ロット王は愛妻家   作:藤猫

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お久しぶりです。
ロット王が頑張る話です。

評価等ありがとうございます。
感想、いただけると嬉しいです。


男は狼らしい

その日、ベルンは深くため息を吐いた。いい天気の日、いつも通り仕事のために執務室にやってきたベルンを出迎えたのはどこか夢現のロット王であった。

仕事に関しては良くも悪くもしゃっきりしているというのに、今はまるで溶けた氷のようにデロデロだ。

 

(何か。)

 

そこまで考えて、ベルンはあーと思い立った。そうして、ロットの執務机に軽く叩く。

 

「陛下、遅めの新婚気分も結構ですが仕事をしてください。」

 

 

 

その日、ロットの気分はある意味で良かったし、悪くもあった。

ベルンの一言にのろのろと仕事を始めたものの、正直に言えば口から魂が飛び出そうだあった。

 

(あああああああああああ!)

 

ロットはひたすらに悶えていた。いやだって、つい先日のことなのだ。

つい先日、ようやく本懐を遂げたのだ。

が、流石になんだか、情けないなあと自分だって思っている。もちろん、そんな情けない事実を誰かに言えるはずもない。

 

「俺って情けないなあ。」

「何がですか?」

 

今更何をと言う様に自分を見る部下をロットはじとりと睨んだ。そんなこともお構いなしにベルンは言った。

 

「まあ、このままどうぞご存分に励んでください。こちとら跡取りの顔を今か今かと待っているので。まさか、放置などするはずもありませんよね?」

「いや、それはない。」

 

それにベルンはにやりと笑った。己の主人も男であったかと下世話な想像をしたが、残念ながらすでに王の顔になっていたロットはこともなげに答えた。

 

「俺からの寵愛があるって周りに示せるだろうからな。うちの奥さんのための地盤固めになるだろう。」

 

ロットとしては結構真面目にそう思った。元より、ロット自体女に対して消極的なため、女性内での権力争いのようなものは殆ど無かった。けれど、モルガンが現れて、彼女はすぐに城の中の女関係は掌握したようだが。

そうはいっても、武器は多い方がいいだろう。ロットとしてはなんとも言えない気分になるが、やはり地位のある夫からの寵愛があるという事実は大きい。

何よりも、モルガンが愛されているという事実があれば他に女を、という話は出てこないだろう。

 

それにベルンは一気にそういうとこだと微妙な顔になった。けれど、一気に言っても無駄かと作業に戻った。

ロットはそんな視線にも気づかずに、ため息を吐いた。

何はともあれ一線は越えたのだ。どんな過程があるにせよ。

 

(それはそうとして。)

 

会いたくないと言う情けない考えが頭に浮かんだ。

だって、女性にリードされるなんて。ロットも別に女性経験が無いわけでは無い。けれど、ここまで情けないことになったのは自分のせいであるとしっかりと理解している。

何よりも、モルガンの方が辛かったはずだし、恥ずかしかったはずだ。モルガンがそういったことが初めてであるのは眼によって丸見えであったから。

正直に言えば、申し訳ない。だからこそ、気まずくて会えもしない。

 

(あー・・・・俺の馬鹿。)

 

 

 

 

 

その日、モルガンの機嫌を表すのならばこの世の春といってよかった。

常より、際だった美貌をしていたが、いつにもまして肌つやがよいのは気のせいではないだろう。

こぼれ落ちるような色香は、彼女に侍る侍女たちでさえも、頬を赤らめるような何かがあった。

モルガンは表面的には憂いを帯びた顔をしていたが内心ではガッツポーズを決めていた。

 

(ようやく、ようやくだ!)

 

婚姻し、ついに本懐を遂げたモルガンは浮かれていた。そうして、思い出すのは昨夜のこと。

モルガンは恥ずかしさと落ちつかなさに顔を赤らめた。

モルガン・ル・フェはいい体だったと己の戦士を褒めた。

湖の乙女は体がだるいとあくびをした。

 

気恥ずかしさもあるが、それ以上に体を満たすのは充実感であった。

自分からそういったことに持ち込み、尚且つ、モルガンの美貌に関してそこまで求められているわけではないとしても。

それはそれだ。

ただ、モルガンには悩みがあった。もう一度、ことに及ぶ折、もう一度、同じことをするのかと言うことだった。

 

モルガンはあんなにも恥ずかしいことをもう一度するのかと頭を抱えた。

モルガン・ル・フェはロットの情けなさにため息を吐いた。

湖の乙女は真っ赤になったロットがかわいかったなあと思った。

 

正直に言えば、二度と自分からというのはごめんだった。表立ったのは湖の乙女とはいえ、ものすごい恥ずかしいものは恥ずかしかった。

本当を言うのなら、夜のことを思い出すと顔を真っ赤にして何かに突っ伏してしまいたかった。ロットも顔を真っ赤にしていたから、変なことはなかったのだろうが。

 

(・・・・あの反応からして、そこまで女慣れしていないのか。)

 

それについて、なんだか、ちょっとだけ嬉しいなと思ってしまう。周りに太鼓判を押されるほどに女の影がないのは王としてどうなのかと思わなくはないが。

それはそうとして、なんだか嬉しいなあと思ってしまう。

 

(まあ、私のものになったのだから、昔のことなど忘れさせてみせるが。)

 

が、考えるのはまた自分が主だって動くことだ。さすがに、それは、何というかこう、恥ずかしい。

 

(・・・・今度こそ、一服盛るか。)

 

 

そんなことを考えて、モルガンは薬の材料についてを考え始めた。

 

 

 

 

「・・・・・終わった。」

「終わりましたね。」

 

互いに魂でも吐き出しそうなほどにロットとダイルは疲労しきった顔で馬上で話をしていた。

周りを見回せば、疲労のにじんだ顔をしているものが多い。

唐突な蛮族狩りで城を開けて数日が経っていた。

ベルンに己の情けなさについて愚痴り、モルガンと顔を合わせることに関して気まずさを感じていたロットの元に蛮族の襲来が知らされた。

正直に言うのなら、少しだけ、ラッキーだと思った。あのままモルガンに顔を合わせるのは気まず過ぎて、少しぐらい気持ちをなんとかする時間が欲しかった。

そのため、そそくさと馬を駆ったのだが。その討伐というのが、驚くほどに長引いた。なぜかやたらとトラブルが続き、巡り巡って驚くほどに城を留守にしていた。

 

「・・・・ダイル、怪我人の確認できたか?」

「重傷の者はおりませんが、皆、疲労していますね。」

「そうだな、やること終わったし、さっさと帰るか。」

 

その時のロットは非常に疲れていた。蛮族についてのことが落ち着いており、久方ぶりの襲来だったこともある。それ以上に、表面的には食料の減り具合だとか村々の被害についてだとかぼんやりと考えていたが、頭の奥でロットはモルガンのことを考えていた。

 

(恋しいなあ。)

 

堪らなく、ひどく、ではあるが。そんなことを考えてしまう。久方ぶりに長い間顔を合わせていないせいか、そんなことを考えてしまう。ふうと息を吐いたロットはまた、事後処理について進めていくために部下に指示を出し始めた。

 

 

 

 

モルガンはうなだれていた。侍女たちもまた、そわそわとモルガンを伺っていた。

 

(なぜ、何故だ!)

 

モルガンはぐっと拳を握りしめた。ロットが城を空けてからなかなかの時間が経った。その時、モルガンは苛立っていた。何故って、ようやく上手く行きかけたところでこんなことになるのかと。

モルガンの知る限り、こういった討伐の後は後処理にばたつくため、ロットとはあまり会えなくなる。

よき戦働きをすること自体は褒めてやりたいが、まったくといっていいほど自分に構われなくなることに関しては納得が行かない。

もろもろが終わり、城に帰ってくると言う知らせは来ているが、帰りの挨拶の後はおそらく一旦は休みをとり、仕事だろう。

仕方がないのだ。わかっている。それは、わかっているのだが。

その時、モルガンの居室の扉が叩かれた。それは、彼女の夫の帰還の知らせだった。

 

 

(仕事だ、仕方が無い。)

 

モルガンは慈悲深く、仕事に疲れているだろう夫を赦してやることにした。それが、自分の島を守るためにせっせと頑張っていることぐらいはわかっている。

だからこそ、モルガンは暫く仕事で自分に構わないだろう夫を寛容に赦してやることを決めた。が、そうはいっても、あり得ないことだがこのまま以前のように健全すぎる夫婦関係に戻られてもごめんだ。

夜の諸諸についてロットの教育を固く誓うモルガンであるが、それは今は後回しとする。

モルガンは侍女に命じて、可笑しくない程度に身を整えた。元来の美貌でモルガンは輝くように美しい。

モルガンはそのまま、ロットの居室に向かった。砂埃を落とした彼はいったん居室で休むと聞き、モルガンはロットに会いに行くことにした。

護衛に許可を取り、そうして入った居室にはロットが疲れた顔でソファに座っていた。

 

「・・・・モルガンか。帰ったが、何か、変わりは無いか?」

「いいえ、城でのことはつつがなく。」

「そうかい。いや、まあ、お前さんのことだから何もなかったと思うがな。」

 

モルガンはロットに近づき、簡単に留守の間の城のことを伝えた。そうして、ロットが疲れているらしくぐったりとしながらそれを聞いているのを確認して、話を切り上げた。

 

「・・・・陛下、話は以上にしてお休みください。」

「いや、心配するな。俺は。」

 

モルガンはロットの頬にそっと唇を押し当てた。それに、ロットはカチンと固まった。その様に、モルガンはちょっといい気分になる。

 

「お疲れの所でしょう?よくお休みになってください。ただ、仕事ばかりではなく、私の所にもお顔を見せていただければと思います。」

 

モルガンは自分のわかりきった魅力を最大限に引き出すだろう、淡く、清らかに微笑んだ。そうして、内心で胸を張る。

ロットとて、自分に溺れるほどではないが、モルガンのことを十分に美しいと思っているはずだ。そんなに美しい妻にこんなことを言われれば急ぎの用が終わればすぐに自分の所にやってくるはず。

意気揚々とそんなことを考えていると、モルガンは強い力で思いっきりロットのほうに引かれた。

次の瞬間には、モルガンはベッドの上に倒れ、そうして見上げた先にはロットがいた。

 

 

 

かわいい。

ロットの脳内にあったのはそれだけだった。

疲労しきった脳内には、モルガンの本心などについてかみ砕いて理解するほどの何かは残っていなかった。ただ、頬に押し当てられた柔らかな感触に固まってしまった。

そうして、言われた言葉に、何というか疲れ切った精神が崩壊してしまった。

本能のような感覚で、ロットはそのままベッドにモルガンを押し倒した。

 

「え、あ、れ?」

「なあ、俺の奥さん。」

 

ロットはそんなことを言いつつ、その髪の毛を指に絡めた。自分とは違う、細い、金糸のような髪だった。

 

「へ、陛下。あの、ど、どうされました?」

「うーん?」

 

動揺のためか声は震えていたし、顔は真っ赤だ。ロットはそれに、かわいいなあと思う。

ロットとて、別段こういう行為に慣れていないわけではないのだ。ただ、先日に関しては女性にリードされるという珍事件に動揺していただけで。

己を産み、死んだ母のことでどこか、自分の妻になる女性に手を出すことに忌避感のあったロットであるが、一線を越えてしまえばどこかで歯止めが外れてしまっていた。

 

「奥さん、そりゃあな。俺は少しばかり腰が重かったのは事実なんだけどな。」

 

ロットはそう言って、指に絡めていた髪にそっと口づけをした。

 

「そんなかわいいことして、俺も男だからその気になるけど。いいんだよな?」

 

戦働きのためにか、どこか疲労感を押しのけて、瞳にはギラつくような炎が混じる。昨日とは違う、噛みつかれるような獣染みた熱にモルガンは魅入られるように頷いた。

それにロットは彼女を覆い隠すように身を乗り出した。

 

「かわいいなあ。」

 

漏らした声にモルガンはまた顔を赤くした。

 

 

後日、ロットが近づくたびに顔を赤くするモルガンの姿を使用人や臣下たちが目撃するようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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