大詠師の記憶   作:TATAL

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気が付いたらちょこちょこお気に入り登録をされているばかりか評価までして頂いてました(ハーメルンの機能全然把握してないマン)

まさかこんなニッチ過ぎるものに栞を挟んでくださる方がいるとは思わず手が震えました。
読んでくださる皆様、評価や感想をいただいた皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。

自給自足がメイン目的のため、相変わらず書きたいものを書き散らすスタイルですがそれでもよろしければ今後もよろしくお願いいたします。

そしてあやふやな知識で書いているため既にガバが発生し始めていますが、独自設定()ということで……

そして早速その言い訳を利用してオリキャラが出てきますが、何卒ご容赦ください。


教団の闇と私

 かつて記憶の中の私が狂信的とも言えるほどに預言(スコア)の成就を願っていたことはもはや語るまでもないことだが、そんな人間が教団のトップに登り詰めたという事実から、このローレライ教団について二つの異なる考察が可能だ。

 

 一つは教団という組織は実務能力に長けていれば、多少の人格的な問題は無視されるというもの。これは記憶の中の私が周囲に対してどのように振る舞っていたかを考えればさもありなんと思わされる考察だ。一国の公爵家嫡男や、血の繋がりは無いと知っていたとしても対外的には王女として受け入れられている女性に対しても尊大な態度を崩すことは無かった。この世界の一大宗教の実質的なトップではあるとはいえ、褒められた態度ではない。

 

 当初は私も、この考察の通り教団は能力主義であるのだろうと考えていた。だが、実際に目の当たりにし、私はもっと恐ろしい考えに至ったのだ。

 それがもう一つの考察。教団という特殊な組織においては、預言(スコア)を絶対視することに対して何ら疑問はなく、むしろ預言(スコア)の成就を優先することがより良い人格として評価される、というものだ。

 

 私の目の前で唾を撒き散らかさんばかりの勢いで言い募る男を見て、私はこの恐ろしい考察が正しいのかもしれないという考えを深めていた。

 

「大詠師モース! マルクトとキムラスカの緊張状態は今が最高です。今こそキムラスカに開戦を提言すべきではありませんか!」

 

「……詠師オーレル。少しは落ち着いていただけませんか」

 

 アッシュとの胃に穴が開くような会談を終え、しばらくは急いですべきことも少ないだろうと日々の仕事に精を出していたところに、この男はやってきた。

 

 詠師オーレル。大詠師派の急先鋒であり、派閥の中で急速に存在感を増している男である。まるで記憶の中の私のように、身体にはだらしなく肉がつき、歩くたびに顎の肉が揺れるような有様だが、その巨体を揺らして演説する様は堂に入ったものである。

 

「これが落ち着いていられますか! もたもたしていて機を逃すわけにはいきません! 預言(スコア)を歯牙にもかけぬマルクトの若造が何やら動いているとも風の噂で聞いております。万が一マルクトが先制してキムラスカに痛撃してしまうか、あろうことか和平など結んでしまったらどうするのです!」

 

 熱弁を振るう男の揺れる顎肉をぼんやり眺めながら、少なくともこのような不健康な風体にならなかっただけでも、日々の鍛錬は無駄ではなかったようで少し安心できる、などと益体の無いことを考えてしまった。

 しかし、徹底的に行動を秘匿しているであろうマルクトの和平に対して言及するあたり、預言(スコア)に対する執着というのもあながち馬鹿に出来たものではないのかもしれない。

 

「今こそユリアが示した未曽有の繁栄が訪れようとしているのですよ! 大詠師であるならばこの機にあらゆる手段をもってキムラスカに開戦させるよう働きかけるべきでしょう!」

 

 熱に浮かされたような口調で何とも恐ろしいことを言うものだ。戦争が起こればどれほどの人が死に、行き場を失くすことか。例え未曽有の繁栄が訪れるとしても、それを享受できない人にとってはただただ悲惨でしかない。そんな戦争を、彼は積極的に起こすように言う。いや、彼だけではない、彼のように公言こそしないものの、大詠師派の多くは預言(スコア)の成就を願っているのだから、戦争が起こることを望んでいるのだ。そこにどれだけの犠牲が生まれるかを承知していたとしても。そうでなければ、この男が派閥内で力をつけることは無いだろう。

 

「確かにユリアはマルクトとキムラスカの戦争の果てにキムラスカの繁栄を詠みました。ですが、戦争が起これば多くの市民が命を失うことになります。兵士だけではない、罪もない一般市民が戦禍に巻き込まれることのないように教団としても態勢を整えなければなりません」

 

「それでは遅いというのです! それに戦争はマルクトの敗北で終わるのですよ? 死者が多く出るのはマルクト、預言(スコア)を軽んじる愚か者の国です。始祖ユリアに背くものが彼女の恩恵に預かれなくとも何も問題は無いではありませんか。ダアトの民がことは戦禍に巻き込まれるなどということも預言(スコア)には詠まれておりませんし」

 

 本気で言っているのだろうか、この男は。いや、本気なのだろう。彼は自分が安全圏にいると確信している。預言(スコア)に詠まれていないから、死ぬのは自分以外の取るに足らない人間しかいないから、本気で戦争が起こり、何千、何万もの人々が容易く命を落としても良いと考えているのだ。そしてそんな思想を肯定してしまうような雰囲気が、教団の上層部、大詠師派の中には漂っているということだ。

 

 始祖ユリア、あなたは余りにも偉大過ぎた。人々が己の運命に立ち向かい、自らを律する強さを失ってしまうほどに。

 

「大詠師に許されているのはあくまで求められたときに預言(スコア)に基づいて助言をすることでしかありません。他国の政治に口を出すのは筋違いですよ」

 

「筋違いなものですか、偉大なる始祖ユリアの遺志に適う行いなのですから」

 

 私が何を言おうと詠師オーレルは聞く耳を持たない。いや、彼からすれば私の方がおかしいのだ。実際、ユリアの遺した預言(スコア)通りの状況が整いつつあり、そしてその先には未曾有の繫栄が約束されている。ならば、その成就を願うのは当たり前の話だ。これまで一度も外れた事のないそれは信用するしないではなく、絶対のものなのだから。

 

 だが、短い繫栄の先に待つのはこの大地、オールドラントそのものの死だ。もし人々が預言(スコア)から解放されなければ、逃れえぬ破滅が待っている。あり得ない仮定だが、もし私が預言(スコア)の結末だけを知り、ルークのことを知らなければ、あるいは人類に絶望してヴァンの計画に加担していたかもしれない。そうすれば少なくともこの世界で人々は生き続ける。ユリアの預言(呪い)から解放されて。

 

「とにかく、近いうちにキムラスカに赴かれるべきですぞ。その際は是非とも私も同行させて頂きたい」

 

「……ハァ、そうですね。そのときにはあなたに同行をお願いします」

 

「ええ、お任せください!」

 

 この男をダアトに残していけば、その弁舌を伸び伸びと振るってますます力をつけるだろう。それを許すくらいならば、私に同行させて目の届くところに置いておく方がまだ安心できる。

 私の記憶の中にはこの男は影も形もなかったと思うのだが、確証は持てない。私の記憶はあくまでルーク達の旅を見守るものであり、モース(記憶の中の私)の動きを全て見ていたわけではないからだ。あるいは精力的に飛び回っていたモースに代わり、この男が教団内の取りまとめをしていたのかもしれない。

 

 この男に言われるまでもなく、キムラスカには訪れるつもりではあった。私とルークはそこで初めて顔を合わすことになるのだから。彼の旅がもう始まってしまったのかはまだ定かではないが、アニスと合流すれば連絡が入るはずである。

 あまりキムラスカに戦争を勧めるようなことを言いたくは無いが、この男が同行する以上それは難しいだろう。ならば私に出来ることはいかに被害を少なく戦争を終わらせるかを考えることだ。

 

 腹をユサユサと揺らしながら上機嫌に去っていく詠師を見ながら、私は痛み始めた頭を労わるようにこめかみを揉み解すのだった。

 

 


 

 

「それで、私に声を掛けるってことは結構困ってるってことだろう?」

 

 詠師オーレルとの会合から暫く経った頃、私は任務を終えてダアトに帰ってきたカンタビレを執務室へと呼び出していた。任務報告直後で疲れているにも拘わらず、彼女は少なくとも表面的には快く召喚に応じてくれたのだった。

 

「そうですね。あなたの手どころかねこにんの手も借りたいくらいですよ」

 

「ハッハッハッ、お前がそんなことを言うってことは相当だね。良いさ、聞いてやるから言ってみな」

 

 豪気に笑い飛ばしてくれる彼女の何と頼りになることか。私は椅子に座ったままの状態ながらも頭を下げると、今のマルクトとキムラスカの状況、大詠師派に漂う雰囲気について彼女に話した。

 

「……任務であちこち飛び回ってるからな、きな臭くなってきてるのは私も感じちゃいるが。そこまでになってるのかい」

 

「そうですね。預言(スコア)の成就が近いと皆が浮足立っています」

 

「ったく、仮にも大詠師なんだからそれくらい舵取りしな」

 

「耳が痛いですが、その通りですな。ですがどうにも私一人の手に余りまして、お恥ずかしい限りですがあなたの力をお借りしたいのです」

 

 彼女のもっともな指摘に、私は申し訳なさから下げた頭を上げることが出来ない。私は腐っても大詠師であり、派閥の長であるのだから、もう少しやりようがあっただろう。フローリアン達やアリエッタなど、私の中の記憶に踊らされ、肝心の足元を疎かにしていたのは確かだ。

 

「……ハァ、お前はそうやって抱え込む奴だったね。冗談だよ、お前が精一杯やってるのはこっちだって知ってるんだ。これ以上頑張ったら倒れちまうよ」

 

「いえ、事実ですからな。言われても仕方ありません」

 

「だーから、そんなに抱え込むんじゃないって!」

 

 その言葉と共に私の肩に彼女の手が置かれた。それに釣られて顔を上げると、普段浮かべている勝気な表情からは想像もつかない優しい目が私を見つめていた。

 

「ほら、私に頼みたいことがあるんだろ? 遠慮なく言いな。お前がこんなことで潰れちまったら私も困るんだ」

 

「……本当にありがとうございます」

 

 彼女に促されるままに私は話を続ける。

 

「今の大詠師派の勢いは止まらないでしょう。詠師オーレルが熱心に説いて回っていますしね。それに六神将も動き始めています、恐らくヴァンの指示を受けているのでしょう」

 

「そうなるとあんたが動かせる駒は殆ど無いわけだね。情報部隊はどうしたんだい?」

 

「彼らには皆特命を与えています。それに規模も小さいですからね。どうしても手が足りません」

 

「残るは中立派、あからさまに導師派とも大詠師派とも距離を取ってる私のところくらいしか自由に動けないね。それで、お前は私に何をさせたいんだい?」

 

 先を促す彼女に、私は数舜言葉に詰まった。この先を続けてしまえば、もう後戻りは出来ないだろう。この一手が場合によっては決定的な歪みとなり、ルーク達の旅の行く末を変えてしまう可能性は否定できない。それでも、私はこの手を指すしかないと考えてしまっている。

 

「……アクゼリュスです」

 

「アクゼリュス? あの鉱山都市かい。あそこが一体どうしたっていうのさ」

 

「現在、アクゼリュスでは謎の毒が鉱山の奥深くから湧いています。短時間ならば問題はありませんが、長期間被ばくすると体調を崩し、最悪死に至る可能性もあります」

 

「……そんな情報は出回ってなかったはずだが」

 

「今はまだそこまで重篤な症状の者は出ていません。ですが、近いうちに被害が拡大します」

 

「ってことは、私は師団を率いてアクゼリュスの住民を避難させれば良いってことかい?」

 

「ええ。それもキムラスカ、マルクトに知られることなくです」

 

 私のこの言葉に、カンタビレは怪訝な顔をする。

 

「知られることなく? アクゼリュスは国境付近の街だ。両国に応援要請した方が良いんじゃないのかい?」

 

「マルクト側からは山道の土砂崩れで近づけませんし、キムラスカは応援を出すことはないでしょう。キムラスカはこれを利用するつもりです」

 

「利用? 一体何に……?」

 

「ND2018、ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街とともに消滅す」

 

「ユリア・ジュエの預言(スコア)か!」

 

 目を見開くカンタビレに、私は首肯を返した。彼女は忌々しそうに目を細め、私の肩に置いた手に力を籠めた。

 

「随分と胸糞悪いもんを遺したね、始祖ユリアは」

 

「キムラスカはこれを成就させるように動くでしょう。ならば住人を助けるため、という大義名分を使う機会を自分から潰しにいくことはありますまい」

 

「お前が私に頼みたいことは分かった。お前がやりたいこともね。とりあえず私は最悪の事態を考えて動かせる奴は動かしておくよ」

 

「ありがとうございます。あなたが動いてくれるのなら、私も危ない橋を渡った甲斐がありました」

 

「本当にね。教団上層部しか知らない秘預言(クローズドスコア)をたかが師団長に漏らすなんて、大詠師派の奴らに聞かれたら一巻の終わりだよ。それに私がこのことを誰かに話すとか考えなかったのかい?」

 

「そのリスクを甘受してでも、話すべきでしたから」

 

 最後の言葉は、彼女の眼を正面から見据えて発した。それだけの覚悟を持っていると示すために。私だけでなく、彼女もこれから危険な場所に赴くことになる。ならばせめてそれに見合うだけの誠意を示す必要があるだろう。

 

「フッ、そこまで買われたんだ。応えなきゃ人として最低になるな。任せなモース。あんたの期待に応えてみせるさ」

 

 私の言葉を受けた彼女の表情は、いつも通りの自信に溢れたもので、それを見るだけで私も安心感を覚えてしまった。やはり彼女に頼って良かったのだと。

 

 さぁ、私が出来ることはやった。ここからは化かし合いといこうじゃないか、ヴァン。

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