ロット王は愛妻家   作:藤猫

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ランスロットとラモラックの立ち回り。戦闘シーンは苦手です。


感想、評価等ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。


憎悪と後悔

 

 

グレイと藤丸立香は己の目の前に現れた騎士に息を吐いた。

彼らも目の前の存在がどれほどまでに頼もしいか、よくよくわかっていた。

 

「ランスロット、ごめん!今は詳しい事情は話せないけど、助けて欲しいんだ!」

「あちらにいる、コンラという少年を助けて欲しいんです!」

「コンラ?」

「金髪の、大剣を背負ってる子だよ!」

「今、一人で戦ってるんです!」

 

ランスロットはそれにうなずき、立香たちの指した方に視線を向けた。

 

「レディ、すみませんが私は先に向かいます。あなたはマスターの護衛をしながら来てください。」

「わ、わかりました。」

 

ランスロットはそのまま早足で駆けていく。

 

「俺たちも行こう!」

「はい、マスター!」

「え、グ、グレイ!?」

 

グレイはそう言った後、立香のことを抱き上げて走り出した。

 

 

 

「いい加減にしろ!」

「え、マジ!?」

 

ちょこまかと木々の上、そうして罠の上を駆け回るコンラに苛立ったラモラックはとうとう大木とまでは行かないが、それ相応に太い木々をなぎ倒し始めた。コンラは慌てて枝から飛び降りてたはははと苦笑した。

 

「くっそ。こちとらたださえ弱体化してんのに・・・・」

 

困ったように呟くコンラの言葉など聞こえていないラモラックは憎悪を叫ぶように吐き捨てた。

 

「王の地を損なうなどあってはならんと考えていた。だが、貴様のような無礼者を殺すならば、彼の人も赦されることだろう!赦されないのならば、償うまで!」

 

ラモラックはそう言った後、剣を振るう。まるで突風が吹くように、木々がざわめき、そうして幹は切り倒される。コンラはその小柄な体を生かして、木の影に隠れて、その場を切り抜けた。

倒れた木にグリムが押しつぶされているのが見えたが、それさえも気にした様子もない。

 

「待つがいい!」

 

その時、聞こえてきた声にラモラックとコンラは声のする方を見た。黄昏色の髪に、鎧。

その男は真っ先にラモラックに向かっていく。

 

「何者だ!?」

「我が名は騎士、ランスロット!マスターの命により、助太刀に参った!」

「さて、ラモラック。形勢逆転だ。」

 

コンラは素早くやってきたランスロット側に駆け寄った。ランスロットはコンラの呼んだ、名前に目を見開いた。

そうして、次にようやくグレイと、彼女に抱っこされて渋い顔をした立香が到着する。

 

「ラモラック?ラモラック卿だと?」

 

ランスロットの言葉に立香は眉間に皺を寄せる。先ほどは必死だったせいでさほど気にもしなかったが、その名前には覚えがあった。

 

「マスター、ラモラックと言えば。」

「た、確か、円卓の一人だったよね?」

 

立香の覚えている限り、強いという呼び声は高いが、あまり逸話を持たなかったと記憶している。さすがに同じ円卓では思うところはあるのだろうかと立香とグレイはランスロットを見た。

が、ランスロットは怒り狂うように叫んだ。

 

「貴様、何者だ!?」

「え?」

「・・・・ランスロット。」

「ああ、私はランスロット!円卓が騎士の一人!ならばわかるはずだ!己が、誰の名を騙っているのか!ラモラック卿の名を騙り、貴様は何をするつもりだ!?」

 

コンラは冷静に目の前の存在、ラモラックの動向を眺める。ランスロットは警戒のために、そうして、敵意のために剣を構える。

が、ラモラックは目を見開き、そうして絶叫した。

 

「ああああああああああああ!!貴様、貴様、きさまあああああああああ!?」

 

まるで、命を絶たれるような壮絶な声だった。聞いている者が思わず耳をふさぎたくなるような声だった。

 

「何故、貴様がこの地にいる!?貴様が、王の、我らの愛し子!ガウェイン様!アグラヴェイン様!ガへリス様!そして、ガレス様を!殺した貴様が、どの面を下げてここにいる!?」

 

それにランスロットの体が、明らかに、動揺するように震えた。ラモラックは足を、一歩進めた。

 

「この地はオークニー!北の果て、世界の果て!貴様の殺した、王の子の故郷!彼の人たちを愛した、愛されていた地!その地に、よくも踏み入ったものだな!?」

 

立香はそれにランスロットの動揺を理解した。ランスロットの後悔を知らないわけではない。彼らを殺した、その日の狂行。それにバーサ-カーこそがふさわしいと信じている彼。

 

「ランスロット!」

「もはや貴様に言葉は不要!鏖殺だ!!」

 

ラモラックが剣を掲げて、詠唱を始める。

 

「我が主、我が宝 北の果ての女王に願い奉る。この身にその加護よ、あれ!」

 

我が敬愛せし女王の祝福(ギフト・オブ・モルガーン)

 

立香がランスロットに駆け寄ろうとしたとき、彼の背中をダンと、何かが叩いた。それは、ランスロットの隣にいたコンラだった。

 

「目をそらすな、湖の騎士。」

 

その声は、子どもとは思えないような静かな声だった。コンラはじっとラモラックを見たまま言った。

 

「貴様が騎士というならば、守るべきものから目をそらすな。己の罪を受け入れろ。」

戦え、己の役目を忘れるな!

 

怒号のようなそれが響いた。それにランスロットはようやく気がついたように、剣を構えた。コンラはグレイと、そうして立香をつかみ、そうして横に飛んだ。

立香が認識したのは今までいたはずの地面がクレーターのようにへこんだことだった。

剣と剣が合わさり、二人は打ち合う。そのたびに豪風があたりに吹いた。

周りの木も、打ち倒された丸太もまるで埃でも払うかのように吹っ飛ばす。

 

「マスター!」

 

己の頭上を吹っ飛んでいく丸太から立香を庇うために、グレイは彼の頭を掴んで下げさせた。コンラは頭を庇いながらぼやいた。

 

「・・・・勝てるか。」

 

立香はそれに二人を見た。これでも、ランスロットの強さというのは立香自身もよくよく知っている。

が、二人の戦いは明らかに同等と言ってよかった。

 

「たぶん、軒並みの能力が上がってるね。」

 

砂埃が舞うそこに突っ込んでいいのか悩むところだろう。そこで、コンラが立ち上がった。そうして、グレイを見た。

 

「グレイ、少し付き合ってくれるかな?」

「え?」

「ここをひとまず突破する。」

「戦うの?」

 

立香の言葉にコンラは首を振った。

 

「言っただろう、奥の手があるって。」

「わかった。どうするの?」

「ヴィーを返して。」

 

それに立香は背負っていた大剣を彼に返した。そうして、コンラは立香を小さな体で無理矢理に背負った。そうして、グレイの手を取った。

コンラはにこりと微笑み、ランスロットたちの戦いに突っ込んだ。

 

「え、ちょっ!?」

「コンラさん!?」

「ランスロット、距離を取れ!」

 

ランスロットは自分たちに向かってくる三人の安全を確保するために、いったん、ラモラックを吹っ飛ばした。

コンラはそれにラモラックの目の前に立った。向かいあうように四人はラモラックと対峙する。ラモラックはすぐに戦闘態勢に入った。コンラはそれに剣を構えることは無く、無言で何故かグレイのフードを取った。

暗がりの中、曖昧だった少女の顔がさらけ出された。その、青い瞳も。

ラモラックは、グレイの顔を凝視して動きを止める。その、青い瞳をのぞき込むように見た。

その瞬間を、コンラは見逃さない。ざんと、その場に剣を突き立てた。

 

「・・・木々の葉よ、我らを隠す衣になれ。森の暗闇、帳を下ろせ。光よ、光、我らを避けて、闇に落とせ!」

 

その詠唱と共に、ラモラックの眼に閃光が飛び込んでくる。思わず覆った目を開けば、彼らは忽然と姿を消していた。

 

 

 

(・・・・行ったね。)

(行かれましたね。)

(よかったあ。)

(・・・・あの、申し訳ありませんが。いささか。窮屈では。)

 

四人は小さな木の上にそこそこ大柄なランスロットさえも昇って、その場を去るラモラックを見送った。

もうさすがに大丈夫だろうと言うときに、四人は地面に降り立った。

 

「あー、よかった。ヴィーから言われたとおりだった。」

「魔術?」

「あーうん。森の中とかは特に効果があるんだ。目くらましというか、認識阻害みたいなものだよ。さて。」

 

コンラは立香の足場になっていたランスロットを見た。ランスロットは自分を見る少年の顔立ちをようやく見ることが叶った。それに、ランスロットは驚愕するように、そのかんばせを見た。

 

「君は・・・・」

「やあ、初めまして、ランスロット卿。ボクの名前はコンラ。この特異点の解決のために呼ばれたサーヴァントの一人だよ。よかった。」

 

コンラは少しだけ、安堵するような、けれど暗い笑みを浮かべた。

 

「立香、期待通りの騎士だね。まさしく、戦況をひっくり返す最強だ。」

「コンラ?」

「そう、太陽神に通じる者さ。さて、積もる話は後にしよう。

隠れ家に帰還だ!」

 

にっこりと笑ったコンラに立香とグレイは安堵するように息を吐いた。そうして、ランスロットだけはどこか思い悩むような顔をしていた。

 

 

「・・・・あなたは、いつまで隠すの?」

「何がだ?」

 

コンラと呼ばれている少年は、帰ってきた隠れ家の一室でヴィーと向かい合っていた。

彼はひとまず鎧を外して、部屋に置かれた椅子に座っていた。それをベッドの上で膝を抱えたヴィーが眺めていた。

 

「別にマスターには話してもいいんじゃないの?」

「・・・いいや。話さない方がいい。夢はいつだって強く信じたものが勝ちだ。」

「嘘。」

 

それにコンラは美しい少女のことを見た。彼女は呆れた顔でコンラを見ていた。

 

「ただ単に、またあなたの覚悟が出来てないだけじゃないの?」

 

それにコンラは動きを止めた。そうして、息をついた。

 

「そういうヴィーも、歓迎会の時、彼のこといじめすぎじゃないのか?」

「ふんだ、あれでも軽いぐらいだもの。」

 

ぷいっとコンラから顔を背けてヴィーはそのままベッドを下りる。そうして、扉から廊下に出た。

 

「忘れないでね。あなたがここにいる理由。私も、忘れないから。」

 

ぎいと閉まった扉に、コンラは思い悩むようにため息を吐いた。

 

 

 

(目が覚めちゃった。)

 

立香はラモラックからの戦闘後、早々と隠れ家に帰ってきた。基本的に村を避ければ人間に会うことなどなく、サーヴァントの身体能力で飛ばすだけ飛ばせばあっという間のことだった。

道中で現在の状況を説明したが、ランスロットはずっと思い悩むような顔をしていた。

 

(当たり前か。)

 

召喚した時は必死だったが、思えば現状は彼にとって最悪だろう。

ランスロットの後悔を知っている。ならば、彼の表情も納得だ。おまけに相手は彼らの敬愛するロット王なのだ。

泊っている部屋から出て、リビングに向かう。喉が渇いたために水をもらえないかと思ったのだ。

扉を開けた先、そこには長椅子に座るランスロットの姿を見つけた。

 

「マスター?」

「あれ、ランスロット?」

「どうされましたか?」

「えっと、目が覚めちゃって。ランスロットは?」

「私はサーヴァントですので。一応は寝ずの番をと。」

 

そう言ったランスロットの言葉には嘘は無かったようだが、それにしてはひどく思い悩むように眉間に皺が寄っている。立香はなんとなく、彼の向かいに座った。

 

「でも、休むだけは休んだ方がいいんじゃないの?それとも、眠れない理由でもある?」

 

思わずそう踏み込んだのは、気になっていたというのもある。ランスロットがコンラを見たときの、あの表情には何か、意味がある気がした。そうして、ただ、カルデアでは聞けないことが聞ける気がしたせいだろうか。

召喚されたばかりの彼には何か、ひどく考えることがあるようだった。

 

「・・・・マスターのいるカルデア、そこにはガウェイン卿もいるのですよね?」

「うん。」

「それならばお気づきなのでは?コンラという少年は、あまりにもガウェイン卿に似ている、いえ、似すぎている。」

 

それに立香は口を噤んだ。

誰かに似ているという感覚は、いつの間にか確信に変わっていた。そうだ、彼の笑った顔、その面立ちはあまりにも記憶の中にあるカルデアの彼に似ていた。

けれど、彼はコンラと名乗っている。彼の持つ、秘密。

けれど、立香はコンラを信じると決めたとき、それを指摘することは無かった。

 

「似ているね、確かに。」

「彼がコンラと名乗っている理由は、私にはわかりません。おそらく、理由があるのでしょう。彼が誰であるのか、思い当たる者はあるのです。」

「それは?」

「彼の息子の、フロランス。あの子は、本当にガウェイン卿にそっくりで。ただ、眼だけが、違うのですが。」

 

ランスロットは己の拳を握り込んだ。そうして、落ち着かないようにじっと手を見つめる。それに立香は口を開いた。

 

「恨まれているから、名乗らないと思ってる?」

「いいえ、そのようなことは。もしも、本当に恨まれているのならば、彼は堂々と私にそう告げるでしょう。彼はガウェイン卿に、よく似ていた。」

 

ランスロットはまるで宝物のように、ガウェインの名前を呟いた。それに立香はずっと聞きたかったことを聞いた。ある意味で、少しだけの関係であるからと、この場限りのサーヴァントであることを無意識のうちに考えて、聞いてみた。

 

「ランスロットは、ガウェインのことが好き?」

 

その言葉にランスロットは思わず固まった。そうして、立香を見るがすぐに諦めたように首を振った。

目の前には、火の炊かれた暖炉がある。

立香は、ずっと思っていたことがあった。円卓という仲間であってもやはり仲の良さというのは変わってくる。立香の知る限り、ランスロットとよくつるんでいるように思う。

二人の間の確執を考えると、それはあまりにも不似合いな気がした。

ガウェインはそのさっぱりとした気質と、仲違いをしている場合では無いと言う自覚、そうして、隠しきれない情があった。

けれど、ランスロットの反応は不思議であった。彼は、己のことを恥じていた。セイバーとして召喚されたことをどこかで間違いだと思っているようだった。

だからこそ、ガウェインとの交流を不思議だと思っていた。ランスロットの性格からして、わざわざ交流を深めようなどというある意味で図々しいことなど出来ないだろう。

けれど、ランスロットは本当にガウェインと共にいるとき、嬉しそうであるように見えた。

懐に入るのが早すぎるというのはそうなのだが、それでも、立香はずっと聞きたいと思うことを口にした。

カルデアの記憶が無い彼に、まだ本格的な戦いの無い、今ならばと。

ランスロットはそれに驚いた顔をした。口を開いては、閉めてと繰り返して、そうして、ようやく口を開いた。

話そうとしているのは、何故だろうかと。ランスロットは考える。けれど、苦笑した。

きっと、夢か、現か曖昧な今で。そうして、目の前の、ある意味で一時のマスターである彼だからこそ、話してみたいという欲求にかられた。

もしも、現でも、夢であったと誤魔化してしまうだろう己の卑怯さを嗤った。

 

「・・・・私は、湖の貴婦人に育てられました。」

 

私は彼女に多くのことを教わりました。

武芸に、礼儀作法、騎士としての正しさ、清廉さ。人に対しての義務。

人として生きるには十分なことを。

そうして、成長した私はアーサー王の元に向かい、仕えることになりました。

私はそこで、初めてと言えるほどに人という存在と長く過ごすことになりました。

そこで、ガウェイン卿と会いました。

・・・・年が近かったこともありましたし、私よりも先に円卓にいた彼は、慣れない生活の私をよくよく気遣ってくれました。

弟がいた分、彼は私を弟のように思っていたのかもしれませんね。

お恥ずかしい話、湖の貴婦人は女性との付き合い方は教えてくれましたが、男性という者との付き合いは本当に手探りで。ある程度の年齢になってからのことでしたのでなかなか。

ガウェイン卿は、私にとって初めての、友人で、仲間で、戦友で、そうして、兄のようで。

私は、彼と出会って、ようやく養母が教えてくれた人の善性というものに触れることが出来ました。

彼は善き人でした、彼は、彼は、本当に、善き人で。

高潔であることとは、誰かを慈しむとは、騎士とは、きっとこのような人を言うのだと。

騎士として見本として、王はあまりにも遠く。

それ故に、私は、騎士として、ガウェイン卿のようになりたいと、そう、思っていたのです。

 

ランスロットはそこで口を噤んだ。

 

「私は、私の罪は、永遠に許されない。王を裏切ったことはもちろん、罪なき彼らを私は殺した。彼らの話す、母から子どもを奪った。私は、私の愛のために。だからこそ、もしも、コンラがどんなことを望むのであれ。私はそれに従うでしょう。」

 

静かに言い切ったランスロットは立ち上がった。そうして、立香を見た。

 

「マスター。そろそろ眠りましょう。」

「ランスロット・・・」

「私の愚かな話です。どうぞ、夢だとお思いになってください。」

 

立香は促されるままにリビングから出た。そうして、ちらりと暖炉を変わらずに眺めるランスロットを見た。

なんとなく、なんとなくであるが、立香はランスロットにはまだ言いたいことがあったのではないかと思えて仕方が無かった。

 

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