大詠師の記憶   作:TATAL

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週一投稿のくせに話も進まないだらしない投稿者ですまない……すまない……

そして書きかけなのに誤って投稿してしまいました。エンターキーを無意識に押した小指が悪いんだ……


潜入、ローレライ教団本部

 ハイマンに導かれて小屋に足を踏み入れたルーク達は、粗末な皮の敷物と簡素な木のテーブルしか家具が無いその内装にこの小屋に何故モースの副官であった男がいるのか、わざわざカンタビレがここまで連れてきたのは何故なのかが掴めず頭に疑問符ばかりが浮かんでいた。

 

「モース様が教団本部にいることは確かです。教団職員の何名かの目撃情報もあります」

 

 そんなルーク達の様子を気にすることなく、小屋の中ほど、テーブルまで歩を進めたハイマンは淡々と説明を始める。

 

「しかしそれは最初の一日だけ。以降は目撃情報は無く、私や他の者が探っても見つけられませんでした」

 

 説明を続けながらも、ハイマンはテーブルの下にしゃがみ込むと、テーブルの脚を床に固定している釘の様子を確かめ、懐から取り出した釘抜きで一本ずつ引き抜き始める。

 

「とはいえそれはヒントにもなります。モース様は普通の教団職員では知り得ない、辿り着けない隠された場所に捕らわれている。ただ生かして捕らえている以上、食事やゴミの処理は必須です。ちょうど暇になったので教団全職員の動きを洗い出しました」

 

「あ、あの、は、ハイマンさん? さっきから何をしてるんですか?」

 

 謎の作業を続けながら説明する状況に遂に耐えかねたか、ルークが躊躇いがちにハイマンの説明を遮る。ハイマンはルークの様子に一瞬驚いたような表情を見せ、カンタビレに視線を向けた。

 

「カンタビレ様、特に説明はしていなかったのですか?」

 

「口で言うよりは見せた方が早いだろ?」

 

「……まあ確かにそうかもしれません。失礼しました、ルーク様。まずはここの説明でしたね」

 

 ハイマンはそう言って立ち上がると、テーブルを抱えて小屋の隅へと移動させる。そしてテーブルの下にあった皮の敷物をめくりあげると、そこから姿を現したのは譜陣。

 

「ここはローレライ教団本部内に通じる抜け道の一つです」

 

「抜け道……そんなものがあったんですか」

 

「もちろん公式に存在しているものではありません、イオン様。これはあの大詠師などと僭称する輩が大きな顔をしてから詠師トリトハイムと共に急遽拵えたものですから」

 

「僭称……やっぱり滅茶苦茶オーレルのこと嫌いなんだね、ハイマンさん」

 

 アニスの言葉に当然と言わんばかりに鼻を鳴らし、ハイマンは説明を続ける。

 

「この譜陣は急ごしらえの為一回きりですが教団内部、トリトハイム様の執務室に繋がるようになっています。正面から教団本部に入るのは危険ですし、入れたとしても詠師達が詰めている重要区画に入ることは難しいでしょうが、これならばその問題はクリア出来ます」

 

「仮にもマルクトとキムラスカの人間をそのような重要区画に招き入れても良いので?」

 

「構いません。どの道現状のダアトはキムラスカからもマルクトからも軽視されるような地位に成り果てました。それにモース様さえ戻ればそれ以外の問題は些事に過ぎませんから」

 

 ジェイドが揶揄うように言うも、それに対して表情を少しも揺るがすことなく返すハイマン。その様子にルークはモースに対する彼の信頼感の重さに冷や汗が頬を伝うのを感じながらも、辛うじて表情に出すことは抑えていた。

 

「さて、では今回の作戦を説明いたしますね」

 

 敷物を片付け終えたハイマンが手についた埃を払いながら咳払いをする。ルーク達も空気が変わったことを感じ取り、先ほどまでの少し気の抜けた雰囲気を潜め、顔を引き締める。

 

 ハイマンは現在のローレライ教団本部の人員体制と大詠師オーレルの側近、部下についての説明を始める。特に教団本部の警備体制について事細かに。神託の盾兵が何時に何処を通るのか、誰が巡回するのか。そしてリグレットの部下であり、時折自身の職務場所から離れたところで目撃される不審な神託の盾兵についても。

 

 説明を聞き終える頃には、ルークやガイ、ティアだけでなくマルクト軍人のジェイドすらも顔を引き攣らせていた。皆一様に感じていることは目の前で淡々と自身が所属する組織の内部情報を何の躊躇いも無く漏らす目の前の男の末恐ろしさだった。ハイマンの隣に立つカンタビレすらも微妙な表情を浮かべていた。

 

「潜入後は先ほどお教えした神託の盾兵の後を尾ければモース様が捕らわれている場所に辿り着けるはずです。この譜陣は片道しか使えないため申し訳ないですが救出後の脱出については別の手段を見つけて頂かなくてはいけません。その辺りはカンタビレ様がいればどうにでもなるとは思っていますが。ひとまず説明はこのくらいでしょうか。何かご質問はありますか? ……皆さん何故引いていらっしゃるのですか?」

 

 一頻り説明を終えたハイマンはルーク達をそう言って見渡すが、ルーク達は皆無言で首を横に振る。それを見て首を傾げながらも、譜陣の準備を進めるハイマンであった。

 

 


 

 

「……怖いくらいに言う通りになってるな」

 

 ハイマンが起動した譜陣を使って教団内部に潜入したルークは、事前にもたらされた情報の精度に再び頬に冷や汗が伝うのを感じていた。

 何しろ一から十までハイマンの言う通りになっているのだ。彼が言った場所に言った通りの手順で向かえば誰にも見つかることなく目的の神託の盾兵を見つけることが出来た。入念な下調べと教団本部の構造への理解が成せる業だろう。

 

「大詠師の補佐を一人でやってたんだ。教団についての理解はモースに次ぐ人間だろうさ。アイツがボクと同じくらいの戦闘力を持ってようものなら一人で救出に向かってたかもね」

 

 そうならなくて良かったよと、ルークの後ろについたシンクが背後を確認しながらそうぼやく。

 

「ほら、無駄口叩かないで、そろそろ目的地に着きそうな気配よ」

 

 そんなルークとシンクをティアが窘める。カンタビレはルーク達とは別れ、陽動を兼ねて一人で正面から乗り込んでいるため、今のルーク達を諫めるのはティアの役割になっていた。

 ティアの言葉にルーク達が件の神託の盾兵を見てみると、目的の人物は本部施設の中で人の行き来が最も少ない階段下の物置に繋がる扉の前に立ち、人目を気にするように辺りを見渡していた。その視界に入らないように柱の陰に身を潜め、姿を観察する。

 神託の盾兵は何気ない風を装っているが、小脇に抱えている包みは食糧庫から出てきたときに持っていた物だ。包みからは恐らくパンであろう茶色い物体がはみ出ているのも見える。そんなものを持って人目を気にしながら物置に向かう。何かがあることは確定だろう。

 

「部屋に入っていきますね。追いかけましょう。あの神託の盾兵しか使えない譜陣などがあった場合厄介ですからね」

 

 ジェイドに促され、神託の盾兵が部屋に入ろうと扉を開いたところでルーク達も後を追うように扉に向かって駆ける。足音に気付いた神託の盾兵が振り向いてルーク達の姿を視界に収めると、兜越しにでも分かるくらいにギョッとした様子で慌てて扉を閉めようとする。

 

「させませんわ!」

 

 それを見てすかさずナタリアが矢を扉に打ち込み、神託の盾兵が扉に手をかけることを阻止。自身の指先に掠るような精度で打ち込まれた矢に、神託の盾兵も泡を食って尻もちをついた。

 

「ナイスだナタリア! 今だ!」

 

 ルークの言葉に応えるように小柄なシンクが一団から飛び出し、神託の盾兵に肉薄する。剣を抜こうとした手を押さえ付け、鞘から見えかけた刀身を再び鞘に押し戻す。

 

「おっと、こんなところで物騒な物振り回さないでよね。ボクはそこまで優しくないから抵抗するならこのまま手足を折っちゃうけどどうする?」

 

 そして流れるように神託の盾兵の右腕を取って背後に回り、床に押し倒して関節を極める。少しでも抵抗すればその言葉通りにされるということは、極められた肩に走る激痛で否応なく理解させられた。

 

「ひ、ヒィッ! シ、シンク師団長、何故こんなことを!?」

 

「うるさいよ。お前が話して良いのはモースの所に行く方法だけだ。それ以外のことを話せばお前の指が一本ずつあらぬ方向を向いていくよ」

 

 その言葉通りに身体に抱えた神託の盾兵の右手人差し指を手の甲側に折り曲げようとするシンク。

 

「は、話します! 話しますから!」

 

 その様子にシンクが本気であることを悟り、神託の盾兵は抵抗することを諦めた。

 

 

 神託の盾兵から奪い取った音叉型のメイスは、通常のそれと比べて肘から手先程度までの長さしかない短さから、戦闘用ではなく儀礼用であることが見て取れた。それを手にして物置とされていた部屋の中に描かれた譜陣の上に立つことで、隠された階層への扉が開く。

 

「あの神託の盾兵が言ってたことは間違いないみたいだね」

 

 メイスを手に譜陣の起動を確認したシンクが呟く。

 

「よっし、それじゃ早速行こうぜ!」

 

 その言葉を聞いて、ルークも意気揚々と譜陣の中に足を踏み入れ、他の面々もその後に続いた。

 

「……今更だけどさ」

 

「ん? どうしたんだよ、シンク」

 

 だがシンクはすぐに譜陣によって転移すること無く、自身の目の前に立ってキョトンとした顔をしている朱赤を見つめた。

 

「モースを助けるように言ったのは確かにボクだ。でもこの先にはもしかしたらヴァンがいるかもしれない。曲がりなりにもお前の師で、お前の理解者だった人間だろ。もし奴と対峙したとしてもちゃんと戦えるんだろうね?」

 

 その問い掛けは一見するとルークがヴァンと戦えるかどうかを疑うようなもの。しかし、ルークに向けられた声色はそんな冷たい感情を示してはいなかった。

 

「……もしかして心配してくれてるのか?」

 

「バッ!? そんなわけないだろ! 貴重な戦力がまともに使えるのかが不安なだけだよ!」

 

 ルークの言葉にシンクは音が聞こえそうな勢いで顔を逸らして言い捨てる。仮面によって表情こそ窺えないものの、翠の髪の隙間から覗く耳が彼の今の心境を十分に物語っていた。

 

「ありがとな、シンク。でも大丈夫だ。俺はヴァン師匠と戦う。俺が止めなくちゃいけないと思うから」

 

 ルークは自身の左手に視線を落としながらそう言った。かつての、世間知らずな自分を親よりも親身になって受け止めてくれた男。だが、その男はルークにアクゼリュスをこの手で消滅させ、多くの人の故郷を奪わせた。それを恨んでいるかと言われれば、不思議とそんな気持ちはルークには無い。ただ、自分が犯した罪を償うこと、そしてヴァンを止めるという使命感が今のルークを動かしていた。そのためにはかつての師と言えど剣を交えることも厭わないと思うほどには。

 

「……その言葉が嘘にならないことを祈ってるよ」

 

 そんなルークの内心が言葉を通して伝わったのかは定かではない。だが、確かにシンクは今この瞬間、何故モースがルークをここまで信頼していたのかが少しだけ分かったような気がした。

 

 





スキット「ハイマンという男」

「なあなあシンク」

「何だよ、いつからそんなに気安く話しかけるような間柄になったんだ、ボクとお前は」

「いや、その、ハイマンって人のことなんだけどさ……」

「ハイマン? あの男がどうかしたのかい?」

「小屋で話してた時も思ったんだけどさ、あの人モースのことになるとなんか空気変わるよな。普段の教団でのモースとあの人ってどんな感じなのかふと気になってさ」

「ボクはあくまで神託の盾騎士団の師団長だったからね、あんまり深く関わることは無かったよ。それでも異常だってことは良く分かるけどね」

「あ、やっぱりそうだったんだな」

「その辺りは導師守護役の方が良く知ってるだろ」

「え~、でもでも、ハイマンさんって普段はと~っても優しい人だったよ? 私もイオン様もお世話になったことあるしぃ」

「そうですね。モースがキムラスカやマルクトを訪問してダアトを不在にしているときは一時的に彼がモースの仕事を引き継ぐこともありました。ある意味モースから一番信頼されていたと言っても良いかもしれませんね」

「大詠師モースの懐刀かぁ、言ってみりゃピオニー陛下にとってのジェイドの旦那みたいなもんだろ? そりゃ凄い人なわけだ」

「教団のことでハイマンさんが知らないことって殆ど無いんじゃないかなぁ」

「部下にも恵まれてましたのね、大詠師モースは」

「ジェイドの旦那も、あんな優秀な部下が羨ましくなったりするのかい?」

「いやぁ、いくら優秀でも私はごめんですね」

「……やっぱり?」

「上司に向ける敬愛なんてレベルを超えた良く分からない感情を向けられるのはごめん被ります」

「それを普段から補佐として横に付けて仕事をしてたモースって……」

「……隠すのがよほど上手だったんだろうね、そこの導師守護役の話を聞くにさ」

「というかそこまで教団内部のことを良く知ってる人間が嬉々として情報を横流しにしてる現状って」

「良いところに気が付きましたね、ガイ。と~ってもマズいことですよ」

「是が非でもモースには大詠師に復帰してもらわなきゃいけないわけだな……」

「みゅ? ミュウにはよく分からない話ですの。ご主人さま、モースさんはとってもハイマンさんに好かれてるってことですの?」

「……そういうことだよ、ミュウ。今だけはお前が羨ましく思えるよ」

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