「次の品は相棒の歯ブラシ! しかも3日ものだぁー!」
「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」
なぜ俺はこんなものを見ているのだろうか、ダヴィンチちゃんのところに月替わりの呼符を貰いに行っていただけのはずなのに。
─
少し時は遡る。
今日は朔日であるので、ダヴィンチちゃんに呼符を貰いに行く。いつもならマシュなり誰かがついてきてくれるのだが、今日は皆予定があるようでぼっちである。考えてみればカルデアに来てから一人になるのはずいぶんと久しぶりのことだ。特異点を解決するときはもちろん、それ以外の時でも誰かしらが自分についてくれていた。ここまで多くの問題に直面してきたが、それらをなんとかできたのも皆が自分を助けてくれたおかげである。もちろん全ての問題を解決できたわけではないし、悲しいことやつらいこと、……大切な人との別れもあった。が、しかし、これまで乗り越えられたように皆がいてくれるならばこれからもなんとかなるだろう。
……何か少し気恥ずかしいことを考えていた気がするが、とりあえずダヴィンチ工房に着いた。
「ダヴィンチちゃん。今いる~?」
と呼びかけると、
「はいはーい! 新生ダヴィンチちゃん工房へとようこそ~、マスター君。今日のご用は何かな?」
とダヴィンチちゃんが奥から出てきた。
「今月分の呼符を貰いに来たんだけど、あるかな?」
「もちろんだよ~。呼符だね? 今奥からとってくるよ。……ところで今日は君一人かな?」
「そうなんだ。今日はマシュも何か予定があるらしくて」
「へぇ~。君が一人とは珍しいね。そうだ! それなら、これからお茶でもしないかい? ここ最近忙しくて君とあまり話すことができていなかったから、ゆっくりと話がしたかったんだ」
「予定があるわけでもないし、いいよ」
「本当かい!? 約束だよ! 今すぐ準備してくるからちょっと待ってて! そこから動かないでね!」
そう言うと、ダヴィンチちゃんは奥に引っ込んでしまった。たしかに、最近あまりダヴィンチちゃんとはあまり事務的な会話以外をしていなかったが、あそこまで喜ばれると、なんというか……、照れる。
手持ち無沙汰になってしまったので、すっかり見慣れたダヴィンチちゃん工房を改めて見回す。いつもと変わりが無い場所だ……と思っていたが、壁に一本の見慣れない線があることに気づく。ダヴィンチちゃんに動くなと言われてしまったが、当のダヴィンチちゃんは「……キュケオーン……アイスティー……どこだっけ……」とドタバタと何かを探しているようでまだ時間がかかりそうだ。
見つけた線に触れてみると、壁が動き薄暗い通路が現れた。いわゆる秘密部屋だろうか。凄く探検したい。もしかしたら、ダヴィンチちゃんに怒られるかも知れないが、まぁ問題ないだろう。
そして冒頭へと至る。
「ハァイ、それでは10万QPからスタートで~す」
「20万」
「30万!」
「100万です!」
「Arrrrrrrrr……!!」
「151万1111ですね~、次の方?」
「160万! お願いします!」
……値段が恐ろしい勢いで上がっていく。どう考えても俺の歯ブラシごときにそんな価値はないぞ。というか、なぜ、バサスロの言葉がわかるんだ。しかも、そんな細かい桁まで。
少し落ち着いたので会場を見渡す。扇の形をした部屋で、その根元部分にガラスケースに入った歯ブラシがある。なんで、歯ブラシをそんな厳重に飾ってるんだよ……。そして、会場に集まっている人たちは、何かしらで目元を隠している。……それで正体を隠しているつもりなのか? メドゥーサさんなんかいつものバイザーだけで普段と何ら変わりは無いぞ?
「3日ものか……。本物ですかね?」
「ああ、最近は一回使うだけですぐに取り替えられてしまうせいで1日ものですらまれだからな」
一番近い席に座っている二人組の会話が聞こえてくる。会場に入ってきた俺に気づく様子はなく、よほど歯ブラシに集中しているようだ。何してんだサンタアイランド仮面さんと真田エミ村さんよぉ。おまえらそんな仲良かったのか?
後、確かに歯ブラシが全然ヘタレないなとは思ってたよ。カルデアの謎技術のおかげかと思っていたけどそんな理由か。
「とはいえ心当たりはある。あの魔の3日間のものではないかね?」
「……っ!? なるほど! それならば可能性はありますね」
わからん。魔の3日間ってなんのこっちゃ。
「レイシフト先のトラブルのせいでマスターと連絡が取れなくなったしまったあの3日間。このカルデアは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。かくいうこの私も芋の皮むきすら失敗してしまうほどに動揺してしまったがね」
「それは仕方ないことでしょう。私もマスターが心配で何も手がつきませんでしたしね。いつも行っているマスターを守るトレーニングも半分ぐらいしか完遂できませんでした」
「いや、私の方がひどい状態だったと思うが。ともかく、あの3日間マスターに接触できたのは、レイシフトに同伴したサーヴァントのみ。その中にこのオーションの運営に携わる者か運営に歯ブラシを渡した者がいた、ということだろうな」
「いえ、私の方がひどい状態でしたよ。マスターの3日ものの歯ブラシを渡す人がいると思えないので運営人がいるとみるべきでしょうね」
そうだよ、今そこで満面の笑みになっているレジライがメンバーにいたよ。あいつやたらと歯磨きを進めてきたけどそれが理由か。本人の歯が綺麗だからなんかこだわりがあるのかと思ってたわ。
「いや、私のマスター欠乏による症状の方がひどかっただろうね。そうだな、だとすると運営メンバーの詮索は御法度だ。これ以上はやめておこう。それより、この歯ブラシが魔の3日間のものならば、歯ブラシ以外の3日ものがあるということではないかね?」
こんなゴミみたいなオークションで真面目な考察するな。
「いや、私の禁断症状の方がひどかったですよ、最後の方は心配で手が震えていましたし。歯ブラシ以外の3日ものですか。……!? もしかして肌着類があるのでは!? しかも、3日間着替えていない、平常時では絶対に手に入らないものが! もし……そんなものがあるならば……聖杯なみの価値がある……」
おい、おい、おい、それでいいのか天草四郎。
「ハァイ、タイムアップで~す。今回の品物は2600万QPで落札となりました~」
高っっっっか。ばかじゃないの(名推理)?
「それでは次の品物に移りま~す。皆さん心の準備はいい……で……す……か?」
シバの女王と目が合った。
「マ、マスターなぜここに!? えーと、これは違うくてですねぇ!」
「全員その場で正座ぁ!」
とりあえず、一番近くにいたエミヤを引っつかんで(天草は逃げた)レジライたちといっしょに話を聞くことにする。
「で、なにこれ」
「悪かったよゥ、相棒。相棒が怒るのももっともだよなァ。相棒にも利益は分配するべきだったよなァ」
「そこじゃねぇよ」
「えーと、その。最初はこんなに大規模じゃなかったんですけどね? 溶岩水泳部の皆さんが仲間内で色々交換してたぐらいだったんですけど、それ見てたらなんかこうティンと来たといいますかね? コレうまくやれば儲かるんじゃないかな~♪ って思っちゃいましてね? 一回やりだしたら結構楽しくなってきちゃいまして……。気づいたらこうなっちゃいました♪」
「『こうなっちゃいました~♪』じゃねぇよ! なに!? アホなの? アホだな?! なんで俺の歯ブラシなんかが商品になってんの!? 何に使うのそんなもの!?」
「そりゃ~ナニに使うんでしょうね~」
「あ゙あ゙あ゙あぁぁぁぁぁ、聞きたくないぃぃぃ」
「いや待ってくれマスター、それは誤解だ」
「はい、なんでしょう、エミヤ君。今一切何も聞きたくないんだけど」
「それはすまないがマスターに誤解されたままなのも今後の生活に支障が出そうなのでな。話させてもらう。まず、私は確かにマスターの関連品を集めているがマスターが想像しているような用途には使用していないことを誓おう。マスターの関連品を集めている理由だが、私が冬木の聖杯戦争に参加していたことは知っているな? 実はそのときのマスター……ややこしいので凛と名前で呼ぶが、凛と君はよく似ていてね。思い入れがあるんだ」
「えっ、なに? その凛さんとやらへの劣情を俺に向けていると?」
「違う! そうではなくて、君は私にとって大切なマスターであるという話だ! 君に性的興奮を覚えたことはない!」
「ほーん。それでなんで俺の歯ブラシを集めることになるの? 凛さんのも集めてたの?」
「なんでさ! そんなことするわけがないだろう! ……すまない。すこし慌ててしまった。君の歯ブラシ……いや歯ブラシだけというわけでもないのだが、それらを集める理由は君の体調管理のためだ」
「わけがわからないよ」
「例えば歯ブラシからならそのすり減り具合や歯ブラシについた歯の跡などからその日の体調が推測できる。むろんそれだけでなく部屋の散らかり具合や服に移った体臭なども総合して判断していたがね。そしてそれらの情報からその日の君の体調に合った献立を考えたりしていたんだ」
「本音は?」
「可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは」
「よし、今後俺の部屋の掃除と洗濯は自分でするからエミヤは入らないでね」
「なんでさ!」
「それで? このオークションで何売ってたりしたの?」
「さすが、マスター。立ち直りが早いですねぇ。はいどうぞ、このオークションで取り扱った商品のリストです」
No 69.マスターのブロマイド10枚セット
落札者:マシュ
落札者の一言:素晴らしいです。先輩の良さを十全に引き出しています。さすがはゲオル先生の作品です。コレはけしからんです。
No 76. マスターのシャツ 1日もの
落札者:ジャック
落札者の一言:やったぁ! さいきんね、おかあさんが忙しそうであんまり遊べないんだ。でもね、わたしがまんできるよ! でもちょっぴりさびしいからおかあさんをかんじられるものがほしかったんだ。
No 87. 次作る同人誌のカップリング決定権(応相談)
落札者: カリギュラ
落札者の一言:おぉぉあ、あぁぁぁ、ネロォォォォォ! (マスター×ネロでお願いします)
No 91. マスターのカルデアデータベース閲覧記録(恋愛小説編)
落札者:エレシュキガル
落札者の一言:はわわ……手に入ってしまったのだわ。こ、これを参考に……。や、やっぱり恥ずかしいのだわ~!
No 100.香水(マスターの香り)
落札者:フェルグス
落札者の一言:ふむ、これがあればはかどりそうだな。何がはかどるのかって? はっはっは、まぁ色々とな!
No 109. マスター1/1スケールフィギュア
落札者:メルトリリス
落札者の一言:モチーフがアレだけどね! クオリティが高いから落札したのよ! マスターのフィギュアだから落札したんじゃないわよ! ……ところでこれキャストオフできるのかしら。
No 112. マスターのカルデアデータベース閲覧記録(R-18編)
落札者:カ「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
「どうしたんだ相棒。急に大声出して」
「どうしたもこうしたもあるか! 誰だ俺の閲覧記録流したやつは!」
「あぁ、それなら……」
「おまたせ! ここかな? マスター君! ちょっと準備(意味深)に時間がかかっちゃって。アイスティー(サー)しか無かったけどいいかな(迫真)? というかこっち来ちゃダメだから向こうでお茶会(意味深)を始めようじゃないか!」
「おまえか、ダヴィンチ」
「あー……、てへっ☆」
かわいいよ、ちくしょう。
─
「マスター、これが次の商品候補だ」
「了解、今確認する」
結果として、オークションは続けることになった。ダヴィンチちゃん曰く、これをやるかどうかでサーヴァントたちのやる気が段違いなんだそうだ。また、ダヴィンチ工房にマスター専門スペースを作ることになった。デフォルメされた俺の缶バッチやクリアファイルなどアイドルのグッズでも作ってんのかといいたくなるような品揃えだ。俺としては断固拒否したいところだったが、すでに開き直ったやつが多数いるらしく、この状態でオークションを中止したりすると俺の貞操が奪われるということが明白であり、さらにプラスアルファのガス抜きがなにかしら必要だろうということで作られることになってしまった。ただ、最低限の条件として品揃えは俺が監修することで手を打っている。
「毎回俺の股間の型を取ろうとしてくるのやめろ」
「ふーむ。オークションに出せば絶対高値がつくのだがなぁ」
こりてないなこいつら。
こういうのが好きで書いてみたんですけどなかなか難しかったですね…
私にはまだまだ変態力が足りませんでした