ロット王は愛妻家   作:藤猫

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説明回。
頑張って書き切ろうと思います。

感想、評価、ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。


隠れ家

「・・・・魔女?」

 

思わずいい返した藤丸立香に目の前の、コンラと名乗った少年は苦笑した。

 

「うーん、そうだよね。びっくりするよね。もう少し、詳しい話をしたいと思うんだけど。少し、移動しようか。グリムが追ってきても困るし。」

「グリム?」

 

グレイはそれに記憶を掘り起こす。それは、彼女の故郷で伝え聞く、死の前触れと呼ばれる不吉な黒い犬の妖精だ。

 

「・・・まあ、あだ名みたいなものだよ。あいつ、ある程度の範囲をうろうろしててね。その地域に立ち寄らない限りは安全なんだけど。でも、すぐに離れよう。」

 

付いてきて。

 

それはそう言って、また森の中を歩き出した。それに立香はちらりとグレイを見た。グレイもまたこくりと頷いた。ひとまず、彼についていくしか道はない。そう、互いに理解してそっと彼の後を追った。

彼は無言でどんどん木々の間をぬって歩いて行く。

 

「どこに行くの?」

「ボクが使ってる隠れ家だよ。」

「隠れ家・・・・」

「うん、まあ、あくまで借り物だけど。追い出されることは無いから安心して。」

 

くすりと笑った横顔は、やはり誰かに似ていた。

 

 

三人が暫く歩くと、湖に出た。澄んだ水がきらきらと光るそこは非常に美しいものだった。

コンラは湖にたどり着くと、近くにいた立香の腕を掴んだ。

 

「それじゃあ、行こうか。」

「え、行こうかって?」

「隠れ家だよ。この中にあるんだ。」

 

コンラはにっこりと微笑んでそのまま立香を引きずり込むように水の中に落ちた。

 

「マスター!?」

 

グレイの叫び声が聞こえた。ばしゃんと、何かが水に落ちる音がした。思わず息を止めたが、立香は水に包まれることは無く、上下感覚が一瞬狂ったかのように思えた。

そうして、気づけば自分が霧がかかった湖に浮かんでいることに気づいた。

 

「あははは、ごめんね。びっくりさせちゃったね。でも、こうした方が早いと思って。」

 

そうして、いつの間にかグレイも立香の隣にいた。ぷかぷかと浮かんだ二人を見てコンラは言った。

 

「ほら、あそこがボクの隠れ家だよ。」

 

コンラがそう言った先には、ぽつんと小さな、島と言っていいのか陸がある。そこには、館、といっていいのか大きな家があった。

 

「魔術?」

「そうそう、ボクもよくわかんないんだけど、湖の中に?作ってるらしいけどよくわかんないんだよね。」

 

立香はそのままざぶりとコンラに引っ張られて島にたどり着いた。

島に着くと、周りは霧に覆われて岸の向こうはよく見えない。そうして、立香は己がまったく濡れていないことに気づいた。

 

「あれ、濡れてない。」

「ここ、幻の湖だから実際水に飛び込んだわけじゃないんだよ。さあ、入って。たぶん、待ってるだろうし。」

 

コンラはそう言ってそのまま家の入り口らしい扉を開けて入っていく。立香は改めて館を見上げた。石造りのそこはしっかりとした作りのように思えた。

 

「マスター。このまま、入ってもいいんでしょうか?」

「・・・・うーん、でも、ここまで来ちゃったしね。」

 

グレイに苦笑交じりにそう言うと彼女もそうですねと頷いた。そうして、意を決して館の中に入ることにした。まず、警戒のためにグレイが先に扉を開けた。

そうすると、家の中から仄かに暖かな空気を感じた。

扉の先は柔らかな光に包まれていた。左右に幾つかの扉がある短い廊下が続いている。廊下の少し先にコンラがおり、その奥に進んでいった。

立香とグレイはコンラの後ろに続いた。一番奥の扉をコンラが開けた。

 

「ヴィー?帰ったよ?」

 

コンラがそう言って入っていく。それに立香たちは続いた。部屋は広々としており、どうやら居間に当たる部屋らしい。

部屋の真ん中には大きな長椅子が置かれており、その近くに暖炉が置かれている。壁には大きめの本棚と、そうしてこれまた大きな曇った鏡がかけられていた。

 

「おっと、ただいま。ヴィー。」

 

二人が部屋を見回していると、前に立っていたコンラが何か受け止めるような仕草をした。そうして、視界の端から何かがコンラに抱きついた。

 

「紹介するね。この家の持ち主のヴィーって言うんだ。」

 

そう言ってコンラの影に隠れていたものが顔を出した。

それはコンラとそう変わらない年格好の美しい少女だった。

ふわふわとした金の髪は結い上げられ、豪奢な花の冠をつけていた。纏った衣装は、まるでふわりと、雲を紡いだかのように柔らかく、軽やかなワンピースだ。

そうして、こちらを見る澄んだ青の瞳は宝石のようにきらきらと輝いていた。

特別、豪奢な装いというわけでは無いが、非常に華やかな印象を受ける少女だった。

ヴィーと呼ばれた少女はまるで能面のような顔で立香たちを見た。美しい少女だったが、二人がそれに固まったのは別の理由がある。

その顔、そのかんばせは、あまりにもグレイに、そうして彼らの知るとある王によく似ていた。

ヴィーはじっと立香たちを眺めた後、すっとコンラのほうに視線を向ける。そうして、まるで鈴を転がすような愛らしい声で囁いた。

 

「おかえり。」

「ああ、ただいま。」

「帰ったら?」

 

コンラはそれにうんと不思議そうな顔をした後、ああと頷いた。そうして、そっと少女の頬にキスをした。立香は少しだけそれにおおと思っていると、今まで能面のようだったヴィーの顔がまるで花開くようにほころんだ。

それは年端もいかないそれからすれば、あまりにも艶やかな笑みだった。そうして、そっと少年の頬に口づけを返した。

コンラは苦笑を浮かべながらヴィーから体を離して、立香たちに向き直った。ヴィーはコンラの腰に手を巻き付けて立香たちを見た。

 

「ごめんな、帰ったらこれをするって約束しててさ。」

「え、えっと、うん。」

「き、気にしないでください。」

 

年格好からすれば微笑ましい印象を受けるはずのだというのに、何故かどきどきと鼓動が早くなるのは何故なのか。やたらとこなれた雰囲気というのか、どこか自分たちが恋人たちの睦言にお邪魔しているかのような、強烈な申し訳なさがあった。

 

「ヴィー。それで、彼らがマーリンの言ってたカルデアの人たちだよ。」

「そう、ようやく来たんだ。」

「・・・君達は俺たちが来ることを知ってたの?」

「まあね。というよりも、君達を呼んだのはボクたちだから。」

「君達が?」

「詳しい話、聞きたいよね。こっち。」

 

ヴィーはそう言ってコンラの手を取って壁に掛かった曇った鏡の前に連れて行った。そうして、ヴィーはその鏡をこんこんと叩いた。それに、鏡の中にぼんやりと人影が現れた。

 

『・・・・やあ、久しぶりだね。私を呼んだってことは朗報があったってことでいいのかい?』

 

まるで水の中から聞こえてくるような、ゆがんだ声がそこからした。

 

 

 

『ああ、よかった。カルデアのマスター、私たちは君を待っていたからね。それこそ、そうだ、何百年も。』

「何百年?」

 

立香たちは壁に掛けられた鏡を長椅子の近くまで持ってきた。そうして、それを椅子に立てかけて向かい合うように長椅子に座った。

 

「ん。」

「あ、ありがとう。」

「ありがとうございます。」

「ハーブと蜂蜜のお茶だよ。」

 

受け取った木彫りのコップを持って改めて鏡に視線を向けた。

 

『言葉の綾のようなものだよ。それほどまでに待ちわびた、といっていい。さて、コンラからはどれほど聞いているかな?』

「・・・・一緒に魔女を殺して欲しいって。」

『そうか、ふむ。まさしく端的でシンプルだ。こちらの望みを飾り立てることも、経過もなしに語ればそうなるね。』

「詳しい話はこっちに連れてきてからだって思ったんだよ。」

『まあ、それを責めたいわけでは無いんだよ。ただ、そうだね。よし、まず、ここがどこなのかを説明しよう。ここは、ブリテン島の北の果て、オークニーだ。君の知るところでは、ガウェイン卿たちの故郷だと言ったほうが想像がしやすいかな?』

「・・・ちょっと、状況は特殊だけど一応行ったことはあります。」

『ああ、そうだね。君達はすでに六つ目の異聞帯を攻略した後だね。それならば、話が早い。元々、ブリテンは多くの事情が積み重なり、最後は反逆の騎士、モードレッドによって滅びる。それが正しい。けれど、ここでは何をとち狂ってしまったんだろうね。』

 

何故か、ここ、オークニーは滅ぶこと無く繁栄している。死んだはずの、ロット王の名の下に、ね。

 

 

「死んだはず、の?」

「そうだよ。君達、ロット王のことは知っているかい?」

「はい、ある程度は。」

 

立香は自分の知る限りのことを思い出した。

ロット王は元々、アーサー王伝説に出てくる王の名前だ。北の果てのオークニーを治めた彼は書き手によって立ち位置が大分違ってくる。

ある話では、アーサー王に殺された悲劇の王。ある話では、悪辣なる悪女のモルガンに騙された愚かな男。ある話では、全ての悪行を企んだ黒幕のような存在として。

ただ、オークニー諸島では非常に人気のある英雄ではある。といっても、彼には英雄譚のようなものは存在しない。

彼の出てくる話で活躍するのは妻である。寓話のような形であるが、賢い妻に助けられる男として語られている。

華やかな英雄ではないが、オークニーのことを愛した王様として地元では銅像が建っていたりする。

何よりも、妻との関係性が好まれているのか多くの物語の題材になっていることもあるのだろう。

 

(アルトリアは、彼のことを話すとき、暗い顔をしていたっけ。)

 

苦くて、どうしようもなくて、そうして、苦しい顔をしていた。

 

『そうかい。なら、彼がアーサー王伝説では一番先に死んだことは知っているね?』

「あ、うん。」

 

立香はそれに思考の海から帰ってきた。グレイが心配そうな顔で自分を見ていた。コンラは長椅子に座り、コップをじっと見ている。ヴィーは我関せずと言うようにコンラに抱きついて、彼の肩に額をすり寄せている。

 

『そう、ロット王は死んだ。だが、カムランでの戦いの後、何故か彼は生き返り、オークニーをまた治め始めているんだよ。』

「まって、生き返ったの?」

『ああ、そうだよ。そうして、何故かオークニー以外のブリテンという島を知覚することが出来なくなっている。存在自体が消えた、といっていい。』

「マーリンでも?」

『・・・・正直な話をしていいかい?』

「マーリンなら、魔女に力を全部取られて、夢の中を彷徨うだけのろくでなしになってるよ。」

 

ヴィーのその言葉に立香とグレイはえ、と固まった。そうして、次に鏡の中から非常に軽い声がした。

 

『うん、だから私からの援助というか、助けは殆ど期待しないでくれると嬉しいな!!』

「えええええええ!!??」

 

部屋の中に響き渡ったその声に、コンラは非常に複雑そうな顔で聞いていた。

 

 

 

 

「力を取られた、というのは?」

『うーん。なんというか、カムランでのことを見届けた後、その、夢に干渉していたら襲われてね。夢に封印されて、おまけに現実世界への干渉が出来なくなっちゃっているというか。』

「本当に夢の中の人間になっちゃってるんだよ。まだ、夢の中では動けるから情報収集くらいは出来るけど。」

「あの、それなら拙たちを呼んだのは?」

「ん。」

 

グレイの言葉にヴィーが手を上げた。

 

「私。」

「え、君が?」

「これでも、魔女から産まれたから。」

「そう言えば、その魔女っていうのは?」

「・・・・そのロット王の側に侍っている魔術師のことだよ。」

 

久しぶりにコンラは口を開いた。それに立香たちは彼に視線を向けた。

 

「・・・・僕も彼女に召喚されたんだ。魔女が現れてからはこの島はおかしくなったらしくてね。死者は生き返り、そうして、とある場所に近づくのが禁止されている。そうして、この国は時間が止まっている。」

「時間が?」

 

驚きのあまりそう言えばコンラは頷いた。

 

「わかりにくいけど、日が動くことも無く、夜にもならない。人々は眠ることも無く、永遠と昼の生活を続けている。眠ることもなく。そうして、それがおかしいとも思っていない。」

「住民がいるのですね。」

「いるよ、元々、オークニーの人間たちだ。彼らはボクたちのことを認識しているけれど、話をしても齟齬がうまれる。」

「その原因が魔女。マーリンに知識だけ借りてカルデアのあなたたちを協力者として引っ張り込んだの。」

「それで、本題だ。君達は、ボクたちに協力してくれるかい?」

 

立香はそれに少しだけ悩んだ。おそらく、これは特異点案件に当たるはずだ。ならば自分がそれに協力しない選択肢はない。

 

「俺たちに出来ることなら。」

「マスターがそう言うなら、拙もできるだけのことはしたいと思います。」

「ありがとう!」

 

立香の言葉にコンラは嬉しそうに微笑んだ。

 

「君も、協力してくれるんだね、ありがとう。」

「・・・・ねえ、あなた。」

「はい?」

 

ヴィーはふと、グレイの方を見た。

 

「ねえ、あなた。フード、取らないの?」

「え、拙の、ですか?」

「・・・・うん、出来れば、お顔が見たいわ。」

 

その言葉にグレイは悩むような仕草をしたが、おそるおそるフードを取った。現れた顔に、コンラは驚いた顔をした。

それにグレイは怯えた顔をした。コンラは慌てて口を開いた。

 

「あ、ごめん。あの、とても綺麗な眼だったから。」

「眼、ですか?」

「うん、とても、綺麗な青い瞳をしていたから。驚いちゃって。」

 

そう言ったコンラは本当にまばゆいものを見るように、幾度も驚いてしまってと呟いていた。

 

その後、ヴィーがじっとりとした眼でコンラに浮気?と聞いている様子に全て吹っ飛んでしまったが。

 

 

 

「・・・・・何かが、紛れ込んだな。」

 

薄暗い部屋の中で黄金の髪に、翠の瞳をしたそれが呟いた。それを向かいに座った女が頷いた。青い瞳をほど細めて肩をすくめた。

 

「おそらく、カルデアのものを引き込んだのだろう。」

「どうするのですか?」

「放っておけ。楔に近づくことはグリムがなんとかする。そうして、例え近づいたとしても、あの子たちが止めるだろう。」

「・・・・・よいのですか?」

 

女は翠の瞳をのぞき込んで無感情に呟いた。

 

「あの子たちが望んだ、そうして、私は、何をしてもロットの守りたかったものを守ると決めただけだ。」

 

ただ、そうだな。

 

女は頷いた。

 

「余計なものは早々と退場願おう。ラモラックに命じておく。」

「わかった。」

 

それがいいと、二人はうなずき合った。

 

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