大詠師の記憶   作:TATAL

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モース様の性別を反転させたらどうなるのかを考えてみました

TSモース様はテンプレ的に黒髪ロングの美魔女なんだって?

本編の一部が致命的にアウトになる……


モース様がもし女性だったら

アリエッタとアニスの場合

 

 

「お母さん!」

 

 その声と共に胸に飛び込んできた少女を私はそっと受け止めた。胸に顔を埋めたその子は、少しモゴモゴと不可思議な鳴き声を上げた後、私を見上げてにへら、と緩んだ笑みを浮かべた。その安心しきった表情に私もつい顔を緩め、彼女の柔らかな桃色の髪に右手を置いた。

 

「どうしましたか、いつも以上にご機嫌そうですねアリエッタ」

 

「うん! さっきまでママと会ってきたの! それで帰ってきたらお母さんにも会えたから!」

 

「そうだったのですね。久しぶりにあなたに会えてライガクイーンも喜んでいたことでしょう」

 

 話しながらアリエッタは私の左側に立ち、私の左腕を抱き締めながら満面の笑みで語る。彼女が私を母と呼び始めたのはいつ頃からだったか。初めて呼ばれたときは寝ぼけて言い間違えたのかと思ったが、二度三度と続けばそうではないと分かる。否定しようものなら彼女が泣いてしまうことは容易に想像できたためそのままにしていたら、気が付けば私も彼女にそう呼ばれることに慣れてしまった。

 

「お母さんはまだ仕事なの?」

 

「ええ、まだしばらくはかかりそうです」

 

「そっかぁ……」

 

 私の言葉にアリエッタは見るからに落ち込んでしまう。そんな彼女の頭に右手を添えて宥めつつ、私はどうしたものかと廊下を歩きながら頭を悩ませていると、私の背中に何かがぶつかるのを感じた。いや、ぶつかるというか、へばりついたというのがより正確な表現かもしれない。

 

「モース様ぁ! アニスちゃんただいま帰りましたー!」

 

「やっぱりあなたでしたか、アニス」

 

「む……」

 

 左腕に感じる締め付けが強くなったのを感じながら、私は肩越しに背後を見やる。そこには癖のある黒髪を左右で結んだ少女が満面の笑みで私を見上げていた。

 

「きちんと導師イオンはお守り出来ましたか?」

 

「もちろんです! さっきお部屋にお送りしてきたところですよぅ」

 

 アニスがそう言うのならば、導師イオンが気を利かせて今日の彼女の仕事の終わりを告げたのだろう。今回の支部訪問には同行できなかったため、普段よりも彼に負担をかけてしまったかもしれない。後日導師イオンを訪れて労ってあげなくてはなるまい。

 私は尚も背中にへばりつくアニスを私の右手側に誘導する。これで私は二人の少女に左右を挟まれる形になったわけだ。

 

「アニス、お母さんから離れて」

 

「うげ、いたんだアリエッタ。モース様にくっつくのにアンタの許可なんかいらないもんねー」

 

 そして私を間に挟んでいがみ合いを始める二人。こうして二人が顔を合わせると決まってこんなことになってしまうのだ。偶にならば微笑ましいで済ませられるが、毎回となれば放っておくわけにもいかない。

 

「二人とも、いつも言っていますが何故そう喧嘩腰なのですか。少しは仲良くですね」

 

「でもアニスが!」

「アリエッタが!」

 

「「いっつもモース様(お母さん)を独り占めしようとするから!」」

 

「「むうぅぅ!」」

 

 私が仲裁しようとすれば二人して息ピッタリに私に詰め寄って声を合わせ、そして直後にそのことに気付いて互いに頬を膨らませる。その息の合い方に本当は仲が良いんじゃないだろうかと思ってしまう。当人たちは自覚していないだろうが、そうやって些細なことで張り合おうとするのはまるで年の近い姉妹のようだ。

 

「はいはい、そう喧嘩するのはよしなさい。仕方ないですね、ちょうどお昼時ですから、三人で食事に行きましょう。一緒にご飯を食べれば仲良くなれるでしょう?」

 

 そして私が口に出すのはいつものセリフ。こう言えば二人とも顔を輝かせて頷くのだ。そんなところも仲が良く見える一因なのだが、二人に言っても一向に認めようとしない。

 

 いや、むしろ敢えて仲が良くないと言い張って私と会う度にこれ見よがしに言い合いをしているのだろうか。そうすれば私が二人を誘って食事に行ったり、何かしら構うということを見越して……? だとすればとんだ策士な二人だ。

 

「アニスちゃんはパスタが食べたいでーす!」

 

「アリエッタはハンバーグが……!」

 

「「むうぅぅ!」」

 

 いや、本当にただ張り合ってるだけなのかもしれない。

 

 


 

 

バチカルでナタリアの出生が明らかになった場面で

 

 

「子どもを守るのは大人の役目。例え血の繋がりが無くとも、今まで築き上げてきた絆を否定できるものですか」

 

 ナタリアと導師イオンを後ろに庇いながら、私はインゴベルト王を鋭く睨みつける。

 

「王の重責の耐え難きことは私には想像もつかないことです。しかし、親としての情を忘れ去ってしまったわけではないでしょう。お考え直し下さい、陛下」

 

「ええい、黙れ黙れ! ラルゴ、この女を黙らせろ!」

 

「……ここまでか、俺も腐りきったものだな」

 

 私の言葉を打ち消すように叫んだ詠師オーレルの命令に、ラルゴは自嘲するように一言呟いて私の前に立ちはだかった。

 

「モース、情深き大詠師よ。武器を降ろせ、そして投降しろ。俺はもはや戦士として見下げ果てた男に成り下がった。それでも俺に誇り高い女を手に掛けさせてくれるな」

 

 大鎌を構えるラルゴはそう言って私に投降を促す。だが、それに対する私の返答は決まっている。私はメイスをラルゴに向ける。

 

「愚かな女と笑って頂いても構いません。それでも、私はここを退くべきではないのです」

 

「……そうか、ならば俺もお前を一人の戦士として打ち倒そう」

 

 私の言葉にラルゴはため息をついて大鎌を握る手に力を籠め、体勢を低くした。かの巨漢の突進を押し留められる力は私には無い。しかしここで果てるとしても、私はここを退くことはないだろう。

 

「一刀にて仕留め……ぐぅお!?」

 

 だが、ラルゴの刃は私に届くことは無かった。その前に彼の背後から強襲した影があったからだ。

 

「何を……」

「何をしている! シンクゥ!」

 

 私の声に被せるように詠師オーレルの怒号が響く。ラルゴを襲ったのは先ほどまでオーレルの横に控えていたシンクだったのだ。

 

「何故ラルゴを攻撃している! やるならば目の前にいる売女の方であろうが!」

 

「おやおや、これは……」

 

 怒り狂う詠師オーレルの横で、ディストがニヤニヤといつもの笑みを浮かべている。

 

「悪いけどあんたの頼みはもう聞けないよ。寄ってたかって女子供をいい大人が囲んでさ。情けないとは思わないの?」

 

「シンクぅ……、貴様、自分が何をしているのか理解しているのか!」

 

「少なくともあんたに従うことは嫌だって理解はしてるよ」

 

 シンクはそう言って私の隣に並ぶ。それとほぼ同時くらいのタイミングで背後の大扉が蹴り開けられ、アッシュが謁見の間に飛び込んできた。

 

「おい、どういう状況だ」

 

「良いところに来たね。今くらいは黙ってボクを手伝いなよ。王女サマを逃がしたいんだろ?」

 

「ッ、後で事情を聞かせてもらうからな」

 

 そしてアッシュに続くように乱入してきたルーク達とクリムゾンの助けもあり、私とナタリア、導師イオンはバチカルを逃げ出すことに成功したのだった。

 

 


 

 

スキット「ケテルブルクの夜」

 

 

「あなたとこうして酒を酌み交わす日が来るとは思いもしませんでした」

 

「それを言うなら私こそ、稀代の女性大詠師と謳われるあなたと酒の席で語り合えるとは光栄ですねぇ。いやはや、噂通り近くで見ても年齢不詳ですね」

 

「何を背伸びしているのですか。私のような老いぼれにお世辞を言ってどうします。それを言うならあなたも歳が分からない見た目でしょうに」

 

「いやいや、今でも十分お若いですよ?」

 

「そのような話をするためだけにこの場を設けたわけではないでしょう?」

 

「……ローレライは地核であなたの名を呼びました」

 

「それは……寝耳に水ですね」

 

「あなたには第七音素(セブンスフォニム)の才は無い。そのはずです。では何故ローレライはあなたを指して預言(スコア)の行く末を聞けと言ったのか」

 

「何が言いたいのですか?」

 

「私の見当違い、考えすぎならば笑って頂いて結構。私自身、荒唐無稽過ぎて笑い飛ばしたくなるような話です」

 

「だから、何が言いたいのですか」

 

「あなたは、始祖ユリアを継ぐ者ではないのかと」

 

「……は?」

 

「血筋で言えばティアやヴァンがその血を継ぐ者なのでしょう。ですが、それとは別にローレライが選んだ次の契約者があなたではないか、と」

 

「……それは誰か他の方に言ったりはしましたか?」

 

「まだ誰にも。こんなこと言いふらしてしまえば頭がおかしくなったと思われますからね」

 

「そうですか、良かった」

 

「それはどういう意味でですか?」

 

「どうもこうも、あなたが狂人扱いされることがなくて良かったということですよ」

 

「ということは私の考えすぎ、ということでしたか」

 

「私が始祖ユリアを継ぐ者? そんなはずが無いでしょう。子ども達に笑われますよ、そのようなことを言っていては。いや、あなたにもまだそうした少年のような気持ちが残っていたということでしょうか」

 

「……この歳になって頭を撫でられるとは思いもしませんでしたよ」

 

「おっと、すみませんね。深刻な雰囲気でそんなことを言うものですから、あなたが可愛く思えてしまいまして」

 

「もうそんな歳でも無いのですがね」

 

「まあまあ、そう言わずに」

 

「……あなたは始祖ユリアを継ぐ者では無いのかもしれませんが。あなたに色々と狂わされた人は多そうですね」

 

「?」

 

 


 

 

おまけの一幕「殺意の波動に目覚めた子ども達」

 

 

「何とかモースをダアトから救出したのは良いが……」

 

「ガイ、何とかしてくれよ」

 

「無茶言うなルーク」

 

「主席総長許すまじ……」

 

「モース様に薬を盛る……? いくら兄さんでも」

 

「ヴァンは超えてはならない一線を越えました」

 

「アニスとイオンとティアが怖い……」

 

「女性恐怖症がひどくなりそうだ……」

 

「止めておきなさい、ルーク、ガイ。今のアニス達に不用意に触れるものではありませんよ」

 

「ジェイドが真顔で止めるレベルか」

 

「気のせいかティア達の背後に黒いオーラみたいなものが見えるもんな……」

 

「唯一の癒しはナタリアくらいか」

 

「モース……あなたの分まで私がヴァンを誅してみせますわ」

 

「ダメみたいですね」

 

「よし、ルーク、あっちに行こうな」

 

「お。おう……」

 

 




モース様の性別が反転するだけでアニス達の反応が数倍過激になる模様

なお教団内の大詠師派閥の中に「預言脱却派」、「モースに惹かれて従う派」に加えて「とにかくモース様でおぎゃり隊」が増えるとか増えないとか

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