やがて妖銃の弾輝《はじき》   作:トナカイさん

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どうも久しぶりです。
一年も間を空けて申し訳ありません。
こちらの作品でもまたよろしくお願いします。


異能11 消滅弾

黒い光の柱が広がり、全てを飲み込む。

そこに存在するありとあらゆるものを、人も建物も空間も……『絶界』すらも飲み込んでいく。

光はやがて収束し、細くなっていき、そして霧散した。

俺は気付くと、妖銃を捨てた池の側に立っていた。

どうやら、上手くいったみたいだな。

先ほど放った消滅弾(メドロア)の式は、ありとあらゆる物質を消滅、分散させる『打ち消す』式。

術者が込める魔力の量、質によっては空間や時空に干渉できる、世界の理を破壊する式。その危険性故に『禁忌』とされている本来なら使ってはいけない式だ。

だが、俺は使った。使ってしまった。

静刃()を、マリナーゼ()を守る為に。

 

「……3年ぶりだな、これを使ったのは」

 

最期に使ったのはいつだったか。ああ、そっか。

あの時以来だな。幼馴染と幼馴染の両親を守る為に使って……そして、『俺』という記憶がなくなったあの時以来だ。

 

「……なっ、なっ、なっ…なっ⁉︎」

 

誰かが動揺した声が聞こえる。

それと同じタイミングで俺の脳内にとある言葉が浮かんできた。

 

『心配するな、お前は一人じゃない』

 

あの時、俺は……そう誰かに言われたんだ。

薄れゆく意識の中で、その声だけはハッキリと覚えている。

 

『お前は今日起きた出来事をしばらく忘れることになるけど__これはだけは忘れずに覚えておけ。

いいか? まず、女に関わるな。ゲームは好きか? よし、なら(ガン)ゲーをやりまくれ! 出来るなら、サバゲーとかもやれ。モデルガンでいい。リボルバー式の銃使え。やるなら電動銃よりガス銃でやれ。サバゲーで得た経験は将来必ず役に立つからな。そして__』

 

何故忘れていたんだろう。何故、今思い出したのだろう。

わからない。わからない。わからない……ただ。

 

「何してんのよ、この変態____エロガッパ!!!」

 

美々の声で思考は現実に戻る。

俺の目の前に広がるその光景を認識した瞬間、俺は自身がやらかしたある重大なことに気付く。

気づいてしまった。

 

「ぶふぅ⁉︎」

 

ヤバい。これはヤバい。

確かにヤルよ。やっちゃうよ、とか言ったが本当にやる気はなかった。

美々の怒りを買う気も、物凄い目つきで睨むアリスベルの怒りを買う気もなかった。

だが、それ以上にヤバいのが。

 

「……弾輝君。裸にしたらキョーレツに許しませんよ、って言いましたよね?」

 

まるで閻魔大王を彷彿させるくらいにその顔を怒りに歪ませたマリナーゼの顔を見た俺は自身がやらかした最大の失敗を激しく後悔することになった。

『消滅弾』を使った結果。こんなことになる可能性は十分あることなど解っていたのに。

俺は目の前に広がるこの光景__アリスベルや美々、そして、マリナーゼが着ていた衣装が跡形もなく、無残にも塵のように霧散していく、つまり、彼女達が身に付けていた衣服が剥ぎ取られ、丸裸になったその光景を目にし。

改めて自身がやらかした最大の過ちに激しく後悔すると共に、同時にとても興奮している自分に気がついて、険悪感や背徳感を感じていた。

 

「え、えっと……こ、これはだな」

 

「弾輝君……エッチなのはいけないと思います」

 

両手で胸を隠しながら恥じらうマリナーゼの姿にドキッとしてしまう。

ああ、チキショウ。可愛いな。

 

「思春期の男子ならこれくら普通にやることだ」

 

なんて言ってみるが、普通の一般的な男子は実銃を持ってたりしないし、物を消滅させたり、女の子の衣服を消滅させたりはしない。そんなことは分かってる。

だが、今の。『妖銃』となってる俺の口から自然とそんなデマカセが出てしまう。

 

「知りませんでした。男の人って皆さんこんなにエッチなんですか?」

 

「異性をハダカにひん剥くのは普通……なるほど。モーレツに勉強になります」

 

「信じてるし⁉︎ ちょっと、弾輝。アンタ、アリスベル達になんてこと教えてんのよー⁉︎」

 

いや、まさか。こんなデマカセを信じるなんて思いもしなかった。どれだけ世間知らずのお嬢様なんだよ。そんなわけないだろう。

 

「あー……その冗談だ。普通は脱がしたりしない。せいぜい、スカートをめくったり、スカートの中をカメラで撮影するくらいだ」

 

「小学生か! いや、アンタそれ普通に犯罪だからね! 分かってる? ねえ、解ってる?」

 

美々から鋭いツッコミをいただきました。

 

「はぁはぁ、なんか疲れたわ。戦うのがバカらしくなってきたわ」

 

「そっか。じゃあ、もうやめにしとこうぜ。お客さんも来てるみたいだしな」

 

俺がそう言った時。

 

「____きゃっ!」

 

アリスベルが悲鳴を上げた。

視線を向けると、アリスベルの足下、地面から何かが溢れ出していた。

地中から出てきた深海生物みたいなものがアリスベルを担ぎ上げる。

(うっ……何だあの気持ち悪い生き物は⁉︎)

イソギンチャクのような形だが、大きさは軽トラックくらいあるぞ。

その謎生物はアリスベルを胴上げするとウネウネ動く何十本もの触手を動かしアリスベルを絡み取る。

 

「あはははは! なーんちゃって」

 

「姉さん⁉︎」

 

「待ってろよ。今、助けてやるからな」

 

「動かないで! 二人とも動かないでそこでじっとしてなさい。動いたらアリスベルを締め上げて、窒息させるわよ? 「くっ……なんて卑怯な。見損ないましたよ、美々」ふん、好きなように言いなさいよ。弾輝みたいな人間辞めてるような奴の邪魔が入らなければ、荷電粒子砲がないアリスベル達なんか、ザコいし!」

 

「やめろ。おい、やめろ!」

 

叫ぶ静刃の声が聞こえてきた。

 

厄水(ゲル)の式を使えるあたしと池の近くで戦ったのは大きなミスだったわねぇ。アリスベル」

 

美々はそう言うと、謎生物がその触手で胴や手首、足首を捕縛されたアリスベルの胸元に____ぬにゅんっ、と水っぽい触手みたいな器官を滑り込ませた。

 

「____ひゃうっ!」

 

「というわけで、欠片(カラット)を取られたのはアリスベルちゃん自身でした。ほら、もっと悔しそうな顔しなさいよ。あたしをヒヤッとさせた罰よ。

ついでに荷電粒子砲(メビウス)の式も教えなさい、アリスベル。そしたら放してあげるわ」

 

「あれは……あなたのような乱暴者が覚えていいものではありませんっ!」

 

「厄水って、遊び過ぎて廃人になっちゃった魔法少女もいるのよねぇ。知ってた?

秘密を喋らせる一番ラクな方法は、壊れるまで快感にさせてから、禁断症状が出るまで墜とす方法なの」

 

アリスベルから奪った環剱を桜の幹に食い込ませるように置いてから、美々はキバのような犬歯を見せるようにして笑う。

 

「さーて、何回失神した辺りで折れるかしら。アリスベルは。20回? 30回くらい?」

 

アリスベルの叫ぶ声が聞こえる。

俺は今すぐ、手に持つ妖銃を美々に向けたくなったが、マリナーゼに止められていた。

 

「放せ、マリナーゼ! 一発あのアホ娘にブチ込んでやる!」

 

「いけません。貴方が動けば姉さんの身が危なくなります。堪えてください」

 

「大丈夫だって。ああいう子はきっと一発ブチ込めばおとなしくなるって」

 

「……ヤリたいだけなのでは?」

 

マリナーゼからジト目を向けられた。

ち、違う。そんなことは思っていないさ……少ししか。

と、そんなコントをしていたその時。

ザザッ。裏庭の空気が変わった。

(この感じ……妖刀か!)

いつの間に妖刀を手にしていたのだろうか。手に持つ妖刀の鞘で謎生物を突き刺そうとしている静刃の姿を確認できた。

叫ぶ静刃の声が聞こえる。

 

「アリスベル。____ちゃんと自分で立てよ」

 

「____きゃあ!」

 

胴上げ状態から落下するアリスベル。

(あの高さから落ちたらいくらアリスベルでも……いや、心配はいらないみたいだな)

俺が動くより早く、静刃が動いていた。アリスベルを空中でキャッチし、お姫様抱っこをした静刃の姿を見た俺は動く動作をキャンセルした。

 

「ちゃんと自分で立てって言ったろ?」

 

キザっぽく言う静刃の姿を見た後。

隣をチラッと見てみると、マリナーゼはなんだか羨ましそうにお姫様抱っこされたアリスベルを見ている。

(静刃に抱かれたいのか。マリナーゼも……)

そう考えた瞬間、何故だかわからないが、気分が悪くなった。

 

「……チッ」

 

一方の静刃はというと、舌打ちをしたかと思ったらアリスベルを乱暴にポイ捨てしていた。

そんな静刃を見たマリナーゼは今度は目つきを険しくさせながら静刃を見ていた。

(好感度ガタ落ちだな。はは、ざまーみろ静刃)

なんて思っていると。

 

「ああ、そうか……逆だったのね。静刃が刀の『鍵』じゃない。刀が静刃の『鍵』……っ! 」

 

「やっぱり貴方も、異能だったのですね……!

ですが、そんな異能があっても今の貴方では美々には敵いません。

逃げてください。その右目があれば逃げ切れるはずです」

 

「右目?」

 

「____それは『バーミリオンの瞳』。貴方の目は黒色ですから分かりにくいですが、今の貴方の瞳は緋色がかってます。それは高位情報式を使っている証。詳しいことは貴方の瞳と同じ目を持っているそこの変態に聞いてください」

 

「待て! 誰が変態だ!」

 

俺がアリスベルに突っ込みを入れたその時。

裏庭の、池の前に何処からともなく現れた。

ひら……ひら……ひらひら……

蝶が……大きなルリタテハが、舞っていた。

その数が、不自然に増えていく。あっという間に。

 

「……絶界……?」

 

アリスベルがそう呟いた次の瞬間。俺達の周りの景色が切り替わっていく。

まるで映像がオーバーラップするかのように。

そして、気づけばそこは裏庭ではなく、深い森の中だった。

(大規模絶界の張り直しかぁ。消滅弾(メドロア)で絶界をブチ壊した後で大量の精神力を使った状態だったとはいえ、まさか俺が気付かないなんてな……)

 

「ほう。私が来てることに気づいていたか……驚いたぞ。弾輝よ。まさか、こんなところでまたお前と出会えるとはな。さすがはこの私を救った男だな」

 

頭上から、声が聞こえてきた。

 

「異能の子らよ。その辺りで水入りにするのだな」

 

しっかりと落ちついた、女の声だ。

 

「……?」

 

「……?」

 

美々が手に持っていたフリントロック・グレイブ(服は消滅できたが、何故か武器は消滅できなかった)を逸らしら肩に担ぎながら、その声の方に視線を向けた。

視線の先、太い木の枝に一人の女が腰を掛けていた。

凛々しい顔立ちの、紺一色のドレスを着た女だ。

(誰だ? 向こうは俺を知っているような言い方だが、俺はあんな美女知らないぞ?)

 

「____(バク)!」

 

アリスベルが叫ぶ。

(バク)? まてよ。確かそんな名の妖がいたような……?)

 

「驚いたぞ。弾輝よ。まさか、かつて私を救ったお前の正体がただの高校生だったとはな……公安0課の勧誘に年齢制限がないという話は昔聞いたが、まさかこんな子供が獅堂や遠山から私を守ってくれていたとはな」

 

「獅堂? 遠山? ……一体なんの話だ?」

 

聞き覚えのない名だ。目の前の女が何を言ってるのか、よくわからない。ただ、気になる名称が出たな。公安0課。それはこの国、日本における、最強の公務員の名称だ。

 

「惚けなくてもいい。だが、話たくないなら無理には聞かないよ。私は、な?

ところで、静刃よ。お前にも驚いたぞ。まさか初めて手にした妖刀とそこまで呼吸が合うとはな」

 

獏がそう言うと、静刃が居合の構えを解きながら呟いた。

 

「……初めてじゃない」


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