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なんとなく、藤丸立香は戻ってきた二人を見た。
モードレッドはどこか安堵したような顔をしていたし、コンラもまたどこか、少しだけ思い悩むような顔をしていた。
「次は、どちらに向かうので?」
「・・・次は、ここから東に向かった所。」
ヴィーの言葉にランスロットははてと思った。確か、以前みせてもらった地図では、ここからならばもう一つの禁足地の方が近かったはずだ。
「それならば。」
ランスロットがそれを口にしようとしたとき、ヴィーが首を軽く振った。
「・・・こっちでいいの。あっちは、空っぽだから。」
「空っぽ?」
ヴィーのそれに立香とグレイが首を傾げる。
「そう、だから、先にあっちに行った方がいいの。」
ヴィーはそう言ってさっさと歩き出した。ヴィーの様子にコンラは肩をすくめ、他の四人を促した。その様子を不思議に思いながら後に続いた。
「このまま行くと、村に着くから少し、それた方が良いね。」
進んでいる内にどうやら村の近くまで来てしまったようでコンラがそう言った。それに正しい方向を探そうと辺りを見回したとき。
ヴィーがまるで、何かに気づいたかのように顔を上げ、ある方向を見た。そうして、叫ぶ。
「逃げなさい!」
金切り声に皆が顔を上げた、逃げろ、その指示にグレイは咄嗟に近くにいた立香を担ぎ上げて走り出す。それにランスロットも従った。
コンラもそれを追う。ヴィーはその場に立ち尽くし、覚悟を決めたように口を開けた。モードレッドは咄嗟にというように走る方向を変えてヴィーに走り寄った。
「どうしたの!?」
立香の声に紛れて声がした。
「閉じよ、閉ざせ、隠せ、全ての愛よ、籠の中へ!」
ヴィーの言葉の後、立香は空に光の柱を見た。
轟音が、辺りに響いた。衝撃が、体を貫いた。眼が、光に眩む。輝かしい、まばゆい、なにもかもを焼き尽くす、ただの、ヒカリ。
あ、死んだ。
それは、いつかのように。いつかの、どこか、藤丸立香はそれに、己の死を察した。
けれど、不思議と、熱さだとか、痛みを感じることはなかった。
耐えるように強く閉じたまぶたを開けると、そこには、美しい花畑が広がっていた。青い空、甘い匂い、遠くに立つ、白い、塔。
ああ、綺麗だ。
ぼんやりと思った。まるで、夢のように、美しい、全てが満たされた理想郷。
けれど、それは、まるで不出来なホログラムのようにノイズが走っている。ばちばちと、何か、バグが入るようにそれは掠れていた。
それと同時に、辺りの景色はまるでガラス細工のようにバラバラに砕けた。そうして、また、先ほどいたはずの森の中にいた。
「・・・咄嗟に宝具を使ったか。」
静かな声がした。それに立香は改めて周りを見回した。そこには、自分たちを中心に円のように広がった、黒い鎧を纏ったグリムたちと、ラモラック。そうして、小柄な印象を受ける、鎧を纏った騎士。
その手には、立香にとって見慣れた、美しい聖剣があった。
「ヴィヴィアン、即刻、後ろの人間を渡せ。」
鎧を纏っているせいで声はくぐもり、よく聞きとれない。立香は冷静に周りを見回した。落ち着けと、必死に己に言聞かせた。けれど、どう見ても完全に包囲されていた。
ヴィヴィアンという単語に立香は覚えがあったが、どこでのことか思い出せない。
(モードレッドは!?)
(最初の衝撃で吹っ飛ばされて森の中に。)
(無事なんですね?)
立香とグレイは姿の見えないモードレッドの安否に胸をなで下ろしたい気分だった。
「・・・・私のこと、捕らえないの?」
「今回は、その人間を始末するだけだ。全てはそれだけで事が足りる。」
「待て、何故、その剣がここにある?」
ランスロットの声で会話は中断された。けれど、立香もそれについては理解できた。何故って、それは、ランスロットの視線が騎士の持つ聖剣に向けられていた。
それに騎士がランスロットに視線を向けた。不思議とその視線にはラモラックのような嫌悪感だとか、敵意だとかは見えなかった。
「・・・サー・ランスロット。これは私の物だからだ。」
「ならば、あなたは、もしや陛下!?」
強ばった言葉にラモラックの顔がゆがんだ。騎士は静かに言った。
「否、この身はアーサー王にあらず。」
我が名は、ロット。ロット王。オークニーの王である。
静かな言葉にそれを聞いた皆は目を丸くした。
「・・・あなたが、ロット王?」
「ああ、そうだ。我が国に土足で上がり込んだ不届き者を裁かんがために参った。」
「ふざけないで。」
ロット、と名乗った騎士の言葉をヴィーは吐き捨てた。
「どの口で、その名を!」
「どの口でも構いません。少なくとも、それが事実なのですから。」
(・・・俺が合図したら、ともかく、走るんだ。)
二人の言い合いの間に、コンラは後ろにいた立香たちにそう言った。それに立香は頷いた。
けれど、その時、立香たちに飛びかかる存在がいた。
「ラモラック!」
「ランスロット!」
「グレイ、逃げて!」
飛びかかったラモラックにランスロットが反応し、その剣を受け止めた。そうして、それにグレイはその隙に立香を抱えてその場から逃げ出した。小柄な彼女はグリムの間を縫って、走る。
それに騎士は、ロット王は立香を追おうと足先を進める。けれど、それは防がれた。大剣をそれにたたき付けるコンラの姿があった。
ロット王はそれを簡単にいなした。
「・・・勝てぬ勝負をするとでも?」
「・・・勝てなかろうと、勝てようと、しなくちゃいけない勝負はいつだってあるんでね。」
「グリム、ラモラック!マスターを追いなさい。私はこれの始末と、乙女の回収を行います。」
それにラモラックは忌々しいという顔をしたがすぐにランスロットに興味を無くしたかのように立香たちの後を追った。それをランスロットは阻止しようとしたが、グリムがランスロットにまといつくように向かってくる。
ラモラックはその隙に立香たちの後を追う。
「舐めるな!」
けれど、ランスロットはその拘束をあっさりと解いて、グリム達をいなし、ラモラックの後を追う。そうして、後にはヴィーとコンラ、そうして騎士が残された。
「安心しなさい。手短に終らせます。」
「そりゃあ、嬉しい、ね!」
コンラはそのまま大剣を構えて騎士に立ち向かう。ヴィーは強化の魔術を使用した。
身体能力、ひいては魔力という火力において、圧倒的に騎士が勝っていた。けれど、コンラは大剣を振り回しながら、器用に木や地面に降り立ち、騎士の攻撃を防ぎ、誤魔化し誤魔化しで戦闘を行う。
森の中、障害物の多い中での戦闘にその少年は圧倒的に慣れていた。
「ちょこまかと・・・」
「ははは、そりゃあね!」
はっきりとした攻撃はされていない。けれど、こちらもまたかすり傷程度しか出来ていない。的の小ささに加えて、その素早さは厄介だった。
けれど、騎士にもまた考えがある。
それは木陰に隠れるヴィーを見た。そうして、コンラから視線をそらしヴィーに向けて地面を踏みしめた。
それにコンラはしまったというような顔をした。けれど、騎士の目的はそれではない。
それはあくまで素振りであって、彼女は自分の後を追おうとしたコンラの動きを見過ごさなかった。振り返り、その隙に、それはコンラに斬撃を喰らわせた。
鮮血が、舞った。宙に赤のしぶきが飛んだ。それにヴィーの短い悲鳴が上がった。
騎士は何の戸惑いもなく、返しの瞬間に、とどめを刺すため霊核があるだろうそこに剣を向けた。
けれど、コンラは本能のように、それこそ、体に叩き込まれたような動きでそれを受け止めた。
直接的な攻撃は避けたものの、コンラは森の中に消えていく。そうして、騎士はそのままヴィーに駆け寄り、その腹に拳を叩き込んだ。
コンラに気を取られていたヴィーはそのまま気絶する。騎士は少女の姿のそれを抱き上げた。
「湖の乙女、これ以上の邪魔立ては不要。帰りましょう。あなたが城で待っておられます。」
そうして騎士は森の中に視線を向けた。そこには、子どもがいた、もしも、そこに立香がいれば見覚えがあったことだろう。それは、村にいた子どもの一人だ。
「これを城にいち早く連れて行きなさい。」
それは無表情のまま、騎士を見上げた。そうして、それと同時に、蜃気楼が歪むように子どもの姿はグリムに成り果てる。グリムはそのままヴィーを渡され、どこかに消えていく。
騎士はそのまま、コンラを始末しようと、彼が吹っ飛ばされた方向に足を勧めた。
けれど、よろよろと自分に近づいてくる人影を見つける。それは剣を構え、そうして、コンラを見た。
けれど、そこにいたのは、コンラではなかった。
「・・・・ガウェイン卿?」
それはまるで幼い子どもが驚いたかのような声を出した。そうだ、その通り、そこにいたのはそれのよく知る、ガウェインだった。
黄金の髪に、端整な顔立ち、そうして、屈強な肉体。違うことと言えば、それの瞳が緑と青であることだけだった。
「・・・残念ながら、私は君のいう彼ではないんだ。いや、まあ、確かに近しいと言えば近しいのだけれどね。ある意味で、彼にとっては領域外の肉親ではある。」
それはそう言って、やたらと爽やかな印象を受ける微笑みをそれに向けた。何かが違う。
そう覚った騎士は剣を構えた。
「新しく召喚されたサーヴァントか?」
「いやいや、まさか。私は元々ここにいたし、急に現れたわけでも、召喚されたわけでもない。」
「人格の入れ替えが可能な部類か。」
「・・・・まあ、本当なら私の方が矢面に立つはずなんだけれど。けれど、私はどうも、あれだよ。場違いでね。因縁はあくまでそれを持つ物同士で終らせるべきだ。」
「オークニーの関係者ではないと?」
「ああ、彼女は懸命だった。ほんの欠片のような可能性に賭け、そうして、当たりを引いたのだから。まあ、それは置いておいても。」
男はにっこりと微笑んで、そのままヴィーが連れ去られた方向に向かう。それに騎士は唖然とした顔をしたが、男にとって優先すべきなのがヴィーであることを理解した。
その瞬間、それは何のためらいもなく、剣を掲げた。
「地よ、我が身に力をもたらせ。血よ、証明せよ。我はこの島を守護せし者!」
光の柱が現れる。全てを焼き尽くす、ヒカリの熱。
それに走った男は微笑んだ。少なくとも、自分の挑発は早々とその騎士を引っかけたのだと。
彼は振り返り、そうして、剣を構えた。
(私の宝具を使えるのは、これで最後。いいえ、私が出てこれるのがこれで最後。)
「
光の線が、騎士にたたき付けられる。それに男は笑った。
(表立った手助けは、これで最後だ。)