ロット王は愛妻家   作:藤猫

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アグラヴェインの話しになります。

書き手の描写不足があったようですいません。


モードレッドはプーサー似。


堅い手はかく語りき

 

私の、話か。

・・・・恥ずかしい話、話すような価値のある人生ではなかった

それでも構わないだろうか?

 

そうか、聞いてくれるか。

それならば、そうだ。どうか、どうか、聞いてくれればありがたい。

 

 

 

私は父方の祖父に似たそうだ。

オークニーの臣下たちや、先王の顔を知るものはそう言っていたのをよく覚えている。

特に、そう言っていたのは父上だった。

兄上は幼い頃から外で遊び回るのが好きな方だったんだ。私は、その隙にそっと父上の元に行くとな、にこにこしながら出迎えてくれた。

・・・・少々ずるいんだがな、私の顔は先王に似ていたせいか、家臣たちは私には少しだけ甘くてな。

政務の時でも、私が行けば休憩の時間だと仕事を休むんだ。そうして、父上は私を膝の上に乗せてくれた。

私は、その時間が何よりも好きだった。いつも、兄上や、そうして弟妹が生まれてから独り占めには出来ない父を、その時だけは独占できた。

そうして、そう言ったとき、父上はことさら穏やかな声で、お前は父上によく似ているなあと言われていた。

その時が、心底嬉しそうに微笑む父上の顔を見ながらあの大きな手で頭を撫でてもらえる瞬間が、心の底から好きだった。

 

母上も、私の髪がお気に入りだった。

父上に似た、優しい夜色の髪だと言われていた。

 

 

父上のことは、好きだった。

父は、嘘を見抜くのが上手かった。私はそれを実際に見たことはなかったが、ダイルは、いや、ラモラックからそんな話を聞いた。

思えば、あの男は父上に心酔していた。誰よりも、きっと。

私は父上に一度、嘘を見抜くコツを聞いたことがある。それに、父上は苦笑していた。そうして、誤魔化すように人をよく見ることだと、そんなことを言って。

 

・・・・・私は、父上に聞いた。

嘘をつく人間なんて、全員追いだしてしまえと。子どもだった私に、父上は淡く微笑んだ。

何故だろうな。その笑みは、どこか苦くて、そのくせ優しくて、本当に、何かを愛おしがっているような笑みで。

 

優しい嘘も、誠実な偽りも、案外あるものだと。父上はそう言った。私には、それがわからなかった。

嘘は嫌いだ。それはあまりに不誠実だ。人間とは、もっと高尚な生き物であるべきだ。

綴る言葉を、思考を、心を持つならばなおさらに。

私は父上のことが本当に好きだった。あの人は本当に完璧なのだった。

武勇に優れ、賢しく、そうして人に対して誠実で、誰かの善行も、悪行もよくよく見ていた。

王とはこうあるべきだと私は心底信じていた。

私は自分が王の器であるなんて思ったことはない。

何故か、そうだな。

・・・・私は王であるには少々、人に好かれにくいのでね。それでいい。元より、私も人という生き物は好きではないのでね。

人に優しいところも、美しいところも、あることは知っている。だが、それと同時に人とは醜く愚かであることもまた知った。

・・・・・・オークニーという場所から出れば、なおのことそうだった。

兄上は、そうだ、私は兄上のことも好きだった。

誰よりもあの人は父上に似ておられた。武勇に優れ、大らかで。ただ少々、なんというか力でごり押しをする部分があったが。

それについては気にならなかった。兄上が人に好かれ、私は人に嫌われればいい。策略も、後ろ暗いことも、私が行えばいい。

私は、私を理解してくれる人たちがいれば構わなかった。

私は人を愛することはなかったが、人を愛していた人たちが好きだった。

私にとって、父上とはそういう人だった。あんなにも、当たり前で、されどまばゆい人はいなかった。

 

 

母上は、そうだな。

私は、母上を賢しい人だと思っていた、貞淑で、賢しく、父上をよく支えている人だった。

私にもよくよく多くのことを学ばせた。

今思えば、政について私が多く叩き込まれたのは兄上の性質から考えて頭脳仕事は私にと思われていたのかもしれないな。

そのせいか、私にとって母上は、母と言うよりも師というほうが正しかった。

厳しく、けれど、確かに私に多くのことを教えてくださった。

 

・・・・・・そうでないと、わかったのは。

ウーサー王が死んだとき。

母上があんなにも激高されたのは初めてだった。私は、怖かった。あんなにも怒り狂い、そうして当たり散らした母上は幼心に恐ろしかった。

父上が帰ってきたときはほっとした。きっと、父上ならばなんとかしてくれると信じられた。

そうして、その考えの通り、母上は父上の言葉ですぐに落ち着かれた。

良かったと思った。母上の狂乱を実際に見たのは、私と兄上だけだったが。それを良かったと思う。ガへリスとガレスがあれを見ることがなくて、本当に。

父上が、亡くなられたとき、崩れ落ち、何もかもが立ちゆかなくなったあの人を見て、まざまざと理解した。

ああ、この人は、なんて弱い人なんだろうかと。

 

その時、その時、少なくとも、私と兄上は誓った。

私たちが守らなくてはいけないのだと。この国を、弟妹たちを、そうして、母上のことを。

それほどまでに、弱い人だったのだ。

 

 

・・・・そのくせ、母上を置いていったのか、か。

そうだな、私たちは、あの人を置いていった。だが、それこそが最善だった。

葬儀の日、兄上は嬉々として陛下に会ったことを告げた。

その日、私は何故、敵であった存在を気に入ったのかと思ったが。

それでも、ああ、確かに。陛下の元で過ごす内に、その理由もわかる気がした。

離れたくなどなかった。

故郷だった、思い出も、大事にしていたものも、多くあった。

あの弱い人を、置いていきたくはなかった。だが、私たちは子どもだった。

何の力も無かった。

兄上と誓ったのだ。手柄を立て、そうして、家族でまた暮らすのだと。

 

それは叶わなかったが。

私と兄上は、円卓の座に座ることが叶い、陛下の元で地位を確立した。

そのために、汚いこともした。

兄上はそんなことをする必要は無いと言ったが、私は頑なに譲らなかった。

・・・・そうして、兄上に相談することもなく私はガへリスもそれに巻き込んだ。あの子は、暗殺や隠密についての才があった。

私は、焦っていた。

地位を築き、ブリテンという島を維持し、そうして兄上をオークニーの王にする。

陛下の役にも立ちたかった。

陛下を嫌いにはなれなかった、出来るならば、力になりたいと思ってしまった。

あの方は、どこか、母上に似ていた。

あの方が国のために動くとき、何かに一心に心を傾けるとき、それは母上に似ていた。

私欲を放り捨て、国のために生きるあり方は、父上に似ていた。

手紙を、貰ったのだ。父上から、最初で最後の手紙だった。

愛していると言ってくれた。

母上のことを頼むと、そうして、父としてではなくて、王として死ぬのだと、そう、書いてあった。

悲しいと思った、けれど、それでも、託されたのなら私たちはせめて足掻かねばと。

兄上と、共に手紙を読んで、そうして、泣いて。

二人ぼっちでも誓ったのだ。

残されたものを守るのだと。

 

 

・・・・・ガレスがやってきたときも、私はそれさえも利用しようと思った。

母上が傷ついていると知ってなお、あの子を、利用した。

嬉しかったというのもある。

その勇敢さに、父上の影を見た。そうして、ロット王の子どもがアーサー王に心酔しているという宣伝になると。

戦争は、終らなかった。どれだけ内を沈めても、外からの侵略は終らなかった。

私たちは兵士だ。主戦力である兄上に、ガへリスにガレス、そうして文官である私は予想に反してどんどんオークニーへ帰る道から遠ざかった。

 

そうして、あの日、母上の様子がおかしいという知らせを受けた。

私はガへリスを使いに出した。何か、ガレスを奪ってしまった私たちのせいで余計に追い詰められてしまっているのかと。

私やガウェイン、そうして、ガへリスが帰郷しているとはいえ、そうそう暇をもらえる身ではない。手紙を送っていたが限度がある。

 

 

そうして、ガへリスは淀んだ目をして帰ってきた。

赦されないことを、したと。

問いただせば、あれは、ああ、ダイルを、殺してしまったと。

私はガへリスに何があったかと問いただした。

 

・・・・母上に似た子がいたと、そうして、その父親はダイルではなかったのかと。

ガへリスは、そのまま彼と言い争いになり、そうして、もみ合いになり、殺してしまった。動揺のために、記憶は飛び、上手く覚えていないとあの子は言った。

私は、なんとかしてオークニーに向かった。

ラモラックは、なんとか虫の息であるが生きていた。母上は、ひどく動揺されていた。

そうして、その近くに、母上によく似ていた幼子の姿があった。

その幼子のことを問い正したかったが、それ以上にダイルは、ラモラックは私と話すことを願った。

虫の息の彼は、私に訥々と、事の顛末を語った。

 

母上は、狂っていた。

その子どもの名前は、モードレッド。

母上が魔術によって産みだした、父上の体の一部を使って創られた、ホムンクルスだった。

ガレスを奪われ、孤独になった母上が、寂しいあの人が創り出した、我らの末子。

おぞましいと思った、恐ろしいと思った、狂っていると心底思った。

 

だが、それが何だというのだろうか。

その狂行は、我らのせいだというのに。寂しがりな人だと、弱い人だと、わかっていたのに。

 

がんじがらめだった。

今更、オークニーには帰れない。それは謀反だ。痩せていく土地に、減っていく作物。王都からの、細やかであり、私たちの伝手で送られてくる食糧を減らされれば?

なんとか積み上げた信頼を裏切ればどうなる?

いいや、いっそ。兄上の次期、オークニーの王として立場を奪われれてしまえば?

母上の側にいると言うことは、それ以上にオークニーを危険にさらすことと同義だった。

けれど、母上を置いていくことは出来ない。

 

ラモラックは、私の手を握って、言った。

 

王妃様を頼みます、あの子も、モードレッドのことをお赦しを。全て、私の、不徳のいたすところなのです。

 

私は、私は、それにわかったと、そう言った。そういうことしか出来なかった、それ以上に言えなかった。

ラモラックの葬儀は、私だけが参列した。兄上は任務で来ることが出来ず、ガへリスには来るなと私が言った。ガレスには、知らせなかった。

妹には、何も背負って欲しくなかった。それは、私たちの我が儘だった。

葬儀で、母は、泣いてはいなかった。けれど、その背を私はそっとさすることしか出来なかった。

涙はなかった、けれど、どれほどまでに傷ついていたのか、それぐらいはわかっていた。

善き人だった、知っている。父上に仕えた、忠臣だった。

私は、それを、ガへリスを責めることが出来なかった。

ガへリスの動揺も、そうして、ラモラックの意思も理解できた。最期だからと、覚悟を決めて、私に末の子と母上を託していくことを選んだのだ。

 

モードレッドは、そうだな、母上に似ていた。

金の髪に、けれど、澄んだ緑の瞳をしていた。母上は、言葉少なに彼について語った。

 

ああ、アグラヴェイン。そうですね、この子のことを言っていなかった。あなたの弟ですよ。

 

真実を知っていた私は、そうですねと頷いた。

その子どもは、幼く、格好は少年のようでもその顔から最初は少女かと思ったが実情は違った。

 

モードレッドは、本当に嬉しそうに、そうして照れくさそうに、私に微笑んだ。

 

僕、モードレッドっていいます!ようやく会えました、兄上!

 

 

ああ、その顔よ!ああ、母上の、久方ぶりに浮かべたその笑み!

それに何が言えるものか、母が狂っているというのならば、それは私たちの罪だ。私たちの罪過だ。

それに罪があるのなら、私たちが罰を被れば良い。全力で庇うのだと。

 

兄上にだけは、事の顛末を語った。ガへリスにもまたそれを伝えた。ガへリスはそのまま与えられる任務に没頭した。母上にも会いには行けなかった。

私は、それを責めることも、何も出来なかった。

 

幸いだったのは、モードレッドの事を知った兄上は義姉上と、そうして娘をオークニーに送ったことだった。息子たちにも、定期的に会いに行くように頼んだ。

・・・・長男のフロレンスは、兄上によく似ておられた。孫の存在と、そうして穏やかな性質の義姉上の存在に少しだけ心の安寧を取り戻されたようだった。

それは、本当に良かった。甥たちが騎士になっても、義姉上は母上の元にいてくれたし、末の子は女の子でそのままオークニーに居着いた。私たちも何度もオークニーに通った。

そうして、モードレッドのおかげでもあった。

あるとき、母上はモードレッドを騎士にしてくれないかと言った。

あれほどまでに手放すことを拒んだ末の子を。

どうしたのだと問うと、母上はどこか悲しそうに微笑んだ。

父上が、私たちに言ったように。美しいものを、世界を見せてやりたいのだと。そうして、モードレッドもまた私たちに憧れているからと。

幾度も、それを確かめた。本当に、いいのかと。けれど、モードレッドがそう願うならと。

甥たちは、母上の心を慰めてくれたのだろう。

 

私とは、本当に違った。

モードレッドは、普通の子どもに比べると圧倒的な速さで成長した。ホムンクルスとは老いもしないと聞いていたが。

それに母上は笑った。

子どもは成長するものだから、特別に手を加えたのだと。

狂っていたのだ、どこまでも、きっと。でも、どうだってよかった。兄上もそうだった。

そうだとしても、愛しい、母だった。

 

 

けれど、私も、兄上も、故郷には帰ることができなかった。どれほど戦っても、戦は終らず、私たちはキャメロットにいることしかできなかった。

それでも、その戦いが、オークニーを守ることならばと、そう思っていた。

 

その時だ、私は、あの女と、あの裏切り者の不貞の話を知ったのは。

 

ふざけるなと思った。

この島が、どれほど危ういバランスで成り立っているのかわかっていなかったのか?

陛下は完璧であらねばならない。それは何故か?

つけいる隙など赦されなかったからだ。我らは、それを支えねばならなかった。彼の人の手となり、足となり、その完璧さを保たねばならなかった。

 

だというのに、だというのにだ!!

あの男は、自ら、我らの王に傷をつけたのだ!我らの王の完璧さに傷をつけたのだ!

それがどれだけ、愚かなことだと、わかっていなかったのか!

 

愛のため?彼女が哀れだった?顧みられない女の不自由さ?

 

そんなこと、わかりきったことだろう!?

 

王であり、王の伴侶になるということは国のために生きねばならぬのだと、王族であった女がわからないはずがなかったはずだ!

ああ、ああ、ああ!

汚らわしい、ギネヴィア!

彼の人が、貴様に不誠実であったことなどあったか?国のために多くのことで走り回り、必死に戦い続けておられたのだというのに。

何故、己の身一つ、仕方が無いと諦められなかった?

 

裏切り者のランスロット!

愛していたというならば、何故、あの女を穢した?

何故、女としての幸せを与えようとした?あの女の役割を邪魔した?

その安い愛によって、苦しむものがいるとわかっていたのなら。女一人と、この島、なぜ、選ぶことを間違えたのだ!?

 

父上はそのために死んだのに。(・・・・・・・・・・・・)

どうして、お前たちは、それを選べなかった。

 

私は、人が嫌いだ。

多くの者が必死につかみ取ったものを、積み上げたものを、己の身勝手によって壊していく。

誰かのために、誰かが捨てた愛を、あっさりとすくい上げて、全てを壊していく。

 

父上は、選びたいと願っても、選べなかった選択を、どうして、そんなにもたやすく。

 

 

・・・怒りだった。

沈黙すれば、そうだ、少しの間ごまかせたかもしれない。けれど、無理だった。

どうしようもなく、嫌悪をした、憎悪した。

 

 

そうして、私は殺された。

笑える話だ、そんなにも必死に、己の心を削って無視した愛によって私は殺されたのだ。

 

ああ、くだらない話を聞かせてしまった。

私は何も出来ずに終った。

兄上を王にすることも、弟妹たちを母上の元に帰してやることも、母上の元に、帰ることもできなかった。

頼むと、きょうだいのこと、そうして、母上のことを、父上に。

望みを叶えることも出来ず、傷つけたくないからと口を噤んでしまった。

必死に走り続けて、いつか、オークニーでまた家族で暮らすのだと夢見ていたのに。

それは悉く叶わなかった。

母上に、帰ると約束したというのに。ああ、私は、どこまでもあの人に不誠実で。

陛下の完璧さを、私が崩してしまったのに。

 

私の生涯の話だ、私の愚かな物語だ。

どうか、呆れてくれ。託されたものを何一つ守れなかった、私を呆れてくれ。

 

 

父上は私をどう思うだろうか。ああ、それでも、もう一度だけ頭を撫でてくれないだろうか。

故郷に、帰りたかったな。

兄上や、皆と。あの、美しい国で、あの、美しい島で。ただ、もう一度、皆で暮らしたかった。

母上に、もう一度、会いたかった。

 




次男坊へ

アグラヴェイン、お前は今、どうしているだろうか。
情けない父親だ。お前がこれを読んでいると言うことは、俺が死んだと言うことだからだ。
書き慣れない手紙だが、最後まで読んでくれると嬉しい。


お前は騎士というよりは、勉強する方が好きな子だったな。俺はそれが嬉しかったよ。俺は机に向かうよりも、外で走り回るのが好きだったからな。
ガウェインはあんな奴だから、お前がいてくれるだけで心強かった。
お前は、父上に、祖父によく似ていた。
正直な話をすると、俺はそれが嬉しくてな。上手く言えないんだが、無くしたものがもう一度埋まったような、そんな思いだった。
俺はな、お前を膝に乗せて、お前の話を聞くのが好きだったよ。お前は日々、多くのことを学んでいた、お前が大きくなっていることを知ることが出来て。
それが嬉しくて、愛おしかった。
お前は好きなことに関しては雄弁になる子だったな。お前の好きな物を、お前の好ましい物を知る時間が好きだったよ。


アグラヴェイン、お前は、最善のためになら何でもしてしまう奴だった。
それが良いか悪いかではなくて、ただ、誰かのために献身的になりすぎてしまう子だった。
お前は、モルガンによく似ていたね。
大事にしたいと思った人のためになら、どんなことだってしてしまう。
ただ、誰かのために何かをしたいと思うなら、お前は相手にもちゃんと意見を聞かなくてはいけないよ。
お前の大事にしたいと思う誰かが幸せになっても、お前が傷ついてしまえばそれだけで意味が無くなってしまう。
だから、お前も自分を救うように生きなければいけないよ。

お前は、美しいものを見つけられるだろうか。それは、きっと先になってしまうけれど。それでも、お前ならば、見つけることが出来ると信じている。

お前は、お前たちを置いていく俺を恨んでいるかもしれないな。
それは仕方が無い。
お前たちは、生きていたかった。
どんなふうに生きていくか、見守りたかった。モルガンと、もっと共にありたかった。
もしかすれば、全てを捨ててしまえば、何もかもをないがしろにして、逃げてしまえば。
それも叶ったかもしれない。
だが、俺はそれを選べない。
アグラヴェイン、俺は、王だった。どうしようもなく、王なのだ。王として育てられ、国のために死ねと言われた。
受け入れていたはずなのに、ああ、どうしようもなく今は未練ばかりが腹の中でうなっている。
だが、俺はそれが嬉しい。そんなにも何かを思える、そんなものに出会えたことが嬉しいんだ。

アグラヴェイン、お前は誰かのために生きてしまう子だ。それが、少しだけ心配だ。憧れに対して一途すぎる気がある。
だが、それでも、お前はきっと良き生を送ることが出来ると信じている。
俺の子として、そうして、自分の大切物を大事にして生きて行く子だと。
お前は、モルガンに、父上に、そうして、俺に似ているから。

ガウェインのことを、よく見ておいて欲しい。
俺はあいつに王として生きるように、そう言って聞かせて育ててきた。俺が少しずつ、先達として教えていくこともあったはずだ。けれど、それは叶わない。
どうか、長男のことを見ていてやって欲しい。
あれのことを支えてやって欲しい。俺がすべきことをお前に押しつけるような形になってしまってすまない。
それでも、お前ならば託せると信じている。
お前は賢しい子だった。そうして、お前は自分のすべきことをすぐに理解できる子だった。

モルガンのことも、頼む。
あれはお前に似ているから、お前に似て、繊細で、辛くとのたくさんのことを飲み込んでしまう人だから。
すまない、お前とガウェインに多くのことを託していく俺を恨んでもいい。情けない父親ですまない。
それでも、お前ならばと信じているんだ。

賢しく、そうして誰よりも優しい次男坊。お前は優しい子だから、他人のために生きてしまうかもしれない。それでも、お前はお前なりにちゃんと幸せを見つけて生きていくんだよ。
それを、父は願っているよ、愛しい子。



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