聖闘士星矢:転生者編   作:madamu

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1984年のスリーポイントシュート

星は煌めき、空気は爽やかながら肌を刺す夜。

彼らの足元は未舗装の道、道というほど舗装はされていない。

石交じりの土の緩やかな丘を登り続ける。

周囲には石造りの壁の遺跡、彼らからすると日常の一部が点在している。

 

「最近な、買ったんだよ」

「何をだよ」

「アディダスの靴」

 

大柄と小柄な二人。年齢としてはミドルティーン。

男子高校生と言っていい年齢だ。

身に着けるは鈍く輝く銀色の鎧。二人とも聖衣を身に着けている。

会話と違い、視線は交わらない。歩哨としての役目を目が、プライベートなことは口と耳が担当している。

 

「え、買ったのか?あれ」

「買った。買った。買うまで2週間悩んだが買った。あとはゴールとボールを準備するだけだ」

「だがな、場所はどうするんだ?ここいらは地面ボコボコだぞ」

小柄な方の言葉を受けて、大柄な方が驚く。

そして大柄から出たのは次のステップへの心配だった。

 

まもなく午前零時を迎えるころだろう。

人工の光が少ないこの地では星の灯りは明るく強く、遠くに見える建物の前のかがり火の方が弱々しい。

なんでもない会話も、静寂の日常では十二分な喧噪だ。

弱い風が吹く。

 

「いやな、アルゲティの家の裏が割と平らで、そこをアイツと整地している」

「アルゲティも協力してくれるのか?」

「うむ」

「メンバーはどうする?」

「オレ、お前、アルゲティ、あとは源十郎とシャイナのところのカシオスは確定だ」

「そうなるとあと一人で3対3ができるな、審判役考えるとあと二人は欲しい」

 

「1年かかったな」

「かかった」

小柄の声に返すような大柄の感慨深い声

 

「知り合いの、第二宿舎にいる黒人の奴が大工仕事ができるから頼めばゴール盤を作ってくれる。リングは適当な鉄の棒をまげて」

「3Pラインはどうする?」

「ペンキをどっかから拝借して・・・」

 

二人は周囲に視線を向けながらも今後の展望を次々と話していく。

一方は相手の心を読む魔技を習得しているが今は口から出る言葉の数々が楽しい。

もう一人固めの青年もその厳つい顔つきからは想像できないほど、楽し気に今後の予定を口から綴る。

 

聖闘士の身体能力は極限まで鍛え上げられている。

重量挙げや陸上競技、水泳競技などは容易に世界新記録を量産できる。

実際、ヘラクレス座のアルゲティは300kgの岩を持ち上げてスクワットを日課にしている。

猟犬座のアステリオンが100m走の速さを計った時には8.9秒だった。

これに小宇宙による肉体能力の極限を超えれば、金メダルの価値など砂金の一粒程度だ。

 

その聖闘士の中に昨年のロサンゼルスオリンピックをテレビで見たものが数名いる。

運良くなのか、運悪くなのかオリンピック時期に各地の聖闘士修行地の確認業務が重なり数名の白銀聖闘士が世界各地で空き時間にオリンピックをテレビ観戦できたのだ。

 

その中で、一番人気があったのがバスケットボールだ。

ドリブルやパス、シュート、聖闘士から見れば「よくわからない競技」だ。

 

陸上競技はわかる、水泳もわかる、レスリングもわかる、バレーボールもなんとなくわかった。地面にボールを落とさずに相手に返せばよい。

だが「バスケットボール」のよくわからないルールと、その技術にアステリオンは魅せられた。

 

最初は「スリーポイントシュート」と言っても聖域の人間の大半は理解できなかった。

理解できたものも「やったことがない」「今更玉遊びはしない」と興味はない。

 

だがオリンピックをテレビ観戦した数名の白銀聖闘士の中から興味を持つものが現れ始めた。

そして「外部の情報源」である源十郎が持ち込んだ「バスケットボール雑誌」がトドメだった。

「マイケル・ジョーダンがすごい」と言った。

 

それからアステリオンは神官の手伝いやら市街地に行った時に聖域を信奉する人々を助け小銭を稼いでいた。

簡素ながら衣食住があてがわれる聖域では小銭を稼ぐのも一苦労だ。

常に訓練、訓練、使命、使命の生活では「仕事」を作り出す時間はない。

 

その中でもアステリオンはオリーブオイルの問屋の手伝いに始まり、猫探し、観光案内など、聖域でギリギリ黙認される範囲で稼いだのだ。

 

「金稼ぎは堕落」と言われていた以前では、聖域外部から俗世を持ち込む源十郎の次の次くらいには眉をひそめる行為ではあった。

日ごろの天然ぶりが好意的に受け止められていたのが幸いした。

 

「ついに俺のダンクシュートを見せる時が来たのか」

「まずはドリブルからだろう。日にちを決めて練習するか」

 

「そうだな・・・」

言葉が途切れるのは聖闘士には決まったスケジュールが存在しないことによる時間の確保の難しさによるものだった。

明日には命を散らす可能性のある任務が言い渡される。

そんな世界の中で、数少ない、いや唯一の望みとして努力し続けたバスケットシューズである。

 

二人の少年は自分たちの2年間への思いを取り上げさせたのは冷気であった。

地の底からの冷気ではなく、水気を含んだ叩きつけるような冷気。

 

二人の白銀聖闘士は冷気の先を睨み拳を構える。

空には変わらず星。

地鳴りもなく、空間からは威圧感はない。

 

小宇宙が立ち上り周囲へと漂い始める。

ここからは1秒が基準となる世界。

音速が基準となる世界。

神話の戦いが現世へと再現される世界。

 

それは聖闘士たちの戦闘世界だ。

 

冷気の先。

夜の暗闇から三人の人物が現れる。

「我らはブルーウォリアー、アテナへの取次を願いたい」

堂々とはしているが疲労の影が見える。

三人の中心人物はぼろ布と見まごうばかりのマントのフードを下げる。

傷ついた戦士の顔だ。

 

ぼろ布の下からは青く、そして鈍く光る衣が見えていた。

ただそれはひび割れ、今にも形を崩さんばかりであった。

 

現代の聖戦は襲撃ではなく、第三者への庇護から始まったのだ。

 




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