ロット王は愛妻家   作:藤猫

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ガへリスの話しになります。
彼だけあだ名が見つからなかった。

ちなみに、リネットさんはツンデレのイメージです。




暗き手はかく語りき

「ガヘリス、釣りは楽しいか?」

 

そう言った父の顔を、ガヘリスはよく覚えている。

 

 

 

 

・・・俺の、話か。

ああ、後悔しかないような人生だ。どうしようもない人生だ。

それでも、聞きたいのか?

 

・・・・そうか、それなら、どうか聞いてくれ。

俺の、愚かな人生の話だ。

 

 

 

俺は、母親似だとよく言われた。

母上によく似た顔、銀に一滴だけ金を垂らした、月色の髪だと、父上は言っていた。そうして、アギー兄上と同じ鉄色の瞳。

言っては何だが俺はあまり兄妹の中でも目立つ方ではなかった。

武芸においてガウェイン兄上には適わなかった。知力においてアギー兄上には適わなかった。

愚劣、そう言えるほどではなかった。けれど、優秀とはお世辞にも言えなかった。

うん?

やけにあっさりとそんなことを言うんだなって?

そうだな、それはそうだろう。

例え、兄上たちに劣っているとしても俺は王の子だ。なら、果たすべき義務も、使命も存在する。俺に求められるのは、それに対して真摯であること、それだけだった。

そういうものだろう?

ただ、幸いだったのはガウェイン兄様に適わなくとも、俺の剣の腕は人並み以上のものであったことだ。

騎士として、それ相応に見れるものであったのは幸いだった。

 

・・・・母上と、父上のことか。

陛下の元で騎士として生きたことを後悔はしていない。

薄情な、息子であるのだろうな。それでも、当時、それが俺たちにとっての最善だった。

 

俺は、母上よりも父上と過ごす時間の方が長かった。ガウェイン兄上よりも過ごす時間は永かったかもしれないな。

理由は簡単だ。父上と同じように俺も釣りが好きだったんだ。ぼんやりと、水面を眺めているのは案外面白かった。

アギー兄様やガレスは母上といる時間が長かったし、ガウェイン兄上は父上と鍛錬するのは好きでも、釣りは好きじゃなかったからな。

すぐに釣りに飽きて、木剣を振っていたっけ。俺は、父上の隣で、おんなじようにぼんやりと釣り糸を垂らしていたっけ。仕掛けもよく作ったんだ。

俺は、手先が器用だった。仕掛けを作るのも上手かったんだぞ。父上は、俺がよく釣れる仕掛けを作ると嬉しそうに笑ってた。

その時の父上は、何だろうな。普段とは違う笑みを浮かべるんだ。

・・・すまない。世辞の一つも言えない不躾な男だ。俺には、あの笑みをどう言えば良いのかわからない。

勝利に酔うようなものでも、愛を囁くようなものでも、さりとて俺たちにするような慈しむようなものでもなくて。

あの笑みは、どんな笑みだったんだろうか。

今でも俺にはわからない。

だから、だろうか。俺は父上のことを思い出すとき、王としてでも、騎士としてでも、いっそのこと、父として、そうだ、慈しみに満ちた表情ではなくて。

どこか、ああ、そうだ。あの、釣りをしているときの、穏やかな笑みを思い出す。

俺にとって、父上はそういう人だった。

王としてでも、父としてでもなく、あの、暢気に釣りをしている男のことを覚えている。

父上が亡くなって、俺はガウェイン兄上やアギー兄上ほど大人でもなく、さりとてガレスほどに幼いわけでもなかった。

父上の葬儀の後、ガウェイン兄上は陛下の元に向かうことを決められた。アギー兄上もまた、悩みはしたが納得していた。

俺はそれに反対した。せめて、俺だけでもオークニーに残りたかった。

母上の状態を見ても、ガレスと共においてはいけなかった。だが、アギー兄上に否と言われた。

今では、理解できる。

弱った母上を置いていくことは、あまりにも親不孝だった。だが、当時の俺たちにはあまりにも選択肢は少なかった。

オークニーは所詮は敗者であって、俺たちはそのための人質だった。

どうすれば、よかったんだろうな。今でも、泣きじゃくる母上のことを思い出す。だが、あの選択肢以外の何かがあったのだろうか、とも思う。

・・・・ああ、情けないな。

父上が死んで数年して、執務室に向かったガウェイン兄上は俺に一つの羊皮紙を渡した。

父上からの手紙だという、それを読んだ。

 

 

 

正直な話をすれば驚いた。あの人は、案外俺のことを見ていたんだと。

俺は目立たない子どもだった。兄たちの影に隠れてしまうような子どもだった。

だから、父上の中の俺というのも、おそらくぼんやりとしたものになっているものだと思っていたものだから。

 

・・・俺の幸せは何だろうと、ただ、ただ、考えた。

俺は、自分に望むものがわからなかった。俺は十分に幸せだった。

ただ、兄上たちと、妹と、そうして、母上が幸せであるのなら、それだけで。

だから、なんとなく分かりはした。きっと、父上はさほどの後悔はなかったのだろうと。

自分の大切なもののために足掻いた人生を、不幸だとは思う人ではないのだと。

俺にとって、父上とはそういう人だった。

 

 

母上は、そうだな。

美しい人だった。息子である俺から見ても、母上ほどに美しい人は見たことがない。王妃殿よりも、俺はずっと母上の方が美しいと思った。

リネット?

妻と母上ならば、ふむ。母上の方がずっと美しいと思うが。それがどうかしたのか?

そんなことを言って、リネットが怒らないか、か。

不思議なことを言う。美しいと言うことはただの事実だ。

それは妻にする女に望むこととは違うだろう。それに、妻は美しいという事実以外に魅力的な部分がある人だった。

懐かしいな。

ガレスがリネットを追って城を出たとき、俺はそれについて行ったんだ。

二人に気づかれないように後を追い、どうしようもない時は手助けもした。

彼女の言葉が真実であるのかわからなかったからな、ある程度見極める必要があった。

・・・・俺に何故か、暗がりや、扉の隙間、木の陰たちが親切にしてくれてな。ガウェイン兄上のように真昼の中で剣を振うよりも、夜闇の中で短剣を振うことに才があったんだ。

二人にばれることもなく追っていくのは難しいことではなかった。

何故か、その後リネット殿と結婚することになったのだが。何故だろうな。

すまない、話がそれてしまった。

 

そうだ、母上のことだ。

・・・・申し訳ないことをしてしまった。あの人には寂しい思いをさせてしまった。

ガレスがキャメロットに向かったとわかったとき、すでにあの子は城にいた。

俺たちも台所で働く一個人まで目が行かなかった。そうして、気づいたときにはあの子はリネットを追って城を出ていた。

ガウェイン兄上や、アギー兄上と共に故郷に向かっては母上をなだめた。

母上がすぐにガレスをかえせと言ったけれど、俺たちにはそれが出来なかった。

・・・・もう、あの子は男として認知されてしまった。男であるのならば、俺たちと同じように騎士として、教育を受けなければいけなかった。

今更、女であるとばらせば、ガレスの評判は地に落ちる。婚姻は諦めねばならなかった。

俺たちは、ガレスをできるだけ母に会わせないことにした。

母は、ガレスを、自分を裏切ったのだとお怒りになられていた。もう、騎士としてしか生きられないガレスにあわせても堂々巡りになるだけだと。

 

・・・・なんていうのは、詭弁だな。

俺たちは、わざとあの子を母上に会わせなかった。

ガウェイン兄上の本心は知らないが、アギー兄上と俺はわかっていた。

あの子の存在は、俺たちにとって僥倖だった

オークニーの人間である俺たちは、とくにガウェイン兄上は円卓の中でも輝かしい地位にあった。だが、それでもロット王の子であるという事実は変わらない。

もしかしたら、反旗を翻す可能性が。

などと、思われないことはなかった。

俺たちにはその意思はなかった。もう一度、あの島で大規模な争いなど起こすほど愚かではなかった。

だからこそ、俺たちはガウェイン兄上がオークニーの王になるまでにその地位を、その忠誠を盤石にするために必死だった。

幸いなことに、アーサー王はよき王だった。あの人は、己が国というシステムにおける一つの歯車であるということを理解していた。

どこまでも、王としてあるあの人にならば、忠義というものを掲げても構わないと思えた。

・・・・幸福であったのか、わからないけれど。

ガレスの存在は、俺たちにとって、自ら彼の人に忠誠を誓ったオークニーの人間がいたという事実を回りに知らしめた。

 

母上は、泣いていた。泣いていたのに、俺たちは、俺は、それでも。

あの人の涙よりも、国にとって何がよいのかを考えてしまった。

・・・・ひどい、親不孝者だろう。

 

そうして、俺はあるときから母上の元に行かなくなった。いや、いけなくなった。

アギー兄上に、母上の様子がおかしいと聞いた俺は、オークニーで何かがないかと調べに行くことになった。

幸いなのか、夜のとばりは、俺の味方だった。

城に入り込み、そうして、母上の使っていた部分に行ったとき、俺は見たんだ。

金の髪をした、母上に似た少女を。

・・・・俺は、ぞっとした。一目で、母上の子だとわかった。

そうであるのなら、あの子の父は、誰なのか?

父上の子であることはありえない。だとすれば。

 

俺は慌ててその場から立ち去った。

どうすればいいのかわからなかった。確かに父上は死んでいる。だが、母上の立場はひどく微妙なもので。その状態で、婚姻もしていない今、誰かの子を産んだ。

腹が膨らんでいることなど無かった、ならば、いったいいつの間に産んだのだ?

 

・・・・母上に、聞けなかった。どんなことを言われるか、予想が出来なかった。

だからこそ、俺は、母上と、そうして父上の側近だった、ダイルに、いや、その時はラモラックと名乗るようになった男の元に向かった。

ある王の子と同じ名前であるそれをわざわざ名乗り直した意味を俺は知らなかったが。

あいつのことは信用していた。真実を言ってくれるのだと信じた。

そうして、ラモラックは、俺の言葉にここではまずいと城から連れ出し、夜の森で話をした。

あいつは何も話してくれなかった。あの子のことには触れないでくれと。

その様子に、あの子が母上の子であることは理解できた。俺は父親が誰かを問いただそうとした。

どんな理由があるにせよ、母上が他の誰かを愛するというならば祝福をしたいと思っていた。

けれど、ラモラックは頑なにそれを話すことはなかった。話してはくれなかった。

それに俺は一つの可能性を思い浮かべた。

父親は、お前かと、そう聞いた。ラモラックはただ、頭を下げるだけだった。

俺は、そうだ。一時の感情であるとしても、何故、そんなにも愚かなことをしてしまったのだと、ラモラックと、そうして母上への怒りの言葉を口にしてしまった。

・・・・俺は、その少女を修道院かどこかに入れようと思った。どんな理由があるにせよ、外聞の悪いことに変わりは無い。

二人のことを、否定しようとは思わなかった。兄上がオークニーの王になれば、そのごたごたで遠縁だと引き取れば良いと思っていた。

だが、ラモラックはそれに抵抗した。

 

奪わないでください。どうか、王妃様からこれ以上と。

 

奪う気なんてなかった。ただ、少しの間だけ存在を隠すだけだと言ったんだ。だが、ラモラックは拒絶した。

どんな理由があるにせよ、そんなことは赦さないと。

 

俺は、ラモラックを殺した。

それは、あいつ自身が俺に剣を向けることができなかったのか、それとも夜闇の中では俺が勝っていたのか。

差し違えるように、俺はラモラックの腹にナイフを突き立ててしまった。

 

ランスロット卿に殺されたその時、俺はああ、罰が当たったとさえ思った。

己のしてしまったことへの罪。

どうか、知っておいてくれ。

俺の罪の話だ。俺の、どうしようない話だ。

俺の人生は、あまりにも半端な人生でしかなかった。

己の罪を精算することも出来ず、母上を泣かせたまま、俺の人生は終ってしまった。

父上の、後悔してはいけないという言葉の意味を、俺はようやく理解した。

後悔するなと言うのは、後悔をするような選択肢を、そうして、後悔しないという覚悟を持って生きなくていけなかったのに。

俺は、そう生きれなかった。

ブリテン島と、オークニーを、守るためにと俺は多くのものを無視してしまった。

母上の涙は、寂しさのものだった。

いつか、皆でオークニーに帰るなんて、終わりの見えない約束をして。今を生きるために、あの人をないがしろにしてしまった。ガレスの純粋さを、利用してしまった。

選択肢がなかったのだ、そうだとしても、俺は、なせたことがあったかもしれないのに。

ラモラックの言葉を、もっと聞いて、話をしていれば。違う結末があったのだろうに。

ああ、それでも、全てが遅いのだ。

俺は、間違えてしまった、違えてしまった。

兄上たちにも、母上にも償えもせずに。オークニーのためではなく、ひどくくだらないことで死んでしまった。俺は、命の使い方を、間違えた。俺は、王の子だったのに。俺は、兄上たちの弟で。ガレスを、守ってもやれなくて。

母上に、会いにも行けなくて。

恥の多い人生だ、罪悪に恐怖して、口を噤んでしまった。

父上に、顔を向けることなど出来ないな。

 

俺の生涯の話だ、俺の物語だ。どうか、誰か、誰でもいいから覚えておいてくれ。俺の愚かさをあざ笑ってくれ。

 

父上に会ったとき、きっと、失望されてしまう。

俺は、そんな気は無くとも、罪なき者を殺してしまった。傷ついた者を責めてしまった。無くしてしまって、それを埋めるためにあの人たちは苦しんでいたのに。

母上に、謝れなかった。いや、どうだろうな。きっと、俺になんて二度と会いたくなんてないのだろうな。

 

 

 

 

 




三男坊へ

ガへリス、お前は今、どうしているだろうか。
情けない父親だ。お前がこれを読んでいると言うことは、俺が死んだと言うことだからだ。
書き慣れない手紙だが、最後まで読んでくれると嬉しい。


三男坊のお前はよく俺の釣りに付き合ってくれたな。
正直な話をすれば、あれは嬉しくてな。俺の周りは、何というか、動き回るのが好きな奴ばかりだったからな。
釣り糸垂らしてずっとっていうのは辛かったみたいだな。ガウェインなんて特にそうだったろう。
だから、それに嫌がることもなく楽しそうにしてくれてたのは嬉しくてな。
お前とぼんやりと水面を見つめて、たわいもない話をするのは好きだった。お前は、あまりおしゃべりをするタイプじゃなかったからな。
好きか、嫌いかは置いておいてもお前は人の話を聞く方だった。だから、お前の言葉を聞けることが嬉しかったし、楽しかった。
ああ、あの仕掛けの作り方を教えてやれなかったな。城の誰かしらは覚えているはずだから、教えてもらうといい。
俺自身が教えてやれなくてすまない。

ガへリス、お前は己の願いを喉の奥に隠す奴だった。
わかる、それは言わないというわけでもなくて、ただ、それよりも他人の願いが叶ったり、誰かの願いを押しのけてまで叶えと思えないからだろう。

昔、城の人間がお前を半端な子どもと言った。俺はあいつらを罰したが、お前は驚くほどにそれに傷つかなかったな。
お前は、それを正しい評価と受け入れた。俺はお前のそれを理解できた。
人は持って生まれたものをよりよくするために努力をすることができる。だが、それが報われるばかりではない。
持って生まれたものを、己にとって最良にすることはできても、他人がいれば優劣が生まれる。
大事なのは、それをどう使うかだ。

ガへリス、あの塔の上で俺がお前に言ったことを覚えているだろうか。
美しいものを、見ておいで。
俺の願いは変わらない。
お前がそんなものに出会うことが出来れば良いと思う。俺が、役目以外の生きることへの賛美を持つことが出来たように。
お前は誇りよりも、理想的に生きるよりも、他人のために生きるよりも、己がどんな役割を持つかを是とする子なのだろう。
そんなところが、俺は、よく似ていると思っていた。俺に、それがよく似ていると。

延々と遠回しになってしまったな。
ガへリス、他人のために生きるのもいい。けれど、お前はお前の大事にしたいものがなんであるのかをよく考えるんだ。
お前は俺の子だ。ならば、その責を果たさなくてはいけない。だが、それ以上に、お前は人間だ。
全てを、誰かのために、国のために捧げることなど出来ない。だから、人として、お前はお前の大切なものを見つけなさい。
そうして、明日をどうか、よりよく生きて欲しい。
もしかしたら、間違っていたと後悔する日が来るかもしれない。もしかしたら、過ちでしかなかったと己自身を憎む日が来るかもしれない。
それでも、けして、後悔してしまったと、せめて表に出してはいけない。それはいつかに必死になって、迷いながら進み続けた己への侮辱に成り果てる。

お前は上の二人の影に隠れるように生きていた。それが己の生だと早々に察して、そうして受け入れて、不幸だとも思っていないようだった。
俺は、それが少し心配だった。
だが、お前の生はお前のだけのものだ。お前だけが責任を取ることが出来る。だからこそ、お前はいつか、お前自身のために選択をし、そうして生きて行きなさい。
それでも、お前ならば信じているよ。
俺の子として恥じない生き方を、己なりの幸福を、お前は抱えて生きていくと。

無口で、兄たちを慮り、妹の側にいた三男坊、俺はお前を愛しているよ。
例え、お前がどんな人生を歩もうと、どれだけの罪も業も、幸福をも背負おうと。
ロットという父はお前のことを愛しているよ。


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