大詠師の記憶   作:TATAL

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殉ずる者との戦い

「喰らえっ! 崩襲脚!」

 

「合わせるぞ、ルーク! 弧月閃!」

 

 モースを挟むような位置でルークが中空からの蹴りを、ガイが袈裟斬りを放つ。

 

「その程度でッ!」

 

 その声と共にモースは地面を大きな音を立てて踏み鳴らし、ガイとの間合いを敢えて縮める。剣の間合いの更に内側、拳の間合いにまで踏み込んでしまえば、剣先に速度が乗る前にメイスで剣を押さえ付け、背後に迫るルークの蹴りは見ることも無く身体の軸を逸らすことで回避する。

 

「ガイ、離れなさい! 譜術に巻き込まれます!」

 

「そう、したいところなんだがなぁ!」

 

 ジェイドが鋭い声を飛ばすが、ガイは動きたくとも動けない。メイスで剣を押さえ付け、そのまま剣の柄を握る右手をモースの手が捕まえているからだ。

 

「ガイを離せ!」

 

「ええ、言われなくとも」

 

 地面に着地したルークがモースに躍りかかるが、そこに向かって捕まえたガイを投げ飛ばし、攻撃を止める。間髪入れずそんなモースにジェイド、ティア、アッシュからの譜術が飛ぶ。

 

「サンダーブレード!」

「ホーリーランス!」

「アイシクルレイン!」

 

 ジェイドの放つ雷槍が、ティアの光槍、アッシュの氷刃がモースを取り囲むような形で殺到する。回避することを許さない攻撃の嵐だが、モースはメイスを地面に突き立てる。

 

「守護氷槍陣!」

 

 地面から立ち上がった幾重もの氷の槍がジェイド達の放つ譜術を受け止めた。殺すつもりは無いため威力を落としているとはいえ、それでも高威力の上級譜術を受けてモースを守る氷の結界は崩れ去ったものの、その中心に立つモース自身には傷一つついていない。

 飛び散った氷の欠片に紛れて突撃するのはトクナガに乗ったアニスとその後ろに潜むシンク。

 

「行っくよー! 爪竜烈っ……!」

 

「させませんよ。剛掌破!」

 

「きゃあ!?」

 

 技を繰り出そうとしたアニスの駆るトクナガに向けて、モースは両手を揃えて掌底を放つ。トクナガの顔面にめり込むほどの勢いで放たれた掌底はアニスを後ろに大きく吹き飛ばし、後ろに控えていたシンクの姿が露わになる。

 

「チッ! 相変わらず滅茶苦茶だね!」

 

「援護しますわ! エンブレススター!」

 

 悪態を吐くシンクだが、既に術技を繰り出す準備は整っている。ナタリアが上空に向けて曲射した矢がシンクと共にモースに迫る。

 

「空破爆炎弾!」

 

「ぐっ、ああ!」

 

 ナタリアの矢をメイスで弾き落とした隙、それを見逃すシンクではない。火を纏ったシンクの突進がモースに襲い掛かる。爆炎とシンクの拳がモースの身体に突き刺さり、大きく後方へと吹き飛ばされた。着地したモースはダメージを隠し切れないのか床に膝をつく。

 

「良し! ナイスだシンク!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろレプリカ!」

 

 ルークの言葉に怒号を返すシンク。確かなダメージを与えたにもかかわらず、シンクの顔に喜びは無い。それどころか、警戒を高めてモースを観察していた。

 

「……なるほど、第七音素(セブンスフォニム)の力とはこれほどのものですか」

 

 そう小さく呟いたモースは自身の身体を見下ろしていた。右目の譜陣が一層紅く輝き、モースの身体に第七音素(セブンスフォニム)を取り込む。そしてモースの身体に起こった事象にルーク達は自身の目を疑うことになる。

 

「っ! 傷が……!」

 

 モースの右目が輝くごとに、先ほどのシンクの攻撃でついた傷が癒えていく。それはおよそ尋常な人間にはあり得ない回復速度だ。まるで回復譜術を使ったような。

 

第七音素(セブンスフォニム)を取り込んだことによる異常回復能力……」

 

「マジかよ……」

 

 ジェイドの呟きにルークが生唾を呑み込む。持久戦はルーク達にとって一方的に不利になるばかりだ。そしてモースの得意とする戦法こそ時間稼ぎを主とする持久戦。モースの戦いを目にしてきた者ばかりであるからこそ、第七音素(セブンスフォニム)を取り込んだ今のモースの厄介さが身に染みて理解出来た。

 

「ただ力が増すだけではないということですか。ならばこれほど好都合なことはありませんね」

 

「皆、構えて! 来るわ!」

 

 ティアの言葉に全員が武器を構え直す。ルーク達を見渡したモースは、メイスを右手に構えると、床が大きく陥没するほどの勢いで踏み込む。気付けばパーティの先頭に立っていたシンクの目の前にモースの姿が現れていた。

 

「!? そんな……」

 

「獅子戦吼!」

 

 そして闘気を纏った体当たりで先ほどの仕返しとばかりにシンクを吹き飛ばすと、そのまま奥で構えていたアッシュへと肉薄する。

 

「流影打」

 

「舐めるなよ!」

 

「アッシュ、援護いたしますわ!」

 

 モースから繰り出される三連撃を剣と拳を使っていなすアッシュ。そこに弓に矢を番えたナタリアが狙いを定めるが、モースはそちらに一瞬だけ目を向ける。次の瞬間には、ナタリアに向かって氷の刃が放たれていた。

 

「危ない!」

 

「っ、きゃあ!」

 

 ガイが間に割って入り、剣で叩き落として迎撃したが、その顔には冷や汗が伝っていた。

 

「モースの十八番、無詠唱譜術か!」

 

「味方だと頼りになりましたが、敵に回るとここまで厄介なものだとは!」

 

「呑気なこと言ってないでこっちにも援護を寄越せ!」

 

 言葉を交わすガイとジェイドに向かってアッシュの怒号が飛ぶ。常のアッシュならば、モースの攻撃を防ぐことに然程苦労することは無い。だが、第七音素(セブンスフォニム)によって身体能力すら強化されたモースの攻撃はアッシュですら一人で押さえ込むのが難しいものだった。殺しても良い、容赦のいらない相手では無く、出来るだけ傷を負わせないようにという枷があることも理由の一つではあるが。

 

「俺も行くぞアッシュ!」

 

「馬鹿野郎、無策で突っ込んでくるんじゃ……!」

 

「雷旋豪転牙!」

 

 そんなアッシュを見かねて助けようと飛び込んだルークだったが、それを視界の端に捉えたモースは身体に雷を纏わせ、回転させる。竜巻のように雷が吹き荒れ、ルークとアッシュに襲い掛かる。

 

「「ぐああっ!」」

 

「ルーク! アッシュ!」

 

 雷撃をまともに喰らってしまい、苦悶の声を上げるルークとアッシュを案じるティアを、ジェイドが手で制した。

 

「落ち着きなさい! この後の隙を狙って……」

 

「フリジットコフィン!」

 

 だがそんなジェイドの目論見はモースによって容易く崩される。ジェイドとティアの足下から細かな氷の礫が噴き上がり、二人に殺到する。

 

「この術は!? 避けなさい、ティア!」

 

「きゃっ! た、大佐!?」

 

 譜術への造詣が深いジェイドだからこそこの後に起こることを予測できた。ティアの背中を押して術の効果範囲から逃がし、上空から飛来する氷塊を睨みつける。

 

「ええい、厄介極まりない! フレイムバースト!」

 

 避けることは不可能と判断し、音素(フォニム)を励起させて対抗譜術を組み上げる。超速で発動された譜術は、ジェイドの常からは考えられないほど威力を落としていたが、生成した火球が氷塊にぶつかり、その威力を減じることに成功した。

 

「大佐! 無事ですか!」

 

「ええ、何とか」

 

「回復いたしますわ!」

 

 膝を折ったジェイドにナタリアが駆け寄り、譜術で回復を試みる。それを見たティアが、モースに挑みかかっているアニスとガイ、シンクに再び視線を戻した。

 ガイの剣を、トクナガの拳を、シンクの蹴撃を、モースはメイスと譜術を織り交ぜて迎撃している。同士討ちを恐れて思い切った攻撃を仕掛けられないとはいえ、三人からの攻撃を時に捌き、時に別方向に誘導し、いなすモースの戦闘技術にティアも思わず舌を巻いた。かつてダアト郊外の森でリグレットに手も足も出なかったと本人が言っていたが、それが信じられないほど今のモースはガイ達をあしらっていた。それだけでも驚くべき事なのに、モースは時折こちらに目を向け、譜術を撃ち込んで牽制までしてくるのだ。第七音素(セブンスフォニム)によって身体能力を向上させているとはいえ、戦いの技術は向上したわけではない。今のルーク達を圧倒しているのは間違いなくモースの戦闘技術だった。

 

「くっ! アニス、もう少し周りを見てくれ!」

 

「それはこっちのセリフだよガイ!」

 

「無駄口をたたいてる場合じゃないだろ二人とも!」

 

 攻撃の方向を巧妙に逸らされるためにガイ達の攻撃は時に思ってもみない対象に向かってしまう。アニスの大ぶりな攻撃はモースに避けられてしまえばガイやシンクの行動を阻害し、ガイの鋭い剣閃もそれ故にモースにとっては読みやすい。そしてシンクの攻撃は鈍重なトクナガの影に隠れるモースを捉えることが出来ない。

 

「そろそろ諦めて頂きたいのですがね、獅吼滅龍閃!」

 

 モースの纏う闘気が獅子の顔を模し、周囲に衝撃波として放たれ、ガイ達を吹き飛ばす。体勢を大きく崩されたガイ達だが、そこにモースからの追撃が入ることは無かった。

 

「合わせろ、ルーク!」

 

「おうよ!」

 

「「双牙斬!」」

 

 雷撃のダメージから回復したアッシュとルークが鏡写しのような息の揃った動きでモースに攻撃を仕掛けたためだ。

 

「セイントバブル!」

 

「なっ!? コイツ、自分ごと!」

 

「アッシュ、避けろ!」

 

 だが、モースを中心に発生した水泡を目にして、二人はたたらを踏んで攻撃を中止せざるを得なくなった。ルークは自分よりも一歩先に踏み込んでいたアッシュまで駆け寄ると、ごめん! と言いながらアッシュを蹴り飛ばす。そしてモース諸共、圧縮された水塊の解放に巻き込まれた。

 

「ぐっ、ああああ!」

 

「ぬう!」

 

 自身が第七音素(セブンスフォニム)による回復能力を得ていることを利用した自爆戦術。怯んだルークをメイスで弾き飛ばすと、自身へのダメージを無視して離れたところに立つジェイド達へと駆ける。

 

「自分も巻き込んだ自爆特攻とか頭おかしいんじゃないですかあの大詠師!」

 

「そんなことを言う暇があったらあなたも働きなさい、ディスト!」

 

「肉体労働は私の専門外って知ってるでしょうが! ええい、私をここまで追い詰めるのとはやりますねモース! 来なさい、カイザーディストDX!」

 

 ジェイドに叱咤された、ディストがヤケクソと言わんばかりに頭上を指差すと、どこから現れたのか、巨大な譜業人形がジェイド達とモースの間に立ち塞がる。

 

「やっておしまい、我が自慢のカイザーディスト……」

 

「……これは壊すことに遠慮が要らない分、やりやすいですね。絶破烈氷撃!」

 

「カイザーディストDXぅぅぅ! あなたには人の心ってものが無いんですかモース!」

 

 だがディストご自慢の譜業人形は、モースの放った氷を纏う掌底によってその胴体に大穴を空けられ、あっけなく機能停止に追い込まれた。会心の力作をあっさりと破壊されたディストの悲鳴が響くが、そんなもの意に介さぬとばかりにモースは再び走り出す。

 

「いえ、良くやりましたよディスト。旋律の戒めよ」

「っ!? 激流よ!」

 

 だが対照的に満足そうに浮かべるジェイドは、高めた音素(フォニム)を更に練り上げんと詠唱を始める。それに良からぬものを感じたモースも立ち止まって詠唱に取り掛かった。

 

死霊使い(ネクロマンサー)の名の下に具現せよ」

「我が前に立ち塞がる敵を打ち倒せ!」

「ミスティックケージ!」

「メイルシュトローム!」

 

 凝縮された各属性の音素(フォニム)の球がジェイドの詠唱と共に膨らみ、爆発を引き起こす。それに対抗するように、その球をモースが生み出した激流が包み込み、相殺しようとする。だが、ジェイドが自らの才能を存分に振るって練り上げた独自の譜術に、モースの譜術が完全に対抗することは出来ず、モースは爆風によって吹き飛ばされた。

 

「今です!」

 

 そのジェイドの言葉に従ってルーク達が一斉にモースに向かう。ジェイドの最上級譜術によって、軽減したとはいえ大きなダメージを与えられたモース。それに対し四方八方からルーク、ガイ、アニス、アッシュ、シンクが迫り、上空はナタリアの矢によって塞がれた。更に外縁からはティアの譜術が隙を伺ってまでいる。ジェイドの言葉に嘘は無く、今を逃せばモースに有効打を与えられる瞬間など来ないだろうと思ってしまうほどの好機。

 それ故にルーク達もなりふり構わず突撃する。それを迎え撃つモースが追い詰められた様子を微塵も見せていないことに気付くこと無く。

 

「やはりあなた達は強い。しかし、今の私には負けることは許されない」

 

 誰にも聞こえぬように呟かれたモースの言葉。それと共に身体に取り込まれた第七音素(セブンスフォニム)が眩しいほどの光を放ち、ルーク達の足を止めさせる。

 

「うおっ、何だこれ!」

 

「眩しっ! 何にも見えないよぅ!」

 

「くっ、マズい、お前ら! 離れ……!」

 

 アッシュが何かを感じ取り、ルーク達にそう声をかけるが、もう間に合わない。モースを中心として譜陣が展開され、譜陣に沿って立ち上がった光の壁がルーク達を閉じ込める。

 

「これは……! ティア、今すぐ譜術で妨害を!」

 

「ッ! はい!」

 

「ダメです、間に合いません!」

 

 ジェイドの指示でティアが譜術を発動させようとするも、ディストの言葉通り、モースのそれが発動する方が早かった。

 

 極光壁

 

 静かに零れたモースの言葉と共に、ルーク達を光の奔流が飲み込んだ。





モース様の秘奥義初お披露目会(なおボス仕様のため味方時に使えるかは不明)
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