「オリオン座の源十郎」
アテナ神殿での論功行賞。
玉座には小娘こと城戸沙織が座り、その補佐役としてすぐそばには黄金聖闘士の牡羊座のムウがいる。
呼び出された俺は列から離れ、玉座の前で片膝をつく。
サガの乱で投獄されていた白銀聖闘士は海皇との戦の勝利による恩赦で復帰。
ほぼすべての白銀聖闘士がこの玉座の間に整列している。
玉座の横にはムウ。そしてその玉座を守るように黄金聖闘士。
ほぼ完ぺきな布陣だ。
デスマスクの旦那は自主投獄を続行中。
あの日以来会っていないが、まあ元気だろう。
牢番曰く、白ワインが飲みたいだの、オリーブオイルにはどこのメーカーを使えだの口うるさいそうだ。
「源十郎、この度は海将軍の撃破そして海闘士を足止めし、戦況を有利に運んだとのこと、私もうれしく思います」
城戸沙織の言葉は十代の女の子というよりは、30代のベテラン女性声優の圧を感じる。
無言で首を垂れる。あまり話はしたくない。
最後など海底神殿でぶっ倒れていたので、朦朧とした意識で歩き回っていたんだろう。
「貴方にはこれからも白銀聖闘士の先頭に立ち聖域を守ってください」
心の中で苦笑いをする。
殺し屋が守護者へ鞍替えか。
俺はこの日、白銀聖闘士の前につく【筆頭】の二文字をアテナより授かった。
◆
「筆頭」
「よせよ、恥ずかしい」
不機嫌な顔になっているのはわかっている。
殺し屋から筆頭だ。
その扱いの高低差で風邪ひきそうだ。
冗談めかして言ったオルフェも俺の気持ちを感じ取ったのか苦笑いをするしかない。
本来であれば外を飛び回る俺よりも、聖域の守備が多いオルフェの方が取りまとめ役として向いている気がする。
闘技場の近くの休憩用の建物。
訓練用の木偶人形を空間の端に寄せて、即興の懇親会会場だ。
大半は白銀聖闘士、少しの青銅聖闘士、給仕役の人たち。
賑やかだ。
ほんの少し前に、内ゲバで殺しあっていた面々もポセイドンという「地上の愛と平和を乱す敵」が現れたことで、使命により一体化する。
使命というものに実像が伴うと一気にまとまる。現金なものだ。
「筆頭なんてついてるが一番最初の鉄砲玉だろ」
俺の自暴自棄な冗談に肩をすくめてオルフェはいなす。
白銀の三強のうち二人がいるのだ。あまり近づく者もいない。
ダイダロスについては、先に手紙を送っておいたので黄金聖闘士とのエンカウントを回避し今も存命中だ。
ただ弟子のジュネには経緯を伝えなかったのか、ジュネ自身は黄金聖闘士に倒されたと思って大変だったらしい。
あれだよ、ジャンプコミック8巻あたりであった瞬を鞭でシバくシーンは再現されたのだろう。
あの二人とっととセックスすればいーのに。
「だがな、源十郎。ポセイドンの復活が起きたんだ、みな聖戦が近いことは肌で感じているよ」
「だからこそ、俺みたいな鉄砲玉より聖域を統率することができるお前の方が筆頭に向いてる」
もう一度肩をすくめるオルフェ。
つまらない平行線だ。
聖戦はもうすぐ起きる。明日なのか数か月先なのか。
だが戦力は原作通りじゃない。
十二分にいる白銀聖闘士。
原作よりも人数が多い黄金聖闘士。
サガの乱の被害は最小限だろう。ポセイドンでの死傷者はいない。
俺はなにやら不安を感じている。
誰かが踊り始めたのか、何人かが地面を踏みしめたり飛び回り始める。
世界各国の民族、人種の集まる聖域では時折、ダンス大会となる。
手拍子、笑い、口笛。
地面に響く足音、仲間たちの笑い。
海底神殿で目覚めてから現実感がない。
現実の殺し合いとは違う悪夢から目覚めていない。
笑い声も手拍子も遠い世界のことのようだ。
まるで転生者が異分子で別の使命があるような。
◆
「今後どうする?」
「いや、家に帰るが」
「違う違う」
「なんだ、占いやセールスは間に合っている」
「ちがうんだよ、今後の身の振り方の話をしている」
「身の振り方?そんなものがあると思っているか?」
「そうだろ?今のままだと出世も何もないよ」
「別に出世のためにやっているわけじゃない。これは私の使命だ」
「じゃあ、これから老いるまでずっと続けるのかい。聖戦を超えても」
「何が言いたいんだ。敵対するな」
「別に敵対じゃないよ、もっと確実に勝つ方法を提案するだけだよ」