ロットさんの声、もう少しシリアスなものの方がとも思いつつ。
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夢を見る。
枯れた大地、古ぼけた家々、うち捨てられた廃墟のような場所。
ひゅーひゅーと、それは誰かの嘆きのような風が吹き抜けていく。寂しいと思う。
まるで、全てがいなくなったかのように、そこには命の音が聞こえない。
絶えてしまったのだと、漠然と思った。けれど、ふと、気づいた。何かが聞こえる。
そうだ、それは。
(誰かが、眠ってた・・・・)
藤丸立香はぼんやりとそんなことを考えながら歩いていた。魚をたらふく食べて眠れば、立香はまた夢を見た。以前と同じ、静かで、寂しい大地。
けれど、今回の夢は違った。
誰かの、眠っているような息を聞いた。
立香は思い悩むように頭を振った。何か、意味があるはずなのだ。その夢、その音に。
立香はふと、上を見上げた。そこには、変わること無い青空と、そうしてさやさやと若葉が踊っている。
正反対の情景に、立香は考え込む。隣を歩くグレイを見た。彼女もまた夢を見たのだという。
月のような綺麗な色の髪の少年と、釣りをしたのだという。
「立香、グレイ。もうすぐだぞ。大丈夫か?」
コンラのその声に立香は前を見た。二人が歩く間に、周りから木々はだいぶ少なくなり、平野に近くなっている。
「うん。ありがとう。」
「はい、拙も・・・・」
そう言ったとき、コンラの大剣がきーんと金属音を立てる。それにコンラは眼を見開き、今まで歩いてきた森の中に視線を向けた。そうして、目を見開いた。
「おい、走れ!」
「え?」
「くそ、早すぎる!」
コンラは吐き捨てるようにそう言って、立香の腕を掴み草原の方に走り出した。それに続くようにグレイも走る。
「え、どうしたの!?」
「魔女からの追っ手だよ!」
それに立香は思わず後ろを振り向いた。そこには、馬に乗った、一人の騎士がいた。鈍色の鎧を纏ったそれは真っ直ぐに自分たちに近づいている。
そうして、その後を追う、グリムが2体。
「ですが、追いつかれます!」
明らかに自分たちとの距離をそれは狭めている。それに立香は考える。どうするのか。
「勝てると思う!?」
「あいつ、魔女の側近だ!今の状態じゃ、お世辞にも!」
「伏せてください!」
その音と共に轟音が通り過ぎた、草原をえぐって、こぶし大の石が転がる。
思わず立ち止まった三人に後ろから声がかかる。
「ああ、やはり。弓手でもないこの身では上手くは当たらないか。」
そこにいたのは、鈍色の鎧を纏った、赤い髪の青年だった。まるで氷のように冷たい美貌をしている。
それはしんと、静まりかえった瞳で三人を見ていた。たんと馬から飛び降り、男は剣を抜いた。
「侵入者よ、その首を差し出しなさい。苦痛は無く殺して見せよう。」
「初対面にしてはやけに酷い話だね。」
「侵入者への扱いなんてそんなものだ。この身は伝説にはほど遠かろうと騎士です。王の命を聞き、遂行するのみ。あなたがたはこの国に害を及ぼすというならばなおさらのこと。
騎士、ラモラック。王の命令により、あなたがたを殺します。」
コンラはそれにちらりと立香の方を見た。それに立香は覚悟を決める。逃げることは不可能。ならば、戦闘するしか無い。
うなずき返した立香にコンラは重々しい顔で軽く頷き返した。
「それは聞けない話だね!」
「グレイ!」
「はい!」
グレイはいつのまにか解除を行っていたらしい大鎌を構えた。それに立香はコンラに叫んだ。
礼装の魔術を使い、彼に強化をかける。
「大物が先!おもいっきり吹っ飛ばして!」
「了解!」
コンラは立香の言葉に従って、真っ先に手近な石を拾い上げた。そうして、それを思いっきり片方のグリムにぶつけた。ダメージがあったかはわからない。ただ、それはごろごろと勢いで後方に吹っ飛んでいった。
「グレイはグリム!コンラはラモラックを!」
「わかりました!」
「ああ!」
それに二人は飛びかかる。グレイはその大鎌を振り回してグリムを吹っ飛ばした。圧倒的、とは言えない。死霊に特化した彼女はその、獣のような動作のそれとの戦いは得意とは言えないようだった。
少し遠ざかったそれを横目に立香は目の前のコンラとラモラックの戦闘に目を向けた。
コンラは今まで使わなかった大剣を軽々と振り回して、ラモラックと戦っていた。
正直言えば、コンラのそれはお世辞にも戦っているとはいえないものだった。小柄な体を生かして、ひたすらラモラックの攻撃を避け続ける。その大剣は、武器というよりほとんど盾のようなものだった。
ラモラックの攻撃を、ひらりと躱し、受けた攻撃で吹っ飛ばされ、木の幹に着地してそのまま突っ込んでいく。
体力を温存するような戦いだった。自分の力を最低限にして騎士のそれを避け続ける。
(なんだか、ひどく手慣れてる感じがする。)
小柄なコンラとその騎士。立香が見ても、明らかにラモラックの方が勝っているように見えた。けれど、コンラはまるで動きが決まっているようにラモラックの攻撃を避け続ける。
そう思うのは気のせいなのだろうか。そう思っていると、遠目に吹っ飛ばしたグリムが近づいてくるのが見えた。
(二人とも、それぞれで手一杯だ。これで、もう1匹増えたら。)
立香がそう思っているときだった。コンラがラモラックの肩を足場に思いっきり飛んだ。そうして、立香の手前に着地した。そうして、グレイもまたグリムに一撃を入れた。足下を狙ったおかげか、それはふらりとその場に倒れ込む。
グレイはそれに立香の元まで思いっきり飛んだ。
「・・・・ちょこまかとよく動く。ああ、面倒だが。本気で行かねばならないか。」
吹っ飛ばしたグリムがラモラックの元に戻ってきた。
「・・・立香、グレイ。ここはボクに任せてくれる?」
「え?」
「で、ですが!」
「多分、二人がかりでもあの騎士は無理。だから、二人は先に石群まで行って、召喚を行って欲しい、助っ人を連れてきて。」
それとも、ここであの騎士をなんとかするか。立香、判断は君に任せるよ。
苦笑染みたコンラの声に、立香はちらりとラモラックを見た。彼は構えをとり、何かをしようとしていた。
「マスター、無理です。それは。」
「何か、手はあるの?」
「一応は。」
その短いやりとりに立香は頷いた。ここで、自分が取るべき選択肢。コンラを囮にするように行くことはできない。けれど、今のところ、自分たちが勝てるかどうかはわからない。
ただ、このまま逃げ帰って機を待つと言うにはリスクがある。
もしも、自分たちの目的を理解して、目的地に兵士でも置かれれば更に厄介になる。
何よりも。
立香はコンラの方を見た。
彼は何かを隠している気がした。それが奥の手と言えるのかわからない。けれど、立香は選択する。見捨てていくような心地で、けれど、それと同時に目の前のそれがけして死ぬ気でないことも理解できた。
「グレイ、行こう。」
それにグレイは覚悟を決めたのか、頷いた。コンラはそれに頷いて、そっと立香に囁いた。そうして、自分の持っていた大剣をグレイに渡した。
「いいか、願うんだ。ただ、ただ、一心に願うんだ。こんな状況をひっくり返す。そんな、最強の騎士が来いってさ。」
それを囁くとコンラは立香を押した。立香は、それに走り出した。その後をグレイが追う。
「グリ・・・・」
「おいおい、あんたらの相手は俺だろう?」
「それをこちらが素直に聞く必要などないだろう。」
「はっ、ずいぶんなことだな。ラモラック。いや、てめえの仕える王は一人なんて言っときながら鞍替えするなんて、ひどい浮気者じゃないか。あんたの仕えるロット王なんて無能な男にどれほど価値があるのかねえ。」
それは安い挑発だった。ラモラックと呼ばれた、赤毛の男。それは滅多なことでは動揺しない。例え、アーサー王のことを言われても、そんなことはラモラックにとって何の意味も無かった。
けれど、ラモラックの顔に青筋が走る。
「貴様、今、何と言った。」
「さあ?ただ、俺程度に軽んじられる程度の男にしか仕えてねえって言ったんだよ。」
「・・・・よかろう。何よりも、どれよりも先に、貴様を殺してやろう!!グリム!」
その怒号と共にグリムがコンラに向かっていく。コンラは少なくとも、今のところは自分を殺すことに集中することを察して走り出した。
「待て、小僧!!」
コンラは自分を追いかけてくる男にほくそ笑んだ。元より、森の中ならば己に有利なのだ。この場所までの道は以前に下調べを行っている。そうして、その時、幾つかトラップを仕込んである。
(今も発動するか、賭けだなあ。)
コンラはそう思いながら後ろを振り返った。そこには怒り狂ったラモラックがいた。
(相も変わらず、呆れた忠誠だなあ。)
「こ、ここでいいの!?」
「おそらくここです!」
二人は草原の先、円状に並んだ、石のサークルまでたどり着いた。二人は何となしに、その中心にたどり着いた。
二人はこのままどうすればいいのかと途方に暮れた。その時、また、剣からキーンと金属音が響き渡る。けれど、その音は、明らかに言葉を有していた。
『中心に、剣を突き立てて。』
二人は驚いて顔を見合わせた。それに催促するようにまた金属音が響く。二人は慌てて、おそらく中心だろうそこに、剣を突き立てた。
そうすると、まるでそれに呼応するように辺りを光が包んだ。
『柄を握って、詠唱を。二人で、手を重ねて。』
グレイと立香は言われるままに、その柄を握った。
『あなたたちは、この地が滅び、されども人の歩みが続いた証。人の、憎しみの歴史、怒りの痕跡、苦痛の見返り。そうして、人の、勇気の証、正しさへの祈りの軌跡、愛の結果。祈りなさい。この、間違いを正す誰かを、この歪な結末を壊す誰かを。』
それに二人は、流れるように言葉を吐いた。
素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。振り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国たる三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に 聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ。
そこで、立香の中に、ヴィーの声が混ざる。その声をそらんじるように、言葉を吐いた。
汝、滅びを招く者。綴られし筋書きに侍るがいい。その結末に囚われ、歩むがいい。
我は、それを見つめる者。我はそれを赦す者―――
汝、星見の言霊を纏う七天 降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!
後に続いた、その節。
立香はそれがわからない。けれど、ヴィーの、大剣から聞こえるそれに導かれて、グレイと共にそれを唱えた。
光が強くなる。ばちばちと、何かが爆ぜる音がした。
「あ・・・・」
二人は目を見開いた。そこにいたのは、一人の美丈夫。
美しい、濃い黄昏の色の髪をした、騎士が立っていた。
「・・・・サーヴァント、セイバー。ランスロット、参上いたしました。マスター、この身に何をお望みでしょうか?」
コンラは、木々を渡り、そうしてグリムとラモラックをからかうように走っていた。けれど、何かに気づくように立香たちの向かった方向に視線を向けた。
そうして、ラモラックもまたその方向に視線を向けた。
「何!?」
自分たちにでさえもわかる、魔力のうねり。
「役者がそろっていってるんだ。ラモラック卿。」
「・・・サーヴァントの召喚か。この島でそんなことは!いや、なるほど、彼の人がいればそれも可能か。」
「あはははは。そういうこと。」
ラモラックは木に隠れるようにして自分と向かい合うコンラを見た。
「だが、そんなことをしてどうなる。ここでは敗北など意味は無い。それこそ、死でさえもどれほどの意味がある!?」
「意味か。まあ、意味は無いと言えるし、あると言える。ただ、一つ言えるのは。それが無駄であってもしなくてはいけない事ってあるものだろう?それと一緒さ。嫌な役割だけどな。」
「貴様は、いったいなんだ!?」
ラモラックはずっと苛立っていた。目の前の少年は、お世辞にも自分よりも強いとは言えなかった。それこそ、その軽業のような身のこなし以外は。
けれど、なぜか、それはまるでラモラックと長年の友人のように、彼の行動を読んで見せた。一撃、一撃を、まるで心が読めるように受けて見せた。
ラモラックは幾度か瞬きをした。何よりも、その目の前の少年の顔立ちをはっきりととらえきれていなかった。
おそらく、認識齟齬の魔術でもかかっているのだろう。その、状態もさらに苛立ちが重なる。
ラモラックの言葉にコンラは微笑んだ。
「まあ、今はそんなことどうだっていいんだ。与えられた奇跡の代価に、役割をこなすだけ。さあ、続きをしようか?」
少年は悲しそうに笑った。今を、苦しそうに微笑んだ。きっと、ラモラックには自分がどんな顔をしているかどうかさえも、見えていないんじゃ無いのかと、そう思って。