ちなみに、語り手はあとモルガンとマーリンを予定してます。ランスロットも考えていますが、尺が短いのでどうしようかと。
描きながら、エンドレスに檸檬を聴いてました。
書き手が心が折れそうなので感想などの反応いただけるとありがたいです。
僕の話?
ええっと、話すことなんてあんまりないんだけれど。それでもいいの?
わかった、じゃあ、僕の話をするね。
それに、君がどんな顔をするのかなんてわからないけれど。
僕にはお父様がいるんだって。
ロット王っていう、とっても素敵なお父様が。
でも、僕、その人のこと知らないんだ。あ、でもね、寂しくないよ。だって、僕には母上だっていたし、義姉様だっていたし。姪に、あたるらしいけど、おねえちゃんもいたんだ。
アギー兄様も、ガウェイン兄様も、ガへリス兄様もいたんだ。
あと、姉様も。ガレス、姉様。最期まで僕が弟だって言えなかったけれど。
あとね、あとね、ダイル、あ、ラモラックだよ。ダイルは秘密の名前だから誰にも言っちゃダメなんだ。
オークニーのみんな、みんなね、大好きだったよ。
僕のこと、愛してくれたんだ。
北の果て、とっても寒い国だったけれど。でもね、良いところだったんだよ。本当だよ、嘘なんてつかないよ。
僕、ちょっと人とは違うんだ。
・・・・うん、とっても、違うのかも。
あのね、僕ね、人よりも少しだけ命の量が少ないんだって。母上が教えてくれた。
母上が昔、ちょっと悲しそうな顔をしてた。
ごめんねって、泣いたけど。
でも、僕は構わなかった。命の量が少ないって、生きる時間が短いって、そうだね。ちょっと寂しいけれど。
でも、それは誰だって同じだよ。明日、死んじゃう人はいる。僕はそれがわかってるだけ。短いってわかってるからその分、後悔しないように生きればいいんだって。
ラモラックも、死んじゃった。
ラモラックのこと、大好きだったよ。よくね、お父様のことを話してくれたから。僕の瞳を見てね、お父様と同じだって。僕、僕の目が大好きだよ。
お母様、とっても泣いてたよ。ずっと、支えてくれてたって言ってた。ラモラックも母上と同じだったんだって。
自分にとって全てのような人に、置いていかれた同胞だったんだって。
でも、不幸じゃ無かったんだと思うよ。だってね、だって、ラモラック、僕に笑ってくれたもの。
お父様から教わったんだって、森の歩き方に、釣りの仕方も習ったんだよ。
懐かしそうに言ってて、笑ってくれたから、不幸じゃ無かったんだと思うんだ。
アギー兄様に会ってね、ガウェイン兄様に会って、すごいなって。
少しだけ、冒険の話を聞かせてくれたんだ。
僕、騎士になりたいと思ったんだ!
兄様たちも、ラモラックも、そうして、父様もそうだったから。
綺麗だったんだ、なんだか、とっても剣を持って前を見るみんなが、誰かを守りたいと思うみんながとっても、素敵に見えて。
でも、お母様には言えなかった。
・・・・兄様たちが、騎士になるからオークニーを離れて、お母様が一人になったから。
今だって十分幸せだから、よかったんだ。
うん、でも、やっぱり騎士になりたかった。
兄様みたいに、ラモラックみたいに、お父様みたいに、なりたかった。
あと、オークニーの外に出てみたかった。違うどこか、知らない誰かに会ってみたかった。
お母様は僕の考えていた事なんてお見通しだったみたい。
騎士になりたいかって聞かれて、僕、思わず黙り込んじゃった。違うって言いたくて、でも、なりたかったから言えなかった。
お母様は椅子に座って、立って、うつむいた僕の顔をのぞき込んだ。そっと、手を取ってくれて、僕黙り込んじゃって。
もう一度、なりたいのかって。
頷いちゃった。
だって、なりたかったから。憧れだった、から。
お母様はちょっと、なんだか悲しそうに微笑んで、顔を上げなさいって言われた。
僕はそれでお母様を見た。
仕方が無いやつって、言われた。
呆れられちゃったのかなって、怒ってるのかなって。そう思ったのに、顔を上げた先のお母様は、やっぱり笑ってた。
兄様たちに話して、騎士になれるように、そうして、キャメロットにいけるように取り計らってくれていた。
僕は、驚いた。だって、それはお母様が一番嫌がることのはずだったから。
いかないって言ったんだ。お母様の側にいるって、それは本当だったんだ。騎士になりたいのは本当だったけれど、それでも、お母様のことを置いていきたくなかったから。
いかないって、僕はお母様の膝に縋り付いて、その顔を見上げたんだ。水色の、空みたいな、そんな色の眼が僕を見ていた。
お母様は、僕の頭を撫でて、言ったんだ。
美しいものを見ておいでって。
・・・・・それはどんな意味だったんだろうか。でも、お母様は言ったんだ。
きょうだいなのだなって。
生まれてきたんだから、自分のエゴで箱庭に閉じ込めておけるはずも無い。だから、その命の限りでいろんなものを見て、いろんな事を知って。そうして、最期には帰っておいでって。土産話を待って、母はお前の故郷で待っているって。
僕は、泣いたんだ。お母様を残して行けって、でも、嬉しいって思う自分もいて。
それでも、行ってみたいって。僕、思ってしまって。
泣いてる僕の頭を、お母様は撫でてくれた。
行っておいで、小鳥の巣立ちを悲しむ親がどこにいるんだって。
僕はキャメロットに行った。たくさんものを見たよ!
僕、ちょっと生まれが特殊だから表立って紹介は出来ないから、顔を隠してたんだ。そうしたら、お母様がとってもかっこいい鎧をくれたんだ!
強そうに見えるんだ、君にも見せてあげたいな。
民の顔、騎士たちの戦い、そうして、ああ、そうして、綺麗で寂しい、ひとりぼっちの王様に。
陛下は、あのね、お父様を殺したんだって。お父様を殺して、王様になったんだって。僕、最初は嫌いになっちゃうんだと思った。嫌いになるんだって。
でも、嫌えなかったんだ。
だって、王様はいつだって完璧だった。自分の願いだとか、汚いところだとか、そんなものを持たず、ただ、誰かのために生きていた。
ねえ、欲を持たない人はいないよ。だから、僕、思ったんだ。
きっと、この王様は、それを全部隠して、でも、それでもいいぐらいこの世界を愛してるんだって。
綺麗な人だった、お母様に似て、とっても綺麗で。そうして、なんだか、寂しそうな人だった。
ねえ、完璧であろうと頑張って、他人のために頑張って、みんなのために頑張って、それで。それでも、どうしても、憎めなくて。
違うよ、王様はただ我慢してるだけだって。
お母様みたいに、誰かのために、我慢してるだけだって。僕、そう思った。
だから、陛下のこと、好きだった。嫌いになれなかった。
・・・・一回ね。お母様に陛下のこと、どう思うって聞かれた。僕は、僕はね、嘘をつこうと思ったんだ。騎士であることは誇りに思ってるけど、王様のことは好きじゃないって。
でも、嘘を見抜かれて、お母様に不誠実であることが一番に、赦せなくて。
だから、本音を言ったんだ。
陛下は、お父様に酷いことをしたけど、でも、誰かのために頑張るあの人を嫌えないって。
そしたらね、そうしたら、お母様ね。笑ったんだ。本当に、嬉しそうに、嬉しそうに笑って。
よかったって。
お前たちは、やっぱり皆、ロットに似ているって。そうやって、誰かを愛するお前たちは誰よりもあの男に似ているって。
それに、よかったって、お母様は笑ってた。
幸せだったんだ。僕、幸せで、
でも、あの日、全部壊れちゃった。
ランスロット卿が、兄様たちを殺した日。遺体は見なかった。僕は駆けつけるのが遅れてしまって。
ガウェイン兄様が見るなって。フロレンスたちともお別れ、できなくて。
悲しもうとしたのに、なんだか、全部夢みたいだった。
ただ、兄様が。とてもとても、怖い顔でいなくなっちゃった。みんながオークニーで眠れるように手配をして。僕は、残ったみんなと後処理だとかに回って。
陛下に、聞いたんだ。
どうして、ランスロット卿を赦されたのかって。グィネヴィア様を赦されたのかって。
・・・・怒ってたんだ、僕も。だって、不公平だ。
僕の家族は、みんな死んだのに。あの男だけが、でも、愛によって犯された罪というならそれは僕もなのかな。
陛下は、他国との関係を僕に教えてくれた。そうして、そうして、すごく疲れ切った顔で言ったんだ。
全て、私が悪かったんだ。私には、愛を理解できていなかったから。
・・・・・陛下は、グィネヴィア様を愛していなかったんだね。うん、陛下は個を愛されたことは無かったのかもしれない。だって、陛下はいつだってみんなの王様だったから。みんなの王様であることができたのは、きっと、個を愛するって事がわからなかったから出来たんだ。
僕はつかの間の休みを取ってお母様の元に走った。せめて、みんなのことを連れて帰ってあげたかったから。陛下はそれを快く頷いてくださった。
お母様、泣いてた。まるで、目玉が溶けるんじゃ無いかってぐらい泣かれて。ずっと、教会で義姉様たちと泣いていた。
僕、ともかく事態の収拾のためにキャメロットに戻ったんだ。行かないでって言われたけど、でも、いかないと。
その時、ブリテン島全体がひっくり返るみたいに大騒ぎだった。
みんな、王様に怒ってたけど、でも、理由を聞けば表向きは納得した。
そうして、目が回るぐらいに忙しい中で、ガウェイン兄様が死んだって知らせが来た。
・・・・・ランスロット卿と相打ちだったんだって。
ランスロット卿は知らないけど、兄様のことは僕が迎えに行ったんだ。
お母様は泣いて、泣いて。
・・・・・陛下は、フランスでの話し合いがあるからって国を留守にされた。僕は
そのまま留守を任された。
これはね、僕の罪の話なんだ。あのね、責められても、罵倒されても、それでもいいから。どうか、聞いて欲しい。
僕は留守のための仕事をしながらお母様のところに行って。お母様、お食事をされなくなっちゃって。でも、蜂蜜のお菓子と、お魚なら食べられるから僕、お土産に持って行って。
・・・・お母様が、言ったんだ。
もうね、もう、陛下のことだとか、ランスロット卿だとか、そんなものじゃなくて。自分がこんなに苦しいのに当たり前のように回る全てが、憎い。
何もかもが、もう、何かがではなくて、自分だけが取り残された世界が憎いのだと。
僕は、それがお母様の本音だったのか。それとも、自分でもわからないままの叫びだったのか。
今でもわからない。でも、ああ、憎いんだなって。何がではなくて、言葉通り、全てが憎いんだって思うにはその目は悲痛で。
僕は、それに陛下のことを思い出した。
あの日、僕にだけこぼした、世界を愛しても、あまたを愛せても、自分が知らないちっぽけな誰かの幸福を愛せても、個人を愛せないと嘆いたあの人と同じように。
生真面目で、自分の抱えてしまったものを必死に大事にして。
そのくせ、結局自分の幸せよりも大事にしていた誰かのために手を離してしまう。
似ていたね。どこか、似ていて。
・・・・僕は、その時。僕も、その時怒っていたのかもね。何もかもに。きっと、全てに。
兄様たちと姉様を殺したランスロット卿に。
お母様から兄様たちを奪った陛下に。
陛下が必死に正しくあろうとしてそれを信じられない臣下たちに。
僕は、もしかしたら狂っていたのかもしれない。
お母様に言ったんだ。
ねえ、悲しい?ねえ、苦しい?ねえ、寂しい?ねえ、空しい?
なら、ねえ、ねえ、お母様。
お母様はとっても、地獄みたいに苦しいね。
でも、お母様は何をしたの?何もしていないよ。何にも悪くないよ。
お母様は悪くないよ。
なあーんにも悪くないよ。
だからねえ、お母様。
お母様をないがしろにして、踏みつけて、苦しめる世界なんて壊してしまおうよ!
そう言ったときのお母様は、どんな顔をしていたのかな。苦しそうで、悲しそうで、茫然としてて。
でも。
みんな、みんな、壊して、亡くして、なくなった世界ならみんなが苦しくて、悲しいままの平等だもの!
弾むように言ったんだ。笑うように言ったんだ。楽しいいたずらを思いついたみたいに、僕、言ったんだ。
お母様はそれにああって。
ああ、そうだな、平等だ!
て、言ったんだ。
あのとき、僕はお母様を壊してしまったのかもしれないね。でも、僕はさ。壊れてしまっても良いのかなって。
・・・・・僕、陛下の側にいたんだ。兄上たちがいなくなってから、余計に。
生真面目な人だった。自分のしたことを背負い込んで、不甲斐なさが赦せなくて。
そのくせ、自分の事なんて欠片だって大事にしなくて。正しくあるようにみんなに願われていたのに、事態が悪くなれば手のひら返し。
人は、とても醜くて。陛下は、そんな醜いものを愛していた。幸せになって欲しかったんだと思う。
でも、僕は、もう解放されて欲しかった。きっと、何があっても陛下を民は恨むし、見限り続ける。だから、自由になって欲しかった。
僕みたいな生まれの子を、神様は悪魔だって言うのかもしれないね。わかっていたよ、僕がどれだけ歪で、そうして、そこまで命が残っていないことも。
もう、何もかもから解放されて欲しかった。悉く、もう、役目も何もかもを壊してしまって。
だから、あの日、僕は悪魔になると誓ったんだ。
陛下がフランスで話し合いをしている内に、兵は簡単に集まったよ。僕が、モルガンとロット王の遺児であることを示せば簡単に。
カムランの丘で、陛下と戦って。そうして僕は、死んだんだ。
陛下の放った聖槍で貫かれたときに、兜が外れて、陛下は初めて僕の顔を見たんだ。
何故だって、陛下は言った。
僕、なんて言っていいのかわからなくて。でも、最期だってわかったから。だから、もう、怠くて、動かないような腕で陛下に手を伸ばして。
もういいよって。もう、いいから、幸せになってって。
聞こえていたのかな。そうして、僕は、死んだんだよ。
とても、罪深い話を聞かせてしまったね。
僕は、自分の命の終わりを知っていた。
間違っていたし、きっと、意味がわからないよね。
僕は、怒っていたのかもしれない、苦しんでいたのかもしれない。
先につなげるために、残ったもののために、僕は足掻かなくちゃいけなかったのに。
それでも、僕は、僕だけはお母様の味方でありたかった。お母様を苦しめるものを、苛むものを壊してしまいたかった。
壊して、あげたかった。僕だけは、お母様のために生きたかった。
そうして、陛下にも、あの人にだってもう、解放されて欲しかった。
間違っているんだよ、僕は。徹底的に間違えている。でも、いいんだ。
だって、僕は悪魔になるんだって誓ったからね。
・・・・・ねえ、僕、綺麗なものをたくさん見たんだ。
そうして、悲しくて、嫌なものだって見たんだ。
それでも、僕、生きてこれてよかったんだ。生まれてきて幸せだった。
僕の生まれは間違えていたかもしれないけれど、僕の人生の終焉は罪深いものだったけれど、でも、僕の人生はよいものだったんだ。
兄様たちのことが大好きだった。名乗れなかったけれど、ガレス姉様のことが大好きだった。
義姉様たちのことも、オークニーの人たちのことも、いつかに僕に微笑んだ民のことも、誇り高い騎士たちのことも、大好きだった。
陛下に仕えることが出来て、幸せだった。
お母様とお父様の子どもで、僕は幸せだったんだ!
ねえ、覚えておいて欲しいんだ。
僕の生涯の話だよ。僕の、罪深い物語だ。
君達はどうおもうかな?僕を狂っていると思うかな。それでもいいよ。僕は悪魔だったけれど、そうする理由は十分だったから。
どうか、どうか、覚えておいて欲しいんだ。僕を愛してくれた、優しい人たちのことを。
僕の人生の話だよ。
・・・・きっと、僕の愛した人たちは天国に行くんだろうね。
お父様と、天国で幸せに暮らしてるのかな。お母様も再会出来ると良いなあ。
僕は、いけないもの。僕は悪魔だからお父様には会えないけれど。でも、いいんだ。だって、こんな悪い子が息子だなんて会えないから。
でも、最期に、お母様に。お母様との約束を守れなくてごめんなさい。