重い話ばっかりなので軽い話を書きたかったので番外編で早めに投稿しました。
後日談を期待された方は申し訳ありません。
時系列については深く考えないでおいてくだされば。あくまでIFのお話になります。
感想、評価、ありがとうございます。
感想、いただける嬉しいです。
「あ、ロットさん!」
「うん?ああ、マスターか。」
藤丸立香は廊下の先を歩いていた男に声をかけた。声に気づいた男は振り返った。
艶々とした黒い髪は天使の輪が出来ていた。大らかな笑みが浮かんだ顔立ちは息子のガウェインによく似ている。何よりも印象的なのは、きらきらと光る翠色の隻眼だろう。
そんな彼に黒い髪をした少年が駆け寄っていく。
「どうかしたか?騎士としてやることでもできたかな?」
「そうじゃないんだけど。」
藤丸はそう言いつつ、彼が珍しく一人であることに気づいた。
「今日はガウェインたちはいないんですね。」
「ああ。皆、今日はそれぞれ用事があるようだな。」
なんといっても今日はヴァレンタインデーだ。
「そう言えば、お妃様への贈り物、決まったんですか?」
思い出したかのように藤丸がそう言うとロットはどこか困ったような顔をした。
最後のマスターという触れ込みの少年の元に、妻共々召喚されてから暫く経った。自分がサーヴァントになったことには驚いたが、まあそこは割愛すべきだろう。
自分の生きていた時代から大分長い時代が経ったが、そんな行事もよくよく楽しい。時折、とんでもないものもあったが。
そんな中でヴァレンタインデーというものを知った。とある聖人がきっかけのそれはなんでも恋人たちの日、であるらしい。
それにロットはもちろん、モルガンとすごそうと思っていた。確かに恋人、などという期間は持ち得なかったがそれはそれだ。
何よりも、現代では近しい誰かへの感謝を伝えてもいいらしい。
そんな彼はモルガンに何か、贈り物をしようと考えたわけだが。
「そうだな。マスターにも色々と相談に乗ってもらったからなあ。迷惑をかけた。」
「いいえ。俺の意見が何か参考になったらよかったです。」
「ああ、現代の価値観というものもまた目新しくてありがたいよ。だがな、うちの奥さんは、賢く、厳しく、真面目で、清廉で、おまけに美人で可愛らしいからな。彼女にふさわしい贈り物、となるとなあ。」
藤丸はロットの口から飛び出す、無意識ののろけというものに、ああと頷いた。
「子どもたちにも相談したんだが。ガウェインは、父上がくれるものなら母上は石ころだって喜びますよ、なんていうし。アギ-は、仲がいいことでって笑いながら言うだけだし。ガレスはなあ、一緒に菓子を作ったんだが。だが、彼女に俺みたいな素人の菓子をあげるのもなあって感じだし。」
「そうですね。素敵な人には素敵なものをあげたいですね。」
「ああ、それでドレスでも仕立てるかと服を作れる英霊に相談したり。同じように奥方を持つ方々にも相談したがなかなかなあ。」
悩ましいというような顔でロットはどうしたものかと悩むように言った。
それに藤丸は緩やかに笑った。
ロットの話は好きだ。なんだか、とっても普通で、平凡で、懐かしい気分になってしまう。
「それでどうすることにしたんです?」
「うん?ああ、情けない話、モルガンに聞いたんだ。そうしたら、二人きりで、誰にも邪魔されずに過ごせる時間が欲しいと言うんだ。それだけかと聞いても、それだけとしか言わないし。俺も彼女が望むなら、ドラゴンだって頑張って狩る気だったんだ。いや、一人じゃ無理かもしれないから助っ人は頼むだろうけどな?」
さすがにそれだけじゃあと思って薔薇の花を用意したが。もう少し、華美なものがいるかな。いや、花が悪いわけではないが。彼女にぴったりの花だと思うし。
ロットは悩むようにうーんとうなった。
「なら、すいません。引き留めちゃいました?」
「うん?いや、約束の時間まであるし。何より、俺も用があったんだ。」
その言葉に全てを察して、藤丸は包みを取り出した。
「じゃあ、俺が先に。」
藤丸はそう言って彼に赤い包みを渡した。
「happyValentine!」
渡されたそれにロットはありがとうとそれを受け取った。
「日頃の感謝かな?」
「はい、いつもお世話になっているので。」
「世話、といえるほどのことをしているとは思わないんだが。いや、にしてもお返しをあげないとな。」
そう言ってロットはどこか照れくさそうな、そうして不安げな顔をして藤丸にそっとあるものを手渡した。
それは箔押しされた立派な表紙の本と、いくつかのペンだった。中身を見ると白紙のようだった。
「これは?」
「いや、たぶん、お前さんのことだからほかの英雄から華々しいものをもらってるだろうから恥ずかしいんだが。まあ、ただのノートと。あ!ペンは奮発したんだ。ボールペンから鉛筆とか、万年筆にガラスペンか?綺麗だろう?」
言葉の通り、渡されたペンのほかに色とりどりのインクもあった。藤丸はその贈り物を嬉しく思ったが、なぜこれを贈られたのかと疑問に思う。それを理解してか、ロットは穏やかに言った。
「いや、現代はいいな。俺の時は紙、というか羊皮紙だな。書くものが貴重でなあ。この時代は紙やら書き物にも種類があって非常に楽しい!」
わくわくしたような口調でロットは白紙のそれを指でなぞった。
「・・・・書く、という行動はいいぞ。人は思うことがあってもすぐに忘れてしまう。そう思っていても、時間が経てば何を思っていたのか曖昧になる。まるで、咲き誇っていた花が枯れるように。積もった新雪が泥に汚れて溶けていくように。」
ロットの言葉に藤丸はもう一度そのノートを見た。それにロットは微かに目を細めた。
「・・・・・なあ、マスター。お前さんは自分自身が哀れだと思うか?」
「え?」
その言葉に藤丸は曖昧な意味合いの笑みを浮かべた。それにロットはすまないなあと肩をすくめた。
「いや、すまん。なんというか、とある奴が、お前さんにくっそ重たいラーメンをやったと聞いてなあ。まあ、当人とお前さんの諸諸だからなんとも言えないが。」
はあとため息をついたロットはじっと藤丸のことを見た。
「・・・・弱者は強者に対して夢を見たがるように、強者も弱者というものに夢を見たがるんだ。一方的な要求のようなものから、己にないものまでな。」
笑い話なのだろうかな、なあ、お前さんはちっとも哀れではないのに。
ロットは苦笑して、そう言えば藤丸は凪いだような、穏やかな表情をした。
「ロットさんは俺を哀れだとは思わないんですか?」
「なぜ?お前は確かに、お前自身の願いがあったからここにいるのだろう。」
それは何よりも残酷で、けれどひどく優しいもののように聞こえた。
逃げ場が無い状態で決めたことと、複数の中から選んだということは違うようで同じだ。なぜなら、苦難の道を行くのか、それともより快適なものを選ぶかという選択は残っているからだ。
ロットはいつかの日、アーサー王に殺されるという選択をした。それを、後の人間は英断であるだとか、死んだことを愚かだと言ったり、犬死にだという存在もいた。そうして、国のために全てを捧げた生け贄の愛だと言った誰かがいた。
それにロットは笑ってしまった。
どうして、そうまでもして、人とは、人というものに夢を見たがってしまうのだろうかと。
人とは、主観の生き物だ。どれだけ他人のための行いのように見えても、そこには行った当人なりの理由がある。
それは自分だけのものだ。それに至るまでにたくさんの事情があったとしても、そう行動した意思は当人だけのものだ。勝手に他人の感情や事情を組み込まれても困るだろう。
あの日、ロットがそうしたのは、死んだのは国や子どもたち、そうしてモルガンの未来と自分を天秤にかけたとき前者に傾いてしまっただけの話で。
残念ながら自分には無償の愛など無かったし、どこまでもそこにあるのは愛したものが幸せであって欲しいという利己的なものしかない。
それは、藤丸とて同じだろう。
彼は哀れではない。ただ、この世界の、いつかのどこかで行われたように生存戦略のための戦いに参加しているだけだ。
彼は戦えるもので、そうして選択することが出来る人間だった。
自己の願いのために歩き続ける彼を哀れむことはないだろう。何かを滅ぼして、その上に立つということへの罪悪感と彼の戦うという覚悟はまた別物だ。
哀れみたくはなかった、確かに大きくて、背負いきれないものを背負ってしまったとしても。戦い続ける意思のあるものを、ロットは哀れみたくはなかった。
例え、騎士見習いであったとしても功績を立てたものをひよっこ扱いし続けるのはあまりにも無礼が過ぎるだろう。
「忘れたくないもの、忘れたいもの。そうして、そうであって欲しいという願いと、否定したいことがあるはずだ。それを、その白紙に書き綴るといい。」
「忘れたくないもの。」
「マスター、言葉はな、嘘つきであると同時に正直者だ。口に出したその瞬間、当人の心によって嘘か真かをたやすく変えてしまう。当人が嘘であると思っても、それは対外的には真実であることも。真実であったことが嘘であることも多々ある。だが、記憶なんてたやすく形を変えてしまうからな。」
だから、形に残しておくといい。
お前がそれだけは変わらないという想いがあるなら、忘れぬようにと。
お前が忘れてしまいたいということがあるのなら、それは己の中にだけ閉まっておくといい。
いつか、開いたノートに今と違うことがあっとしてもそれはお前が生きていると言うことだから。
いつか、開いたノートに変わらぬことがあったのならそれはお前の揺るがぬ何かであると言うことだ。
優しい記憶はお前の心を温める篝火になり、苦しみは傷跡として勲章になるだろう。
必死に張った虚勢はお前を鼓舞する激高になり、認めた事実はお前の土台として支えてくれる。
「言葉を選ぶってのはな、心に整理をつけることだ。悲しかったこと、苦しかったこと、それでも得たものがあったという事実。それは納得を人に与えてくれる。納得はいいぞ。あれは、人が己自身で完結できる、唯一の救いだ。例え、書き綴ったそれが嘘であったとしても構わない。嘘から誠が生まれることだってあるからな。」
藤丸はそれに少しの間黙り込んだ後、ありがとうと微笑んだ。そうして、ほかにもチョコレートを配るからと去って行く。
それを見送った後、ロットは遠くに見える後ろ姿を見て、悲しそうに笑った。
「そうだ、忘れないでくれ。英雄も凡人も、所詮は蓋を開ければ同じだ。己の願いを叶えたいだけだ。だから、俺もお前もきっと同じだ。哀れなんて無いんだよ。」
藤丸立香、忘れないでくれ。お前に罪があるというならば、その罪は、お前だけのものではないことを。
ロットはモルガンに贈る花束を取りにゆっくりと歩き出した。
概念礼装
君の綴るべきもの
ロット王からの贈り物
何の変哲も無い白紙のノートと幾つかのペン。
真実も嘘も、それは結局当人の主観からなっている。だからこそ、思うことを書き綴るといい。
真実であると信じたいこと、偽りであるからと沈黙すること。
いつか、お前さんが書き綴ったものを読み返したとき、良き人生であったと笑えることが出来るように。
それは、いつかに、英雄としてではなくて、人として生きて死んだ男から、同胞へ向けた祝福だ。
本編、というか特異点ネタを呼んだ後の方がわかりやすかったかもしれません。
ロット王のサーヴァント化についてはこねくり回して頑張っておりますのでお待ちください。