大詠師の記憶   作:TATAL

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モース様の歪みをもっと出していきたい所存

スキットの譜術関連の設定は捏造しまくりです。
ゲーム的に言えば特定の術技から特定の譜術に派生出来るけどそのパターンは多くない的なイメージ


セフィロトと私

 セフィロトが佇む広間は外界から隔絶された静寂に包まれていた。見上げる程大きな音叉型の音機関。その中央付近には薄青の宝玉が鎮座しており、地核から僅かに溢れる記憶粒子(セルパーティクル)の光を反射して輝いている。

 

「静かだな。パッセージリングが停止してるのか?」

 

「かもしれませんね。ヴァンが先に訪れていたようですし、何かしたのかもしれません」

 

 辺りを見回しながら呟くガイの隣まで歩いて私は返答する。ヴァンが何かしらの細工を施した可能性は高いが、何をしたかについては検討もつかない。

 

「とはいえそれを恐れて何もしないではここまで来た意味がありません。ティア、ルークお願いできますか」

 

「はい」

「おう!」

 

 私は振り返ってティアとルークに声を掛ける。彼女らは私の言葉に気合の入った返事をすると、ティアが床から伸びるパッセージリングの操作盤に近づいた。

 青白い光を放つ半透明の足場から伸びる端末は、一見パッセージリングの前に突き立った一枚の板のようにしか見えないが、ユリアの血族であるティアが近づくことによってその機能を解放する。板の先端が二股に分かれ、まるで本を開くかのようにその内部をティアへと見せる。彼女がそこに手を翳せば、音叉型の音機関の頂点に古代イスパニア語の文章と複雑な幾何学模様が浮かび上がった。

 

「相変わらず、何度見ても原理が分からない技術だな。創生暦時代の音機関っていうのは」

 

「技術基盤を作ったサザンクロス博士と始祖ユリアの知見には感嘆させられるばかりですわね……」

 

 ガイとナタリアが天井を見上げながら口を開けている。私も表情こそ変えないものの、似たような感想を抱いていた。この星の中心部からエネルギーを取り出し、それを以て大地を全て中空に浮かべてしまうほどの音機関を作ることが出来た創生暦時代の技術力は、今とは比べるべくもないのだろう。言ってしまえば私達は創生暦時代の遺産で生き永らえているようなものだ。しかし、感嘆するとはいっても過去のその技術によって障気が発生し、今の魔界(クリフォト)が出来たのだから技術の発展はその匙加減を少し違えるだけで取り返しのつかないことを引き起こしてしまう実例にもなっている。私には技術の発達が人の幸福に直接結びつくのか判断することは難しい。

 さて、取り留めもないことを考えてしまったが、本題に戻ろう。私は宙に描かれた文字と記号の意味を読み取ろうと目を凝らした。

 

「ふむ、どうやら現在パッセージリングは操作が出来ないようにロックされた状態になっているようですね」

 

「ロックされた状態?」

 

「あなた達がこれまでも目にしたようにヴァンがロックを掛けている状態でしょうか。同時に操作盤自体も停止しているようですが」

 

 頭上に広がるのは8個の小さな円が一つの巨大な円周上に配置された幾何学模様。この模様が実際の操作盤であり、ティアの前にある端末はただの認証装置に過ぎず、この譜陣によってパッセージリングは制御されているのだ。小さな円の内二つは線で結ばれ、白く発光しており、別の三つは周囲が赤く囲われ、ロックされていることを示している。ヴァンが仕掛けた暗号によるロックがこれのことだろうか。

 

「ってことはこれまでみたいに制御は出来ないのか?」

 

 私の言葉にルークが不安そうに尋ねてくるが、私は安心させるように彼に微笑みかけた。少なくともこの事態は私が知っている範囲の内であるからだ。ならば解決方法も既知である。

 

「いえ、超振動によって無理矢理ロックを削り、命令を書き込んでしまえば問題ありません」

 

「分かった。取り敢えずこれまでと同じように暗号を削るから何て書きこめばいいか教えてくれ」

 

 ルークはそう言って頷くと、両手を揃えて頭上に広がる操作盤に向ける。彼の掌に第七音素(セブンスフォニム)が集まり、小さくも強い光を放ち始めた。そしてそれと連動するように操作盤上の赤く囲われた円の一つが外側の赤線を削られていくのが見える。超振動によってヴァンの仕掛けた暗号とパッセージリングの停止命令が強引に削り取られているのだ。

 ルークが削り終えるのを待ってから私はジェイドに伝えられた内容をそのまま口にする。記憶があるとはいえ、私の頭脳はジェイドには遠く及ばない。こういうときはより賢い者の指示を余計な解釈を交えずに伝えることが重要だ。

 

「……っと、これで良し、かな」

 

「ええ、ジェイドの言った通りの文言を書きこめています」

 

 ルークが額から玉のような汗を一筋垂らしながら作業を終えた。私は操作盤を眺めて彼の作業内容に問題が無いことを確認すると、肩に手を置いて彼を労わった。

 彼が書きこんだ命令は私の記憶にあったものと変わらない。ラジエイトゲートとここを繋げ、ラジエイトゲートで降下が始まったのに合わせてここのセフィロトも連動して同じ動作を行うように命令を書きこんだのだ。

 私は作業の終了を告げるために他の面々に振り返った。

 

「さて、これで私達がここで出来ることは終わりましたね」

 

「だな、結局どうしてヴァンがここに来たのかは分からずじまいだったが」

 

「それだけがどうにも不気味ですね。ヴァンも自分の仕掛けた暗号が無理矢理解除されていることには気が付いているはずです。なのにどうして同じことを繰り返すのか」

 

 ガイの言葉に私も同調する。あの計算高い男ならば無駄な行動はまず取らないはずだ。ならばこのセフィロトに暗号を仕掛けたのも何かの意図があるはず。それが見えてこないことが気にかかる。なのにそれを気にして立ち止まることも許されないことが余計に不安を煽るのだ。

 

「色々と考えたいことはありますが今はここを出ませんか?」

 

「おっと、そうですね、導師イオン。ティアも腕輪を着けて体内の汚染された第七音素(セブンスフォニム)を除去することを忘れないようにしてください」

 

「ええ、勿論です」

 

 イオンに窘められ、私は思考の海に沈みそうになっていた意識を無理矢理浮上させると、ティアがディストの腕輪によって障気に汚染された第七音素(セブンスフォニム)を体内から吸い出したことを確認してからセフィロトを後にした。

 

 

 外に出てみれば既に日が傾きかけており、暗い山道を行軍することによって皆、特に身体の弱いイオンにかかる負担、ティアとルークの消耗を考慮してユニセロスとの戦闘があった開けた場所で野営を行う運びとなった。

 

「野営とは、神託の盾騎士団の野外行軍訓練に参加したとき以来ですね」

 

 即席の竈に火を入れ、食事の準備を進めながら私は呟いた。

 

「それにしては手際がとても良いんですのね」

 

「とっても良い匂いがするですの!」

 

 隣では私の手つきを感心したように眺めるナタリアとその肩に乗って目を輝かせているミュウ。

 

「モースの手料理ですか、久しぶりですからとても楽しみですね」

 

「ローレライ教団の実質トップを飯炊きに使うなんて、ある意味世界一の贅沢かもしれないな」

 

「モース様、ニンジン切れましたよ~!」

 

 火を囲むように座るイオンとガイ、そして食材を切ったり、火の様子を見たりと私の周りをちょこちょこと動いてお手伝いに勤しんでくれるアニス。ついつい口元が緩んでしまうような微笑ましい情景が私の前に広がっていた。

 

「そういやルークとティアはどこに行ったんだろうな、さっきから姿が見えないが?」

 

「おやおやぁ~? 二人っきりで抜け出すなんてアヤシイ~」

 

 ガイはそう言って周囲をきょろきょろと見回し、アニスはそれを聞いてニヤニヤと怪しげに笑う。私はと言えば彼らが向かった先が何となく想像がつくため、何も言わずに鍋をかき混ぜていた。大方昼間も話していたセレニアの花畑にいるのだろう。ルークが目を覚ましたのは夜のタタル渓谷で、時間も日が沈んだちょうど今頃だという。彼にとってはかつてとは違った心持で始まりの地を今一度見ておきたいだろうし、ティアはそんな彼の傍に付いていることだろう。

 

「モースは二人のことが気になりませんの?」

 

「気にならないと言えば嘘になりますが、まああまり詮索することでもないでしょう。それよりも今はこの鍋の中身が焦げてしまわないかの方が私は気がかりですよ、アニス」

 

「はわわ! しまった火が強すぎるぅ!」

 

 アニスはそう言って慌てて竈に木を放り込んでいた手を止めた。

 

「ルークにとってこの旅はあまりにも過酷でした。彼にとってこの地は始まりであり、ティアにとっても彼女を変えることになったきっかけの場所でもある。ここで出会った二人だからこそ互いに感じるものがあるのでしょうし、それは余人が徒に介入しても良いものだとは思えません」

 

「……そうかもな。ルークにとっちゃ何もかもが生まれて初めてばかりの旅だったんだ」

 

「何にも分からないのにチーグルの森でイオン様を助けてくれたんだもんね」

 

「ご主人さまはミュウのことも何度も守ってくれたですの!」

 

「身体の弱い僕のことをぶっきらぼうだけど気にかけてくれました」

 

「何よりアクゼリュスのことがあっても心折れずに前に進もうとしていますわ」

 

 私の言葉がきっかけとなったのか、ガイたちが自分たちの思いを口の端にのぼらせる。そう、今彼らが口にしたようにルークはたった七年間、それも屋敷という狭い世界で生きてきただけだったが、この旅で目覚ましい成長を見せた。私の記憶とは異なり、彼がアクゼリュスでその手を血で染めることが無かったこと、彼自身と彼を取り巻く環境に気を配ることが出来る人間が増えたことで彼はより良い方向に変わることが出来た。過度に自罰的で、ともすればあっさりと自分を犠牲にしかねないような痛ましい姿を見せることは減り、年相応の精神を身に付けているのだ。これ以上に喜ばしいことがあるだろうか。

 

「さぁ、私から言い出した事なのであまりとやかく言えませんが。そろそろ食器の準備もして頂けますか? 良い感じに煮えてきましたので」

 

「おっと、それじゃメシにするか」

 

「アニスちゃんは二人を呼んできまーす!」

 

「では私は食後のデザートを作りますわ」

 

「「それだけはやめて」」

 

 空気を変えるための私の言葉にガイとアニスが乗っかってくれたが、ナタリアが腕をまくってやる気を見せたことでガイとアニスは当初の目的を達成する前にいかにしてナタリアから調理器具を取り上げるかという難問に取り組む羽目になった。





スキット「大詠師流戦闘術(?)」

「ハッ! せいっ!」

「おお、野営中だってのに訓練とは真面目だな、大詠師様も」

「ガイですか。私は戦闘が得意というわけではありませんからね。こうして訓練を欠かさないようにしないとすぐに追い越されてしまいますので」

「相変わらず自己評価が低いことで。メイスを振り回しながら譜術を使うなんてティアやジェイドでも出来ないことをやってるんだからもっと自信を持てば良いってのに」

「そういやそうだよな。モースってジェイドみたいに詠唱をしないで譜術を使ってるけど、あれってどういう仕組みなんだ?」

「あれはそう複雑なタネがあるものでもありませんよ、ガイ、ルーク」

「「?」」

「手の内を晒すのもあまり好ましくないですが、どうせジェイド辺りにはバレているでしょうから良いでしょう。言ってしまえば身体の動作一つ一つを詠唱に見立てているのですよ」

「……分かるか、ガイ?」

「いや、さっぱりだな」

「譜術は詠唱することでフォンスロットを開放し、術を構成します。言ってしまえば詠唱は助走であり、骨組み作りに当たるわけですね。私は決められた身体動作を取ったときに無意識にフォンスロットを開放し、音素を励起させるように訓練をしたのですよ。譜陣はメイスの宝玉に組み込まれているので後は励起させた音素を流し込むことで術が発動する、というカラクリです」

「それって凄いことなんじゃないのか?」

「いえいえ、当然詠唱するよりも威力、精度共に落ちますし、何より決められた身体動作をするということはその動作を見切られてしまえば次の手札が相手に露見するということでもあります。ジェイドほどの実力者ならば素直に詠唱した方がよっぽど良いでしょうね」

「ほう、そういうもんなのか。だけど近接戦闘と譜術を組み合わせられるのはかなり便利で凄い技術だと思うけどな」

「身に付ける労力の割に得られる成果はそこまででもありませんからね。実戦でも使えるのは精々2種類程度ですし。それだって十年以上訓練してようやくでした」

「十年!?」

「そいつはまた……」

「才無き者は努力することが大事なのですよ」

「いや、モースの実力で才能が無いなんて言ったらそれこそ他の神託の盾兵の立場が無くなるんじゃないか?」

「そんなことありませんよ、ガイ。自分に適した武器を持ち、私と同じように訓練してその扱いを修めれば私程度の実力は身に付けることが出来ると思いますが」

「モースの場合その修めるレベルが異常に高そうだな……」

「ルーク、俺は今ヴァンに付いて神託の盾騎士団に行かなくて良かったと、お前の従者になって良かったとこれほど強く思ったことは無いぞ」

「そこまでかよ、ガイ」

「無理なくコツコツと積み重ねる。それが重要ですよ」

「コツコツか……」

「ルーク、このコツコツを真似するのは相当の覚悟が要りそうだぞ……」
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