大詠師の記憶   作:TATAL

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今回はいつにも増して捏造設定入りまくりとなっておりますのでご注意下さい(注意と言ってもどうするんだって話ですが)。




シンクの激情、ローレライの預言

「すげえ……」

 

 目の前に広がる光景に思わず感嘆のため息を漏らすルーク。それは他の面々も同じだったようで、皆興味深そうに周囲を見渡していた。

 

「創生暦時代の人々でさえ地核内に突入したことはないでしょう。我々は今、正しく人類初の領域に立っていますね」

 

「こんな時に暢気な感想かもしれないですけれど、とても美しい光景ですわね」

 

 ナタリアもうっとりと辺りを見渡す。地核から噴き上がる記憶粒子(セルパーティクル)は雪のようにタルタロスの周囲を舞う。補助術式による保護が無ければ、その圧力によってタルタロスは卵のように簡単に潰れてしまうということを忘れてしまいそうになるほど幻想的な景色が広がっていた。

 

「……そろそろ甲板に向かいましょう。後は甲板の譜陣を起動してアルビオールで脱出しなければ」

 

「そうだな、行くか……、って何だ!?」

 

 突如として艦橋内に響く警報音。それはタルタロスに侵入者がいることを示していた。

 

「おいおい、何でこんなときに」

 

「恐らくどこかに潜んでいて、地核突入のタイミングで警戒区画に踏み入ったのでしょう。だとすれば敵の目的は甲板にある譜陣。急ぎましょう!」

 

 ジェイドの言葉に全員は弾かれたように艦橋を飛び出し、甲板へと走った。

 そうして息を切らしながら甲板に足を踏み入れたルーク達を出迎えたのは、イオンと同じ色の髪をした仮面の少年。

 

「シンク!」

 

「おっと、これ以上近づくんじゃないよ。間違って足下の譜陣を消しちゃったらここで皆お陀仏だからね」

 

 名前を呼んで駆け寄ろうとした導師イオンを牽制するようにシンクは足下の譜陣に右手のひらを向ける。分かりやすく音素(フォニム)を纏ったその手は彼の言葉が少なくとも非現実的な話ではないことをルーク達に伝え、彼らの足を止めさせるには十分な効果を持っていた。

 

「一体いつの間に忍び込んでいたのやら。いや、ヴァンが襲撃してきたときでしょうね、あの時は皆の注意がタルタロスから逸れていた」

 

「名推理ご苦労だね死霊使い。それが分かったところで何の意味もないけどね」

 

「とはいえあなたも我々と交渉する意思はあるのでしょう? でなければ問答無用で譜陣を消していたはず。それをしないということは我々に何か要求することがあるからでは?」

 

 シンクの煽るような口調にも流されず、ジェイドは淡々と話を進めようとする。それを見てシンクは忌々しげに舌打ちをすると、右手に纏った音素(フォニム)の光を少し弱めた。

 

「その通り。ヴァンから下された指令はお前達をタルタロス諸共この地核に沈めてしまうこと。任務を達成するためならこんな悠長に話してるわけがないからね」

 

「タルタロス諸共って、待てよそれじゃあお前も死ぬじゃないか!」

 

 シンクの言葉にルークは思わず口を挟んでしまう。彼の言葉が確かならば、ヴァンはシンクに対して死んで来いと命令したに等しい。

 

「そうさ。別にボクはそれでも良かったさ。自分の存在意義なんてヴァンにとってその程度だったっていうのは分かってたし、自分でもそうだと思ってたんだから」

 

 その言葉と共にシンクは自身の左手を顔へとやる。彼の顔の上半分を隠すように覆う金の下地に複雑な深紅の模様が入った仮面。それを取り外すと、肩越しに後ろへと放り投げた。

 

「っ!? お前!」

 

 仮面の下から現れた顔に、ルークは思わず背後に立つイオンを振り返った。二人の顔は鏡に映したかのようにそっくりそのまま。ルークの脳裏に過るのはアッシュと自身の関係。もしそれがシンクとイオンにも当てはまるのだとすれば、

 

「そうさ。ボクはそこの導師イオンと同じ、レプリカだよ。もっとも、そこにいるイオン様とは違って出来損ないだけどね」

 

「シンク、あなたは……」

 

「同情は止してくれよ。ボクをそんな目で見ることは誰にも許しはしない」

 

 ナタリアの言葉を途中で遮り、シンクは口元を歪めてほんの一瞬、笑ってみせる。しかし、その笑みもすぐに消え去った。

 

「それにこんな話をしたいわけじゃない」

 

「他にすべき話があると?」

 

「そうさ。ボクやそこのイオンの生い立ちなんて今はどうでも良い」

 

 そう言ってシンクは一歩、ルーク達に向けて進む。

 

「お前達だけじゃヴァンを止めることなんて出来やしない」

 

「……何が言いたいのです?」

 

「そのままさ。ここまで来るのだってどれだけ自分たちの力でやり遂げられたのさ? 今ここに立っているその足下にどれだけの献身があるのかを知りもしない。ボクにはそれが我慢ならない」

 

 話を掴めないと目を細めるジェイドに構わずシンクは語り続ける。それはルーク達に聞かせるためというよりは、自身の内側から漏れ出すものを止められていないといった様子だった。それを示すように、最早シンクの視界にはルーク達は入っていない。視線は下に向けられ、何かを考え込んでいるようにも見える。

 

「何でお前達なんだ? ヴァンどころかボクに勝つことすら怪しい出来損ないに何を期待してるっていうんだ。何でそのために容易く自身を投げ棄てられるんだ」

 

「お、おい、シンク……?」

 

 そのただならぬ様子にルークが気遣わしげに声をかける。するとそれに反応したようにシンクが視線をルークに向ける。かと思えば、次の瞬間には拳を構えてルークの目の前に迫っていた。ルークは目を見開き、腰から引き抜いた剣の腹でその拳を辛うじて受け止める。予備動作も無いその早業にルークが反応できたのは奇跡と言って良いだろう。

 

「いきなり何を!」

 

「よく聞きなよ、出来損ない。モースはヴァンに捕らわれた」

 

「そんなっ!?」

 

 拳を剣と打ち合わせた姿勢のまま、シンクはルークに向けて吐き捨てるように呟いた。その内容は、ルーク達にとって半ば予想出来ていたが、それでも否定したかったもの。モースが戦う姿を目にした面々は、例え六神将が相手であってもモースが引けを取らないと思っていた。神託の盾兵を圧倒した姿を見ていたナタリアなどは特に。

 

「今までお前達がどれだけモースに助けられてきたと思う? 直接的にも間接的にも、ヴァンの企みを妨害してきたのは自分達だけなんだと自惚れちゃいないだろうね?」

 

 シンクはそう言って拳を解くと、ルークの剣を握りしめる。手袋越しとはいえ、刃引きのされていない剣をルークが動かそうともビクともしないくらいに強く。

 

「ボクはヴァンの企みなんてどうでも良い。だけどモースだけは別だ」

 

 仮面を脱ぎ捨てて露わになったシンクの表情は先ほどまでの自嘲するような笑みでも、何の色も伺えない無表情でもなく、ただ憤怒に染められていた。その怒りの矛先はルーク達のようでいてそうではない。

 

「モースに頼まれたからボクは他のレプリカ達をダアトから逃がしたし、こうやってヴァンの指示に従ってもやる。それでモースが目的を達成できるならね。でも、その結果モースが死ぬことは許さない」

 

 シンクの怒りの矛先は他ならぬシンク自身。やり場の無いその怒りがルークの剣を握るその手に現れていた。剣を握っているために距離を取れないルークに向かって顔を寄せ、目と目を合わせた。

 

「今ここで誓え、レプリカ。何があっても、例えモースがそれを望まなかったとしてもモースを助けると」

 

「シンク、どうしてそこまで彼のことを」

 

「お前達には理解出来ないししてもらおうとも思わないよ。誰かの都合で勝手に生み出されて、そして勝手に要らないものとして棄てられる。利用価値があるからなんて気紛れで生かされて、いつかはこうやって捨て駒にされることが分かり切ってるのに生きてる。そんなときに救い上げてくれた人間のことをどう思うかなんて。自分が存在してられる幸福を無条件に享受してるお前達なんかに、身を削って陽だまりを作ってくれた人間がどれだけ大きいかなんて分かってたまるか!」

 

 困惑するジェイドを睨みつけて血を吐くように叫ぶシンク。そこにルークはかつての自分を見たような気がした。記憶が無く、訳も分からず過ごしていた日々の中で、誰よりも親身になってくれた剣の師。自身を利用するために近づいたなどと知らなかった当時の自分にとっては、間違いなくヴァンが自身の世界の中心になっていた。今のシンクは、その時の自分と重なって見えた。唯一の心の拠り所。それを守れなかった自身への怒り、ルーク達に頼る自身の情けなさへの憤りがない交ぜになった感情が色濃く滲んだ言葉に、ルークは何も言い返すことが出来なかった。

 

「そこの導師サマなんかにも分かるわけが無い。ボクはまだまだ何も出来ちゃいないんだ! 他の兄弟みたいにモースの料理を頻繁に食べてない。導師サマみたいにモースと何度も話しても無い。たまに食べた料理の感想だって全部言っちゃいないんだ。ずっとずっと我慢してたんだ、モースの頼みだからって。だけどその本人がいなくなったらまたボクは空っぽになっちゃうじゃないか! ボクはもう耐えられないんだ……頼むよ」

 

 いつの間にかシンクの両手はルークの胸倉を掴んでいた。最後にポツリと、蚊の鳴くような声で続けられた頼むよ、という言葉と共に、シンクは膝から崩れ落ちる。それに引きずられるようにルークも片膝をつき、彼の両肩に手を添えて身体を支えた。

 

「ここを脱出したら絶対にモースを助ける。約束だ」

 

「ま、モースの旦那には散々お世話になってるからな。それに助けないなんて言ったら確実に三人……いや、四人が大騒ぎするだろうからな」

 

 ルークに続いてガイもシンクの傍らに膝をつくと、そう言い添える。それを聞いてシンクはようやくルークの胸倉を握りしめていた手から力を抜いたのだった。

 

 


 

 

 ぐったりとしてしまったシンクをアルビオールに乗ったノエルに預けると、ルーク達は譜陣の起動の為に再び甲板に戻る。

 

「では起動します。基本的に音素(フォニム)の制御は私が行いますが、これほどの大規模です。万が一の際はティア、お願いしますね」

 

「了解です、大佐」

 

 ティアの返答を確認したジェイドは目を閉じると、全身のフォンスロットを開放し、譜陣に起動用の音素(フォニム)を注入していく。程なくして、タルタロスの甲板に刻まれたト音記号状の文様が淡い光を放ち始める。

 

「これで良いでしょう。さ、アルビオールに行きましょう」

 

 無事に譜陣が起動したことを確認し、ジェイドは一息つくと、後ろに控えていたルーク達にそう声を掛ける。それに従って歩き出したところで、ルークを馴染み深い頭痛が襲った。

 

《我が声に耳を傾けよ! 私と同じ存在よ》

 

「アッシュ!? いや、違う……この声は?」

 

「ルーク!」

 

 常ならぬ激痛が走り、ルークは思わず膝をついてしまう。それを見て、心配そうな表情でティアが駆け寄り、ルークの肩に手を添えた。

 

《ユリアの血縁か。ちょうど良い。しばし身体を借りる》

 

 ティアがルークに触れた瞬間、その言葉と共にルークの頭痛は綺麗に消え去り、代わりにティアが甲板に倒れ込んでしまう。ルークは突如として消えた頭痛に周囲を見渡し、傍らにティアが倒れているのを見つけた。

 

「ティア!?」

 

 そう言ってティアを抱き起そうとするが、その前にティアがすくっと立ち上がる。ただしその目は閉じたまま。

 

「ルーク。我が同位体の一人。これでようやくお前と話が出来る」

 

「ティア……?」

「一体どうしましたの?」

「様子がおかしい。何があったのですか」

 

 普段と異なる口調で語りだしたティアに、ルークだけでなくナタリアやジェイド、他の面々も困惑を隠せない。今のティアは、目を閉じたまま立ち、更にその身体が仄かに励起した音素(フォニム)によって光を放っていた。それだけで異常が起きていることが見て取れる。自然、ルーク達は警戒態勢を取るが、ティアの口を借りて語る何者かはそれを全く意に介さなかった。

 

「私はお前たちがローレライと呼ぶ存在。かつての契約者であるユリアの血縁者の身体を借りてこうしてお前達に語り掛けている」

 

「ローレライ! 第七音素(セブンスフォニム)の意識集合体ですか。理論上存在するとは言われていましたが、実在するとは」

 

「私は第七音素(セブンスフォニム)そのもの。ルークともう一人のお前は私と音素振動数が一致する完全同位体。お前と私は同じ存在。だからこそお前に頼みたい」

 

「俺に? 一体何を……?」

 

「私を地核から解放して欲しい。何かが私の力を吸い上げている。セフィロトを停止し、地核の振動を止めたとて私が地核に捕らわれたままではいずれ破綻する」

 

「ローレライの力を吸い上げている……? 一体何が起こっているのですか」

 

「分からない。だがルーク、お前ならば私を解放出来る。殉ずる者に聞け……我が預言の行く末を……」

 

 問答を続けるうちにティアの身体から発される光は弱まり、言葉は途切れ途切れとなる。最後にか細い声で呟いたかと思えば、光は完全に消えうせ、ティアの身体から力が抜けた。倒れそうになるティアの身体をルークが抱き留めた。ティアはそのまま意識を失っているようで、ルークの腕の中で規則正しい呼吸で眠っていた。

 

「ローレライの預言の行く末……。第七譜石を探せということでしょうか?」

 

「でもでも、殉ずる者に聞けって言ってましたよ~?」

 

 そう言って顎に手を添えてローレライの言葉を反芻するジェイドを、アニスが見上げる。

 

「殉ずる者……。誰かを指しているのだとすれば誰かの名前、でしょうか」

 

 ナタリアはそう言って首を傾げる。そして問うような視線をガイに投げかけるが、ガイは肩を竦めるばかりだ。

 

「古代イスパニア語だと俺にはお手上げだなぁ。旦那やイオン様は心当たりあるかい?」

 

 そう言ってイオンとジェイドに目を向けたガイは、二人が揃って深刻な表情をしていることに気付く。

 

「お、おい、ジェイドもイオンもどうしたんだよ?」

 

 ただならぬ様子の二人にティアを抱きかかえたまま、ルークは問いかけた。

 

「古代イスパニア語で殉ずる者。その人物は我々も良く知る人物です」

 

「へ? そうなのか。だったらここを出てすぐに聞きに行こうぜ!」

 

 ジェイドの言葉にルークの表情が明るくなる。だが、すぐにその表情は訝しむようなものに変わる。ジェイドの言う通りだとすれば、何故ジェイドとイオンの二人は深刻な顔をしていたのだろうか。そんなルークの疑問を感じ取ったのか、イオンが口を開いた。

 

「殉ずる者。フォニック言語ではモース。第七音素(セブンスフォニム)の意識集合体であるローレライが何故その素養を持たないモースの名を出したのでしょうか」

 

 

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