以前よりは投稿頻度が下がりと思いますが、ご了承を。
設定とかもろもろとこねて頑張ります。
宝具の英語を考えるのが一番悩む。
感想、評価、ありがとうございます。
また、いただけると嬉しいです。
役目を果せと、父は言った。
産まれた意味、生かされた価値、生き抜いた足跡。
それは全て、誰かに対価を以て与えられたものに過ぎないのならば。
それをいつか、返さねばならない。
王とは、この世で何よりも、他人を必要とせねばならない生き物なのだ。その子であるのなら、なすべきことをなしなさい。すべきことをするといい。
その首は、いつか、全ての咎の対価に明け渡すことが叶う価値があるように。
けれど、それでも、もしも、父として叶うならば。どうか、美しいものを見ておいで。
決まり切ったこと、なさなければいけない義務、それを否定することは出来ないけれど、お前がお前なりに救われるように生きることができることを願っているよ。
さやさやと、どこかで音がする。
優しい音だ。その音と共に自分に降り注ぐ柔らかな日の光と、そうして心地の良い風を感じた。
藤丸立香は非常に穏やかな心持ちで、微かに感じる意識の外の感触に息をついた。
(気持ちいい・・・・)
微かに甘い匂いも漂ってくる。心地が良いその感覚に、このまま眠っていたいと強く願ってしまう。
「・・・・っすたー。」
そこで誰かの声がする。ああ、起きなくてはいけないのか、そう思う。けれど、そのまどろみがあまりにも心地が良すぎてこのまま眠っていたいという欲求にかられる。
少しだけ浮上した意識はそのまま、すやすやと眠りの中に落ちていく。
「おい、マスター!!」
雷鳴のような声が突然聞こえた。それに、立香はがばりと慌てて起き上がった。
「よかった、起きられたんですね、マスター。」
「・・・・あれ、グレイ?」
「ようやく起きたか、ねぼすけめ。」
立香の目の前に立っているのは、銀の髪をした少女だ。黒いワンピースに灰色の、フードの付いたローブを身に纏っている。そうして、カンテラのような、鳥かごのようなものを持っている。その中で、四角形の何かが楽しそうに笑っていた。
立香はそれによってようやく自分の周りに視線を向けられた。
そこはうっそうとした森の中だ。木々が生い茂り、日の光が所々射しているが非常に薄暗い。
立香ははてりと首を傾げた。何故って、彼の記憶では確か自分はベッドの中ですやすやと眠っていたはずなのだ。
だというのに、自分は何故か柔らかな風の中で昼寝をしている。立香は慌てて立ち上がった。
そうして、周りを見回せばやはりどう見ても森の中だ。
「マスター、ここがどこかなどは覚えておられますか?」
「えっと、ごめん。確か、自室で寝てたはずなんだけど?」
「ああ、そうですか。実は、私は気づいたらここに。ただ、マスターとのパスは繋がっていたのですぐに見つけることが出来たんですか。」
「現状がどうなってるのかって、わからないよね?」
「申し訳ありません、拙は魔術師としては未熟で。」
「いや、ごめん。わからないものはわからないんだし。」
そう言いつつ立香は周りをまた見た。現在、危機感というものを持たなくてはいけないのだが、辺りはあまりにも平和すぎる。
森の奥まったところとは言え、辺りには微かに鳥の鳴き声もしており、特別暑いとか、寒いなどと言うことは無い。
「どうしましょう、カルデアからの応答をまちましょうか?」
「うーん。そうだね。それが安全パイなのかもしれないけど。」
確かにカルデアからの応答があるのならそれを待つのが安全だ。だが、自分たちの状態がどんなものかわからない。何よりも、カルデアからの応答が来るような状況なのかもわからない。
ならば、現状をできるだけ知っておくことを立香は選んだ。
「ともかく、せめてここがどこかだけでも理解しておくのが一番だと思うんだけど。」
「そうですね、せめて森を抜ければ、何か手がかりのようなものがわかるかもしれません。」
二人はそれにうなずきあってそのまま歩き出した。
森の中はうっそうとはしていたが平和そのものだった。危機感を持とうと思っているが、あまりにも何も起きず、普通すぎる。
「うーん、グレイは何か、ここに感じることってある?」
「拙、ですか?」
「うん、グレイがここにいるのは何か理由があるんじゃないのかなって。」
立香はそう言いながら、これがレイシフトなのか、それともいつもの夢の中なのか曖昧だ。普段ならばナビゲートのような存在がいることが多かったが。
隣にいるグレイはお世辞にも事情を知っているとは思えない。立香は考えれば考えるほどに今がどうなっているのか理解が追いつかなくなる。
その時、グレイが足を止めた。そうして、
「アッド!」
「おうさ!」
「第一段階、限定解除!」
グレイがそう言うと同時に、アッドが解けるように消え、同時に大鎌が現れる。
「グレイ、敵!?」
「わかりません、でも、何かが近づいてきてます!」
グレイが叫ぶと同時に、木々の間から、何かが近づいてくるのが見えた。それは、大木が連なり、お世辞にもスムーズには動けない森の中でも滑るようにこちらに近づいている。
それは、強いて言うならば、黒騎士だ。
黒い鎧、黒い兜、頭の先から足の先まで、真っ黒の鎧に覆われている。丸みを帯びた、シンプルなデザインのそれを纏った騎士は滑るようにこちらに近づいてきていた。
立香はちらりとグレイを見た。
逃げることも考えたが、お世辞にもそれから逃げ切れるような手段は持ち合わせていない。
グレイは対死霊を得意としている。明らかに相性が悪すぎる。グレイの大鎌では木々の茂る森は戦いにくい。何よりも、現状では正面からやり合うのはあまりにも不確実事項が多すぎる。
「グレイ、ともかく逃走一択だよ!気を引いて!」
立香は数少ない、己の攻撃技と言えるガンドの構えを取った。それにグレイは全てを察したのか、構えを取った。
自分たちに近づいてくるその騎士は自分たちを目測で確認したのか、無機質に言葉を吐いた。
「対象確認、鏖殺する。」
その言葉と同時に黒騎士はそのまま腰に刺した剣を構えた。グレイがそれに応戦する。
が、元より軽いグレイはその騎士の一撃に吹き飛んだ。グレイは近くにあった木の表面に着地する。それに騎士は近くにいた立香に視線を向ける。立香はグレイに気が行った騎士の動向を見逃さなかった。
魔術礼装は生きているようで、彼の指から魔力の固まりが放射される。けれど、騎士はそれに完璧に反応して見せた。その一撃を、剣で受け止めてみせる。
さすがに衝撃があったのか、少しだけ動きを止める。
「マスター!」
グレイがこちらに近づいてくるのが横目に見えた。立香もまた逃げるために体を動かそうとした。
自分は騎士の追撃の範囲に入っている。間に合うか、二人の思考に同時に浮かんだそれの瞬間、森のどこからか声がした。
「伏せろ!!」
その声に立香は反射のように体をかがめた。それと同時に、右手から声がする。
「これなるは、路傍の石にすぎず!されど、この身が一つの砕きし武器とせん!」
轟音のような音と共に、魔力を纏った石が騎士にぶつかった。まるで、車同士ぶつかったかのような、そんな衝撃音が辺りに響く。
騎士はそのまま体を揺らせた。
「ほら、逃げるよ!」
木々の間から、一人の少年が躍り出て立香の手を掴んだ。少年は自分たちに近づいてくるグレイにも視線を向け、走る方向を指した。
「え、あ、わかった!」
「そっちの子も!」
「は、はい!」
少年は立香の手を掴んで、引きずるように森の中を走り出した。そうして、グレイもそれを追っていく。
後にはまるで動きを封じられたかのような黒騎士だけが残された。
「・・・・ここまでくれば、大丈夫だね。」
「あ、えっと、ありがとう。」
少年は暫く森の中を滑るように走っていたが、突然、何か目処でもあったのか立ち止まった。二人もそれに倣い、立ち止まる。
「いいよ、危ない所だったね。」
そういって振り返った少年の姿を、立香はようやくはっきりと見ることが出来た。
「でも、二人とも怪我が無くてよかったよ。」
まず、少年のことで目に付いたのはその瞳だった。青と緑の、いわゆるオッドアイのそれは非常に神秘的だった。
にっこりと笑ったその顔は、犬のような親しみやすい愛嬌を感じさせる。
黄金に輝く髪は、太陽のようにきらきらと輝いている。衣服は、青を基調としており、上着に膝丈ほどのズボンを履いていた。そうして、白い簡素なフード付きのローブを身に纏っており、籠手など鎧のようなものを所々につけていた。
そうして、何よりも目に付くのはその腰に下げられた、少年の身の丈ほどあるのではないかという大剣だった。
(・・・・なんだか、誰かに似ているような。)
立香はそんなことを考えて少年の顔をじっと見た。
「マスターを助けてくださり、ありがとうございます。」
「ますたー?」
少年の不思議そうな顔を見て、立香はそう言えばと思い出す。彼に対して、なんと説明すべきだろうか。
この少年は現地人なのだろうか。ならば、できるだけ情報を集めたいと考えた。
その時だ、彼の腰に下げていた剣がまるで打ち鳴らしたかのような、金属音を立てる。
それに剣の方を三人は見た。
少年は驚いたような顔で剣を見ていた。
「ヴィー?」
「どうかしたの、えっと。」
そこで立香は目の前の少年の名前を聞いていないことを思い出した。
「そう言えば、俺は藤丸立香っていうんだけど。君の名前を聞いてもいいかな?」
「私は、グレイといいます。」
その言葉で我に返ったのか、少年はああと二人を見た。そうして、少しだけ悩むような仕草をした。
「ボク?ボクは、そうだな。」
そうして、意を決したかのような顔をする。
「ボクは、ボクの名前は、コンラだよ。こっちの剣は、ヴィーって言うんだ。」
コンラ、という名前に立香は思い当たる存在があった。
「コンラって、まさか、クー・フーリンの息子の?」
グレイもその名前には覚えがあったらしく、驚いたような顔をしていた。
それに対してコンラと名乗った彼はにっこりと微笑んだ。
コンラはクー・フーリンの有名な子殺しの逸話に出てくる少年だ。影の国で母親と共に暮らしていた彼は父親に会いたくなり、一人で旅に出る。その間、数々の冒険をしていくが、最後には父親に殺されてしまうのだ。
確かに、立香の記憶では彼はスタッフスリングの名手であった覚えがある。
(剣に関する伝説なんてあったっけ?)
立香ははてなと首を傾げた。彼の記憶にある兄貴とは容姿がかけ離れているが、母親似の可能性が高いだろう。
「・・・・さて、それじゃあ、ボクも君達に話すことがあるんだ。」
「話す、こと?」
「そうだよ、ボクは君達を待っていた、星見の台、または彷徨える海より来た、最後のマスター。」
ボクと一緒に、魔女を殺して欲しいんだ。
そう言った彼の声と共に、遠くで微かに鳥の鳴き声がした。