【完結】ザコの旅   作:クリス

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ワクチンとかいろいろゴタゴタしてたので遅れました


17話 モンベル ケーブルニットワークキャップ 2,970円(税込)
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 すすきの生い茂るなだらかな峠をビーちゃんでのんびり駆け抜けていく。

 

 左に意識を向ければいつ見ても壮大な富士山が山中湖の黒い湖面を見下ろしていた。

 

 澄み切った青い空に白い雲。うん。今日もいい天気だ。

 

 前輪と繋がったフロントフォークが路面の凹凸に合わせて上下に小刻みに動き、アクセルを開くと2ストロークのエンジンがトトトと鳴って、シートを通してリアタイヤがアスファルトを蹴り飛ばす感触が伝わってくる。

 

 緩やかになびくすすきの道。県道730号、三国峠。

 

 見頃のシーズンは外してしまったけど、それでも美しさは健在だ。ちょっと遠回りしてきたかいがあった。

 

 左のコーナー、クラッチを握ってギアダウン。

 

 アクセルを吹かしてクラッチをつなげ、最近効きが悪いと思うようになってきたリアブレーキをかけつつコーナーを曲がっていく。

 

「そろそろ交換しないとなあ」

 

 チェーンもスプロケットもまだ注文していない。これから雪解けも進んで遠くに行く機会も増えていく。

 

 だから作業は早めに終わらせたほうがいいんだけど、いかんせん寒い。

 

「もうちょっとあったかくなってからにしよっと」

 

 2月くらいかな。そんなことを考えていると、コーナーを抜けた向こうに見晴らしのいい駐車場が見えてきた。

 

 ちょうどいい。ここで一枚撮っておこう。

 

 ビーちゃんを駐車場に停めてエンジンを切る。

 

 ガソリンの燃焼によって膨張していたマフラーが、冬の風で冷やされてパチパチと音を立てながら縮んでいく。

 

 ヘルメットを脱いで鼻まで押し上げていたネックウォーマーを下ろすと、突き刺すような冷気が身体の中を駆け抜けていった。

 

「うぅ、前来た時よりもずっと寒いや」

 

 吹き付ける風のあまりの冷たさに思わず身震い。

 

 あたりを見回せば、ところどころ昨日降った雪の名残が溶けずに残っていた。

 

「えい」

 

 近づいてブーツで踏んでみると、雪はもう固まってカチコチになっていた。

 

 泥と埃が混じった見た目は、まるで土の上に落としてしまったアイスクリームのようだ。

 

 あんまりおいしそうな表現じゃないな。

 

「なんかアイス食べたくなってきたなー」

 

 そんなことを考えていると食べたくなってくるのが人の性。

 

 買ってもらったばかりのこたつに入ってアイスでも食べればそれはそれはおいしいに違いない。

 

 たしか冷蔵庫に夏の時に食べきれなかったアイスが残っていたはず。帰ったら確認してみよう。

 

「まあ、今はそんなことよりも……」

 

 スマホを取り出し眼下に広がる山中湖をパシャリ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 海とか湖とか川とか、ツーリング先で水を見かけるととりあえず写真に撮ってしまうのはいったいなんでなんだろうか。

 

 乗り始めて半年が経ったけど未だに答えは見つからない。

 

 まあともかく──

 

「よし、これで残り4つと」

 

 1月、山中湖。まだまだ雪の残る富士の麓で、ボクはいつものようにバイクに乗っていた。

 

 

 

 

 

 富士五湖。

 

 名前のとおり山梨県側の富士山麓に位置する五つの湖のこと。

 

 富士山を取り囲むように右から山中湖、河口湖、西湖、精進湖、本栖湖と並んでいて、その素晴らしいロケーションからキャンプスポットしても有名だ。

 

 湖と富士山、緩やかに流れる風。瑞々しい木々。たしかにキャンプをするのにこれほど適した場所ないだろう。 

 

 今日はいろいろ巡る予定だし、いい感じのキャンプ場があったらみんなにも教えておこう。

 

「そういえば千明たちも山中湖でキャンプするんだっけ」

 

 なでしことリンはバイトで不参加。ボクは明日バイトだからパス。

 

 そういうこともあって、今日は千明とあおいと斉藤さんというちょっと珍しい組み合わせなのだ。

 

「斉藤さんもすっかりキャンプハマったよなあ」

 

 綾乃もソロキャンしてるって言うし、ボクの周りでどんどんキャンプ好きが増えていく。

 

「ここは対抗してツーリング好きを増やすべきか……」

 

 次ツーリング行く時はリンも誘おうかな。

 

 そんなことを考えつつビーちゃんを走らせる。右手には山中湖がその黒々とした湖面を時折太陽に反射させていた。

 

「……さむ」

 

 木々の影に入るたびに、まとわりつくような冷気が全身を包み込む。

 

 例えるなら冷凍庫に顔を突っ込んだ時のようなそんな冷たさだ。

 

 それもそのはず。山中湖の標高は980メートル。約1000メートルと、ちょっとした山くらいの高さがある。

 

 当然標高が高ければ気温も下がるわけで、服で覆いきれない手足が寒さで悲鳴をあげる。

 

 慣れていても辛いものは辛い。ハンドルカバーを付ける人の気持ちもよくわかる。

 

「もうちょっと足エンジンにくっつけてみようかな……」

 

 ためしにステップに置いた足をクランクケースにべったりとつけてみる。

 

「あ、あったかい……」

 

 素手でさわれば火傷するほどの熱さをブーツがほどよく和らげて、くるぶしを中心にじんわりと暖かさが伝わってくる。

 

 それにバイクに密着したおかげか、さっきよりも安定性が良くなっているみたいだ。

 

「これいいなー」

 

 首をまげるだけで勝手にその方向に曲がっていく。なんだか自分とバイクが一つになったみたいだ。

 

 これでカーブを曲がったらきっと楽しいだろうな。

 

 ちょっと飛ばして──

 

「っと、自重自重」

 

 危ない方向にそれそうになった考えを正す。

 

 大通りは日差しのおかげで大丈夫だけど、昨日雪が降ったばかりなのだ。

 

 無茶な運転をしてすっ転んだ日には大怪我じゃすまないだろう。

 

 安全運転安全運転っと。

 

 スロットルをちょっと緩めて速度を落とす。これで少しは寒さもマシになった。

 

 まあ猛烈に寒いからものすごく寒いに変わっただけだけど。

 

「さーて、次は河口湖だ」

 

 目の前に見えたY字の交差点を左折する。この道をまっすぐ行けば河口湖だ。

 

 スロットルを回す。エンジンが唸る。

 

 空は晴れていて、日差しも心地よい。今日は絶好のツーリング日和に違いない。

 

 ボクはそう思った。

 

 

 

 

 

 すっかり葉を落とし、枝だけになった木々が延々と続く森の中をのんびりと駆け抜けていく。

 

 時折見える屋根付きのバス停には雪が積もっていて、溶けた雪が水滴となって地面に滴り落ちていた。

 

「この先の道の駅で休憩してくかな」

 

 ここら辺をツーリングする時にいつも寄っている道の駅を思い浮かべる。

 

 たしかあそこって大きなカリブーがあったはず。まだ行ったことないし、せっかくだから入ってみるか。

 

「よし、行こう」

 

 なんかいい物が見つかるといいな。

 

 そんな期待に胸を膨らませながらアクセルを煽っていく。

 

 枯れ木と空、そして雪。茶色と白と青で彩られた世界をボクは一人走っていった。

 

 

 

 

 

「ふぅ、ついたっと」

 

 道の駅の駐輪場にビーちゃんを停めてエンジンを切る。

 

 道の駅富士吉田。

 

 富士山の麓だけあって、他の道の駅に比べても一段と大きく、観光客や地元の食材を買いにきた人たちでいつも賑わっている。

 

 途絶えることなくやって来ては去っていく車を眺めながらヘルメットを脱ぐ。頭を左右に振って押し込められていた髪を解いていく。

 

 ヘルメットを脱いで身軽になると、冬の風がダイレクトに頭にぶち当たって思わず身震い。

 

「やっぱここら辺寒いなー」

 

 自分の身体を抱きながら息をはくと白い湯気になってモワモワと宙に漂った。

 

「さむさむ、早く中入ろっと」

 

 腕を組みながら小走りでカリブーに向かっていく。

 

「みんなみたいに帽子でも買おうっかな」

 

 なんかかわいいのあるといいな。そんなボクの後ろで一台のバスが通りすぎていった。

 

 

 

 

 

「……あったか」

 

 カリブーのドアを潜った瞬間、猛烈な暖かさが全身を包み込んだ。

 

 一瞬で真っ白になるメガネ。冬はこれだからいやなんだよなあ。けど、外すと何も見えないし。

 

「ま、前が見えない……」

 

 温度差が大きいせいなのか、ボクが冷えているせいなのか、いつもよりもひどい曇りかたをしているせいで本当になにも見えない。

 

「ど、どこ、前どこ?」

 

 両手を伸ばしてゾンビのようにふらふらと歩く。

 

 モフ。ふと、両手にそんな感触を感じた。やばい、人にぶつかっちゃった。

 

「えと、その! ご、ごめんなさい!」

 

 慌てて頭を下げて謝ると、今度は頭にモフっとした感触が伝わる。

 

「ひっ」

 

 一瞬全身の血の気が引いた。お、終わった。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 と思ったけど、なんだか様子がおかしい。

 

 頭を押し付けているのに一切反応がない。恐る恐る手を伸ばして触ってみる。あ、これ人じゃないな。

 

「はぁ、びっくりした〜」

 

 人に頭突きしちゃったのかと思った。

 

 安心すると、なんだかモフモフの正体が気になってきた。

 

「調査、これは調査なんだ……」

 

 モフモフが気持ちよかったとか、顔を埋めてみたいな、などといった邪な気持ちでは断じてないのだ。

 

 頭をそっとモフモフに押し付けてみる。モフっとした感触と暖かさが顔じゅうに広がる。

 

 やばい。これいいかも。

 

 両手でモフモフを抱きしめながらすりすりと顔を押し付ける。

 

「えへへ、モフモフだぁ〜」

 

「モフモフだねぇ〜」

 

 え?

 

 気のせいかな? 今すっごい聞き覚えのある声がきこえたような、ないような……

 

「双葉ちゃんこっち見てー」

 

「あ、はい」

 

 声のしたほうに顔を向ける。パシャリとカメラのシャッター音がした。

 

 え、シャッター音?

 

「はぁ、ロリ子もお子様だなー」

 

 すっごい聞き覚えのある声その2。

 

「わぁ、ほんまにモフモフやぁ〜」

 

 すっごい聞き覚えのある関西弁その3。

 

 なんだか嫌な予感がする。うん……まあ、もうわかってるけどさ。メガネを外してレンズの曇りを拭いてかけ直す。

 

「よっ」

 

 千明がニヤニヤしながらボクを見ていた。

 

 後ろを向く。モフモフしたカリブーのマスコットキャラ、カリブーくんが、その円な瞳でボクを優しく見守っていた。

 

「はぁ、これあかんわぁ〜」

 

 そんなカリブーくんに顔を埋めて顔をだらしなくにやけさせているあおい。

 

「おはよ〜 双葉ちゃん」

 

 と、いつものようににこやかに挨拶する斉藤さん。

 

「あ、うん……おはよ」

 

 そして、茫然と立ちつくす一人のクソザコ……もといボク。

 

「なんだ、こっち来てるなら連絡してくれればよかったのに……って、おーい」

 

 なにも聞こえない。世界が灰色に包まれる。

 

 そんな灰色の世界でただ一人、カリブーくんだけがボクを優しく見つめていた。

 

 コッチニオイデ……

 

 都合のいい幻聴に身を任せ、カリブー君を抱きしめる。フカフカとした暖かい感触。あぁ、モフモフだ……

 

「えらいニヤけとるな……」

 

「かわいいもんね、カリブーくん」

 

「えへへ〜」

 

 このあとめちゃくちゃ悶絶した。

 

 

 

 

 

「へぇ、富士五湖巡りかー」

 

 斉藤さんが感心したように言った。

 

「またなんかおもしろそうなことやってんのな」

 

 たくさんのアウトドアグッズで溢れるカリブーの中を4人で探検していく。

 

 この辺で一番大きい直営店なだけあって品揃えもすごい豊富。身延や甲府のカリブーでは見たことないような商品がいっぱいある。

 

 あとで服のコーナーも見ていこ。

 

「この後はどうするんだ?」

 

「さっき山中湖行ってきたから、次は河口湖から順番に見ていくつもり」

 

「なかなかハードスケジュールやな。事故らんように気ぃつけてな」

 

 距離的には200キロちょっとだから大したことないんだけど、雪も降ったばかりだから気をつけるに越したことはない。

 

 あおいの言うとおりのんびり走っていこう。

 

「ありがと。ついたら順に写真送るね」

 

「楽しみにしとるでー」

 

「ついでにいいキャンプ場あったら教えてくれよな」

 

「うん! 任せて!」

 

 そんな話をしながらアウトドアグッズの森の中を探検していくボクたち。

 

「やっぱ、ネットで見るより迫力が全然違うよな」

 

「せやなあ、こんなぎょーさんあると目移りしてまうわ」

 

「ま、あたしら金ないし。アマゾンでひたすら欲しいキャンプグッズカートに突っ込んで悦に浸るくらいしかできないけどな」

 

「あ、わかる! よくやるよねエアショッピング」

 

 そして我に返ってひどい虚無感に襲われるまでがセット。でもやめられない。帰ったらまたやろ。

 

「聞いてて悲しくなるからやめいや」

 

「やっぱいろいろ欲しくなっちゃうよね〜 キャンプグッズ」

 

 斉藤さんの言うとおりだ。バイトを始めてお金に余裕ができた分、余計にそう思うんだろうな。

 

「それで、3人はなに買いにきたの?」

 

「ああ、前まえからほしかったハンモックをだな──」

 

 わいわいがやがや。三人寄ればなんとやら。四人寄ればやかましい。

 

 あれがほしいこれがほしい。みんなでああでもないこうでもないと楽しげに悩み合う。

 

 ボクの朝はそんな楽しげな会話とともに過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

「いやー 買った買った」

 

「早うキャンプ場行って組み立てたいわぁ」

 

 息が白くなるような寒さもなんのその。ほくほく顔の千明とあおい。二人の手には、買ったばかりのキャンプグッズが詰まったカリブーの買い物袋が握られている。

 

「斉藤さん、帽子一緒に選んでくれてありがと」

 

 斉藤さんにお礼を言ってカリブーの窓ガラスに映った帽子を被った自分の姿をちらりと見る。

 

 落ち着いたネイビーのニットのワークキャップ。キャップなのにニットだからモコモコしててかわいい。

 

 しかもアウトドア用だけあってすごいあったかい。これはいい買い物をした。

 

「似合ってるよ〜双葉ちゃん」

 

「えへへ、ありがと」

 

 斉藤さんに褒められて思わず顔がニヤけてしまう。

 

 いい物が買えたってこともあるけど、友達に選んでもらったってのも大きいんだろうな。

 

 そういえば、友達にこういうもの選んでもらったの初めてだな。うん、大事に使おう。

 

 そういえば、友達か……

 

「ん? どうしたの双葉ちゃん」

 

 斉藤さんがボクを見てくる。

 

 ボクは斉藤さんのことを友達だと思っている。そして、斉藤さんもボクのことを友達だと思ってくれていると思う。

 

 千明たちはいつの間にか斉藤さんのことを名前で呼ぶようになっていた。

 

 リンはまあ置いておくとして、今のところ名前で呼んでないのはボクだけだ。

 

 やっぱり、名前で呼んだほうがいいのかな。でもなぁ、自分からそんなこと言ったことないしもし嫌がられたら……

 

「……違う」

 

 口の中でそう呟いて小さく首を振る。

 

 もう、そういうのはやめにしよう。

 

 勝手に相手の気持ちを決めつけて、勝手に納得する。たしかにそうすれば楽だけど、きっとそれは逃げているだけだ。

 

 聞かなきゃわからない。言わなきゃ伝わらない。

 

 ちょっと怖いけど、今のボクなら大丈夫。

 

「あ、あの斉藤さん……」

 

「なーに?」

 

 微笑みながらボクを見る斉藤さん。息を吸って呼吸を整える。

 

「え、えっと……その……」

 

 緊張でうまく言葉が出てこない。けど、それでも必死に言葉を紡いでいく。

 

「あ、あの……え、恵那って呼んでも……いい、かな?」

 

 い、言えた。つっかえちゃったけど、それでもはっきり言えた。

 

 緊張と恥ずかしさで顔が熱くてしかたない。でもそれ以上に嬉しくて仕方がなかった。

 

 ちょっとはボクも成長できたって思っていいのかな? 

 

「双葉ちゃん……」

 

 ボクの話を聞いて、斉藤さんは目を一瞬だけ大きく見開き、それからすぐににっこりと笑った。

 

「……もっちろんだよ! よろしくね、双葉ちゃん!」

 

 斉藤さん改め恵那が笑いながらボクの名前を呼んだ。

 

「……うん!」

 

「双葉ちゃんすっごいニッコニコ」

 

「え、そ、そうかな? えへへ」

 

 照れ臭さと嬉しさがごっちゃになって自分でも感情の整理が追いつかない。

 

「ええなあ〜 初々しくて〜」

 

「そうだな〜」

 

 横でニコニコしている二人のことは必死に見ないふりをする。いや、もう手遅れだけどさ。

 

「さーて、買うもんも買ったしちっと早いけど温泉行くかー!」

 

 千明が目を輝かせながら拳を突き上げる。

 

「へぇ、3人ともこれから温泉行くんだ」

 

 こんな寒いところで温泉なんて浸かったらさぞ極楽なんだろうなー。

 

「あ、双葉ちゃん。よかったら一緒に温泉行かへん?」

 

「いいね〜 せっかく会えたんだし、双葉ちゃんも一緒に行こうよ」

 

 こうなると、当然の流れとして3人がボクのことを温泉へ誘う。

 

 正直すごい悩むけど、今日はまだまだ行かなきゃいけない場所がある。なにせこれからあと4か所回らなきゃいけない。

 

 こんなところで道草を食っている場合じゃないのだ!

 

「ごめん、誘ってもらったのにあれだけど、もう出発するよ」

 

 お昼も食べなきゃいけないし、できれば日が落ちる前には家に帰りたい。

 

「「「じー」」」

 

「い、行かないからね!」

 

 3人の温泉行こーよビームを避けながらビーちゃんに向かって走っていく。

 

 これ以上食らったら本当に温泉に浸かる未来がやって来てしまう。

 

 まあ、べつにそれはそれでいいんだけど、今日はそういうことをしにきたんじゃないのだ。

 

「道気をつけろよー」

 

「写真楽しみにしてるねー」

 

「ちゃんとついたら連絡するんやでー」

 

 思い思いの言葉をかけてくる3人に手を振る。

 

「そっちも寒いから気をつけてねー!」

 

「「「はーい」」」

 

 夜の山中湖かなり寒いけど、大丈夫なのかな。まあ、そのくらい知ってるに決まってるか。

 

「さてと……おまたせビーちゃん」

 

 タンクをポンポンと叩いて出発の準備をする。

 

 カリブーに長居したせいでエンジンも冷え切ってしまっている。これはかけるのに苦労するだろうな。

 

 ヘルメットを被ってシートに跨りキーを差し込み右に捻る。

 

「いい子だからかかってよー」

 

 チョークを引いてキックペダルを蹴り飛ばす。

 

 ブルンとエンジンが唸り、カタカタと音を立てながらゆっくり回っていく。

 

 すかさずチョークを戻しスロットルを捻ってガソリンを送り込む。

 

 やかましい音を立ててマフラーからモクモクと噴き出す大量の白煙。よし、一発でかかった。

 

 しばらくアイドリングのまま待って、シリンダーがほんのり暖かくなってきた頃合いを見計らって出発。

 

 カラカラとした金属音とともに白煙が噴き出して、冷たい風とともに世界が加速していく。

 

 バス停で待つ千明たちに手をひと振り。別れを告げてさらにギアを上げていく。

 

 目指すは河口湖。ボクの旅はまだまだ始まったばかりだ。




番外編更新しました。
https://syosetu.org/novel/268358/
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