「こんなものか」
額にうっすらと汗がにじみ出るのを感じる。
ギャラクシアンウォーズを開催していたドーム型の球場では白銀聖闘士が好き放題破壊活動をしていた。
たしか一コマだけそんな描写があったな、ジャンプコミック7巻か?
まさにその光景を俺自身が行い、他の面々も行っている。
アルゴル、ジャミアン、ダンテ、カペラに俺。ここでは5人で頑張って破壊行動をしている。
マッハ手前の高速拳を放ち、拳圧やら小宇宙の力で観覧席を弾き飛ばし、フェンスに穴を開ける。
皆、真面目なので「グワハハハハ!青銅共は顔も出さないとはな!臆病者め!」と車田台詞を連呼せず、「あっちの椅子も剝がしてくる」「あっちには会議室があった。どうする?壊すか?」「いや、このリングを設置したところと客席だけでいいだろう」「証拠は、このウツルンデス?で撮ればいのか。源十郎!使い方教えてくれ」と解体工事のバイトをこなす学生のようだ。
「このボタンで写真を撮って、撮ったらこの右手の親指のダイヤルを回す。ダイヤルが回らなくなるまで回せば、次の写真が撮れる」
「ほうほう」
ダンテが頷きながら言われたとおりに操作して写真を撮る。
「おい、カペラ少し後ろに下がってくれ」
「ああ、悪い」
球場の外野フェンスに大穴を開けたカペラが数歩下がるとダンテは「よし撮るぞ~」と誰に言うでもなく合図をしてシャッターを切る。
「最後の一枚は集合写真だよな。不参加を疑われるからな」
外野グラウンドの人工芝を全部剥したジャミアンがダンテに向かって確認する。
「ああ、わかっている。ピースサインなんてするなよ。遊んでいたかと疑われる」
ダンテは返事をしながらチラッと俺の方を見る。あ、信用されていない。俺は遊んでないぞ。
十代の少年が金属製のプロテクターを着けて野球場を荒らしつつ、「写ルンです」で写真を撮る姿はまったくもって変な感じだ。
この「写ルンです」はつい先日販売開始された最新機器だ。
令和を知る転生者としては「写ルンです」という古き良きアンティーク機器がこれほど便利とは思わなかった。
ちなみに「写ルンです」は1986年7月販売開始で、現在ではホントに最新機器だ。
購入の際に魔鈴に「こんなバカ高い玩具買ってどうするんだい?」と突っ込まれた。
いやいや魔鈴さん、携帯性考えるとこっちの方がいいでしょ。
先々月にヘラクレス座のアルゲティが聖域外に行った際、貸与された聖域のカメラを一台壊してしまい、監督官に説教喰らっていた。
平成後期や令和のデジカメは落としても早々壊れるものではないが、昭和のカメラは下手に落とすと部品の破損が容易にして起こる。
マジで小さいネジとかが無くなるとカメラのフィルムが回らなくなりカメラが使いものにならなくなる。
そこで、軽くて多少乱暴に扱っても写真が撮れる「写ルンです」はこういった任務には持ってこいなのだ。
昨日見つけて速攻国際電話で購入と証拠写真使用の了承得て正解だった。
以前は古いカメラ(なんと聖域にあった二次大戦時のライカカメラ)で撮るか、デカいポラロイドカメラを聖域から持ってくるか、「聖闘士カード」を残し現地の新聞社で記事にされるかしか、任務達成の証拠として取り扱ってくれなかった。
※蟹の旦那などがやる汚れ仕事はこの例には含まれないが。
聖闘士カードは各自が持っている「自分の勝利を示す」カードで・・・今頃氷河とバベルが投げっこしている頃だろう。
「このくらいでいいだろう」
内野席の通路から全員でコロシアムを見下ろす。
芝生がぐちゃぐちゃになった外野、リングの置かれた内野部分はいくつかのクレーターが地面にあり、外野フェンスは鉄球でもぶつかったような巨大な穴がいくつも空いている。
内野席もほとんどの座席が砕かれ、この回復には数千万から億の金が必要だろう。
4人は顔を合わせ、今頃魔鈴たちが青銅をボコボコにしていると思い苦笑いを浮かべる。
この苦笑いは「死んだほうがマシ」な修行をさせられる星矢に向けてのものだ。
「おやめなさい」
センタースタンド脇に一人の少女が現れた。
いや、終わっとりますねん。と口から出そうになったが止めた。
白のドレス、腰にはコルセット。そして手には巨大な杖。
あれがニケの杖か。
髪の色は薄い茶色。アニメと違うのは承知済みだ。なにせアルデバランの髪色は金髪で後ろ髪が長い。
センタースタンド横に現れたのは城戸沙織だった。
ここからでもわかる威厳に小宇宙。
14歳の少女とは思えない圧力である。
「そのような乱暴はお止めなさい。アテナの聖闘士の名が泣きますよ」
潘恵子さんの声で叱られるとたまらんな。
速攻土下座して謝りたくなる。
俺を含めた白銀聖闘士は一瞬で少女の小宇宙を感じ取り、戦闘態勢を取る。
だが、誰一人としてそれ以上の行動を取ろうとしない。
「なにものか!」
アルゴルが気勢を飛ばす。だがそれは虚勢に近いのかもしれない。
「貴方は?」
「ペルセウス座の白銀聖闘士アルゴル」
逆に問われて秒で自己紹介って、もう完璧に服従しとるやんけ。
城戸沙織の纏う小宇宙はさざ波程度だがその質は我々人間が持つ小宇宙とは違う。
俺たち聖闘士は小宇宙を燃やし発揮するのだが、城戸沙織の小宇宙はその姿から滲み出ているといっていい。
自然体でこれほどの小宇宙を感じるのだ。
それはスープを一口含んだだけで、そのスープを構成する無数の素材を想起させるようなものだ(引用:グラップラー刃牙)
この表現からわかるように城戸沙織の小宇宙は微弱ながらも、その潜在能力は神話的な規模と言っていいだろう。
ちなみに聖域出身者はスラングとして「神話的な~」という表現を使う。
【神話的なアホ】【このスープは神話的だな(だいたいは不味い)】【神話的に金が無い】等々
日本語の「クソ○○」や英語の「ファッキン○○」みたいな感じ。
なので日常会話で神話的~と話す奴は聖域出身者なので気を付けろ。
「小娘1人!臆するものか!」
ジャミアンが声を出すが、構えを変えず固まっている。
黄金聖闘士とも違う、言うなれば自然の猛威をイメージさせる小宇宙の一端を感じればそうもなるだろう。
「カペラ、届くか?」
「いや、この距離では」
小声でやり取りするカペラとダンテ。
センタースタンド横は流石に遠い。
そのセンタースタンドから一瞬で恐ろしいほどの圧力が発せられる。
黄金の小宇宙。それは小娘と呼んだ城戸沙織からのものだった。
今まで誰も感じたことのない圧力。それは黄金聖闘士の攻撃的な圧とは違う。
押しつぶされるのではなく包まれるような、それでいて有無を言わせぬ力。
そりゃジャンプコミック28巻で「無理だよ沙織さん、もう何もないよ」と弱音を吐いた星矢に「無理無理言うのは根性が無いから!!生命があるでしょ!生命が!生命燃やせば冥王の一人ぐらい倒せる!倒せないのか!お前聖闘士だろ!地上の愛と平和はどうすんだ!」と1980年代のブラック企業の外回り営業の精神論並みの発言をする人だ。
ちなみに上記のアテナの発言の99%は創作で、実際に言ったのは「生命があるではないですか」だけだったはずだ。
「跪きなさい」
ただの一言だ。
誰一人逆らうことなく跪いた。
「私は聖域の巣くう邪なる者を討つ使命があります」
その言葉に俺含めて5人は一言しか答えられなかった。
「「「「「はっ!」」」」」
肯定の返事だった。
◆
「生きているか?」
「ミスティは当分動けない。モーゼスは1か月も休めば動けるだろう」
「バベルは?」
「ミスティ以上にひどい。流石は水瓶座カミュの弟子といったところか」
「生きているんだな」
「だが、聖闘士としては・・・」
城戸邸の離れ屋敷。
そこには膝を折った白銀聖闘士と、星矢たちに敗れ負傷した者が集められていた。
廊下で会ったアステリオンにいくつか質問をしたが結果は原作よりかはマシだった。
どうやら全員、捕縛の方向で動いたせいか致命的な結果にはならなかったようだ。
「カノン島だ」
俺の言葉にアステリオンが怪訝な顔をする。
聖闘士星矢の三大島といったらデスクィーン島、アンドロメダ島、カノン島だろが!
「カノン島の地熱は聖闘士の肉体の治癒力を上げると言われているよ」
すぐ傍にいた魔鈴が説明をしてくれた。
なんだよその「Boo Boo CLUB」ってプリントされたトレーナーは。
履いているのはハーフパンツ(1980年代だとキュロットスカート呼び)なので
異様に魔鈴が年頃のJKに見えてきた。
それにしてもこの80年代ジャンプのキャラクターの私服センスは壊滅的だな。
この格好を写真で撮ってアイオリアに見せればどうなるだろうか。
鼻血出して失血死するんじゃないだろうか。あのむっつりは。
「ひよっこかと思ったら天馬だったな」
「ミスティが敗れるとは思いもしなかったよ」
俺の労いに魔鈴は誇っているような苦々しいような声音で答える。
まあ白銀聖闘士を破った星矢は、魔鈴の最高傑作であり、同じ白銀聖闘士が負けたことはそこそこショックなことだろう。
「青銅聖闘士といえども舐めてはいかん。いい教訓だ」
俺の後ろからやってきたのがカペラとダンテだ。
ダンテの言葉にうんうんと頷くカペラ。
二人ともTシャツ姿だが、袖をくるくる巻いている。
日向スタイルは聖域で流行っているのか?
「アルゴルは?」
「ジャミアンを連れて自主的に城戸沙織嬢の護衛だ」
あいつ、想像以上におもしれ―奴だな。
ベタ惚れやんけ。次は馬になりそうだ。
「だがどうする。俺たちは聖域から見れば反旗を翻した逆賊だ」
珍しく弱音を言うダンテ。流石の知恵袋も逆転の手が思い浮かばないか。
「いや、俺たちは中立だ。そのためにも五老鋒の老師に話をしに行く」
次の一手を話すとカペラだけでなくダンテもアステリオンも顔にはてなマークが出る。
魔鈴はマスクしているからわからん。
「中立?どういうことだ」
話を進めようとリアクションをしたのはカペラ。
「俺たちは聖域が偽物と思う城戸沙織嬢に会い、一定の可能性を見た。だが聖域はそれを許さない。であるならば、城戸沙織嬢には俺たちではなく聖域に対して真贋を問う行動をとってもらわねばならない」
「つまりは、殴り込めと」
一言で魔鈴は要約した。
「察しがいいな」
俺の言葉にうなずく。
他の男三人は( ゚д゚)ポカーンとしている。そりゃ自分の組織内の反乱の話をしているのだ。
口も開く。
「そのためにもやるべきことは、アテナの聖闘士の最重鎮である五老峰の老師に俺たちが中立であることを認めてもらうこと。次に聖域に殴り込みの成否の見届けを行う立場であることを認めさせること」
まだ俺の提案を理解しきれていない男三人。
「城戸沙織嬢が勝てば俺たちは正しい判断をしたことになる」
勝てば官軍であることを伝える。俺たち白銀聖闘士は当事者ではなく傍観者として、勝った側に付くのだ。
「負ければ」
ダンテが聞く、カペラとアステリオンが唾を飲み込む。
「良くて投獄、悪ければ抹殺。落としどころとしては聖闘士の資格はく奪で放逐」
俺がデメリットを端的に伝える。
そんなことにはさせないし、出来んだろう。
俺は聖域の暗部、特に世俗との関わりにおける暗部を見てきた。
そんな証言を五老峰の老師に知られ、またムウを旗頭に「偽教皇」の話題を出せば聖域は割れるし、何よりもサガが考える地上の平和を纏める支配者としての戦力が弱まる。
甘い読みではある。
だが俺の目的を達成するにはこれしかない。
【冥王ハーデス軍との聖戦での最大戦力の確保】
原作、冥王ハーデス編(JC19~28巻)では黄金と青銅のみが行動した。
結果はどうだ。序盤は冥闘士に良いようにされ、やっと乙女座のシャカにより勝ち筋が見えた。
多くの凄惨な犠牲の上にハーデスを倒した。
だが最後、聖域に残ったのは未熟な青銅聖闘士と少数の白銀聖闘士。
未来が無い。この地上の愛と平和を守るアテナの聖闘士もいつかは消える程度にしか残らない。
聖闘士星矢Ωの世界に続くとは限らない。
この世界の未来を思うならば、この先100年の1000年の先を考えなければならない。
俺もなんやかんや言ってアテナの聖闘士なのだ。
地上の愛と平和の為ならば、自分の命も惜しくない。
惜しくはないが、自己満足の犬死や、場当たり的な勝利だけを目指すつもりはない。
圧倒的な戦力は無理でも、次の100年、次の次の100年を見据えて勝つのだ。
そのためにも、アテナの聖闘士を一人でも生かす。
もし、海皇ポセイドン編に青銅だけでなく白銀が参戦したら?
冥界にちゃんと黄金、白銀、青銅がチームを組んで戦略的な行動が出来れば?
命を懸ける、だが捨てるわけじゃない。
捨てないためにも、戦略と戦力が必要だ。
そのために俺は白銀聖闘士として実力と実績を積みながら・・・
手紙を送った。
うちの父親の上司の上司の上司のそのまた上司の上にいるグループオーナー一族にだ。
そんな難しいことではない。
日本に帰省した時に「城戸沙織宛」にギリシャ語で「小宇宙のこと」「女神としての心構え」「聖域の組織構成」を数通送った。
送る時に小宇宙を込めたので、微量でも小宇宙を感じれるであろう城戸沙織(ジャンプコミック1巻時点)ならその手紙を読み、手紙内の【今日からできる小宇宙のコントロールvol.1~5】【今日からできる小宇宙の強化のしかたvol.1~7】を読破できたはずだ。
その結果、俺たちはギャラクシアンウォーズの会場で膝をつき、城戸沙織は決意爛漫の目をしているのだ。
流石の聖域も俺が帰省した時の郵便の行方までは関知しなかった。
まあ、転生前の2020年代ならもしかすると俺の連絡手段を把握されていたかもしれないが、1980年代の今ではそんなことはなかった。
俗世への影響は強いが関与はほどほど。
時代の緩さが俺の仕込みを許してくれた。
★
「白銀聖闘士、オリオン座の源十郎と申します」
片膝をつき頭を垂れる。
五老鋒の大瀑布は音よりも空間に満ちる大質量の圧力の方が圧倒的だ。
大瀑布の中腹から突き出した場所に天秤座の童虎は座を組んでいた。
小柄な老人。皮膚は垢なのか老化なのかわからぬ色をしている。
威圧感も無く、ただそこに座っている。自然物のようにも思うし、そうでない様にも思う。
俺の横にはドラゴンの紫龍が案内としている。
「そうかえ。お前達白銀聖闘士は城戸沙織、いやアテナに付くと考えているのか」
好々爺といった口調。
「我々、日本に派遣された10人の白銀聖闘士は城戸沙織嬢に本当のアテナである可能性を感じております」
「慎重よの」
可能性という言葉に俺たちの優柔油断さを見て取ったのか、老師はほっほっほと笑う。
「すでに城戸沙織嬢も承知しておりますが、直接教皇との対決を以てその真偽を問うていただきたいと伝えております」
「勝てば真のアテナ、負ければ偽物か」
「本物のアテナであれば、教皇に打ち勝つと考えております。戦女神が御自身の手足である聖闘士に負けるなどは」
老師からの視線にのった感情はわからん。
叱られているのか、責められているのか、それとも呆れているのか。
「紫龍よ。勝てるか。聖域に。黄金聖闘士に」
「この紫龍、身命を賭してでもアテナの勝利に」
「馬鹿を言うな。春麗を一人にするのか」
「春麗には老師がおりますれば、この命はこの一戦で散らすのも本望でございます」
「ふむ、もう少し情の厚くなるよう育てたつもりだがの」
ふぁぁぁぁ!老師と紫龍の会話っぽい!
アニメ視聴した幼き頃より紫龍推しでした!黒髪ロングのイケメンは俺の幼き日の憧れで、その憧れが俺の横で「紫龍」らしい返答をして老師がぼやく。うわぁぁ萌える!萌えるぞ!
鈴置さん・・・。
老師の視線が鈴置さん、じゃなかった、紫龍から俺に再度移る。
「このアテナと教皇の争いについては白銀聖闘士は傍観に回ると」
「はい、老師。聖域に残る白銀聖闘士には私が城戸沙織嬢と同道し、直接説得します」
「オリオン座よ。今の教皇をどう見る」
「強権的ではありますが俗世を含めた聖域の立場を強めたことはご立派なことだと」
俺の忌憚ない意見を言う。そうなのだ。
調べる限り双子座のサガが教皇にすり替わってからの世界への影響力や、聖域や各修行地での聖闘士の修行の環境改善は進んでいた。
「牡羊座のシオンは俗世とは離れた高潔な男であった。だが、この十余年、その男が俗世での権益を固め、聖域を支配しておる」
「老師!教皇は牡羊座のシオンと!」
「うむ、先代のな。当代は、紫龍お前も知る…」
老師は懐かしそうに教皇の正体をさらっと言う。
この辺りの設定はこちとら10回は読み返しているので、いまさら先代の教皇が牡羊座のシオンだったとばらされても驚くことは無い。
初めて聞く紫龍は驚くわな。あの麻呂眉師弟については。
紫龍に話を続けようとした瞬間。
大瀑布の中腹の空間が歪み、一人の男が現れる。
原作で見たぞ!このシーン!
「今更に歴史をお教えですか。老師」
虚空から現れたのは黄金の聖衣。その小宇宙は並ではない。
青銅の全員が合わさっても、この小宇宙のような圧力を出すことはできない。
圧倒的な小宇宙だ。
その小宇宙の持ち主の名が俺の口から出る。
「蟹座のデスマスク」
「ふん、お前か源十郎」
俺を一瞥し、デスマスクは中空から眼下の老師へ話を続ける。
「老師。教皇は貴方に対して最後通牒をお考えです。その命令に背く場合によっては粛清をお考えだ」
「ほう、先に教えてくれるか。案外お人よしだのう」
老師の微笑みはスゲー挑発に見える。
その微笑みに対してデスマスクは小宇宙を燃やし、攻撃の意図を見せる。
デスマスクの攻撃意図に反応したのは俺の横にいる長髪イケメンだった。
「貴様!」
紫龍の小宇宙が一気に燃え上がる。アニメで見た緑色で龍のオーラを纏ったように見える。実際はゆらゆらとしたオーラなんだけどね。
「騒ぐな小僧。お前程度の聖闘士が俺と老師の話に割り込むな」
デスマスクは紫龍を睨み念動力で吹っ飛ばす。
俺も小宇宙を燃やし、戦闘態勢をとるがこれはポーズだ。
それを感じてか、デスマスクの旦那は俺に敵意を向ける様子はない。
「ぐわぁぁ!」
紫龍は後方の森まで吹き飛ばされ姿を消す。
邪魔者がいなくなり改めてデスマスクは老師へ視線を戻す。
「別に俺としては最後通牒と言わず、使者が処刑者と兼ねてもいいと考えています」
今すぐにでも殺してやろうか、を言い換えるとこうなる。
イタリア人はセリフ回しもお洒落だな。
「デスマスク」
「止めておけ源十郎、いくらお前が白銀最強の1人だと言っても、老人、白銀、青銅の三人がかりで黄金聖闘士に勝てると思うのか」
名前を呼ぶと正論が出てきた。
老師の本当の姿…アテナの秘法によって心臓の鼓動が(以下略)な老師が本気出したら黄金聖闘士の実力トップに躍り出るとはデスマスクは知らないのだろう。
だが、確かに脱皮前(ネタバレ)の老師と白銀、青銅ならば黄金聖闘士には逆立ちしたって勝てないのは事実だ。
俺とデスマスクの実力差はタンポポと向日葵ほどの違いがある。
「では、そこに黄金聖闘士が加われば」
その声は!塩沢兼人!泣ける!マジであの声が聞けるとは泣ける。
俺の前世での【俺の三大声優】の一角だ。
塩沢兼人、小杉十郎太、速水奨が俺の三大声優だ。
もっとあの声を聞いていたかったな~。
「貴様は!牡羊座のムウ!」
同様に大瀑布の中空から瞬間移動で現れたのは、微笑みを讃えた美しき牡羊。
ジャミールのムウこと、黄金聖闘士の牡羊座のムウである。
デスマスクは驚き、その名を呼ぶと、老師から視線を外しムウへ向き直り、小宇宙を一段階上のギアへ入れる。
「ふん、ジャミールで静かにしていれば良いものを。むざむざ自分の死期を早めたいようだな」
「五老峰から恐ろしく攻撃的な小宇宙を感じれば、貴方でしたかデスマスク」
デスマスクの言葉に反応するように今度はムウが小宇宙を燃やす。
涼しい微笑みとは違い、小宇宙は戦闘を示唆する圧を出している。
「貴様も聖域の命令を無視する反逆者となるか?!」
「私に命令?それは本当の教皇の指示ですか」
二人の小宇宙が五老峰の大瀑布の中空で絡まり合い、瀑布の飛沫がチリチリと二人の周りから弾かれる。
強大な小宇宙が物理現象に干渉しているのだ。
それでもこの二人は実力の数%も出していない。
次の瞬間、俺の後ろの森から攻撃的で荒々しい小宇宙が立ち上がる。
「はぁ!」
聖衣を纏った紫龍が物凄い勢いで跳躍し、デスマスクへ一直線だ。
これは廬山龍飛翔かな。
たしか、ジャンプコミック全28巻のうち使用されたのは3回くらいだったはずだ。
ペガサスローリングクラッシュと同じくらいレア技でもある。
「邪魔をするな青銅風情が!」
デスマスクは腕を振り、小宇宙を飛ばし、紫龍の跳躍の勢いを殺す。
跳躍が届かないとみると紫龍は老師が座る五老峰に張り出す高台に着地。
「青銅なれど一瞬でも小宇宙の爆発でお前を上回れば!」
再度小宇宙を燃やす。
「廬山昇龍覇!!!!」
アッパーカット気味の拳を突き出すと、龍の荒々しさを模した拳圧がデスマスクに襲い掛かる。
「ふん!うっとおしい!」
再度を腕を振り小宇宙の見えぬ壁を展開するデスマスク。
俺はその紫龍に加勢すべく拳をデスマスクに向ける。
「ソニックアロー!!!」
紫龍と俺の小宇宙が混じった拳圧はデスマスクの小宇宙の壁を打ち破り、蟹座の聖衣に衝撃を伝える。
だがその衝撃など黄金聖闘士にとってみればダメージには値しない。
「源十郎!お前も聖域に歯向かうのか!」
「本当の勝ち馬を見極めるだけだ」
中空から見下ろすデスマスクは激怒している。
俺の返事は我ながら冷たいものだ。
デスマスクと俺との関係は友情と打算だ。
他人には冷たく感じられても俺の返事には十二分以上の友情がある。
「ふん、そうか」
いつもと変わらぬ突き放すような返事。
これがデスマスクだ。
お互いの利益が合致しなければ冷徹残酷。
恐ろしい奴を敵に回すことになったな。
「デスマスクよ」
戦闘態勢のデスマスクにムウが話しかける。
デスマスクは視線だけムウに向ける。
「わが師と教皇。お前は同一と思うか」
今の聖域の最大の問題を一言で表現する。
そうなのだ、あの教皇は本物なのか。
前牡羊座のシオンなのか。シオンではないのか。
偽者がすり替わっているのでは。
それの事実さえわかれば城戸沙織の存在についても十数年前の生誕に立ち会った教皇の口から事実を聞ける。
だが、何も話さない。誅殺だけを命令する仮面の教皇。
不信感だけが世界の聖闘士たちにあふれる。
「ふん、それを知りたければムウ、お前も聖域に来るんだな」
戦闘態勢を崩し、ムウに返事をするとデスマスクは移動するために大瀑布の中空を歪ませ、老師、ムウ、俺と順に視線を飛ばす。
「だが、その時は…手加減はせんぞ」
中空の虚無へと消えるデスマスクの最後の言葉は、誰に向けていったのやら。
俺か、ムウか、青銅どもか。
「オリオン座の源十郎よ。ことはすでに傍観の機を逃しておるぞ。覚悟を決めよ」
俺は老師の言葉に深く頷くしかできなかった。