「──は偉いなぁ」
それは母親の口癖だったが、俺が小学生になった時には無くなってた。
「──はやれば出来る」
父親はそういって勉強を教えたがってたが、その言葉が報われることはなかった。
「──は真面目だね」
先輩はそう言ってくれたが、俺はいつもそんなわけないと思ってた。
「──は頑張ってるよ」
好きなやつがそういう度に、俺はそいつが嫌いになりそうだった。
俺を褒めてくれたやつは、大抵俺よりすごいやつばかりだった。
母親は家事を一緒くたに受けて、家庭を裏から支えていた。受験勉強でもずっと側で支えてくれた事実は、今になって心に突き刺さっている。
父親は大学も出てないのに、たった一人で家庭を養っていた。いつも若いはずの俺よりパワフルで、何故そんな風にいられたのかはまだわからない。
先輩は大会で結果を残した上で、俺のような無能にも寄り添ってくれた。それは先輩としての責務の一つというだけだが、そんなことすら当時はわからなかった。
好きなやつはいつも愉快なやつで、出会ったときから卒業までそれは変わらなかった。俺は相談を聞くと言ったくせに、いつも俺から相談してただけなのが情けなくて仕方なかった。
みんなすごい人間だ。彼らに比べたら、俺なんて生きる価値もない。これだけの事が出来る人達が、何故一般人と言われるのかがわからない。
何故だ、俺は偉いのだろう? 俺は頑張れば出来るやつなのだろう? 俺は真面目なやつなのだろう? 俺は頑張ってるのだろう?
何でそこまでしてるのに、俺は人間にすらなれないんだ。何が俺には足りないんだ。
俺が聞くまでもなく、社会がその疑問に答えてくれた。
俺に足りないのは努力だった。
勉強も運動も部活も趣味も、何にでも努力が足りないからこんなことになったのだろう。全ては俺自身の怠惰が返り咲いた結果であり、その結果は必然だった。
もてはやされた自分に驕り、一にも満たない才能に盲目を覚えた。だが盲目の原因をもてはやした側に見つけようとする辺り、まだ俺は懲りてないようだ。全く反吐が出る。
そんなことを言っても、どれだけ怨嗟を連ねたところで、それをぶつける相手などもういない。
先輩もあいつも立派な社会人、実家の父母に至っては食費が一人分浮いたことで暮らしも楽になったことだろう。
そうだ。何をしても形にならないのなら、いっそ俺がいなくなればいい。そうすれば会社から無能が減るし、親にも保険金くらいは渡せる。我ながら良いアイデアを思い付いたものだ。
天才とは九十九の努力と一の閃きだと言うが、これこそまさに天啓だ。ようやく初めて、肩を並べることが出来た気がする。実に清々しい。
これから天才になれる事実を胸に、俺は階段を上り詰める。その時の気持ちは、まるで天にでも昇るようだった。