聖闘士星矢:転生者編   作:madamu

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基底物語

「タナトス」

巨躯。白い肌に深い彫から欧州人を想像させるが、多くの人間からすると人種がわからないとなる。

呼び止められたタナトスは振り向くと双子であるヒュプノスがいる。

「どうした」

「異常事態だ。ついてきてくれ」

 

冥界の遥か奥、楽園と言われるエリシオンにおいて侵入してくるものは皆無。

神話の時代に数名、そして鋼の時代にも数名、その程度しかいない。

「誰が来たのだ。十二神ならば先触れが来て当然だろう」

タナトスは黙々と先を歩く、ヒュプノスに声をかけるが返答が無言である。

 

花園を歩き、神殿に到着する。

冥界のハーデス神殿とは違い、楽園の神殿は自然光が多く明るい。

 

神殿の中には円卓に座るのは先日封印された海皇ポセイドンの依り代であるジュリアン・ソロであった。

スーツ姿。それは商談に赴くビジネスマン、それも数百億ドルの仕事のレベルである。

 

「勝手に待たせてもらっている」

ポセイドンからの言葉で頭を下げる二柱。

この力関係は明確だ。

ハーデスの兄弟であり、海を統べるもの。

オリンポス十二神でも別格である。

原初の神に連なるタナトスとヒュプノスではあるが、概念の執行者であっても支配者ではない。

 

「供回りもつけずに不用心ですな」

やや挑発的なのはタナトス。

「緊急の要件で」

冷静なのはヒュプノス。

 

ポセイドンは左手で円卓につくよう促す。

二柱は何にも言わず円卓の座につく。

 

「基底物語への介入が発生している」

ポセイドンの言葉に、タナトスは驚きで口をつぐみ、ヒュプノスは逆に口を開く。

 

たっぷりと数舜。

「このことは事実ですか」

タナトスは絞り出すように聞く。

「間違いない。封印後に座にて複数人に確認を取ったが、北欧神話のロキが介入してきた」

その言葉に冷静を旨とするヒュプノスが烈火のごとく怒り、立ち上がる。

「馬鹿な!馬鹿な事!基底物語の介入だと!ふざけるのも、舐めるのもいい加減にしろ!」

そのまま大きく地団駄を六回踏む。

地団駄のあまりの勢いに円卓が揺れる。

 

双子のヒュプノスがこれほどまでに乱れた姿を初めて見たタナトスは、基底物語への介入という事実と双子の怒り狂いように愚かにも動転するしかなかった。

「誰か、茶を」

タナトスはただ弱々しく風の妖精につぶやく。

 

楽園の妖精たちが酒杯にハーブティーを注ぎ円卓に置くころにはやっとヒュプノスの怒りは落ち着いた。

「取り乱しました」

それだけ言うとポセイドンには視線を合わせずうなだれるヒュプノス。

 

「構わんよ」

ポセイドンも座に戻った際には、ヒュプノスほどではないがそれなりに荒れた。

 

 

 

基底物語。

 

この概念の「基底」は「正統」や「神聖」と言い換えても問題ない。

 

信仰とは特定の世界だけに存在するものではなく、無数無限に存在する多次元世界にまたいでいるのだ。

ギリシア神話を基本とする宗教が全世界の宗教覇権を握っている世界があれば、逆に一つの血族にだけ伝わる家族宗教であったりもする。

ある人間がある瞬間にあくびをした世界と、あくびをしなかった世界。

それだけでも多次元世界は広がり、信仰者の数は増えていく。

 

神々の力は、この「信仰の多さ」によって規定される。

ギリシア神話、ローマ神話、北欧神話、仏教etc

信仰の多い神話・宗教こそ多次元世界において強い影響力を持つ。

空飛ぶスパゲッティーモンスター教もあれば、ゲームのアイドルを信仰する宗教もある。

 

そして信仰を得る方法として有用とされているのが物語であり、その粋の一つが「漫画」である。

視覚的に理解しやすく、興味をそそられる。

その漫画の中でも、信仰心の獲得に非常に重要な物語を「基底物語」としている。

この基底物語が崩されると、信仰心の獲得に支障をきたす。

 

つまりは神々のパワーソースの枯渇につながるのだ。

「聖闘士星矢」はギリシア神話の神々にとっては最高の基底物語だ。

この漫画からギリシア神話に興味を持ち、数京、数咳、無限の人々が微量の信仰心を持ち、ギリシア神話の多次元世界でのパワーソースとなるのだ。

 

多くの創作者が描くファンアートはその信仰心獲得の補強だ。問題はない。

だが、二次創作からさかのぼるような基底物語への侵入は神々に対する挑戦であり、絶対悪なのだ。

 

今、その基底物語への侵入が行われようとしている。

 

「本来であれば私は基底物語への介入は黄金聖衣を青銅に送り届けるだけだ。だがこう言った形で介入をせねばならない」

ポセイドンはハーブティーの杯を置く。

基底物語への介入だ。面倒とは言っていられない。

だが、陰日向に基底物語の維持を手伝うのはそれなりの苦労がある。

 

「アテナには」

「あの小娘は基底物語の主人公だ。こういった事情を座以外で知るのは、基底物語を意識することになり信仰心の獲得が鈍る」

タナトスの言葉にポセイドンが返すとため息を一つ。

(まるで裏方役だな)

 

「まもなく聖戦の前哨戦、十二宮攻略が始まるがその前に綱紀粛正を行ってくれ。ロキの手のものが接触している可能性がある」

ポセイドンはうなだれるヒュプノスを無視しタナトスに視線を向ける。

タナトスも深くうなずく。

 

「可能性としては聖域への寝返りでしょうか」

基底物語を崩すために、情報を聖域に渡すものをタナトスは危惧したがポセイドンの危惧はより致命的だった。

「うむ、だがそれ以上に怖いのは阿頼耶識のヒントを得る前のアテナの暗殺だ」

 

乙女座のシャカがアテナに送る阿頼耶識のヒント、生者が生きたまま冥界に行く方法。

このヒントを知らずに暗殺されれば基底物語は破綻する。

必ずアテナは基底物語に沿ってもらわなければならない。

聖域が大勝するのはいい、辛勝するのも良い。

だが負けるのだけはだめだ。

 

ポセイドンは再度タナトスに視線を送り、今後のことを視線で念押しする。

円卓を後にするポセイドンを見送るようにタナトスとヒュプノスが並ぶ。

 

最後にタナトスが一つ確認をする。

「オリオン座の聖闘士はいかがしましょう」

「あれは座とのメッセンジャーとして利用法もあるが、基底物語に沿った形で排除するのがよかろう」

 

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