聖闘士星矢:転生者編   作:madamu

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神の思惑

「あとはメイン・ブレド・ウィナだけ!」

一輝は地に伏したカノンに目もくれず、メイン・ブレド・ウィナをにらむ。

俺は片膝を突き、荒く呼吸を繰り返す。

聖域の守備は黄金聖闘士たちが担い、白銀と青銅は海皇ポセイドンの領域を攻略していた。

 

「一輝、源十郎、貴様らが起こしたのはボセイドンの本気だ。あとは地上が水にのまれるだけ…」

カノンの弱々しい言葉を一輝は無視して走り出す。

この前のめりな姿こそフェニックス一輝だろう。

弱者に用はない、残酷さであり優しさでもある。強き者こそが責任を負うと言わんばかりである。

 

「カノン、よく聞け。お前を救ったのは紛れも無く幼き日のアテナだろう。お前はその慈愛に気づかずにここまで来た馬鹿者だ」

「くっ」

弱くなった俺の声でも十二分にカノンを打ちのめせる。

だが打ちのめすつもりなど一切ない。

「自覚があるようだな。もし、生き残ったら聖域に来い」

視界がゆがむ。血を流しすぎた。リュムナデスのカーサ、本当に恐ろしい奴だった。

デスマスクの旦那の姿で「お前は大罪人になる覚悟もない、卑怯者だ」と言われて数秒動きを止めてしまったのは、我ながら失策だったと思う。

腹部の血はきっと失血死を招くだろう。

 

「この裏切り者に手を差し伸べて何になる」

皮肉な笑いもない。カノンの言葉には、弱々しい反発しかない。

「なに、俺もサガの頃にはこの手を血に浸した。罪滅ぼしをしたい奴くらいわかるさ」

今、俺は微笑んでいるだろうか。頬の筋肉が動いている気がする。

いや、失血による痙攣か?

 

「だがポセイドンを封じられるのか」

「やれる。あの青銅聖闘士はやれる。俺は彼らの小宇宙を信じる」

 

階段のはるか下から白鯨座のモーゼスと猟犬座のアステリオンが走ってくる、気がする。

あの大小の人型はあの二人であろう。

アイツら、貴鬼とシャイナを無傷でポセイドン神殿まで届けられたようだな。

二人とも聖衣にはヒビや傷がついており、多くの雑兵や海闘士とやり合ったみたいだ。

 

「カノン、前を向け。そしてアテナを信じろ」

それだけ言って俺は意識を失った。

 

 

残滓である。

ジュリアン・ソロの中に残ったポセイドンは、この停止した空間で一人の聖闘士と対峙していた。

 

周りには封印の黄金壺を抱く、アテナの化身、城戸沙織。

それを守るように近づくアテナの聖闘士たち。

黄金聖衣に身を固めた3人の少年や、白銀聖闘士たち。

 

海底の天とも言える海は地鳴りとともに少しずつ沈んでいる。

 

はずだった。

全ては止まり誰一人、小石一つ動かない。

 

その中、ジュリアン・ソロの肉体は起き上がる。

目の前には白銀聖闘士、それもオリオン座だ。

先ほどの戦闘では姿がなかった。

この時の止まった世界の中で動き、海皇ポセイドンの前まで現れたのだ。

 

そのオリオン座の聖闘士のうちに住む存在に対してポセイドンは敬意をもって遇した。

神殿の少し奥にある対面の石席。

柱の陰にあり横を向くと崩れる海の天が視界に入る。

ポセイドンに無言で勧められるままオリオン座の聖闘士は石席に座る。

 

「ここで貴女に会うとは」

「この身は一時的な依り代。それにアルテミスに無理を言っての話です」

男性であるはずのオリオン座は柔和な笑顔でポセイドンに言葉を返す。

 

月の女神アルテミス。その神格はオリンポス十二神であり、アテナに引けを取るものではない。

ただ聖戦とは一切のかかわりを持たぬ立場にある。

 

「なぜ?あなたならゼウスやハーデスに直接嘆願も出来たでしょう」

「そうはいきません。すでに私はアルテミスにその立場を渡しています。人間たちのギリシャ神話でもすでに同一とみられています」

 

ポセイドンの前に座るのは【名もなき神】であった。

人間がアルテミスという神格にたどり着く前に崇め敬った存在。

狩猟の地母神。

時が下り、人々が神々の物語を語りだすことで、神話の陰に消えていった存在。

いつしか名もなき地母神はアルテミスと同一化され、名前を消した。

 

いうなればギリシャ神話の元であり、ポセイドンやゼウスといった古きオリンポスの神々にとっては決して粗略に扱えぬ先達でもある。

 

「目的はどういったもので」

ポセイドンが珍しく緊張をはらんで質問する。

重く、短い言葉。

そして返答も重い言葉だった。

「異分子の排除を。出来うるならば基底物語を維持したまま」

 

その言葉にポセイドンは表情を崩さず、事の難しさを理解した。

ポセイドンも負ける、ハーデスも負ける。

そこから分岐する複数の世界も変えない。

神々だからこそ理解する繊細な作業。

 

このオリオン座程度の差異は基底物語を補強はすれど、外すことはない。

補強は良い。それは無数の平行世界での信仰心を強化させる。

基底物語の破綻は信仰を揺るがす。

文字通り無数にある平行世界は基底物語があってこそ、人々の信仰心を煽る。

 

だが、名もなき神の言葉には基底物語を覆しうる存在がいることが明確だ。

 

「相手は、どこの無礼者ですかな」

「ロキ。そして目的はこの世界にラグナロクを再現すること」

 

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