それに今は大詠師ではありませんよ」

 

「そう言われてはやるしかありませんね。ここで元大詠師様の好感度を稼いでおけば、良いこともありそうです」

 

「生憎ですが私の査定は厳しいですよ?」

 

「おや、でしたら珍しく真面目にやりましょうか」

 

 そう言って私とジェイドがくつくつと笑いを溢すと、それに釣られて応接室内の空気も和らいだものに変わった。ひとまずは空気の入れ替えには成功したと言って良いだろう。

 

「さて、ではこれからのことについて考えましょうか」

 

 ジェイドはルーク達に向き直り、そう言った。彼らがこれからすべきことは、各地のセフィロトを巡り、外殻大地降下の為にパッセージリングに命令を書き込んでいくこと。そして地核の振動中和を行うため、その前提となる地殻の振動数測定を行うことだ。

 

「しかし、地核振動数測定といってもどういった装置が必要になるのか分からないのが辛いところですわね」

 

「ローレライ教団の禁書の中には創生歴時代の技術書もありました。その中にならばそういった装置の設計図もあったのでしょうが、持ち出すことは出来ませんでした」

 

「流石に一から考えるなんてしてられないからな。ダアトに潜り込むか?」

 

「ダアトは新たに大詠師となったオーレルが掌握している恐れがあります。今戻れば拘束されかねません。潜入するにしても二手に分かれるべきでしょう」 

 

 ガイとジェイドがダアトへの潜入について意見を交わすが、今のダアトの状況的に私達が戻るのはリスクが高い。もしオーレルの手の者に捕まってしまえば、それを助けるために動く時間が発生する。ヴァン達にその分自由に動ける時間を与えるのは避けたいところだ。

 その後も、応接室で私達の議論は続くが、各地のセフィロトを巡るにしても地核振動数測定装置が手に入るのが遅れるのは好ましくない。アブソーブゲートとラジエイトゲートを除けば、残るセフィロトはタタル渓谷、メジオラ高原、ザレッホ火山の三か所。この三か所を巡る前に装置を用意しておく必要がある。

 

「やっぱり、ヒントがそこにしかないなら行くべきじゃないのか?」

 

「その必要は無い」

 

 議論が停滞し、ルークがそう言ったタイミングで応接室の入り口から彼の言葉を否定する声が上がった。そのぶっきらぼうな声は私はもちろんこの場に居る誰にとっても聞き馴染みのある声だ。

 

「アッシュ、無事だったのですね」

 

「当たり前だ。あの程度で俺がどうこうなるわけがないだろう」

 

 私の言葉に、鼻を鳴らしながら不愛想に返すアッシュ。お前なんかに心配される謂れは無いと言いたげなその態度で、彼の言葉が強がりでないことが分かって安心した。

 

「アッシュ、その、父上と陛下は……」

 

「安心しろ。ファブレ公爵は無事だ。オーレルの奴は怒り狂っちゃいたがインゴベルト王が止めたよ。まだそこまで腐っているわけじゃないらしいな、王様も」

 

 ルークの言葉にもアッシュは常と変わらぬ口調で返す。それを受けてルークは安心したように息を吐いた。アッシュにとってもファブレ公爵とインゴベルト王は父と伯父であるため、彼も目をかけていたのだろう。もっともそれを指摘したところでアッシュが認めることは無いだろうが。

 

「ところでアッシュ。ダアトに戻る必要が無いとはどういうことですか?」

 

「どうもこうも、こういうことだ」

 

 話を戻したジェイドに、アッシュはそう言って片手に抱えたの古ぼけた本を差し出した。その表紙に書かれている言語が古代イスパニア語であることから、それが創生暦時代に執筆されたことが分かる。つまりこの本は、

 

「創生暦時代、サザンクロス博士の遺した技術書ですか」

 

「そういうことだ。お前たちが探していたのはこれだろう」

 

 本を受け取ったジェイドが興味深そうに装丁を眺める。研究者基質の彼のことだ、その内容にいたく興味を惹かれていることがありありと見て取れた。

 

「それにしても、どうしてアッシュがこの本を? 教団の禁書に指定されているものです。導師以外で閲覧できるのは大詠師のみ。持ち出しなど導師以外には認められていませんよ」

 

 頭に浮かんだ疑問をそのままアッシュにぶつける。私がダアトを脱出するときにこの本を持ち出せなかったのもそれが原因だ。書庫から禁書を持ち出すことは大詠師であっても禁じられている。そもそも導師が禁書を持ち出せるというのも、規則として導師による持ち出しを禁じる規定が無いだけであり、最初から禁書が持ち出される想定などされていないのだ。そこに書かれている内容が教団にとってあまりにも刺激が強すぎる故に。

 

「これを渡してきたのはアリエッタだ」

 

「アリエッタが……?」

 

 アッシュの返答を聞いて私はますます頭が疑問符で埋め尽くされるのを感じた。アッシュならば禁書庫に忍び込んで持ち出すくらいのことはやりかねないが、アリエッタがそんなことをするとは考え難い。ならばどうして彼女がアッシュにこの本を。

 そこまで考えたところで、私は一つの可能性に思い至った。バチカルに到着する前、船上で彼女に頼んだこと。そして彼女がそれに従って動いたとするならば、あのもう一人の天才とあの子達の誰かが協力したならばこの本を届けることも不可能ではないが。

 

「ディストから伝言だ。子ども達には大好物を作って労ってやるように、だとよ」

 

「……まったく、どこまで私に貸しを作るつもりなのか。今から何を請求されるのかが怖くてたまりませんね。ディストにも、もちろんアリエッタにも私の出来る限りを尽くして報いてやらねばなりませんね」

 

 私の脳裏で白髪痩躯の男が丸眼鏡を光らせて高笑いしている姿が鮮明に浮かんだ。ジェイドを研究に協力させるように説得したというカードで彼に対する借りが多少は返せると良いのだが。

 






スキット「大詠師の隠し子疑惑?」

「も、モース様! 子ども達ってどういうことですかぁ!?」

「あ、アニス?! そんな大声を出していきなりどうしたのですか」

「モース様、アッシュの言っていた子ども達とは?」

「あぁティア、そのことですか……」

「モース様、いつの間に子どもなんて……。相手は誰なんですか、アニスちゃんは聞いてないですよ!」

「あの、落ち着いて下さいアニス」

「どうしてモースの相手についてアニスの許可がいるんだよ……」

「やめろルーク。今のアニスに触れるんじゃない」

「モース様、お相手は一体どのような人なんですか……?」

「あの、ティアは何故そのように不安げな顔をしているのですか? というか私にそのような相手はいないと以前にもお話ししたはずですが」

「ティアまで……。以前も思いましたが、モースはアニスとティアの父親みたいですわね」

「ってことは今の状況は父親の再婚に不安になって迫る娘の図か……」

「冷静に解説していないで助けて頂けませんか、ナタリア殿下、ガイ」

「いや、ちょっとそこに乗り込む勇気は俺には無いかなぁって。この場は年長者の旦那に任せよう」

「イヤですねぇガイ。あなたは私に子どもの相手が出来るとお思いですか?」

「……ジェイドには無理そうだな」

「というよりそうしたことが出来る大人が私達の中ではモースしかおりませんわね……」

「モースが加わってから割としっかりしてたアニスとティアが幼く見えるようになったからな。げに恐ろしきは大詠師の父親オーラか」

「その父親オーラとやらで思いもよらない大ピンチを招いているようですがね。ま、温かく見守りましょうか」

「ガイもジェイドも諦めたような目を……」

「ルーク、私達も外野から見守ることにいたしましょう」

「……そうするか」

「「モース様!」」

「お願いですから誰か助けて頂けませんか……」


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