ロット王は愛妻家   作:藤猫

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だいぶ時間が空いてしまいました。すみません。
それぞれのキャラクターが、自分の人生を死んだ直前に語るような感じでしょうか。
ロット王のいなくなった後、取り残された人たちのその後について。
最初はガレスちゃんになります。


感想、評価、ありがとうございます。
感想、いただけると嬉しいです。


役者たちはかく語りき
美しき手はかく語りき


 

「お前の瞳は、本当にあいつに似ているね。」

 

それが、ガレスの覚えている母親であるモルガンの口癖であった。

 

 

 

私の人生の話ですか。

・・・そうですね。完璧な人生ではなかったのですが。

私の生涯を、聞いていただけますか?

少しだけ、聞いてください。聞くに堪えないとしても、空しいかもしれません。

どうすればよかったのか、ずっと考えてもわからなかったけれど。

それでも、私の話です。

 

私が物心ついたころには父はいませんでした。上の兄三人もすでにアーサー王の元にいて、私は母と、そうして父の部下であった人たちに囲まれて生活していました。

幸せでしたよ。

父の部下の、ベルンさんや、ダイルさんは優しくしてくれました。他の人たちも、私のことを大事にしてくれました。

 

・・・・母は。そうですね、母上は、どこか、いつも、夢を見ているような人でした。

いつも、ぼんやりと遠いどこかを見ていて、ふっといつの間にかいなくなっていて、いつの間にか帰ってきている。

城の者は私にできるだけ隠そうとはしてくれましたが、母上が時折狂ったように暴れていたことも知っていました。

それでも、私には優しい母でした。

私の髪を梳いて、頭を撫でてくれて。そうして、いつだってこう言いました。

 

「ガレス、お前の瞳は本当に、あいつに似ているな。」

 

若葉の瞳、母はそう言って私の目を見るたびに悲しそうに微笑んで、そうして抱きしめてくれました。

お恥ずかしい話、私は、母がどんなに泣いても、悲しそうでも、その時の母が一番に好きでした。

 

 

父であるロット王という人の記憶はほとんどありませんでした。

寂しいとは思いませんでした。覚えていない方への喪失、というものを感じられなかったのです。なので、寂しいだとか、悲しいだとか、そんなことは思いませんでした。

あ、覚えていないわけではないんです。

優しくて、暖かくて、大きな腕で私のことを抱き上げてくれたことは覚えています。それが、私はとても好きで。

その腕が、ゆらゆら揺れて、誰かが優しく話しかけてくれて。暖かくて、私、それが大好きでした。

覚えているのはそれだけで、でも、それだけで十分だったんです。本当ですよ?

本当に、あの、暖かな記憶は私にとって宝物でした。

 

・・・・その記憶を思い出すたびに、母上は父上のことが好きだったんだろうなあと理解できました。

城の者が、父上のことを慕っていて、ガウェイン兄様たちが仕えている陛下のことをとことん嫌っているのも理解できました。

大事な誰かを奪われたのなら、赦せないのは当然だと思います。

城の者は皆、私に優しくしてくれました。

特に、ダイルは私のことを本当に大事にしてくれました。私が願えば、どんなことだって叶えてくれようとしました。

欲しい物はどんなものだって用意しようとしてくれましたし、どんな我が儘だって聞いてくれました。

愛してくれていたのだと、思います。私のことを抱き上げて、本当に優しい声で声をかけてくれて。

薄情な娘かもしれませんが、きっと、父とはこういうものなのかもしれないと、そんなことを考えて、しまって。

 

・・・・・城の者も、そうして、ダイルも、私のことを見て懐かしそうに目を細めて、口には出しませんでしたが、私の瞳をよくのぞき込んでいました。

そんなにも、似ていたのでしょうね。

私の緑の瞳を、皆、悲しむようにのぞき込んでいました。

 

母上は私の緑の瞳を見つめていると、少しだけこちらに帰ってきてくださって。よく、父上の思い出を語ってくれました。そんなとき、私は父によく似た緑の瞳でよかったと心から嬉しくなって。

 

兄は帰ってきてくれて、アーサー王のことや、都のことを話してくださいました。その話を聞くのは、好きで。

でも、兄は、ガウェイン兄様は城に帰ってくるたびに、城の人たちと喧嘩をしてばかりで。

アギー兄様やガへリス兄様の時は、当たり障りがなくて、でもどこかざわざわしていて。

兄様に会えるのは嬉しいのに、帰ってくると聞くと、なんだか憂鬱でした。

 

母上は、ガウェイン兄様が陛下のもとに戻ると、また、泣かれて。泣いて、泣いて、私のことを抱きしめて、それで、ようやく微笑んでくださるんです。

 

お前の目は、本当に、よく似ているって。

私の目を見ると、母上は元気になられるのが嬉しくて。皆さん、私が笑うと同じように笑ってくださいました。

だから、笑っていました。

そんなとき、昔、兄が使っていたという練習用の剣を見つけたんです。

何故、それに興味を持ったんでしょうか。

はっきりとした理由を、私は未だに答えることが出来ません。

ただ、漠然と、強くなりたいと思ったんです。強くなって、そうして、何かをなしたいという話ではなくて。

何と言えばいいのでしょうか。

 

憧れ、だったんだと思います。

 

綺麗で動きにくいドレスではなくて、簡素で動きやすい衣装で。城の中で皆に大事にされてるのではなくて、泥に塗れて辛い道を行く。母上の側で慈しまれるのではなくて、誰かのために戦う。

兄たちのあり方に、私は、憧れました。

城の中で守られているだけの自分が本当に嫌で。自分だけが守られていることが情けなくて。

剣を取ったのは、そんな情けなさと少しだけの反抗心が最初だったんです。

皆に隠れて、こっそり用意した少年の服を着て、振り方もわからない木刀を振り回したとき、本当に爽快だったんです。

私にだって、出来るんだって。誰かのために、戦えるんだって。

母上が、幾度も言っていたように、皆に称えられた父上と同じように誰かを守れるように。喜んでくれると思ったんです。皆の願うように、父上と同じようになれば。

話の中だけでしか知らない父上を慕っていました、大好きでした。父上のようになりたかった。そうすれば、きっと、母上は笑ってくれると信じていたんです。

 

・・・・・いいえ、いいえ、今更、本音を隠してもどうするというんでしょうね。それだけではなかったんです。

私は、ずっと、この緑の瞳が嫌いだったのだと思います。

皆、私を大事にしてくれました。愛してくれました。でも、皆、誰もが悲しい顔をして私の緑の瞳をのぞき込むんです。

 

ああ、ロット王にそっくりな瞳だって。

 

それを聞くたびに、そう言われるたびに、嬉しかったはずなのに。いつの間にか、寂しいと思うようになってしまいました。

大事にしてくれるとわかっているのに。愛してくれていると理解していたのに。

私を通して、父を見るみんなに、どうしようもなく寂しいと思うようになりました。

オークニーのことが大好きだったのに、いつのまにか、あの国がどうしようもなく息苦しくなってしまって。

これでも、私、ちゃんとお姫様をしてたんですよ。綺麗なドレスを着て、おしとやかに振る舞って、にっこりと微笑んで。

母上は私のことをみて、父上に見せてやりたかったといつだって言われていました。

そう言えば、あのときも、母上は帰ってきてくださっていましたね。

・・・・皆、ガレスのことを愛してくれていたのに。私にとっては、なんだか、私ではなくて、忘れ形見で、どこにも行かない姫君を愛されているようで。

子どもの駄々っ子だったのかもしれません。でも、私はいつの間にか、オークニーではないどこかに行きたいと思ってしまって。

ただのガレスになりたかった。兄たちのようになりたいと思っていたのと同じぐらいに、父上のようになりたいと思っていたのと同じぐらいに、母上に笑って欲しいと思ったのと同じぐらいに、私はただのガレスになりたいと思ってしまった。

 

私が少年の姿で木刀を振ったと知ったとき、母は怒って、そうして泣きじゃくりました。

 

「騎士になるなど赦すものか!お前は女なのだ!お前は姫なのだ!私の元にいればいい!どこにも行かせるものか!」

 

初めて私は母に怒られました。縋り付くような、腕に食い込んだ爪が痛くて、そうして悲しかったのです。

今思えば、きっと、母は怖かったのだと思います。兄たちは皆、陛下の元にいて。唯一残った子どもである私まで遠くに行ってしまうのだと、そう思われていたのかもしれません。

ですが、当時の私にはどうしてわかってくれないのだと思ってしまって。

行きたかったのです、兄たちの元に。私だけが取り残されて、私だけが何もなすことが出来なくて。

このまま父の忘れ形見でいたくなくて、このまま安寧のままで生きているだけの自分が嫌で仕方が無くて。

幼すぎたんです。きっと、私はあまりにも幼くて。王の子として身勝手であったともわかっているのです。

それでも、ドレスを纏って、微笑み、いつしか婚姻をする自分に納得が出来なかったんです。

母にも散々に怒られて、私はダイルに頼みました。

剣を、教えて欲しいと言いました。ダイルは、何故か泣いていました。泣いて、幼い私に縋り付いて、申し訳ありませんと何度も謝って。

ダイルもきっと、私にいなくならないで欲しかったのかもしれません。

その時の私にとっては、ダイルもまた私のことを閉じ込めているんだと、ああ、私は本当に幼かったのです。

 

母と大喧嘩をした私の話を聞いたガウェイン兄様が来てくれたとき、兄様は私にあるものを渡してくださりました。一巻きの羊皮紙を渡してこられました。

その時、兄様は珍しく厳しくて、怖くて、そうして悲しげで、なのにどこか誇らしげな表情で。

父上は、兄たちや私に一人ずつ手紙を残してくれたそうです。死んでしまうとわかっておられたのか、記憶に残らないだろう末の子にと手紙を、用意してくださっていたそうです。

兄は、その中身を知らないと言いました。私が年頃になれば渡そうと思っていたそうですが、色々あって長引いてしまったそうで。

 

「ガレス、たった一つだけ言っておく。騎士になると言うことは、ただ、強くあればなれるものではないのだ。」

「どうしてですか?戦う者が、騎士なのでは?」

「・・・いいえ、騎士になると言うことは、痛みに耐え続けると言うことだ。」

「いたみ?」

「己の無力さによって失われる痛み、自分自身の痛み、無力さへの後悔の痛み、そうして、誰かを傷つけ続ける痛み。それは、騎士にならねばわからない痛みであり、苦しみだ。お前には、私よりも苦しむ道であるかもしれない。それでも、お前は騎士になりたいのかい?」

 

それは、その言葉の意味を、私は本当の意味で理解をしていませんでした。図星を突かれたような心地でした。

誰かのためだけではなくて、逃避の術として騎士になろうとしていた愚かな私を見抜かれたような心地で。

私は何も言えませんでした。何を、言えばいいのかわからなくて。

黙った私に、ガウェイン兄様は、そのまま去っていかれました。

 

手紙を、読んで良いかわからなくて。皆が善き人だったと認めた父上は今の私を見れば、きっと呆れてしまうと思って。

それでも、父上が私にどんなことを願ったのか。

姫として、生きる私を願っているのかと思って。手紙を、読んだのです。

 

 

父は、父上は!

私と会ったこともないのに、私がどんなふうになるのかなんて知らなかったはずなのに。

それでも、私を信じていると、書いていました。

自分の子として、この島に、この国に住まう者として、恥じぬ生き方をしなさいと。そうであるならば、私の好きに生きて良いと言ってくださいました。

私は、それに考えました。

自分の願いは、自分の、騎士としてのあり方は、どんなものだろうかと。

ここから、オークニーではないどこかで、私は私として生きてみたいと願った。だからこそ、騎士になりたいと、手段として考えていたのは事実でした。

それは、恥じ入るべきだと思います。その時、私はあまりにも身勝手であったのだと思います。

ですが、それでも、誰かのために、誰かを守るために戦いたいと願ったのは確かに事実だったのです。

この島を守りたかった、兄たちと肩を並べたかった、私だって父上の子だから。父上のように、誰かを守りたくて。

母上に、笑って欲しいと、そう願ったから。

 

美しいものを見ておいでって、言ってくれたんです。

私は、それに、考えました。美しいものってなんだろうって。

オークニーは美しかったです、城の人たちは優しかったです、母上は誰よりも美しい人でした。

ですが、父上のいうものとは違うと思いました。

その時、私は決めたのです。

行こうと、騎士になろうと決めました。

誰にも恥じないように、兄たちの弟として、母の子として、そうして、父上の子として。

誰かを守ることが出来るように、そうして、美しいものを探すために、私は行こうと決めたのです。

 

 

それから、城を飛び出して、キャメロットまで一人で旅をしました。幸いなのか、ダイルに教えられたりした知識が役に立ちました。

キャメロットでは、最初は厨房で働かされましたが、苦ではありませんでした。あのとき、私はようやくただのガレスになれたから。

 

私のことを知った兄上たちは呆れた顔をされていました。

ガへリス兄様は呆れておられて、無茶をすると言われました。でも、ガウェイン兄様と、アギー兄様は、二人ともそれぞれ違うことを言われていました。でも、最後に同じように、ぽつりと。

お前も、父上の子だったのだな。

そんなことを言っておられたのを覚えています。

 

事実を知った母上は本当に怒っておられて。ガウェイン兄様とアギー兄様がいくどかオークニーに足を運ばれておられました。

・・・・お恥ずかしい話、私はそれからオークニーに手紙を出すことはあっても、一度も帰ることができませんでした。

自分で出てきた癖に、母上に拒絶されてしまうことが恐ろしくて。手紙には、一度も返事は来ませんでした。

 

それでも、騎士として、私は良き生をおくれました。

父上を殺したという陛下は、それでも、良き王でした。暗いブリテンを、まるでお星様みたいに照らしてくださる方だと信じられました。

それに、母上は嫌がるかもしれませんが、なんだか母上に似ていて。

真っ直ぐで、鋭くて、それでもどこか優しくて。

だから、信じられました。兄たちが信じた以上に、私自身が、信じたいと思えました。

 

 

その後は、ええ、そうです。私は、死にました。

あの日、全ての歯車が狂っていって。いえ、もっと前に、とっくに狂っていたのでしょうね。私は、ランスロット卿に殺されました。

あの方の目には、私は映っていませんでした。何も出来ずに、私は死にました。

悲しいです。悲しかったです。

でも、知っていてください。

私は、それでも、確かに、良き人生だったのです。

兄上たちと肩を並べることが出来ました、円卓の輝かしい仲間たちと過ごした人生がありました、民たちの笑顔を覚えています。

そうして、何よりも、オークニーで過ごした日々は幸せなものでした。

愛されていたのです、慈しまれていたのです。それは、父上を亡くした私への哀れみで、一人取り残された私が悲しくて。

すっかり、ゆがんでしまった母上への哀れみがあったのだと思います。

それでも、全てがそうでなかったのだと、少しだけ年を取った私にもわかることが出来ました。

私を、愛してくれていたのです。私を、慈しんでくれたのです。

母上の、そうして、ダイルの瞳に映った緑が私ではなく、父上のものであっても。

でも、私の髪を梳いて父上の思い出話を語ってくれた母上は私だけのものでした。

でも、一緒に馬に乗って散歩をして、日だまりの中でおしゃべりをしたダイルは私だけのものでした。

 

美しいものを、見ることが出来ました。

美しい王様を、誇り高い騎士たちを、民たちが笑っていました。美しい母上がいました。

強く、そうして憧れた騎士の元で、強くなることが出来ました。

そうして、私だけのものではなかったけれど、私の瞳に、父上を見ていたひどい方でしたが、優しい騎士に出会うことが出来ました。

ええ、ええ、私は幸せでした。

女の身でありながら、騎士として生きて。取ることの出来なかった選択を持ちました。

悲しくて、後悔があっても、私の人生は、良きものでした。

誰にも恥じることのない人生を、私は生きたのです。父上に会ったとき、私はちゃんとそう言えます。

 

私の生涯の話です、私の物語です。どうか、覚えていてください。悲劇でしかなかったのだと、思わないでください。

 

でも、きっと、父上に会ったときは、怒られてしまうかな。

私は、母上と向き合うことも出来なくて、勝手をしたことを、謝れも出来なくて。

きっと、怒られちゃうんだろうなあ。

母上に、会って、ごめんなさいって、そうして、もう一度だけ、抱きしめて欲しかったなあ。

 




我が一人娘へ
お前に最初で、そうして最後の手紙を書くことにした。
手紙なんて書くことがなかったから、そう、上手い文章を書くことは出来ないが赦してくれ。

お前は俺のことをどれだけ覚えていてくれるだろうか。俺の知るお前は、未だに幼いままだ。俺の腕に抱かれて、すやすやと眠る幼子のままだ。けれど、この手紙を読むお前は、そんな幼さからすっかりと大人になっていることだろう。
それを、見られないことが俺は残念だ。
お前はどんな子になっているんだろうか。そんなことばかりを考える。だが、いくらそれを想像しても結局は想像の内でしかないんだろうな。

ガレス、お前は今、何をしているんだろうか。愛らしいドレスを着て、母に似た美しい姫になっているのだろうか。お前はモルガンによく似ていたから。きっと、この世で一等に愛らしい姫になっているのだと思う。
それが、見えないことが悲しい。息子たちを育てるのには悩まなかったが、初めて生まれた娘というものには困ってしまった。少女というものと、関わったのなんてそうないことだったから。
柔くて、小さくて、ガウェインの時と比べて赤子の時から本当に小さくて。大きくなれるのだろうかとずっと不安だった。だが、お前はすくすくと大きくなった。モルガンによく似て、可愛いお前は本当に愛おしかった。息子とは少しだけ違った愛おしさだった。
お前には、何もしてやれていない。お前は、俺を恨んでいるかもしれない。
さっさと死んだ俺のことを。
お前に、いろんなことをしてやりたかった。ガウェインたちと同じように、たくさんのことをしてやりたかった。
冬の島であるオークニーの春を一緒に見たかった。魚釣りの仕方を教えてやりたかった。
馬に乗せて遠乗りにでも連れて行ってやりたかった。冬の星空を見せてやりたかった。
お前に似合う、美しいドレスを仕立ててやりたかった。お前の夫に少々意地悪をしてやりたかった。
お前の産んだ子どもを抱き上げてやりたかった。
この手紙を読んで、身勝手を言う男だと呆れているだろう。
それでも、俺は不思議と心配はしていない。
お前は俺と彼女の子だ。だから、信じている。
ガレス、お前はきっとこの国に対して誠実で、オークニーの姫として恥じない生き方をしているのだと。

ガレス、俺はお前を置いていく側の人間だ。そうして、お前を信じている。
だから、お前に願うのはこれだけだ。
好きに、お前の願うように生きるといい。そうして、美しいものを見ておいで。
お前がどんな風に生きているのかなんてわからない。けれど、その生き方がオークニーやこの島に対して誠実であり、そうして、俺に恥じることなど無いと言えるなら、どんな生き方をしても、そんな願いを持っても、俺はそれを祝福する。
お前はお前の生き方で、この国に育まれた者として負うべき義務を背負いなさい。
女として国を繋ぐことも、それ以外でも、お前が誠実であり、恥じることがないのだと信じる道を行きなさい。
そうして、それと同時にお前はお前を救うように生きなくてはいけない。
だから、美しいものを見つけなさい。
これから生きていく間に、散々に失うかもしれない、散々に悲しむかもしれない、散々に誰かに裏切られるかもしれない。
そんなとき、思い出せば、それでよかったと思えるものがあれば案外人間は救われるものだ。
愛するものでもいい、憧れでもいい、友でもいい、忠誠を捧げられるものでもいい。
それに出会えて良かったと思えるような、そんな美しいものを探しておいで。
俺にとって、モルガンやお前たちがいたように。

そろそろ書くのは止めよう。短い手紙になってしまったが、延々と書き続けてしまいそうだ。お前に伝えたいこと、書きたいことは書き切れないほどある。
けれど、俺が本当に、心の底から願うことは書くことが出来た。

ガレス、恥じることがないと言うならばお前の好きに、願うように生きなさい。そうして、お前の救いになるような美しいものを見つけられますように。
父はそれだけを願っているよ。
ガレス、父はお前を愛しているよ。お前の生を祝福している。
そうして、俺はこの世で誰よりも、幸せな男だったと自負している。
このまま、死んでしまっても、アーサー王というそれは確かに善良だ。信じられる。だから、お前も何かあればあれを頼るといい。モルガンは、あれを憎んでいるやもしれないが。
良き生だった。
お前がいた、愛しい、お前がいた。俺はきっと、それだけで満足だ、報われた。
それだけを覚えておいてくれ。

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