【完結】ザコの旅   作:クリス

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お待たせしました。

番外編も更新してます
https://syosetu.org/novel/268358/


15話 タカラトミー 人生ゲーム 4,378円(税込)
15-1


 

 

 

 

 

 湖沿いの国道301号線を時速50キロで流していく。

 

 湖とは言っても、浜名湖は海と繋がっている汽水湖。風に乗って漂ってくる匂いには、若干の潮の香りが混じっている。

 

 バイクで走っていて一番楽しいのは峠だけど、一番気分がいいのは海だとボクは思う。

 

 青だったり黒だったり、時には緑だったり、荒れ狂ってたり穏やかだったり、海は行くたびに違う顔を見せてくれる。

 

 雨と錯覚するような波飛沫。吹き飛ばされるんじゃないかってくらいの強い風。容赦なく照りつける日差し。

 

 大自然の強烈な息吹。バイクは自然とともにあってこそだ。

 

「ほんと浜松に縁あるよなあ、ボクって」

 

 ここに立ち寄るのはこれで3回目になるのかな。しかも前に来てからまだ一ヶ月も経ってない。

 

「早く綾乃に会いに行こ」

 

 たしかなでしこも2日に浜松にくるらしいけど、ボクは今日中には出発する予定だし会うのはちょっと難しいかな。

 

 リンもそろそろ帰ってるころだろうし、旅をしているのはいよいよボクだけか。

 

 スロットルを捻る。エンジンが力強く唸り世界がさらに加速していく。

 

「でもちょっと回転数上がりすぎだよなぁ」

 

 元気よく回ってくれるのはいいんだけど、速度に対していささか回転数が多すぎる気がしてならない。

 

 これでもフロントスプロケットを交換して大分マシになったけど、やっぱり余り気味だ。

 

 この状態だとリッター30キロしか走れないし、そろそろリアのスプロケットを交換してもいいかもしれない。

 

 そうだ。どうせならチェーンも交換しよう。タイヤ交換はしたことあるしたぶん大丈夫だ。

 

「あ、見えた」

 

 弁天大橋を渡りながらビーちゃんの新たな改造計画を考えていると、いつものコンビニと浜名大橋が見えてきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「もういるし」

 

 歩道で綾乃がキョロキョロとあたりを見回している。手を振ってアピール。

 

「おーい!」

 

 あ、気づいた。こっちに手振ってる。浜松は山梨ほど寒くないのか、パーカーにショートパンツとずいぶんと薄着だ。

 

 リンもそうだけど、ボクの周りの人ってなんであんなにお洒落なんだろ。ボクなんてズボン二枚重ねなのに。

 

 自身のクソザコファッションを嘆きながらコンビニの駐車場に入り、綾乃のエイプの横にビーちゃんを停める。

 

「わっ!?」

 

 エンジンを止めて降りた途端に左腕が重くなる。

 

 なにかと思って見てみたら綾乃が肩に手を乗せていた。

 

「久しぶりー双葉」

 

 にっこりと綾乃が笑う。その笑顔を見ると、ボクも自然が心が暖かい気持ちになっていく。

 

「ひさしぶり〜 ってまだ一週間しか経ってないじゃん」

 

「え、そうだっけ? まーいいじゃん。あ、そうだ」

 

 ボクの腕から手を離して姿勢を正す綾乃。だいたいなにをしたいのか、想像がついた。

 

 ボクもヘルメットを脱いで姿勢を正す。

 

「「あけましておめでとーございます」」

 

 ペコリとお辞儀。そして、顔をあげて二人でふひひと笑いあう。

 

 やっぱりこういうのいいな。なんか、新しい年が始まったって感じがする。

 

「双葉、これからどーすんの?」

 

「えっと、ちょっとゆっくりしたら出発しよーかなって」

 

「えーせっかく遊びに来たんだし、一緒にキャンプしよーよー」

 

 このパターンに見覚えがあるぞ。リンには負けてしまったけど、今回は屈さないぞー!

 

 ボクはノーと言える人間なのだ!

 

「こっからすぐの島にいいキャンプ場あるんだ。フリーサイトで一泊420円」

 

「やすー!」

 

 え、420円って。嘘でしょ、いくらなんでも安すぎない? しかも島ってことはロケーションは最高クラス。

 

 やばい、めっちゃ気になる。

 

「双葉焚き火台持ってる?」

 

「うん」

 

 蒸し器君は煤まみれでボクの鞄の中にビニールぐるぐる巻きになっている。洗い場あったら軽く洗ってあげないと。

 

「よかった。ならお肉買って二人でバーベキューでもしよーよ」

 

「うん! いいよ!」

 

 わーい! 正月バーベキューだー! 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 あれ?

 

「ふふふ」

 

 ま、いっか!

 

 なんだか流されている気がしてならないけど、どうせ休みもまだまだあるから平気平気。

 

 そうやって、自分に必死に言い聞かせていると、ブーブーとスマホがポケットで震える。

 

 リンだ。なんだろう。

 

「ちょっと電話でるね」

 

「はいよー じゃあコンビニで飲み物買ってきますか」

 

 コンビニの自動ドアに吸い込まれていった綾乃を見送りながら電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『あ、やっと繋がった。今どこいる?』

 

 スピーカーから聞こえるリンの声はどこか焦っているようにも聞こえた。なにかあったのかな?

 

「ごめん。ずっと走ってたから気づかなかった。えっと、今浜名湖の弁天島ってところ。綾乃も一緒だよ」

 

『アヤちゃんも? ああ、浜松だもんね。そっか、まだ遠く行ってなくてよかった』

 

 電話越しのリンの声がほっとしたように息をはいた。

 

『それで聞いてほしいんだけどさ、お母さんからさっき電話あって今雪で身延とかそこら辺の道ほとんど凍っちゃってるんだって』

 

「え!? うそ、ほんとに?」

 

 路面凍結って、雨の日のマンホールとならぶバイク死亡フラグの一つじゃないか。

 

「もしかして、南部町のほうもやばい感じ?」

 

『うん。お母さんがなでしこの家に確認してくれたみたいなんだけど、そっちもやばいみたい』

 

「えぇ……」

 

 雪が積もったならともかく、凍結となるとホームセンターでタイヤチェーンでも買ってとはいかないか……

 

 どうしよ。帰れないじゃん。冬休み終わるギリギリまで粘れば溶けてるかな?

 

『それでさ、わたしの家三日におじいちゃんが遊びにくるんだけど、お母さんがそのこと話したら行きがけにわたしたちバイクごと拾ってくれるってなったみたい』

 

「え、新城さんが?」

 

 バイクごと拾うって、どうするんだろう。軽トラでも使うのかな。三人も乗れるのかな?

 

『うん。で、わたし三日まで浜名湖のめっちゃ安いキャンプ場ですごすことにしたんだけど、双葉も一緒にどうかなって』

 

 あれ、それってもしかして今から綾乃と行くところじゃない? 

 

「そっか。そういうことなら合流したほうがよさそうだね。先に行ってるからキャンプ場の住所送ってよ」

 

『わかった。じゃあわたしも出発するから切るね。アヤちゃんにも伝えといて。あと、お母さんが双葉のことめっちゃ心配してたから、時間があったら電話してあげて。詳しい話もお母さんなら知ってるだろうし。電話番号知ってたよね』

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 実は志摩家の連絡先は全て持っているのだ。まあ、持っているっていうか、持たされたっていうべきか。

 

 しょうがない、前科一犯(ガス欠立ち往生遭難未遂)だもんね。

 

 正直他の家だったらしばらく外出禁止になるレベルのやらかしだ。ボクの家が超放任主義で助かった。

 

『よかった。ならわたしもう行くね。ついたらまた電話するよ。じゃ』

 

「またね」

 

 ブツリと電話が切れる。まさか道路が凍るなんてなあ。これじゃあ帰ってもしばらくバイク乗れないなあ。

 

 でも、本当に助かった。ボク一人だったら冗談抜きで詰んでた。帰ったらちゃんとお礼しないとな。

 

「戻ったよー」

 

「あ、綾乃」

 

「へいパス」

 

 両手に缶のお汁粉を持って片方をボクに投げてくる。片手でキャッチ。手袋越しでも熱々の缶を頬に当てて暖をとる。

 

「ありがと」

 

 プルタブを開けて甘ったるいお汁粉を飲みながらお礼を言う。

 

「そういえば、誰と電話してたの?」

 

「リンとね。なんか向こう雪で道路凍っちゃったみたいで、バイクで帰れないんだって」

 

「え、やばいじゃん」

 

 のほほんとしてた綾乃の表情が一変して心配そうにボクを見てくる。

 

「あ、大丈夫だよ。なんか、リンのおじいちゃんがリンの家に来るついでにバイクごと拾ってくれることになったみたい」

 

「そっか、よかった。ってことはリンちゃんと一緒に帰るってこと?」

 

「うん。おじいちゃんが来るのが3日みたいで、それまで浜松でキャンプするんだって」

 

「おぉー じゃあ三人でキャンプだ」

 

「さっきキャンプ場の住所送ってくるって言ってたから……あ、来た」

 

 話しているとスマホが鳴ってリンが行こうとしているキャンプ場の場所が送られてくる。

 

「やっぱりそうだ。ボクたちが行こうとしてるキャンプ場だよ」

 

「やった。リンちゃんとキャンプだ」

 

「綾乃も一緒にキャンプするって送っとくね」

 

 メッセージを送信するけど、既読は一向につかない。たぶんもう走りだしちゃったんだろうな。

 

 御前崎からここまでだいたい60キロだから、リンのビーノならだいたい昼頃には到着する予定か。

 

「じゃあ、ボクたちもそろそろ行こうよ」

 

 缶を傾けて最後の一滴を飲み干す。

 

「あ、ちょっと待って。3日まで浜松いるんでしょ? なら明日はうちに泊まろーよ」

 

「え、わ、わる──」

 

「聞こえなーい聞こえなーい。あ、もしもしお母さん? 今双葉と弁天島いるんだけどさ──」

 

 ボクが話す前に綾乃がスマホを取り出して家族の人と話始めてしまった。

 

「うん、そゆこと。じゃーねー 双葉、家おっけーだってさ」

 

 あっという間に明日の宿が決まってしまった。なんという決断力と行動力。さすが琵琶湖までついてくるだけのことはある。

 

「あ、ありがと。でも、本当にいいの?」

 

「気にしすぎだなーもう。なでしことかよくうちに泊まりに来てたし、一人や二人なんてことないよ」

 

 ボクはこういう経験がほとんどないからよくわからないけど、よくあることなんだろうか。

 

「そっか。ありがと、じゃあ短い間だけどお世話になります」

 

 ペコリとお辞儀。

 

「そんなかしこまらなくていいって。双葉にはいろいろしてもらったしさ、これくらいなんてことないよ」

 

「え? ボクなにかしたっけ?」

 

 せいぜい琵琶湖に連れていったりしたくらいだ。たいそうなことなんてなにもしてない。

 

「あ、うん。やっぱ無自覚か。ま、そういうとこが好きなんだけどねー」

 

「え? え?」

 

「こっちの話。時間もあれだし、ちゃっちゃと出発しよーよ」

 

「あ、うん。だね」

 

 今ひとつ釈然としないままビーちゃんに跨る。ここから1キロっていうくらいだから、本当にすぐそこだろう。

 

 どんなとこなのかな。ちょっと楽しみだ。

 

 綾乃がヘルメットを被ってエイプに跨る。同じようにボクもヘルメットを被ってビーちゃんに跨る。

 

「じゃ、行きますかー」

 

 綾乃の言葉を合図に、蹴り飛ばされるキックペダル。

 

 4ストと2スト。ホンダとヤマハのエンジンが冬の弁天島に鳴り響く。

 

 

 

 

 

「ほんとに420円だった……」

 

「言ったでしょ。安いって」

 

 コンビニから十分もしない距離にある渚園キャンプ場でチェックインをすませる。

 

 綾乃が言ったとおり信じられないくらい安かった。昨日リンと泊まったキャンプ場が高かったからありがたい。

 

「じゃ、わたし家にキャンプ道具取りに行ってくるねー」

 

「なにも持ってないのにキャンプするって言ってたんだ」

 

「どっかの誰かが言ってたんだ。旅は行き当たりばったりが一番だって」

 

「……それボクじゃん」

 

「ふひひ、しーらない。じゃ、1、2時間で戻るからその間ゆっくりしてなよー」

 

 じゃーねーと言って、綾乃のエイプが煙を吐きながら去っていく。

 

 潮の匂いのする静かなキャンプ場にボク一人がポツンと取り残される。

 

「行っちゃった」

 

 なんか、新年に入ってから次から次へといろんなことが起きるな。去年まではそんなことなかったから、ちょっと楽しい。

 

「よーし、テント張るかー」

 

 あ、その前に咲さんに電話しないと。

 

 スマホを出して咲さんのアドレスをタッチ。

 

 ちょっと前のボクなら信じられないことだけど、もう昔のボクじゃないのだー!

 

 耳元でプルルと発信音が鳴る。そういえば、友達の家族に電話するのって、これが初めてな気が……

 

『もしもし? 双葉ちゃん?』

 

 あ、やばい繋がっちゃった。

 

「あ、あのあの、ふた、双葉、ででです!!」

 

 いつもどおりの噛みまくりのセリフ。

 

 知ってた。だってボクだもんね。この清々しいまでのクソザコムーブ。懐かしいなあ。

 

 って、なに懐かしさに浸ってんのさ! 早く要件言わないと!

 

「え、えっと、リンさんから道路が凍っちゃってるって聞いたんですけど、そんなにまずいですか?」

 

『やばいわね。わたしでもこれはちょっと……』

 

「わたしでも?」

 

『なっ、なんでもないわ! そ、そうね、かなり深く凍ってるし、バイクで走るのは難しいわね』

 

「そうなんですか……南部町もひどいですか?」

 

 幹線道路なら凍結防止剤とかも撒かれているだろうし、そこまで深刻なことにはなってないと思うんだけど……

 

『各務原さんに聞いてみたんだけど、大通りとか日当たりのいいところは大丈夫みたいよ。でも白鳥神社あたりがけっこう凍ってて、車でもちょっと危ないレベルみたい。これからどんどん冷えてくし、完全に溶けるまでしばらくかかりそうね』

 

 山梨寒いからなあ。咲さんの話からすると冬休み終わるまではバイクで走るのは無理だろうな。

 

『それでね、もうリンから聞いてると思うんだけどうちのお父さんが3日にこっちに来るんだけど、そのこと話したら車で二人のバイク拾っていってくれることになったのよ』

 

「それはとてもありがたいんですけど、車で2台も大丈夫なんですか?」

 

 新城さんを信じていないわけじゃないけど、原付2台を載せられる車はけっこう限られる。

 

『あ、それなら大丈夫。詳しくは聞いてないんだけど、なんでも知り合いのツテで大きな車借りれるみたいよ』

 

 大きな車。普通自動車で乗れるトラックかな。

 

 トラック借りれるツテってなんだろうって思うけど、あの人ならどんな人脈を持ってたとしてもボクは驚かない自信がある。

 

「あ、そうなんですね。すいません。お世話になります」

 

『そんなに畏まらなくてもいいわよ。わたしたちは二人が無事に帰ってくれればそれで十分なんだから』

 

「咲さん……」

 

 やっぱりこの人はすごく優しいな。志摩家の人たちはみんな優しくて大好きだ。

 

『それに、こうでも言わないと双葉ちゃん道路が溶けるまでその辺ぶらぶらするって言い出しかねないし』

 

「咲さぁん……」

 

 信用ないなあボク。まあ、まったくもってそのとおりなんだけどね! 

 

 いや、これはある意味信用されているのかな? なんかいやな信用のされかただな。

 

『わかっているとは思うけど、バイクって本当に危ないのよ』

 

 咲さんの声は本当に心配している様子だ。ちょっと大袈裟かなって思わなくもないけど、親っていうのはそういう生き物なのだろう。

 

『乗ってる時はなんでもできる気になってついつい無茶しちゃうけど、それが命取りなの。双葉ちゃんも調子に乗って雪道とか走ったりしちゃダメよ! 楽しいのは最初だけ。どうせすぐ転んで終わりだから』

 

「は、はい」

 

 なんだろう。話に妙に実感がこもっている気が……

 

 もしかして咲さんって……いや、この先はやめておこう。本人は秘密にしたがっているみたいだし。

 

『とくに双葉ちゃんのバイクは古いしブレーキも両輪ドラムだからあんまり効かないでしょ? たしか旦那の話だとけっこう年代ものって聞いたんだけど、ブレーキシューは大丈夫? 中古だと交換なんてしてないだろうし、かなりすり減ってるんじゃないかしら? もしちょっとでも効きが悪いと感じたなら早めに交換したほうがいいわよ。交換したらハブのオーバーホールとシャフトのグリスアップは絶対に忘れちゃダメ。とくにシャフトは念入りにね。汚れたまま組んだら絶対固まるからとくに注意してちょうだい』

 

 なにを言っているかはわかるけど、怒涛の早口に額に冷や汗が流れる。

 

 咲さん、隠したがってるんじゃなかったのかな……

 

 いや、たぶん素で言ってるんだろうなあ。

 

『とにかく、古いバイクはちゃんと面倒見てあげないとすぐに機嫌悪くなるから、双葉ちゃんも気をつけてね』

 

「は、はい……」

 

『あと、リンと合流したら電話するように伝えてくれないかしら? あの子ほっとくとすぐ連絡サボるのよね』

 

 なんか、すごいわかる気がする。

 

 リンってああ見えて意外と適当っていうか、その場のノリで行動するところあるからなあ。

 

 まあボクも人のこと言えないんだけどね。

 

『とにかく、なにかあったらすぐ電話するのよ。それじゃあリンのことよろしくね』

 

「はい、いろいろありがとうございます。ではこれで」

 

『はーい。あ、あと双葉ちゃん』

 

「はい?」

 

『……さっきのこと、む、娘には内緒にしておいてくれないかしら?』

 

 恥ずかしそうなか細い声。なんとなく咲さんがどんな顔をしてるのか想像がついた。

 

「あ、やっぱり乗ってたんですね」

 

 正直志摩一家を見ていると意外でもなんでもない。一族レベルでバイク乗っててもボクはなにも驚かない

 

『ほんとに! ほんとに言わないでね!』

 

「べつにそんなに恥ずかしがらなくても……ちなみになに乗ってたんですか! やっぱりヤマハのSR? それともカワサキのWとか──」

 

『お、大人をからかわないの! もう切るわね! 風邪ひかないようにね!』

 

「あっ、ちょ……切れちゃった。ふふ」

 

 志摩家の意外な一面を知って思わず笑う。咲さんもけっこう恥ずかしがり屋なんだな。やっぱリンにそっくりだ。いやこの場合はリンがそっくりなのかな。

 

「リンももうじきくるだろうし、テント張りとっとと終わらせるぞー」

 

 行き当たりばったりなニューイヤートラベル。ボクの心のアルバムにまた一つ思い出が刻まれようとしていた。

 




用語解説

ハブ
ブレーキシューやベアリングなどタイヤの重要なパーツが収まっている中心部分のこと

ドラムブレーキ
ブレーキの一種。古いバイクによく使われている。向かい合っている受話器のようなブレーキシューが内側からホイールを押し付けることで制動力を作る。部品が少なく単純なつくりなので長持ちする。構造上汚れが溜まりやすく定期的に清掃が必要。

シャフト
本編ではカムシャフトを指す。ブレーキシューを広げるための棒状のパーツ。汚れが溜まると固まりやすくなる。定期的なグリスアップが必要。めっちゃ抜きづらい。

SR
ヤマハが生産していたネイキッドバイク。しまりんママのかつての愛車。キャブレターから電子制御に代わってもキック始動オンリーという漢気のあるスタイルが特徴。

wシリーズ
カワサキが生産しているネイキッドバイクのブランド。800ccや400ccなどいろいろなラインナップがある。2本だしのマフラーなんとも渋い。
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